「もしドラ」を書いた岩崎夏海さんに 「もしドラ」を5回も読んだオトヤが会いにゆく。  feat. AKB48(チームA)
第5回 ドラッカーとAKB48

前回、自分自身の夢である
バレーボールチーム「オトヤJAPAN」の
運営について、
ドラッカーの言葉のなかから
心強いヒントをゲットした風のオトヤ。

取材時間も終わりに近づき、
われわれは、
さっきまで目の前で歌って踊っていた
「AKB48」について、
やはり、聞かずにはおれなかった――。

── 岩崎さん、最後に「AKB48」のお話を
おうかがいしてもいいですか。
岩崎 もちろんです。
── 「AKB48」をプロデュースするうえで、
ドラッカー的な考えかたは
どのように、影響しているんでしょうか。
岩崎 影響していません。
オトヤ え? あ、していないんですか?
岩崎 ええ、直接的には。
── いやぁ、それは意外なお答えでした。

「あれは、ドラッカー的に言うと」とか、
そういう展開を予想していたのですが。
岩崎 というのも、やはり「AKB48」は
秋元(康)さんという才能から
生まれてきたものだし、
秋元さんご自身は
ドラッカーのことを、ご存じないので。
── ははー‥‥。
岩崎 私は秋元さんをサポートする役割しか
果たしておりませんしね。
オトヤ そうなんですか。
岩崎 ただ、秋元さんは徹底的な「顧客主義者」。

たとえば、そういう個々の部分が
ドラッカーと共通している、ということは
あると思いますけれど。
── たしかに「顧客主義」というのは、
ステージを拝見して、すごく感じましたね。
オトヤ 至れり尽くせりっていうか‥‥。
── なにしろ‥‥うちのオトヤにいたっては
前田敦子さんの投げた
「一輪の赤いバラ」まで手に入れました。
オトヤ はい、大切にしたいと思います。

前田敦子さんの投げた「一輪の赤いバラ」は
立派なドライフラワーとなって、今もオトヤの机を飾っている。
岩崎 ‥‥ひとつ言えるのは、やはり「劇場」が
秋元さんにとっても
ひとつの大きな化学変化をもたらす
装置だったんじゃないかなということです。
── なるほど。
岩崎 やっぱり、見ていて、おもしろいんですよ。
お客さんの反応がダイレクトですし。
── そうなんでしょうね。
岩崎 秋元さんは、30年近く
テレビの世界でお仕事されてきましたから、
ナマで「顧客」を見た経験は
あまりなかったんです。

だから、
いざ劇場で「AKB48」をやり出したら
ステージのようすそっちのけで
お客さんを見るのが
おもしろくなってきちゃったんですね。
── なるほど。
岩崎 以前から顧客主義的ではあったんですが、
劇場という装置のおかげで
その傾向が、ますます強くなったのでは。
オトヤ ははー‥‥。
岩崎 あとは、さきほども話に出ましたけれど、
ドラッカーのいう
「昨日はすべて陳腐化するが故に
 古いものは捨て去るべきである」

という考えかたも
「AKB48」をプロデュースするときと
共通する考えですね。

つまり「らしさ」をつくらない、ということ。
── らしさ?
岩崎 そう、「らしさ」をつくらない。

アイドルやアーティストって
「らしさ」が出てくると
もう「新鮮味」を、感じさせられなくなる。
だから「AKB48」の場合も
「AKB48らしさ」が固定化しないよう、
気を配っているんですよ。
── へぇー‥‥そうなんですか。

ちなみに「AKB48」がデビューしてから
軌道に乗るまで
どのくらいの時間が、かかってるんですか?
岩崎 いちばん最初のお客さんは、7人でした。
── 7人!
岩崎 それこそ、メンバーの数のほうが
お客さんの数より、多かったわけです。
オトヤ そうですね、たしかに。
岩崎 で、定員250人の「AKB48劇場」が
はじめて満員になったのが
デビューから2ヵ月くらいたったころ。
── 2ヵ月、ですか。
岩崎 だから‥‥そうですね、
早いとも言えるし、
ある意味では時間がかかったとも言える。

あっという間と言えばそうなんですけど、
最初のシングルは
オリコンで10位に入ったものの、
次の曲で苦労したりとか、
やはり、紆余曲折はあったんですよね。
オトヤ いま、デビューしてから‥‥。
岩崎 だいたい、5年くらいです。

今でこそ
「こんなかわいい子ばっかり集めたら
 売れますよね」
なんておっしゃる方がいるんですけど、
そんな意見を聞くと、
メンバー含めて
ちゃんちゃらおかしいと言いますか‥‥。
── そうですか。
岩崎 だって、最初はもう、
泥だらけのダイヤモンドばっかりだった。

だから、初期のころの映像を見せると
「これじゃ売れないよ」って
みなさん、口をそろえておっしゃいます。
オトヤ そんなにですか。
岩崎 こう言っては何なんですけど、
輝いている子なんて、皆無だったんです。

さっき舞台の上で、
キラキラと輝いていた女の子たちは、
この5年間に
幼虫がサナギになり、サナギが蝶になって‥‥
そんな子たちばかりなんですよ。
── でも、その競争システムというんですか、
聞くだに過酷ですよね。

大島優子さんが勝ち、前田敦子さんが負けて
話題になった「総選挙」なども
具体的な投票数はもちろん
投票の全体が、丸見えなわけですし。
岩崎 ドラッカー的な言いかたをすれば、
彼女たち自身、みずからイノベーティブに
変わっていくことが出来ないと、
やはり、ステージには立ち続けられない。
── ええ、ええ。
岩崎 とにかく、戦って戦って戦い抜く。
そういうやりかたなんです。
── はい。
岩崎 そのあたりの「競争主義的」な部分は
ドラッカーからは
遠いところではあるんですけどね。
オトヤ あ、そうなんですか。
岩崎 ドラッカーさんは「適材適所」ということを
おっしゃっていますから。
── 有名な「強みを活かす」という話ですね。
岩崎 「自らや作業者集団の職務の設計に
 責任を持たせることが
 成功するのは
 彼らが唯一の専門家である分野において
 彼らの知識と経験が
 生かされるからである」‥‥。

オトヤ なるほど‥‥だからみなみちゃんは、
走るのが得意な選手に
走塁担当の役割を割り当てたのか‥‥。
── ‥‥いま、「もしドラ」って
何万部くらい、いってるんでしょう?
岩崎 電子書籍と合わせて150万部くらいです。

註:2010年11月現在の数字です。
── ひえ〜‥‥すごい。
オトヤ ひとつ、お聞きしたかったんですけど
なんでああいう
「萌え〜」な表紙にされたんスか?
岩崎 経営層など、今までのドラッカー読者とは
ちがう人たちに届けたいという、
そもそも、そういうコンセプトでしたから。
方向性自体は、
はじめから「萌え〜」だったんですよ。
── はじめから「萌え〜」。
岩崎 もちろん、ダイヤモンド社のみなさんは
ビックリされたみたいですけどね(笑)。
オトヤ 表紙画は、ゆきうさぎ先生ですよね。
岩崎 そうです。背景の「多摩の風景画」は
また別の会社に描いてもらってますけど。
── え、そうなんですか。
岩崎 「Bamboo」の益城貴昌さんという‥‥。
オトヤ あ! 『攻殻機動隊』の背景を描いてる?
岩崎 よくご存知ですね。
オトヤ ええ知ってます! そうなんですか! へえ〜!
── めちゃくちゃ食いついてる‥‥。
オトヤ だから、あんなにクオリティ高いんスね!
へぇ〜‥‥すっげー!
岩崎 お好きなんですね(笑)。
── そうみたいですね‥‥。
岩崎 この背景を仕上げるために
発売を1ヶ月以上、延ばしてるんですよ。
オトヤ いや、その甲斐は
めちゃくちゃあったと思うんスよね!
── オッティ、アニメ好きだったんだ‥‥。
オトヤ ええ、自分、ケータイもエヴァケータイ
(エヴァンゲリオンの携帯電話)だし。

着信音はTV版の「次回予告」のときにかかる、勇猛なマーチ風の音楽。
── ‥‥。
岩崎 おもしろいですねぇ(笑)。
── ‥‥岩崎さん、
今日は、本当にありがとうございました。
岩崎 こちらこそ。
オトヤ ありがとうございましたーっ!
── ‥‥オトヤさん、満足ですか。
オトヤ 超満足ッス!
  <終わります>
 
2010-11-08-MON
 
 
(c) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN