糸井 |
『矢野顕子をほめる』。
そんなタイトルを付けられる人が、ほかにいるだろうか?
今日はほめるぞ! |
鈴木 |
あの人、実は、ライブでミスもしてるんだよね。
そんなこと絶対ないように、みえるけど。 |
糸井 |
あと、歌詞の間違いも平気ですよね。
俺、作詞家だから知ってるけど、
そんな歌詞はない! ってことがよくある。 |
鈴木 |
リハーサルでは、決してミスがないからさ。 |
糸井 |
えっ?? |
鈴木 |
リハーサルで、ないんだよ、ミスが。
だからこっちもすごい真剣になってくるじゃない。
それが本番でミスしてくれると、
すごくホッとするんだよね。 |
糸井 |
それってなんなんだろう? |
鈴木 |
やっぱり本番だからかなあ? |
糸井 |
リハって間違わないことをすごく重要視しますよね。 |
鈴木 |
リハは、「いい演奏」というものを
目指していくわけですよ。
それが、あっこちゃんだと、リハでも
最初から観客がいるかのごとくの様相を呈する。 |
糸井 |
顔もちゃんと作って歌ってるんだよね。 |
|
鈴木 |
僕はあっこちゃんのライブにゲストで出たことが
2度あるんですよ。
1回目は92、3年でPIT−INN、
2回目がこないだの渋谷ジァンジァン。
ピット・インに出た時は、ギター持ってリハーサルに
行って、ギターケースを開けたら、
さっそく演奏が始まっちゃって。
「この曲やらない?」
「あ、やりましょう……」
すぐ歌わなきゃいけない。 |
糸井 |
向こうはもうエンジンがかかっているんだ。 |
鈴木 |
こないだのジァンジァンのリハはね、
俺がたまたま先に到着していて、
ギターを弾いていたんですよ。
トレーニングしてたんだ。そしたら、
あっこちゃんに、来るなり
「チューニング合わせたら?」
って言われちゃって(笑)。 |
野田 |
(慶一さんの美人マネージャーさんです)
「さすが天才!」って思っちゃった。 |
糸井 |
着いた途端に? |
鈴木 |
着いた途端に。
第一声が「チューニング合わせたら?」。
こっちも「あ、そうだね……」って。 |
糸井 |
「ヤバ……」って?(笑) |
鈴木 |
本番よりリハのほうが、緊張するよ。 |
糸井 |
そういう話は今まで聞いたことがなかったよ。
なんだろう? ほんとに不思議だねぇ |
鈴木 |
「どういうふうにしようか?」
って、アレンジを二人で決めていくじゃない?
「こういうふうにしない?」
「OK」って言っても、俺だとできない可能性もある。
たとえば、
「エンディングの終わり方を、スパッと終わろう」
というのを、忘れちゃったりしてさ。
そうすると、リハの演奏中に、
「ンッ?」って、こう(鋭い視線で)見られてさ。
「……大丈夫?」とか言われて。 |
糸井 |
ほうほう。 |
野田 |
「慶一くん、このキーだときつくない?
一音、下げようよ」
とか言われてましたよね。 |
鈴木 |
と言っても、一音下げるってさ……。 |
糸井 |
弾き方変わるよね。 |
鈴木 |
すぐ下げられるかなあ? って。 |
糸井 |
簡単に移調できるのは、あっこちゃんが
ピアノの人だからでしょう? |
鈴木 |
そうだね。 |
糸井 |
ギターって一音下げたら、
指変わっちゃったりするよね。 |
鈴木 |
押さえ方が変わって、弦の鳴りが変わっちゃったりする。
不完全な楽器だから、ギターって、ピアノにくらべると。
指が痛くなっちゃったりするし。 |
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野田 |
でも矢野さんの言う通りに下げたら、
声がキチッと出るようになったんですよ。 |
糸井 |
あのジァンジァンの慶一くん、声、出てたね。
「俺ってスゴイ!」って思わなかった?
かっこよかったよ。 |
鈴木 |
いや、……そうすか?
俺、あっこちゃんとツアーをしたことはないんだけれど、
ユキヒロ(高橋幸宏)はしてるんですね。彼が、
「あっこちゃんのツアーはすごい。緊張する」
と言っていたのを思い出した。
で、終わった後に、ちゃんとその日のテープ聞いて、
反省会みたいのがあるんだって。 |
糸井 |
……その割には本番よく間違えてるよね。
以前、ジァンジァンのライブで、俺、驚いたのは、
「もとい」って演奏中に言ったんだよ。 |
鈴木 |
(笑)。 |
糸井 |
弾いて歌いだして間違えて、
「もとい!」って言ってまた一から始めたんだよ。その時、
「これは新しい一つのコンセプトだな」って思ったんだ。
だって、小劇場だから客の数は少なくて、
お客さんも、完成品を求めているというよりは、
場の雰囲気を楽しみたいわけじゃない?
だったら「もとい」って言ってくれたほうが
嬉しかったりする時って、あるんだよね。
それって、演出としてやる人はいるかもしれないけど、
ああやってごく自然に「もとい」ってやっちゃう人って、
いなかったよね。
それってジャズ系のノリなんでしょうかね。 |
鈴木 |
そうかもしれないですね。
あの人、弾きながらしゃべってるでしょ。
あれって、なかなか難しいことだよ。
弾きながらしゃべって、スッて曲に行くでしょ。
あれってなんだろう?
ピアノと一体化してるんでしょうね。 |
糸井 |
荒木惟経さんにとってのカメラみたいなもんだね。 |
鈴木 |
まあね。
……じゃあ俺が何と一体化しているかっていうと……
ちょっとわかんないけど(笑)。ないような気もするし。 |