オトヤ |
岩崎先生、私、中学校のころから
ずっとバレーボールをやってきたんです。 |
岩崎 |
ええ。 |
── |
この人、某実業団で活躍していたくらいの
かなりの本格派だったんです。 |
本格派時代のオトヤ・24歳。 |
オトヤ |
でも、腰を痛めてしまって、
18年の選手生活に、ピリオドを打ちました。 |
── |
今では『裸の銃(ガン)を持つ男』になぞらえて
「ガラスの腰を持つ男」と呼ばれています。 |
オトヤ |
ただ、選手としては引退したのですが、
将来的には
小学生のバレーボールチームをつくって
監督になるのが夢なんです。
チーム名は「オトヤJAPAN」です。 |
岩崎 |
もう決めてるんですか、名前。 |
── |
監督の名前がチーム名って‥‥。 |
オトヤ |
そのとき、この「もしドラ」を教本として
運営していこうと思っているんですが、
じっさい‥‥
本当に強いチームができるんでしょうか? |
岩崎 |
「もしドラ」のとおりにやる、ということは、
みなみみたいに
『マネジメント』もしくは
ドラッカーのとおりにやる、ということです。 |
オトヤ |
はい。 |
岩崎 |
100パーセント、ドラッカーのとおりにやれば、
わたしは、
きっと強くなれると確信しています。
ただ「そのとおりにやる」こと自体が
けっこうむずかしい。至難の業だと思いますね。 |
|
オトヤ |
そうなんですか‥‥。 |
岩崎 |
ひとつには「真摯であること」の、むずかしさ。 |
── |
真摯、ですか。 |
岩崎 |
これを逆にいうと、ドラッカーさんの言う
「真摯でない行為」とは、
「知りながら害をなす」ということ。 |
オトヤ |
知りながら‥‥害をなす? |
岩崎 |
たとえば、街でゴミをポイ捨てする人が
いたとしますでしょう?
ポイ捨てする人は、もちろん悪いです。
でも、その「ゴミのポイ捨て現場」を見て
注意したり、
そのゴミを自分で拾って
ゴミ箱に捨てなかったりしたら‥‥
結果的に、
「街を汚す行為」に手を貸してしまう。 |
── |
いわゆる「未必の故意」ってやつですね。 |
岩崎 |
それが「知りながら害をなす行為」です。
ドラッカーによれば、
このような「真摯でない行為」が
企業や組織をダメにしていく
ひとつの大きな要因になると言うんです。 |
オトヤ |
なるほど‥‥。 |
岩崎 |
ドラッカーは、『マネジメント』にいわく
「リーダーシップが発揮されるのは
真摯さによってである。
範となるのも真摯さによってである。
真摯さはごまかせない」 |
|
オトヤ |
「ごまかせない」‥‥! |
岩崎 |
「ともに働く者とくに部下には
上司が真摯であるかどうかは数週でわかる。
無能、無知、頼りなさ、態度の悪さには
寛大かもしれない。
だが、真摯さの欠如は許さない」 |
オトヤ |
「許さない」‥‥! |
岩崎 |
「組織が偉大たりうるのは
トップが偉大だからである。
組織が腐るのは
トップが腐るからである」‥‥。 |
オトヤ |
「トップが腐ると組織が腐る」とは
重たすぎる言葉ッス‥‥。 |
岩崎 |
だからこそ
「知りながら害をなすな」
という、2500年も前のギリシャの名医・
ヒポクラテスの誓いこそ、
組織やチームをマネジメントする際に
思い出すべき言葉なんです。 |
オトヤ |
そうか、「もしドラ」のみなみちゃんも
本の最初のほうでいきなり
「マネージャーが
資質として身につけていなければ
ならないもの、
それは才能ではなく真摯さである」
ということを知って、
涙を流していましたものね‥‥。 |
岩崎 |
オトヤJAPANよ、真摯たれ。 |
|
オトヤ |
はい! ‥‥ありがとうございます! |
|
── |
それも、子どもたちだけでなく
お父さんやお母さん、
地域の人たち、すべての関係者に対して、
真摯な監督、真摯なチームであるよう
心がけないとですよね。 |
岩崎 |
じゃあ、オトヤJAPANのチームづくりにとって
「顧客」は誰だか、考えていますか? |
オトヤ |
うーーーーーーん‥‥。
いまのところ、思い浮かべているのは
やっぱり
「子どもたちと、その家族」です。
つまり、チームメイトひとりひとりと
そのお父さん、お母さんが
「バレーボールをやっていて、よかったな」
と思ってくれることが、
いちばん大切だと考えているので‥‥。 |
岩崎 |
なるほど、すばらしい。 |
オトヤ |
でも、以前ママさんバレーを教えていたとき、
「あの人には優しく教えてくれるのに
私には厳しい」だとか‥‥。
こちらには、そんなつもりはなくても
チームづくりって、
そういう人間関係もむずかしいんだなって
思ったりしたんスよね‥‥。 |
岩崎 |
‥‥ドラッカーは、その点については
「成果に焦点を合わせる」
ということを、おっしゃっていますね。 |
── |
‥‥と、言いますと? |
岩崎 |
つまり「組織の目的」が何であるかを
ハッキリと共有できれば、
その他の問題は
自然と優先順位が低くなってくるはずなんです。 |
|
オトヤ |
つまり「あの人とうまくやらなければ」
ということを、気にしないってことですか? |
岩崎 |
そこに焦点を合わせない、ということです。
それも監督だけじゃなくて、チーム全員が。
ようするに、
「そのためにやってる」わけじゃないから。 |
── |
そうか、チームが強くなったり、
あるいは楽しくバレーができることをつうじて
みんなが幸せになること、
そのために、やってるんですもんね。 |
岩崎 |
オトヤさんの場合は
「バレーボールをやっていて、よかったな」と
思ってもらえることが「成果」であると
ハッキリわかっているわけですから、
その目標に向けて
チームをマネジメントをしてけばいいんですよ。 |
オトヤ |
なるほど‥‥。 |
岩崎 |
ちなみに、
ドラッカーのいう「マネジメント」に関して
誤解が多いなと思うのは
「上司が部下をマネジメントする」
だけではなく
「部下が上司をマネジメントする」という点。 |
── |
部下が‥‥上司を? |
岩崎 |
そうです。 |
オトヤ |
マネジメントする? |
|
岩崎 |
つまり、現代社会では「上司が誰か」によって
出世が決まることが、多いわけでしょう。
つまり、その人にとっていちばんの顧客は
「上司」なんです。
だから、
まず上司に手柄を上げさせるのが重要だと、
こういうことも、言っているんです。 |
オトヤ |
そういえば、みなみちゃんも、監督の加地に
手柄を上げさせようとしてましたね。 |
── |
徳島・池田高校の蔦文也監督、
茨城・取手二高の木内幸男監督に続く
高校球界の名将になれ‥‥と
ハッパをかけていました。 |
岩崎 |
つまり、何が言いたいかというと、
ようするに、これからは
トップだけが
「マネジメント」を知っている社会では困る。
組織の末端にいたるまで
一人ひとりが「マネジメント」思考を持って
働きをなさねばならない、ということ。 |
オトヤ |
ははー‥‥(メモを取る)。 |
|
── |
ドラッカーのエグゼクティブの考えかた、
つまり、会社員であっても
経営意識をもって働くことの重要性とも
つながってくる話ですね。 |
岩崎 |
ドラッカーは『経営者の条件』のなかで
「今日の組織では、
自らの知識あるいは地位のゆえに、
組織の活動や業績に対し、
実質的な貢献を行うべき知識労働者は、
すべてエグゼクティブである」
とおっしゃっています。 |
オトヤ |
実質的な貢献を行うべき‥‥(メモを取っている)。 |
岩崎 |
みなみが、野球部をマネジメントするうえで
終始一貫していたのは
「徹底的に自分を捨てる」ということでした。 |
── |
はい、そうでした。 |
岩崎 |
それは、言い換えれば
「自分の手柄にしない」ということです。
彼女は、イノベーションの方法や成果を、
ぜんぶ他人に渡してしまって、
一人ひとりの部員に
「やりがい」を与えていったんです。
その代わりに自分は「甲子園に行く」という
「チーム全体の成果」に、集中した。 |
|
── |
つまり「成果」がなんなのかを見据え、
そこに焦点を合わせ、集中する‥‥。 |
岩崎 |
そう。 |
オトヤ |
それが「マネジメント」なんスね‥‥。 |
本格派時代、アタックを打つ瞬間のオトヤ。 |
|
<つづきます> |