糸井 |
あっこちゃんは、いつも全力なんだよね。
ラクに、全力を尽くしてるのかなあ。 |
鈴木 |
そうなんだよね。
でもこっちはラクじゃないよ。
リハでもちゃんと全力で歌わないと
いけないんじゃないかって思っちゃうわけだよね。 |
糸井 |
だって、俺ら、慶一くんを知っている人間としては、
たとえばこないだのジァンジァンだって、驚くわけだよね。
「あんなに声が出るんだ!?」ってさ。
ビックリするほど、出ていたよ。 |
鈴木 |
それは、ああいう人間関係においてだからね。 |
糸井 |
ほかのチームだったらまた違う? |
鈴木 |
違うねえ。ま、たしかに、今年は「ゲスト年」だから
上手い人と共演する機会は多い。そういう時は、
本番の時にグッと上げとかないとな、というのがあるよ。
上手い人と演奏を重ねたほうがいいんだよね。
得になる、というかさ。 |
糸井 |
蓄積されていくよね。 |
鈴木 |
できる人同士でやっていると、すごいですよ。 |
糸井 |
それは逆にいえば、誰にもわからないすごさの世界に
どんどん行きたくなっちゃう、って可能性はあるよね。 |
鈴木 |
それはちょっと怖いね。
わかんなくなっちゃうとね。 |
糸井 |
あっこちゃんがすごいなと思うのは、
そういう世界に行っていながら、
着実に、年に1枚なり、CDを出しているでしょ。
あれを追及していったら、
「もっといいのができるまでもう1年待って」
とか、一般的にはなるんですよ。
僕はゲームを作っているからわかるんだけれども、
ゲームって、もっといいシステムが開発できそうだ、
となると、そっちに行きたくなるんです。
でも、それをやったら、食いっぱぐれるんです。
なのに、つい、やっちゃうんだよ。
あっこちゃんはそれをやらないで、
100点とか110点とかを追い求める気持ちが
ありながら、98点とかのものを絶えず問い掛けている。
その“手離れの良さ”っていうのも、
才能だなあと思うんですよ。 |
鈴木 |
手離れの良さ、ね。
それは、詞を送るとすぐできる、っていうのと
同じことだよね。 |
糸井 |
「もっとやっててもしょうがないんだ」
ってことなんだろうね。 |
鈴木 |
完成するということは何か、っていうことなんだよね。
たとえば、画家が筆を置くときとは何か、
というようなことだよね。
あっこちゃんの作品に対する手離れは、
圧倒的に早いんじゃないんですか。
「できた!」って判断する瞬間は。 |
糸井 |
今思いついたんだけど、自分の本職の仕事も
まったくそうだね。
本当に、自分の本職だと思っていることは、
手離れ、いいね。
ムーンライダーズのレコーディングに、
かけすぎる時間なんてないでしょう? |
鈴木 |
ない。全部、重要な時間だもん。
それがたとえばね、10何年前に1000時間
かかりました、とする。
でもそれはそれで、重要な時間だったりするんだよ。
その時の手離れの良さなんだよ。
その時の完成に至る道なんだよね。
いまは、「早くなりましたね」ってみんな
ビックリするけれども、それは当たり前なんだよね。
完成したぞという判断がどこにあるか、というのは、
年々、早くなっているよ。ものすごい勢いで。 |
糸井 |
ぼくは自分のことで、人に説明しやすいんで
よくこう言うんだけれど、
「できるのはものすごく早い。
手離れも、ものすごくよくって、
ただ、人に渡すまでに、ちょっと時間がある」
ってことなんだよ。
それはどういうことかっていうと、
「できた!」っていうのは瞬間なんだけれども、
それが正しいかどうかを確かめる時間が欲しい。
そして確かめ終わったら、テスト・プレイを
自分でするんだよ。ライダーズだったら、
マスタリングまではものすごく早いんだけれども、
「発売までに手直しがある可能性があるよ、
だからお皿に焼くのは待っててね」
と言っておいて、結局何にも手を加えずにGO、
というみたいなね。
ところが、本職ではない仕事は、それができなくなる。
他人も当てにしたくなるしね。 |
鈴木 |
「これでいいんだろうか?」って、人に頼るね。 |
糸井 |
慶一くんでいうと、ソロアルバムのほうが
時間がかかるんじゃないかな。 |
鈴木 |
かかる、かかる。それはもう、ぜったいかかる。
本当に、手離れが悪くなるんだ。
ソロアルバムをずっと出し続けていれば別だよ。
それもあるし、決断がすべて自分だからね。
バンドだったら、これで行けるっていうところに、
なんとなくみんなの合意が生まれるんだよ。
それはもう慣れているわけだよ。
慣れているうちに、ものすごく早くなる。
自分のソロってなるとね……
他人に曲を書くのは早いよ。
自分の問題になるとだな、そういうことになるんだな。 |
糸井 |
自分が本当は何ができるのかが、
自分では一番よくわかってない。 |
鈴木 |
わかってないんだよ。
「もっとなのかな?」
とも思うしね。それをなくそう、なくそうと
思っているんだけれど……それでもなくなりつつあるな。
『SUZUKI白書』っていうアルバムを出したときは、
非常につらかった。 |
糸井 |
あれは、正直言って、聞いていてつらい。 |
鈴木 |
つらいんですよ。 |
糸井 |
なんて言うんだろう、歩く速度が自然じゃない。
ああいう時期なんだろうなあ、っていう雰囲気だよね。 |
鈴木 |
しかも、あえて、自分の歴史を語るフリをしよう、
ということを決めちゃったんで。 |
糸井 |
テーマを先に立てるって、善し悪しだね。 |
鈴木 |
作りながらテーマを決めるってのも、
これまた善し悪しなんだよね。 |
糸井 |
ああ、そうか……。 |
鈴木 |
多くの場合は作りながらテーマが決まっていくじゃない。
ここんとこ、ムーンライダーズは、
先に僕が何かひとこと、言ってから始まる。
たとえば夜だったらさ、
「テーマは、夜!」
とか言ってさ、みんなボーッとするわけだよね。
あいつ何言ってんだろう、ってね。僕としては、
言ったらどう出てくるかな、という立場になっているので、
楽しみでもあるんだよね。 |
糸井 |
長年やっているから、“モニターになってくれる仲間”
なんだ。 |
鈴木 |
そうそうそう。 |
糸井 |
それは気持ちいいなあ。 |
鈴木 |
それが個人だと、たとえばテーマは“愛”と
決めたとするじゃない。すると、そりゃ何だろうな、って
自分で考えなくちゃならない。
返ってくるものは自分だから、そこをだまさなきゃ
いけないから。そこをだます方法として、
コンピュータで音楽を作っているわけだよ。 |
糸井 |
コンピュータは“試し”ができるんだなあ。 |
鈴木 |
手離れがいいものに対して、
検証がもう1回、できるわけだよ。ワンテイクずつ。 |
糸井 |
コンピュータが俺達に与えてくれたものの
最大のありがたさって、その“試し”ができることだね。 |
鈴木 |
プレビューみたいなね。 |
糸井 |
それはゲーム作りもまったくそうですよ。
やってみて、「潰しましょう」と言えることで、
どれだけよくなったか。
失われるものも、そこには同時にあるんだけどね。
一発で「ええい!」って行っちゃう潔さよさ、
みたいのはなくなるよね。 |
鈴木 |
コンピュータは、記憶とか記録じゃなくて、
データなんだよね。
データが跳ね返ってくるから、そのぶん、
修正もしやすいよね。
テープに録音されたものって、
もう一度やり直さなきゃいけない。
データは直せばいいしね。 |