COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●お蔵出し月光庵
その3 よくて嫌。

糸井 その手の話でもう一つ思い出したけど、
いくらでもあるねえ、この手の話って。
あのねえ、『憲兵とバラバラ死美人』。
って映画があったの。新東宝の映画で。
鈴木 えっ、もう1回言って。
糸井 『憲兵とバラバラ死美人』
鈴木 すげえタイトルだなあ。新東宝らしい。
糸井 どんな映画だったか忘れたけど・・・・
鈴木 だいたいそれは想像つくな。
糸井 うん。
で、強姦シーンがあったのよ。
レイプシーンが。
そこで、すっごいいけないことなんだけど、
すっごい興味があるわけ。
いけない興味ある、いけない興味ある、
っていう感じだったの。
それで、ものすごい振幅で
(憲兵が)襲いかかった時に、
全部は見えてなかったと思うけど、
こうなんて言うかねえ、おっぱいが
「むぎゅっ」ってなるんだよ。
鈴木 つぶれるんだ。
糸井 そう。
その「むぎゅっ」がねえ、もうたまらないのよ、
よくて嫌で!
あれはメシは食えたけど、
このことは誰にも黙っておこうと思った(笑)。
鈴木 へえ。『憲兵とバラバラ死美人』ね。
糸井 じゃあねー、もうひとつ『透明人間とハエ男』
っていうのもあるよ。
ハエ男だからいろーんなところを
ブンブン飛び回るの(笑)。エロ中心で。
鈴木 エロ絡むなー(笑)。
糸井 絡むねー。
コーヒーなんかも子供は飲んじゃいけません、
って言うじゃない。
その、「子供はしちゃいけません」っていうので、
大人と子供の区別をつけるものっていうのは
いったい何なんだろう。
ピーマンが大人と子供の境界線っていうのは
わかるけど(笑)。
慶一くんにとっては(ピーマンが)そうだよね。
チーズもそうだし・・・
ああ、“自然にしてたら採り入れたくないもの”
っていうのを一生採り入れなかったら、
一生童貞だよね、思えば。
鈴木 そのとおり。
糸井 性のイメージっていうのがない限り
童貞でいられる。
最初の性のイメージっていつだろう?
鈴木 最初におっぱい触ったとき。
俺、最初におっぱい触ったときって
いまでも覚えているけど、18のとき。
それって遅いよね。
糸井 俺も18のとき。
おっぱい触ったのと、しちゃったのが同時だった!
鈴木 私は別々。
(おっぱいって)何てやわらかいんだろう、で
その後、たしかてんぷらそばをとったんだよ。
あっ完全にそのときのことを思い出した!
それは、またまた2階の親父の部屋だ。
で、てんぷらそばをとったんだけど、
全部食えなかったよ。
最初におっぱい触った日は。
てんぷらかあ、また。
糸井 それは(相手の)許諾のもとに・・・
鈴木 許諾じゃないけど、友達で2人でしゃべってるうちに、
……“この一手”が出ないじゃない。
糸井 出ないねー。
鈴木 “この一手”が出なくて、
かなり血液が逆流してるっていうか・・・・
だから、その一手が出るまでの道のりたるや、
すごいよ。
ロング・アンド・ワインディングロード。
糸井 ひとごとながら、すごいと思う!
鈴木 最初の“この一手”からさらに、
胸に行くまでに1時間くらいかかった(笑)。
それで、胸までで、こっちは飽和状態に達してだな、
そっか先には行けなかったの。
糸井 固まってた?(笑)
鈴木 固まっちゃった!(笑)
そんで、てんぷらそばでもとりましょうか、
って話になって・・・
糸井 それは、一旦ひいたのね(笑)。
鈴木 ひいたの。
「何食いたい?」
みたいな話になって、
「てんぷらそばが食いたい」
みたいなことになったの。
糸井 要するに一刻も早く日常生活に戻りたいわけね。
鈴木 そうそう。
そうしないと、どこまで非日常に行ってしまうか
わかんないからさー。
通過儀礼的非日常にね。
抑えきれないものはあるし、
でも、そこまではな、っていうのもあるし。
糸井 でも、みんながみんな、
一生、手が前に出ない状態だったら、
人類は絶えて死んでるよね。
鈴木 死に絶えてるね。子孫繁栄せず。
糸井 だよね。
そこは誰も意識したことはないけど。
だから、“手が前に出ない”ってことの方が
生き物としては“悪”なんじゃないの?
鈴木 生き物としては“悪”か・・・
でもさー、不思議なもんでさー、
手を出すことが悪だと思ってるんだよ、頭の中では。
頭の中での悪とDNA的に正しいことが
戦いあっているのかなあ。
糸井 不思議だねー。
自分というものの謎が立ち上がってくるねー。
鈴木 立ち上がってくるよー。
今だったら、そんなこと(手を出すこと)は
“チョイッ”なのかもしれないけど・・・
糸井 今だって、“チョイッ”ってやるコツを覚えただけで。
鈴木 そうねえ。口数とかね(笑)。
糸井 コツを覚えただけで、
そんなの毎日素振りしてないヤツに
野球の試合はできないからね。
バンドマンとか素振りにつぐ素振り、
試合につぐ試合で、
球が飛んできたらパッとバットが出る感じじゃない。
で、あれっとか空振りしたりすると、
ショックなわけよね。
鈴木 そう。空振りするとショックなんだよー。
糸井 それ、許されないんだよね。
鈴木 そんで、てんぷらそばを食いましょう、って言って
残した記憶があるなあ。
糸井さんもてんぷらだよね。
なんでてんぷらなんだろう?(笑)
てんぷらとスケベ、てんぷらとショック、
てんぷらと高揚、新東宝のタイトルにはならんねえ。
糸井 自分が生存していくことと、
自分がDNAを残すってことは
実際には矛盾してるのかもね。
つまり、(セックスは)小さな自殺なわけよ。
鈴木 極小の集団自殺だよ。
女性は月1回かもしれないけど
男の場合は若いときは、週何回も。
糸井 だって、カマキリなんかだったら、
そのままそこで成仏するわけだろう?
とか、蟻なんかすごいらしいよ。
そんときだけオスになるんだって。
蟻はそうじゃないときはメスなんだって。
鈴木 常にメスなの?
糸井 うん。
で、生殖活動するときだけ、
羽が生えてオスになって空中高く飛んで行って、
交尾するらしいんだよ。
鈴木 蟻が羽をはやしているのってそういうことなの?
糸井 うん、羽蟻だよ。
あれ、あんときだけの臨時のオスなんだってさ。
で、しかもその後でその羽は切取線がついてて
落ちるんだって。
鈴木 (笑)ほんとー?
それは、ずいぶんよくできてるねー。
糸井 すごいだろー?
それとか、とんぼも素敵だよ。
とんぼはねー、“副生殖器”っていうのが
あるんだって、おなかのあたりに。
そこが穴になってて、とんぼがつがってるところって
しっぽのところの先に、
メスの頭をつかまえるための
マジックハンドみたいなのがついてるわけよ。
あれで頭をつかまえて、つながるわけだけど、
メスのしっぽのところに生殖器があって、
それをオスの副生殖器のところに
それをつっこむんだって。
生殖器じゃなくて副生殖器に。
そこにあらかじめオスが仕込んでおいた精子が
副生殖器からメスの生殖器の中に入れるんだって。
鈴木 メインの生殖器はどこにあるの?
糸井 メインの生殖器は最初に出した場所(笑)。
しっぽの先。
面白いだろ?
鈴木 うん。
糸井 メスはそっからチューッと吸うんだけど、
吸う前に先に副生殖器の中には
ブラシが隠れているんだって。
鈴木 えっ!?
糸井 ブラシ(笑)。
そのブラシがメスの生殖管の中に
ダーッと入っていって
前のたまごを出すんだって。
たまごというか精子を。
で、他のオスのヤツがいたら俺は承知しねえからな、
って、他のオスの精子を掻き出して、
自分の精子を入れるんだって。
鈴木 ふーん。
それに比べりゃ人間はねえ、
輪姦とかしてねえ・・・
糸井 してねえっつうの!(笑)
鈴木 普通は嫌だと思うけど、まあ・・・・
糸井 うん。俺は嫌だけど(笑)。
武井 まあ、ブラシは出ないですけどね(笑)。
糸井 ブラシは出ない!(笑)
俺、昆虫の話は最近聞いたばかりなんだけど、
もう楽しくてしょうがない。
いっぱい、いい話あるよ。
女王蟻がたまごを産む権利を持ってるじゃない。
だから、女王蟻でありつづけるために、
ずーっとローヤルゼリーみたいな中にいるわけよ。
で、たまごから孵った幼虫に
蟻がえさをあげるときに、
あれはえさをあげているんじゃなくて、
つばをもらってるんだって、幼虫から。
「ありがとうございます! つばを」
って言って、ご褒美として
つばをくれた幼虫に対してごはんをあげてるんだって。
そのつばの中に、あるゆるメスの蟻が
たまごを産ませないようにするための
ホルモンが入ってるんだって。
で、幼虫がぺぺぺっとつばをやると、
えさを食べた蟻が不妊症になるんだって。
鈴木 そうやって女王の座を守ってるわけか。
糸井 唯一の女王っていうのを守るんだって。
で、その元々幼虫のつばっていうのは
どこにあるのかというと、
女王が出したつばが連鎖してリンクしてるんだって。
鈴木 うわー、すごいなー。
女王を頂点とするヒエラルキーが。
糸井 でも、一方で女王というのは不自由な存在で、
ただたまごを産む商売なんだよね。
毎日、ただたまごを産むのよね。
鈴木 退屈そう(笑)。
すごい役割分担。
糸井 だから、何て言ったらいいの。
“拷問としてのAV男優”みたいな(笑)。
鈴木 はっはっはっはっはっ。
糸井 要するに、自由って言葉がすごく好きなんだけど、
どんなものでも自由でないものはダメよ。
俺はAV男優になりたい、とか言うけど、
じゃあお前、ずっとやってろって言われて、
それ以外やるなよ、って言われたら、
どんなに血気盛んな若い連中でも、
いや、いいっす、って言って逃げるよね。
鈴木 幼虫はいいなあ。プロセスだから。
糸井 幼虫の立場っていうのもよくわかんないんですけどね。
昆虫の世界はSFのアイディアになるようなのが
いっぱいだよ。
だって、とんぼの強い弱いみたいなのがあるじゃない。
強いとんぼ、弱いとんぼがいるとすると、
そのほかに、
“別に僕は強くても弱くてもどっちでもいいとんぼ”
っていうのがいるんだよ。
そんで、強いとんぼ同士が戦っているそのすきに、
メスのところにすーっと行って、
子孫を残しちゃうんで、永遠に
“別に僕は強くても弱くてもどっちでもいいとんぼ”
は残っちゃうの(笑)。
鈴木 鮭もさー、海に戻らない鮭っていうのが
いるんだよね。
そんで、海から産卵に帰って来るじゃない。
そうすると横からぱっとかけちゃう。
こざかしいオス。
糸井 あのねえ、京都の方にいる有名な学者さんがいて、
コンピューターシュミレーションで
強い遺伝子と弱い遺伝子の他に、
どうでもいい遺伝子はどうして残るか、
っていうシュミレーションを
ずーっとコンピューターでやってるんだ。
何代にも渡って繰り返していくうちに、
(どうでもいいのが)残るんだって。
で、社会ってそういうものらしいんだよ。
その人はなんでそんな研究をはじめたかというと、
自分が落ちこぼれだったから(笑)。
鈴木 いいなあ、スタートが。
糸井 ナイスだろ?(笑)
弱肉強食とか、進化論とかっていうのをみると、
勝つことばかり考えるけど、
勝たないっていう生存戦略っていうのもあるんだよ。
ブツブツいいながら機嫌よくいる。
鈴木 うーん。目指すところだね。
糸井 目指すところだろ? ムーンライダーズの(笑)。
すごいなあ、そんな戦略の中に
ムーンライダーズはいたんだな(笑)。
鈴木 弱と強のはざまにね。

(つづく)

2000-12-31-SUN

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