「もしドラ」を書いた岩崎夏海さんに 「もしドラ」を5回も読んだオトヤが会いにゆく。  feat. AKB48(チームA)
第3回 大型二種は「イノベーション」か

前回、おもむろに読書感想文を読みはじめた
オトヤに対し、
静かに目を閉じ、最後まで聞いてくださった
「もしドラ」の著者・岩崎夏海さん。

ドラッカーについて、「もしドラ」について、
さっきまで目の前で歌って踊っていた
「AKB48」について、
いろいろ聞きたいことがあった私たちは、
気をとりなおし、
岩崎さんへのインタビュー取材を開始した。

── 岩崎さん、今日はありがとうございました。
貴重なライブまで見せていただいて‥‥。
岩崎 いえいえ、とんでもない。
オトヤ 本当に、ありがとうございましたーっ!
── さっそくで申しわけないのですが
いま、聞いていただいた
うちのオトヤの読書感想文ですが‥‥。
岩崎 いくつか重要な論点をはらんでいましたね。
── ほ、ほんとですか!?
岩崎 ええ。
── それは、たとえばで言うと‥‥。
岩崎 「大型二種免許」の件とか。
── ああ‥‥このオトヤさんという人は、
管理部門ながら
業務に関係ない自動車の「大型二種免許」を
取得しようとしています。
オトヤ そうです。もう教習所にも通っています。

クリックすると運転席のオトヤが見えます。
取材協力:上江橋モータースクール
── ‥‥でも正直なところ、われわれ同僚は
必ずしも
「ピンと来ている」とは言えない状況で。
オトヤ 「オッティ、どこ目指してんの?」とか
ふつうに聞かれちゃうんスよね、正直。
── そもそも「大型二種免許」を持ってたら
何が運転できるのかとか、
みんな、よく知らないと思うんですよ。

観光バスなのか、ダンプカーなのか、
あるいはショベルカーなのか‥‥。
オトヤ いやいやいや(あきれたという笑い)、
ショベルカーは
「大型特殊自動車免許」なんで。
岩崎 ‥‥「大型特殊」は取らなくていいんですか?
オトヤ えっ!? ‥‥あ、はい、そ、そうスね、
自分、あの、ショベルカーとかユンボとかは、
まだ作業的に興味があまりなくて‥‥。

「大型特殊」とはたとえばこんな車両。
── 「大特」は、さすがに時期早尚であると。
わかりました。

‥‥岩崎さんは、どう思われますか。
岩崎 大型二種の取得について?
── はい、ようするに管理部門でありながら
「大型二種免許を取得する」
ということを、
オトヤは「イノベーションの一環」と
主張していましたが、
果たして
本当に「イノベーション」なんでしょうか。

全長11メートルに及ぶ路線バスでは内輪差に充分配慮しなければならない。
岩崎 ‥‥イノベーションでしょうね。
── ええっ!
オトヤ おおっ!
── ほ、本当ですか!?
岩崎 少なくともイノベーションに繋げることは
可能じゃないでしょうか。

というのも、ドラッカーは
イノベーションのことを述べた部分で
「昨日はすべて陳腐化する」
そのようなことをおっしゃっているんです。
オトヤ 「昨日はすべて陳腐化する」‥‥。
(メモをとっているようす)
岩崎 そう。

「昨日、つまりイエスタデイは、
 すべて陳腐化する。
 そう仮定し、
 計画的・体系的に行動していくことが
 イノベーションの第一歩である」

‥‥というようなことを
おっしゃっているんですけれども、
その考えからすると
「昨日と同じことをしない」ということが
大切なことになってくるんです。
オトヤ なるほどー‥‥(メモを取っている)、
勉強になるッス!
岩崎 つまり、これは、
「昨日を捨てなければ、
 明日をつくることはできない」

ということなんです。

だから、いいんじゃないんでしょうか。
管理部門なのに大型二種を取ったって。
オトヤ ありがとうございます!
岩崎 偉大な経済学者・シュンペーターも
「イノベーションとは創造的破壊であり、
 それは
 昨日の設備と投資を陳腐化させる」と。
── ええ、ええ。
岩崎 管理部門の人間が
大型二種の自動車免許を取るなど‥‥。
── まるきり「昨日」とちがう投資ですね。
オトヤ そうですよね!
── ちなみに、オトヤさんの場合は
自主的というか、
免許代はもちろん自腹なんですよね。
オトヤ そりゃそうッスよ。好きでやってるんで。
── 世の中の管理部門とは
まるきり異質な自己投資をする管理部門‥‥。
岩崎 それに、ドラッカーさんは
「成果とは打率である。
 失敗しない者を評価してはならない」

とも、おっしゃっていますから。
── なるほど、その言葉は、
モチベーションを高めてくれますね。

つまり、ヒットばかり打たなくても
いいってことですもんね。
岩崎 みなみが手にとった『マネジメント』にも
このようにあります。

「成果とは百発百中のものではない。
 百発百中は曲芸である。
 成果とは長期のものである。
 すなわち、まちがいや失敗をしない者を
 信用してはならないということである」

オトヤ あ、みなみちゃんが
幼なじみでキャッチャーの柏木次郎と
バスで偶然乗り合わせた場面のあとくらいに
出てくる引用文スよね。

※5回も読んでいるため
 オトヤは「もしドラ」の内容を
 すっかり暗記している。


みなみが柏木次郎とバスで偶然乗り合わせた場面。
── ‥‥大型二種免許を取ったけど
結果、何の役にも立たなくったって、
つまり、
成果が出なくてもいいじゃないかと。
岩崎 「成果とは打率である。
 弱みがないことを評価してはならない。
 そのようなことでは
 意欲を失わせ、士気を損なう。
 人は、優れているほど
 多くのまちがいをおかす。
 優れているほど新しいことを試みる」

オトヤ 優れているほどまちがうし、
優れているほど、新しいことに挑戦する‥‥。
── 失敗も次につなげればいいわけで、
大事なのは
ともかくも打席に立つことだ、と。
オトヤ じゃあ、大型二種免許を取っても
オーケーなんスね!
岩崎 オーケーです。

‥‥といいますか、
そんなこと、私が判断することでも
ないと思うのですが(笑)。
オトヤ いやぁでも、「もしドラ」を読んだときも
思ったんですけど、
ドラッカーさんの言葉って
なんか、超ヤル気出てくるんスよねー。
岩崎 二種ということは「旅客」を乗せられる
免許なわけだから、
いっそう、正しく丁寧な運転技術が
身につくと思うんですよ。

だから、
さすがに観光バスは運転しないにしても、
糸井社長や他の社員さんを乗せて
車を運転する際など
より安全に運転業務を遂行することが
できるのではないでしょうか。
オトヤ そうなんです、そこなんです!
── なるほど、つまりぼくらが
オトヤさんの「顧客」になるわけですか。
岩崎 そうですね。
── 社内ベンチャーかなんかを立ち上げて
社内市場を開拓し出したりしたら‥‥。
岩崎 まさしく「顧客」でしょう。
オトヤ 「オトヤ・ロケーション・サービス」‥‥。
岩崎 ドラッカー的な用語をつかうなら
「顧客の創造」です。
オトヤ ‥‥自分、超ヤル気出てきたッス!

上江橋モータースクールの優しい教官・高井良明先生と。
  <つづきます>
 
2010-11-04-THU
 
(c) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN