糸井 | これはまた、すごいね‥‥。 ここで、初対面のかたと対談を(笑)。 |
大根 | (笑) |
糸井 | うちの社員がこっそり飾り付けてたんですよ。 なんだかすみません、 はじめましてなのに、こんなファンシーな場所で。 |
大根 | いえ、きょうはよろしくお願いします。 ドラマのときから応援していただいて、 ありがとうございました。 |
糸井 | こちらこそですよ。 あのときはドラマ化にかこつけて おもしろい座談会をさせてもらって。 |
大根 | その前日に久保(ミツロウ)さんから 「明日いよいよ糸井重里と会います」 というメールがきたんで、 「かましてきてくれ」と返事をしました(笑)。 |
糸井 | かましてましたよぉ、怖いくらいに(笑)。 |
大根 | 久保さんは常にああいう部分があるんですよ。 『モテキ』の映像化をよろこんでいたのに いざ形になってくると、 「私の原作を好き勝手にしやがって」 みたいなことを言う(笑)。 |
糸井 | 言いながら、お城にこもっちゃう(笑)。 |
大根 | やっぱり、なんていうか、 ほめられることに慣れてないんです。 |
糸井 | きょうもほめますよ、ぼくは。 |
大根 | よろしくお願いします(笑)。 |
糸井 | まずですね、 ドラマがあれだけおもしろかったから、 「あんまり期待しないようにしよう」 とすごく注意をしながら ぼくは映画の試写会にお邪魔したんです。 |
大根 | はい(笑)。 |
糸井 | そしたらもう、 ドカーンとやられて帰ってきました、ほんとうに。 |
大根 | ありがとうございます。 |
糸井 | 映画化については、 すぐに「やるよ」って思えたんですか? |
大根 | いやいや、まったく思えなかったです。 ありえないと思ってました。 |
糸井 | ですよね。 そこがすごくポイントだと思って。 |
大根 | 映画化の話には、「ないです」と、 はっきりお断り申し上げてました。 |
糸井 | そのお誘いは東宝のかたからですか。 |
大根 | そうですね、東宝のプロデューサーから。 テレビの第1回目が終わった直後に、 「これは映画になりますよ」 って言われたんですけど、 「いや、ドラマで終わりです」と。 |
糸井 | きっぱり。 |
大根 | きっぱり。 |
糸井 | それが、どこで‥‥? |
大根 | まず、ドラマのDVDが出たとき個人的に キャンペーンツアーをやったんですよ。 全国12、3箇所を回りました。 そのときに、 「あ、ほんとうに『モテキ』は好かれてる」 という実感があったんです。 ファンの人たちの熱量は、 いままでやったものと明らかに差があって。 |
糸井 | なるほど。 |
大根 | そこでファンの人にずいぶん、 「映画にしてください」と言われました。 |
糸井 | 言われるでしょうね。 |
大根 | それとほとんど同じ時期に、 今度はテレビ東京でお世話になってる人から 「映画にしませんか」って言われたんです。 |
糸井 | ほぉ‥‥。 |
大根 | 「仕事は、オファーがきてやるもの」 という考えが、もともとぼくにはあるんです。 やってほしいと頼まれることが、 そのまま自分の実力なんじゃないか、という。 |
糸井 | わかります。 |
大根 | これだけいろんな人から 「やってくれ」と言われてるんだったら、 まあ、タイミングなのかなと思って。 |
糸井 | 映画化を考えはじめた。 |
大根 | 考えはじめました。 |
糸井 | そこに迷いはなかったですか。 |
大根 | ほんとにいいのか? っていうのは、 やっぱりありましたね。 実際、動きはじめて、 久保さんや森山未來くんに最初に話したときは、 自分と同じリアクションでしたから。 「いやいや、ないない。 今さら何をやれっていうんですか」と。 |
糸井 | 意見が一致してるわけですよね。 |
大根 | してるんです。 そこで今度は自分がプロデューサーになって、 ふたりを口説く作業になります。 |
糸井 | その時点で、自分は完全にやる気になっていた。 |
大根 | なってましたね。 |
糸井 | そこの心境の変化を もうちょっとくわしく知りたいんですが、 「ドラマで終わり」という最初の意志を 何がそんなに強くひっくり返したんでしょう? それはきっと、 「頼まれたから」だけではないですよね? |
大根 | ‥‥そうですね。 その理由は‥‥きょう糸井さんに会ったら 話したかったことでもあるんですが、 伊丹十三さんの存在です。 |
糸井 | 伊丹さん。 |
大根 | ぼくは、伊丹っ子なんですよ。 18歳くらいのときに読んだ本で、 『「マルサの女」日記』っていうのがあって。 きょう持ってきたんですけど‥‥。 |
糸井 | そうかぁ、伊丹さんか‥‥。 |
大根 | 映画監督ってここまでやるのかと、 この本を読んで思いました。 取材、キャスティング、脚本、宣伝、 フィニッシュまでやるのが映画監督だと。 それで、いざ業界に入ってみたら‥‥ |
糸井 | そんな人はいない(笑)。 |
大根 | 「あれ? いないなぁ」と思って(笑)。 |
糸井 | 伊丹さんが特別なんです。 |
大根 | でもぼくの中では、 映画監督というのは伊丹さんだったんです。 伊丹さんが映画を撮るに至ったその経緯に、 すごくあこがれていました。 映画監督でデビューするとき伊丹さんは、 それまでやってきたものをつぎ込んでますよね。 演技はもちろん、テレビの仕事とか、書き物とか。 |
糸井 | ええ。 |
大根 | 自分を重ねるのはおこがましいんですが、 ぼくもここまで、 節操なくいろいろやってきました。 |
糸井 | そうか、 大根さんも自分が練習してきたことをぜんぶ 『モテキ』に入れてますね。 |
大根 | そうなんです。 ドラマの演出とか‥‥ |
糸井 | PVだとか。 |
大根 | 文章を書くことや、 ライブを撮る仕事もずっとやってたので、 それもぜんぶ『モテキ』につぎ込みました。 で、それを映画化するという話は‥‥ 「あ、これってもしかしたら伊丹十三のやり方に ちょっと近づけるかも?」って。 |
糸井 | 要するに、 ものすごくあこがれていたおもしろいことが、 このチームだったらできるって思えたんですね。 |
大根 | そうです。 |
糸井 | よーくわかりました。 いや、今回いちばん訊きたかったことなんです。 すっきりしました。 あとはもう、ほめるだけです。 |
大根 | (笑) |
(つづきます) |