糸井 |
もうひとりの矢野顕子は、作れないんだなあ。 |
鈴木 |
ムスメ(坂本美雨)は、どうかな。 |
糸井 |
ああ、ムスメはやっぱり、いいよねえ。 |
鈴木 |
ふたつ、混ざってるからねえ……。 |
糸井 |
ムスメ、やっぱりさ、歌に対する愛情みたいなものが、
あの声に入ってるよね。
ただ、まだカタイんだよな。
唯一、あっこちゃんのデビューと違うのは、
美雨ちゃんは、恐ろしいものを見て暮らしちゃった。 |
鈴木 |
多分そうだね。その通りだね。 |
糸井 |
リハの時のあっこちゃんに近いようなものが、
まだあるんだろうね。
あれが、シャバダバ(即興の歌)を始めたら、怖いね。
今、楽しみでしょうがないのは、
宇多田ヒカルと坂本美雨っていう2人がいることだ。 |
鈴木 |
気になりますよ、私も。 |
糸井 |
全然違う育ちをするんだと思うんだけど、気になるよね。
音楽を本職にするとすれば、
抜きつ抜かれつ、になると思うんだよ。
で、どっちも、現われ方がまだ見えないけれども、
「やーめたっ!」
って言う可能性さえあるような気がするんだ。 |
鈴木 |
あるよ。 |
糸井 |
そうか、慶一くんも思ってた? |
鈴木 |
思ってるよ。それは、NYって場所も含めて、
なんかね。自由の二乗みたいなね。 |
|
糸井 |
宇多田も惚れさせるしね、あの美雨ちゃんの、
「まっとう、というのはちゃんとやっといたほうがいい」
みたいな育ち方も、すごく興味があるんだ。
俺が見たところ、あっこちゃんって、じつはすごく
気取り屋さんなんだよ。
だから矢野顕子の特別な面が見えるのは、
トーク番組に出た時の矢野顕子なんだよ。
これはね、気取り屋さんなんだよ。
これはみんな知らないんだけれども、
「ああいうヤツじゃ、ねえぜ」
ってところが、しょっちゅう見えるんだよ(笑)。
とくにおかしかったのはね、『すばらしき仲間』っていう
トーク番組があって、座談会番組なんだけど、
他の人が気取ると、それに負けずに気取ってるんだよ。
極端に言うと、「ですわ」って言いそうなんだ。
あっこちゃんって、カジュアルっていうものが
すごく好きだし、いつも意識しているけれど、
“毅然とする”だとか“ちょっと背筋を伸ばす”とかいう、
男で言うとネクタイ締めていいスーツ着て、っていう
「行くぞ!」っていうような気分を、
いつもあの人、持っていると思うんだ。 |
鈴木 |
ふたつ、あるんだね。 |
糸井 |
ふたつあるんだよ。美雨ちゃんは今、
「毅然の方をちゃんとやっとかないといけないな」
っていう気分がすごく感じられて、
ここをクリアすると、大人の世界をすべてクリアできて、
それで「自由」に戻れる。ちょっと回り道だけど、
この子の道、っていうのは、僕は楽しみだと
思ってるんです。宇多田ヒカルは、「毅然」は、
英語でならたぶんできるんじゃないかと思うんだ。
だけど、日本語を使うと、“ぼーっとした女子高生”の
ノリになっちゃうんだよ。
宇多田ヒカルのホームページって行ったことある? |
鈴木 |
ないない。 |
糸井 |
面白いんだよ! いちばん売れている子の、
いちばん伸び伸びしている文章って、感動する。
「これから写真週刊誌にこういう写真が載るだろう」
なんてことは、あのホームページを読んでいる人は、
もうわかっちゃっている。
「どうせ、みんなで集まって
HUGをしまくっているんだから
そういう写真が載るに決まってるんですけど。へへ」
なんて書いているわけだ。
案の定、写真週刊誌がそれを追っかけて、
「抱きあっているのは誰!?」
なんて書いているわけだよ。
いちばんナマの宇多田ヒカルの気持ちを、
俺らは知っている。そう思うと、バカらしくなるんだよね。
メディアがいくら追っかけて、誰と抱きあってた、
なんて言っても。 |
鈴木 |
ザ・芸能界には数年前からそういう兆しは
あったんだけどね。
メディアうんぬんよりも先に、個人的な、
普段の動きが見え隠れする、っていう。 |
糸井 |
あったんだけれども、宇多田はひとりでやれている。
このごろはタレント同士が
次の番組はどうするなんてことを
決めちゃったりすることが増えているので、
芸能プロダクションが困っているらしいんです。たとえば、
「こんど舞台やるんだけど出てくれない?」って、
竹中直人くんが口説いたら、
プロデューサーが口説く以上に、
「竹中くんがそんなに一所懸命になっているのなら」
って気になるじゃない。
岩井俊二さんなんかはそういうことをやっていると
思うんだ。そういうノリで、新しい芸能の世界が
生まれているなっていう感じが、宇多田ヒカルを見ていて
すごくするんですよ。美雨ちゃんにしても、
ちゃんと丁寧な言葉がしゃべれるし、
理知的なんだけれども、こういう「ほぼ日」なんかに
何気なく、ただの高校生の生活を、
書くこともできるじゃない。 |
鈴木 |
「次はなにをつくろうかな、絵を描こうかな」とかね。 |
糸井 |
「仕事としては音楽なんだけれども、
彼女は実は絵をやっているんだな」
ということがわかると、そっちも頑張れ、って
気持ちになるじゃない。 |
鈴木 |
リンク見ると面白いよね。ああいう人の。
こういうところにリンクしているのか、って、
それは個人的に興味があるってことだから。 |
糸井 |
面白い。本棚をのぞき見るような面白さがあるね。 |
鈴木 |
美雨ちゃんは、5歳とかそのくらいの時に、
スタジオによく来ていたよ。 |
糸井 |
来ていたね。 |
鈴木 |
たまげたことがひとつあってね。
かしぶち(ムーンライダーズのかしぶち哲郎)の
レコーディングをあっこちゃんと2人でやってたとき、
美雨ちゃん、初めて聴いた曲を、すぐに歌えるんだ。
5歳くらいで。 |
糸井 |
ああ、そうなんだ。 |
鈴木 |
すげえなあ、って。
母親にもすげえって思ってて、娘にもすげえって思う。
すげえの二乗。 |
糸井 |
親2人を見れば、当たり前って
言えるのかもしれないけれど……。
美雨ちゃんの将来が楽しみだなあ。
『鉄道員』の歌にしても、ああやってでき上がってみると、
他に歌う人はいないよな、って気になるんだよ。 |
鈴木 |
ああいうの見るとね、
「いいなあ……早めに子供ができた人は」
と思いますよ(笑)。
わかんないけどね、自分の子供がどうなるかなんてのはね。 |