COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その8
エディトリアルっていうこと。

糸井 もっと、今日みたいなことってみんなが
考えなきゃいけなくって、
クリエイティブで飯食ってる人の周囲の人たちまで
考えなきゃいけないことなのに、
「じゃあ、てっとりばやくお金になるのって何?」
っていう人ばっかり考えちゃった。
「作る立場って何?」っていう人からの発想って
なかったんですよ。だから
そっからが勝負になると思うんですよ。
鈴木 何か、コーディネートやプランニングっていう
言葉じゃないんですよね。
糸井 プロデュースってのでもない。
大きい意味でエディターなんですよ。
エディトリアルに近いんですよ。
エディトリアルっていう概念の基礎って
こないだ知ったんだけど、知ったかぶりなんだけど、
ポンペイの格闘技場ってあるでしょ。
あそこで誰と誰を闘わせるかを決める役っていうのが
「エディター」なんだって。
鈴木 ふーん、すごい大変な仕事だね。マッチメイカーでしょ。
糸井 というか、全部やってる。
鈴木 そうだね。
糸井 みんな現役の格闘家たちってマッチメイカーとして
けっこう優秀でしょ。あれなんですよ。俺らそれ得意だよ。
鈴木 道場から知ってるってことでしょ。
糸井 あと、見栄えとか。その日までにこういうキャンペーンを
やってるとか、全部やってるとエディトリアルできる。
今のエディターって、活字ってこういうふうに
並ぶんだよね、っていう……要するに売れるほうからの。
鈴木 旧来のエディターってそうだよね。
何かレイアウトにはめていくっていう方法。
糸井 組み合わせをするとすごくって、
組み合わせ以上のことをすると、
やっぱり素晴らしいですよね。
そこまで考えると、経営っていうのも
エディトリアルなんだよ。
鈴木 音楽もエディトリアルですね。
糸井 そうだよね。丸と三角だもんね。
鈴木 その組み合わせだもんね。
曲をつくること自体がそうかもしれないし、
録音するっていうのも、ほんとに一部しか作らないで
断片をつなげてくっていうか。
それで異化効果を生むっていう。
糸井 そこで真逆の綾戸智絵さんが売れるのもよくわかるよね。
みんながそれやってるときに一発録りするでしょ。
あれは、40年間ずうっとあの力だけをためてきたから
いいんで、あんな人は何人もいないでしょうね。
やっぱりものすごいよ。びっくりするよ、背筋にくるよ。
鈴木 そうか。
糸井 ところで、こないだポンペイ展って行ってきたんです。
まずね、システム的に面白いのは、展示方法。
ポンペイの美術品とか道具類、
発掘して出てきたものを、当時の生活様式に
あてはめて展示しているんですよ。
部屋があって暖炉があるっていう。
例えば、「ポンペイの水」っていうのを説明する所は、
部屋のまんなかに水盤っていうのがある。
屋根がその形にあいてるらしいんですよ。
で、降った雨水がそこに貯まって、洗濯の水とかに
するらしい。そうやって見ただけで
どういうことを役割として果たしてたかっていうのが
ものすごくよくわかった。そこでまず第一にすげえなって。
で、ポンペイ全体の規模っていうのが模型で作ってあって、
2万人住んでたらしい。
で、それも「あ、こんなに狭いのか」ってだけで
またおもしろい。ちっちゃい2万人の街なんですよ。
だけど、生活の豊かさは、店も再現してあって、
いかに豊かだったかというのがリアルにわかる。
これって何で今までの展覧会って
こうじゃなかったのかなあ、って思って。
鈴木 部分を持ってきても、ね。
糸井 それを崇めなさいって、アイコンにしてしまうんですよ。
アイコンじゃない形でやるっていうのが、
まずそこであって。で、そこに仕掛けがあって。
展覧会、6か月やるんですよ。
鈴木 そりゃ長いね。
糸井 6か月やるから普通の展覧会より予算取れるんですよ。
鈴木 あ、そうかそうか。
糸井 で、6か月やるのでも、3か月ぶんの予算とったら
十分採算がとれるんですよ。向こうにしたら安上がりだし。
なおかつ、その場所っていうのが新しくできたところで、
裏なんかまだ打ち抜きの広告みたいになってるんですよ。
そこで大ポンペイ展をやってくれるっていうんだからね。
読売新聞がバックについてるんだから。
鈴木 で、今後もやるんだな。
糸井 かもしれないね。ま、これからは別にしても、
とりあえず予算配分と会期については、新しい建物って
いうので、このプロデュースはすごいな、って。
知ってる人がポンペイの研究をしている博士なんですよ。
この人の案内で見たんで、そういうのすぐに聞ける。
ベースが、ポンペイは何で豊かなんだって考えると、
一つは、肥沃な大地ですよね。で、もうひとつは
交易なんですよ。今のアムステルダム考えてもらえば
わかるけど、交易で商売できてて、経済水準が
すごく高かった。ぼくらが見本としてみてる場所が、
「これは貴族の家なんでしょうね」って言ったら
「いや、これは貴族というよりお金持ちの家なんですよ」
って。そして、「これはだいたい10%くらいです」って。
つまり、貴族ですかって間違えちゃったようなのが
紀元前何世紀に10%もいたっていう、その豊かさ。
とにかく経済水準が高いっていうことなんです。
その経済水準の高さの原因が、今言った交易と、農業。
そうなると労働力っていうのはどこかなって、
次、思いますよね。そうなると奴隷なんですよ。
奴隷っていうのは、基本的には王様に算数教える人まで
奴隷なんですよ、当時。習ったじゃないですか社会科で。
ソクラテスは奴隷出身だったって。
……ソクラテスだかどうか忘れちゃったけど。
で、その奴隷が働いてた、っていうのを、博士は、
「今でいう、サラリーマンみたいなもんですね」
っていうんだよ。つまり、奴隷を鞭で叩いても
制作効率って上がんないんですよ。
奴隷にある程度の豊かさを与えて、働かせれば、
とっても効率よく動くんですよ。
奴隷階級にはもちろん数学を教える人から
哲学を語る人からいたわけ。
何でそういうことを訊くきっかけがあったかっていうと、
粉挽き機があったんですよ。これロバにつながっててね。
「奴隷の労働として一番嫌われてたのが
この粉挽きなんですよ」って。だから、
「え?これ以上悪い労働はなかったの?」と思ったの。
「ええ、単調で」って。
「え、……じゃあ他の仕事は?」
「ですから、まあサラリーマンです」って。
鈴木 自分でまわすんですか?
糸井 自分でまわすんです。粉ひきの仕事って嫌われてたから、
次はお前な、みたいにやったんじゃないのかなあ。
コロシアムで、勝ったら市民階級、みたいな。
鈴木 わかりやすいね。
糸井 俺が思ったのは、ポンペイを研究するときに、
まず心意気が基本だなって。
サラリーマン階級にあたる奴隷の労働力みたいな。
「今サラリーマンですねって言った位置は、
これからのコンピューターですね」って俺言ったの。
俺はほぼ日電脳部長の岩田さんによく聞いてたんだけど、
「嫌なことはみんなコンピュータに
やらせりゃいいんですよ」って言うんですよ。
誰でもできることはコンピュータにやらせりゃあいいって。
つまり頭脳奴隷、ですよね、そう考えてくと、
未来のイメージはここに雛形があるな、って。
そこにもう一回横入りするものがあって。
でもね、ポンペイって技術のかたまりなんだ。
音楽もすごかった。みんな、楽しむってことを
してるんですよ。
教養主義者は古臭い美術を全部すごいって言っちゃうけど、
俺から見るとたいしたことない。
で、たいしたことあるものとたいしたことないものとが
両方あるんです。彫刻でも。
鈴木 ずいぶん成熟した都市だね。
糸井 風呂屋の絵みたいなのもあれば、
本当に手に入れたくて手に入れているという美術品もある。
それがそれぞれの収入に応じて飼い分けられてたわけよ。
だから美術で満員なんだけど、
それぜんぶ職人さんが作ってたっていうんだよ。

(つづく)

2000-02-29-TUE

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