糸井 | あとやっぱり、 適度に様式美を入れてるのが 大根監督のセンスだと思うんですよ。 踊らしちゃうとかね。 あるいは、堂々とおきまりのセリフを入れて さっとシーンを終わらせちゃうとか。 ああいう度胸は、 ものすごいベテランのように慣れてますよね。 |
大根 | うーん‥‥ベテランの自覚はないんですが、 まあ、度胸がいいっていうのは、 たまに言われたりしています。 |
糸井 | 「堂々と」については、 最近ちょっと思ってることがあるんです。 なんて言うか‥‥ 若いときに軽蔑していたものが、 「本当はいい」って、堂々と認められる時代に なってるんですよ、いま、どうやら。 たとえば、 田島貴男さんが『なごり雪』を歌ったりして。 |
大根 | はい、はい。 |
糸井 | 『なごり雪』は 岡村靖幸さんも歌ってますね、たしか。 そういうのを見ると、 彼らは「昔ばかにして申し訳なかった」 という気持ちで歌ってるように思えて。 |
大根 | ああー。 |
糸井 | よくよく考えてみると、 ばかにしていた理由のほうが曖昧なんです。 で、いい歌だなと思える今のほうが、 素直なんですよね。 |
大根 | 理屈もついてきますからね。 |
糸井 | そうそうそう。 それと同じようなことは、 映画やテレビの表現にもあるんでしょうか。 |
大根 | そうですね‥‥ 自分のことでひとつ言えるのは、 もう40を過ぎて テレビではそこそこいろいろやってきたので、 恥ずかしいことがなくなってきた、 という感覚はありますね。 |
糸井 | なるほど‥‥。 若いときに素直じゃない道に入る理由って、 ろくでもない友だちと 同じような話をしてるからですよね。 誰かが「ダサい」って言うと、 いっしょになって「ダサい」って 言わないといけないような気がして。 |
大根 | うん(笑)。 |
糸井 | 「アコースティックギターはダサい」 と周囲が言ってたら、それに乗っちゃったり。 ぼくもそうだったんですよ。 |
大根 | あります(笑)、そういうのは。 |
糸井 | 大根さんは、取り入れてますよね、 いいものは素直に。 |
大根 | 取り入れます。 というかぼく、オリジナルの才能がないんですよ。 |
糸井 | いや、そんなことはない(笑)。 |
大根 | いやいやいや、ほんとに。 あるものをいじるのが好きというか、 いろんな素材があって、 それをうまくくっつける。 ミュージシャンでいえば 弾く人じゃなくてDJだと思ってるので。 いいレコードがいっぱいあって、 これをこのタイミングでかけて、 次これかけて、つなぎはこうして、みたいな。 それでフロアを盛り上げるのが好きなんです。 |
糸井 | それは伊丹さんも‥‥ |
大根 | そうです。 伊丹さんもオリジナルの人じゃないんですよ。 |
糸井 | やっぱり大根さんの口から 最初に伊丹さんのことを言っていただいて、 なんかすごく、 「ああー」と思えてます、ずっと。 |
大根 | 伊丹好きとしては、 さっきの本も踏襲しようと思って、 『モテ記』っていう本を出すんです。 伊丹さんのにちょっと似ているレイアウトで。 そこは誰も気づかないだろうけど(笑)。 |
糸井 | おおー、それもたのしみですね。 ‥‥さて、どうしよう、次はどこをほめよう。 |
大根 | (笑) |
糸井 | 森山未來さんが演じた、 主人公、幸世の話もしておきたいですね。 |
大根 | 幸世。 幸世のことは‥‥。 ぼくも、未來くんも、 みんな幸世が嫌いなんですよ。 |
(c)2011映画『モテキ』製作委員会 |
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糸井 | ほぉ、そうなんですか。 |
大根 | 「こいつムカつく!」っていうのが、 ずっとあるんです。 |
糸井 | そうか、 森山さんにしても、 自分じゃないんですよね、明らかに。 |
大根 | そうです。 |
糸井 | 物語の幸世くんは踊れないしね。 |
大根 | 踊れないです、あれは妄想ですから。 ああいう踊りとかがないと、 ただリアルに幸世を描いたらもう、 なにもできないダメなやつが 振り回されてるだけの映画になるので。 |
糸井 | でも、 「あらゆる恋愛は人に迷惑なものだ」 ということからすれば、 まあ、それを凝縮した人ですよね。 |
大根 | そうですね(笑)。 |
糸井 | 恋愛一般を、愛と性を凝縮した男ですよ。 |
大根 | ええ。 |
糸井 | あとは‥‥ とにかく出演者はみんなよかったですよ。 真木よう子さんは、やっぱりいいし。 |
(c)2011映画『モテキ』製作委員会 |
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大根 | はい。 |
糸井 | また激しいセリフを言わせてましたねぇ。 |
大根 | そうですね(笑)。 |
糸井 | でもそこもサイズ感が合ってるから、 グッとくるんです。 |
(c)2011映画『モテキ』製作委員会 |
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大根 | ありがとうございます。 |
糸井 | あと、短いけど、 出演時間は短いけど、あの女の子‥‥。 |
大根 | 仲里依紗。 |
糸井 | バーの女の子。 |
大根 | そうです、愛ちゃんという役。 |
(c)2011映画『モテキ』製作委員会 |
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糸井 | あのくらいの分量で出る子が、 ほんとに嫌味なく、しびれさせますよねぇ。 ドラマ版の『モテキ』でいうと、 菊地凛子さんがそうでした。 |
大根 | はい、はい。 |
糸井 | あの分量で出る子の描き方が、 すごく思いきりがいい。 この監督は、これもうまいなぁって。 |
大根 | 仲里依紗はこの映画で、 幸世と歩きながら話す長いシーンがあるんです。 そこはワンカットで撮りました。 割らずに撮ろうと思ったのは、 あとで誰かから 「ここ長いから切ろうよ」 と言われたときに、 「すみません、ここはワンカットなんで」 と切れないようにするためでした。 それは里依紗ちゃんのために、ですね。 |
(c)2011映画『モテキ』製作委員会 |
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糸井 | はあー‥‥いいなぁ。 その話は、ちょっといいですねぇ。 (つづきます) |