「もしドラ」を書いた岩崎夏海さんに 「もしドラ」を5回も読んだオトヤが会いにゆく。  feat. AKB48(チームA)
第4回 オトヤJAPANの「マネジメント」

前回、大型二種免許の取得をつうじて
自己のイノベーションにつなげていきたいと
告白した、弊社の管理部門・オトヤ。

岩崎さんは、さまざまなドラッカーの言葉を
引き合いに出しながら、
「イノベーションにつなげていくことは
 可能である」と励ましてくださった。

すっかり気を良くしたオトヤは、
こんどは、
ライフワークである「バレーボール」について
「マネジメント」の観点から
岩崎さんに相談をはじめるのであった――。

オトヤ 岩崎先生、私、中学校のころから
ずっとバレーボールをやってきたんです。
岩崎 ええ。
── この人、某実業団で活躍していたくらいの
かなりの本格派だったんです。

本格派時代のオトヤ・24歳。
オトヤ でも、腰を痛めてしまって、
18年の選手生活に、ピリオドを打ちました。
── 今では『裸の銃(ガン)を持つ男』になぞらえて
「ガラスの腰を持つ男」と呼ばれています。
オトヤ ただ、選手としては引退したのですが、
将来的には
小学生のバレーボールチームをつくって
監督になるのが夢なんです。

チーム名は「オトヤJAPAN」です。
岩崎 もう決めてるんですか、名前。
── 監督の名前がチーム名って‥‥。
オトヤ そのとき、この「もしドラ」を教本として
運営していこうと思っているんですが、
じっさい‥‥
本当に強いチームができるんでしょうか?
岩崎 「もしドラ」のとおりにやる、ということは、
みなみみたいに
『マネジメント』もしくは
ドラッカーのとおりにやる、ということです。
オトヤ はい。
岩崎 100パーセント、ドラッカーのとおりにやれば、
わたしは、
きっと強くなれると確信しています。

ただ「そのとおりにやる」こと自体が
けっこうむずかしい。至難の業だと思いますね。
オトヤ そうなんですか‥‥。
岩崎 ひとつには「真摯であること」の、むずかしさ。
── 真摯、ですか。
岩崎 これを逆にいうと、ドラッカーさんの言う
「真摯でない行為」とは、
「知りながら害をなす」ということ。
オトヤ 知りながら‥‥害をなす?
岩崎 たとえば、街でゴミをポイ捨てする人が
いたとしますでしょう?

ポイ捨てする人は、もちろん悪いです。

でも、その「ゴミのポイ捨て現場」を見て
注意したり、
そのゴミを自分で拾って
ゴミ箱に捨てなかったりしたら‥‥
結果的に、
「街を汚す行為」に手を貸してしまう。
── いわゆる「未必の故意」ってやつですね。
岩崎 それが「知りながら害をなす行為」です。

ドラッカーによれば、
このような「真摯でない行為」が
企業や組織をダメにしていく
ひとつの大きな要因になると言うんです。
オトヤ なるほど‥‥。
岩崎 ドラッカーは、『マネジメント』にいわく
「リーダーシップが発揮されるのは
 真摯さによってである。
 範となるのも真摯さによってである。
 真摯さはごまかせない」

オトヤ 「ごまかせない」‥‥!
岩崎 「ともに働く者とくに部下には
 上司が真摯であるかどうかは数週でわかる。
 無能、無知、頼りなさ、態度の悪さには
 寛大かもしれない。
 だが、真摯さの欠如は許さない」

オトヤ 「許さない」‥‥!
岩崎 「組織が偉大たりうるのは
 トップが偉大だからである。
 組織が腐るのは
 トップが腐るからである」‥‥。

オトヤ 「トップが腐ると組織が腐る」とは
重たすぎる言葉ッス‥‥。
岩崎 だからこそ
「知りながら害をなすな」
という、2500年も前のギリシャの名医・
ヒポクラテスの誓いこそ、
組織やチームをマネジメントする際に
思い出すべき言葉なんです。
オトヤ そうか、「もしドラ」のみなみちゃんも
本の最初のほうでいきなり
「マネージャーが
 資質として身につけていなければ
 ならないもの、
 それは才能ではなく真摯さである」
ということを知って、
涙を流していましたものね‥‥。
岩崎 オトヤJAPANよ、真摯たれ。
オトヤ はい! ‥‥ありがとうございます!
── それも、子どもたちだけでなく
お父さんやお母さん、
地域の人たち、すべての関係者に対して、
真摯な監督、真摯なチームであるよう
心がけないとですよね。
岩崎 じゃあ、オトヤJAPANのチームづくりにとって
「顧客」は誰だか、考えていますか?
オトヤ うーーーーーーん‥‥。

いまのところ、思い浮かべているのは
やっぱり
「子どもたちと、その家族」です。

つまり、チームメイトひとりひとりと
そのお父さん、お母さんが
「バレーボールをやっていて、よかったな」
と思ってくれることが、
いちばん大切だと考えているので‥‥。
岩崎 なるほど、すばらしい。
オトヤ でも、以前ママさんバレーを教えていたとき、
「あの人には優しく教えてくれるのに
 私には厳しい」だとか‥‥。

こちらには、そんなつもりはなくても
チームづくりって、
そういう人間関係もむずかしいんだなって
思ったりしたんスよね‥‥。
岩崎 ‥‥ドラッカーは、その点については
「成果に焦点を合わせる」
ということを、おっしゃっていますね。
── ‥‥と、言いますと?
岩崎 つまり「組織の目的」が何であるかを
ハッキリと共有できれば、
その他の問題は
自然と優先順位が低くなってくるはずなんです。
オトヤ つまり「あの人とうまくやらなければ」
ということを、気にしないってことですか?
岩崎 そこに焦点を合わせない、ということです。
それも監督だけじゃなくて、チーム全員が。

ようするに、
「そのためにやってる」わけじゃないから。
── そうか、チームが強くなったり、
あるいは楽しくバレーができることをつうじて
みんなが幸せになること、
そのために、やってるんですもんね。
岩崎 オトヤさんの場合は
「バレーボールをやっていて、よかったな」と
思ってもらえることが「成果」であると
ハッキリわかっているわけですから、
その目標に向けて
チームをマネジメントをしてけばいいんですよ。
オトヤ なるほど‥‥。
岩崎 ちなみに、
ドラッカーのいう「マネジメント」に関して
誤解が多いなと思うのは
「上司が部下をマネジメントする」
だけではなく
「部下が上司をマネジメントする」という点。
── 部下が‥‥上司を?
岩崎 そうです。
オトヤ マネジメントする?
岩崎 つまり、現代社会では「上司が誰か」によって
出世が決まることが、多いわけでしょう。

つまり、その人にとっていちばんの顧客は
「上司」なんです。
だから、
まず上司に手柄を上げさせるのが重要だと、
こういうことも、言っているんです。
オトヤ そういえば、みなみちゃんも、監督の加地に
手柄を上げさせようとしてましたね。
── 徳島・池田高校の蔦文也監督、
茨城・取手二高の木内幸男監督に続く
高校球界の名将になれ‥‥と
ハッパをかけていました。
岩崎 つまり、何が言いたいかというと、
ようするに、これからは
トップだけが
「マネジメント」を知っている社会では困る。

組織の末端にいたるまで
一人ひとりが「マネジメント」思考を持って
働きをなさねばならない、ということ。
オトヤ ははー‥‥(メモを取る)。
── ドラッカーのエグゼクティブの考えかた、
つまり、会社員であっても
経営意識をもって働くことの重要性とも
つながってくる話ですね。
岩崎 ドラッカーは『経営者の条件』のなかで
「今日の組織では、
 自らの知識あるいは地位のゆえに、
 組織の活動や業績に対し、
 実質的な貢献を行うべき知識労働者は、
 すべてエグゼクティブである」

とおっしゃっています。
オトヤ 実質的な貢献を行うべき‥‥(メモを取っている)。
岩崎 みなみが、野球部をマネジメントするうえで
終始一貫していたのは
「徹底的に自分を捨てる」ということでした。
── はい、そうでした。
岩崎 それは、言い換えれば
「自分の手柄にしない」ということです。

彼女は、イノベーションの方法や成果を、
ぜんぶ他人に渡してしまって、
一人ひとりの部員に
「やりがい」を与えていったんです。

その代わりに自分は「甲子園に行く」という
「チーム全体の成果」に、集中した。
── つまり「成果」がなんなのかを見据え、
そこに焦点を合わせ、集中する‥‥。
岩崎 そう。
オトヤ それが「マネジメント」なんスね‥‥。

本格派時代、アタックを打つ瞬間のオトヤ。
  <つづきます>
 
2010-11-05-FRI
 
(c) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN