糸井 |
ジァンジァンで2人でやった曲目は
あっこちゃんが決めたんですか。 |
鈴木 |
決めるんだよねぇ。
それで、たまげたのは、『僕は負けそうだ』。
これは弟(鈴木博文さん)の曲で、
レコーディングでも弟が歌ってるし、
俺は歌ったこともないし、どうやろうかなあ? って
思ってたんだけど、
「あれ、いいよね?」って言われると、
「そうだね」って言っちゃった(笑)。
「弟のだよ」
「そうか、でも、やろうよ」
って。俺も別にいいんだよ、弟の曲でも。
初めてやってみようかなって。
いちばん、あれがたいへんではあったけれどね。 |
野田 |
あとは『犬の帰宅』も。 |
鈴木 |
あれはね、歌詞に“娘”“息子”が出てくる。
俺には娘も息子もいないけれど、
そういうのを想定して作ったわけだよね。
それをあっこちゃんが歌うとリアルだなって気もするし、
そっちのほうがいいんじゃないかな? って(笑)。
他人の曲も、全部、あっこちゃんのものに
なっちゃうんだよね。だから
「歌詞、イトイさん、お願いします」
っていうことができるんじゃないのかなあ。 |
糸井 |
イニシアチブは自分なんだよね。
よく思うんだけれど、あっこちゃんに自分の曲を
歌われている人って、なんだか養子に出したような
気になるんじゃないのかなあ。 |
鈴木 |
俺ね、自分で歌うのがイヤになっちゃった時があるよ。 |
糸井 |
『塀の上で』は、ハラ立つよね(笑)。
ああいう歌じゃ、なかったよねえ? |
鈴木 |
「これはヤバイ!」って思ったよ。
オリジナルは俺なんだけど……。 |
糸井 |
「いい歌だなあ!」って? |
鈴木 |
糸井さんと作った『ニットキャップマン』だってさ。 |
糸井 |
あれ取られてるよなあ! |
鈴木 |
あれ、いい歌だなあ。 |
野田 |
あたし、泣いちゃいました。 |
糸井 |
泣いたよ。俺、最初、中野サンプラザのあっこちゃんの
コンサートで初めて矢野顕子版『ニットキャップマン』
聞いて、目が潤んじゃったもんね。
「俺って、歴史に残るようないい歌を作ったんじゃないか」
とさえ思ったよ。
まるでね、金メダルをもらって表彰台に上っている観客、
みたいな、“観客賞”をもらったような感慨。 |
鈴木 |
そうなんだよ! |
糸井 |
慶一くんも思ってるんだ、やっぱり? |
鈴木 |
表彰式みたいな感覚ですよ。
……でも、どういうことなの、それは!(笑) |
糸井 |
ひどいよなあ!(笑) |
鈴木 |
俺達の作った曲なんだけどね。
海外ではカヴァーっていうのは日常茶飯事なんだろうけど、
なかなか日本にはいなかった人なんですよね。
あっこちゃんが、他人の曲を歌い始めた頃、
だいぶ前だけれど、そう思った。
「いい曲だね」って思っても、
なかなか演らないものなんだよ。 |
糸井 |
思えば、『いもむしごろごろ』だってさ、
あのわらべうたが、あんなふうに聞こえるとは
思わなかったよね。
“矢野顕子の世界”の歌になっちゃうんだよ。 |
鈴木 |
まさしく養子に出した感じでさ。
生みの親が育ての親に、
「立派に育ててくれて……」って感謝するようなもんだ。
生みの親は陰から覗いていましょう、っていう
気持ちに、なるんですよ。 |
糸井 |
そんなこと平気で言わせる矢野もすごいが、
周囲の人がそれをまた認めるような関係というのも、
また不思議だよね。
「俺のほうが上手い!」
って言いたくなっちゃうじゃないですか、世の中的には。
「俺が俺用につくった曲は、俺が演ったほうがいい」
って言ってもおかしくないのに、
いろんな人が、あの人に取られてるじゃない。 |
鈴木 |
「取られてありがとう」ですからね。 |
糸井 |
あっこちゃんが歌ったおかげで、
あらためてその元歌の人のアルバムを聞いてみようって
機会って、ものすごくあるものなあ。 |
鈴木 |
そうだよね。 |
糸井 |
俺、奥田民生くんの『すばらしい日々』も、
ユニコーンでも面白いなあと思ったけれど、
あっこちゃんがカヴァーしてから、
聞き方が全然変わったね。
何でこんなにいい歌なんだ? って思ったよね。 |
鈴木 |
だいたいあっこちゃんが選び取る曲は、
いいな、と思いますよ。
自分の曲が選ばれているからそう言うわけじゃないけど。 |
糸井 |
いや、実際、そうだよ。
だって俺、オフコースとかあまり聞かなかったけれど、
矢野以来、オフコース、いいって思ったんだもん。 |
鈴木 |
そのセレクトの仕方っていうのはね、
どうしてもホラ、いい曲だと思っても、
自分と違う土俵だったりすると躊躇しがちなんだけど、
そんなものもないんですよね、あの人は。 |
糸井 |
矢野世界、ってことだな。 |
鈴木 |
そうそう。矢野界においては、ってことだね。
「いい曲は、いいんだ」
っていう確固たる矢野基準があるんですね。 |
糸井 |
そうか。思ってみたんだけど、今流行の、
ブランド戦略的なことを何も考えずに、
「矢野ブランドってこうだからね」
ということが、ごく自然にできているんだね。
『月刊カドカワ』で連載されていて、
いまHMVのフリーペーパーに移った
『月刊アッコちゃん』ってあるじゃない?
あれって、音楽やっているあっこちゃんとは
なんの関係もないけれど、あの世界が
音楽とつながって好きだっていう人が、
すごく多いじゃないですか。
ああいうことができる人って、
そんなにいないんですよね。 |