糸井 | 長澤まさみさんのサイズ感がわかってからは、 麻生久美子さんの量感もよーくわかるんですよ。 麻生さんの役は、ええと‥‥ |
大根 | るみ子です。 |
糸井 | そう、るみ子。 るみ子のセリフもまた、 麻生さんの大きさの人の言葉なんですよ。 |
(c)2011映画『モテキ』製作委員会 |
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大根 | そうですね。 |
糸井 | いいんですよ、それがまた。 |
大根 | 麻生さんって、 すごくきれいですてきな女優さんという イメージがあって、それはたしかにそうなんです。 ただ、まあ‥‥ これは載せられない発言になると思うんですけど、 ぼくの中で麻生さんは、 「ふつうの女性の最高峰」なんですよ。 |
糸井 | ああ‥‥。 |
大根 | 女優としてのきれいさというよりも、 「あ、ふつうにいる人だ」みたいな。 「なのに、なんだこのかわいさは」みたいな。 |
糸井 | 圧倒しないんですよね。 |
大根 | そうそうそう。 そこがいいっていうのを、ぼくはずっと思ってて。 |
糸井 | それ、ぜんぜん大丈夫ですよ。 載せられないことじゃないです。 「ふつうの女性の最高峰」って、すごいですよ。 |
大根 | うん、そうですよね。 |
糸井 | で、そのふつうさが魅力になるセリフが、 この映画ではちゃんとあてがわれていたんです。 だから、幻想で麻生さんを見てる人は、 「あのセリフは気の毒だ」と思うかもしれない。 でもそうじゃなくて、 あのすさまじいセリフを あんなに上手に言えるってところが 麻生さんのすごさなわけで。 あれはやっぱり、 どこかでご本人と一致するセリフなんですよね。 |
大根 | これはぼくの勝手な想像ですけど、 麻生さんは映画のあの役に近い経験が けっこうあったんじゃないかと。 実際の麻生さんは、もっと、こう、 めんどくさい恋愛をしてたんじゃないかなって。 |
糸井 | るみ子という役は、 どっぷりと、めんどくさい恋をしてましたねぇ。 |
大根 | はい。 |
糸井 | ああいう設定は‥‥なんて言うんだろう、 「ここまでだったら見た目とセリフの誤解もOK」 っていうのを決めるのは、監督じゃないですか。 つまり、きれいな女優さんに メガネをかけさせただけで簡単に「ブス」と 記号化しちゃって、 「わだすでええのがしら」 っていうようなセリフを言わせるパターン。 よくあるそれは、許せないですよね? |
大根 | はい、許せないですね(笑)。 |
糸井 | だけど今回、麻生さんに、 あの激情的なセリフを言わせるのはOKだと、 監督は決めたわけですよね。 |
大根 | はい。 |
糸井 | そのさじ加減が、絶妙でした。 もう‥‥たまんなかったよ、麻生さん(笑)。 |
大根 | そうですか(笑)。 |
糸井 | すごくよかった、切ない。 |
大根 | るみ子がかわいそうっていう感想は、 けっこう多いんです。 でも彼女はぜんぶ自分から誘ってるんですよ。 |
糸井 | ああー、そうでしたね。 「落とし穴を掘るのは、女」というのが、 ぼくの原則なんですが、 あの映画でもたしかにそうでしたよね。 なるほどなあ‥‥。 リリーさんは、どうでした? |
大根 | リリー・フランキーさん。 墨さんですね。 |
(c)2011映画『モテキ』製作委員会 |
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糸井 | 墨さんのセリフって、 どのくらい脚本なんですか? |
大根 | ああ、えーと、 リリーさんは脚本通りやってくれないんですよ。 |
糸井 | (笑) |
大根 | かならずちょっと変えます。 でもそれは、いわゆる役者が 「ここは、こうしたほうがいいだろう」 っていうのとはまったく違うんです。 役づくりのポリシーとかじゃない。 本人は脚本通りに言おうとしてるんだけど、 出てくる言葉が脚本通りじゃないという 珍しいパターンなんですよ。 |
糸井 | ただ、覚えてない(笑)。 |
大根 | そうそう(笑)。 ものすごく入れ込んでやってるわけじゃないんで、 「たしかこんなこと書いてあったはず」 っていうぐらいでやるんです、リリーさんは。 だから毎回セリフが違う。 気づいたスタッフが「これまずいですよ」 って言うんだけど、 「いや、毎回おもしろいから大丈夫」って。 |
糸井 | 相手が受けにくいことを 言ってるわけじゃないんですよね。 |
大根 | そうなんです、 むしろ相手は受けやすくなるくらいです。 |
糸井 | じゃあ、 脚本のままでないことは確かですか。 |
大根 | はい、 脚本のままでないことは確かです。 |
糸井 | すごかったなぁ、あのリアリティは。 |
大根 | ちょっと今回のリリーさんには、 ビックリしましたね。 |
糸井 | うん。 |
大根 | まあ、ドラマのときのキャラクターと 違っちゃってるんですけど(笑)。 |
糸井 | あ、ほんとだ(笑)。 |
大根 | 「あれ? 墨さん、こんな人だった?」 |
糸井 | そうだそうだ、違うわ。 今回のはなんかね、ペーソスがある。 |
大根 | そうなんですよ、ペーソスが。 |
糸井 | 映画ではその感じをやりたかったんでしょうね。 |
大根 | でも、ずっと断られてたんですよ、 リリーさんには。 「もうやりたくない」って。 |
糸井 | あ、そうでしたか。 よかったですね、じゃあ。 あの人がいないと大変ですよ、今回。 |
大根 | そうなんですよ。 リリーさんには助けられました。 |
糸井 | だって、ほかに誰があの役やれる? ちょっといないでしょう。 |
大根 | いませんね。 |
糸井 | リアリティがありながら役者っぽくない芝居。 |
大根 | はい。 |
糸井 | それでいて、浮かない。 |
大根 | そうなんですよね‥‥ なんですかね? あの人。 |
糸井 | なんなんですかね? とりあえず、絵よりうまいよね。 |
大根 | (笑) (つづきます) |