糸井 | 脚本が大根さんということは、 セリフは基本的に大根さんが書いたんですか? |
大根 | まず、原作者の久保ミツロウさんが 漫画のラフに書いたセリフがあります。 それは当然、 漫画のキャラクターがしゃべっている言葉なので 生身の俳優がしゃべるときにどうするか、 というアレンジをぼくがやります。 |
糸井 | なるほど。 |
大根 | あとはまあ、 久保さんの生理とぼくの生理は またちょっと違うので、 そこの差異を埋めるような作業はありましたね。 ですから映画には、 ぼくが書いたセリフも 久保さんがラフで書いたままのセリフも、 どっちもあります。 |
糸井 | そうですか。 「サインを出している」 みたいなセリフがときどきまじっていて、 そのまざり具合がとてもよかったんですよ。 |
大根 | サインを出している、ですか。 |
糸井 | つまり、 「ある世代の人はこれ、感じるでしょ?」 っていう、しゃべり言葉とか。 |
大根 | あ、はいはい。 いろんな世代のしゃべり言葉が好き というのはけっこうあります。 |
糸井 | 音楽の選択もそうなんですけど、 「わかる人はピンときてね」 っていうもののまぜ方が、 誰が観ても嫌がらない具合になってるんですよ。 「わかる人だけわかればいい」をやりながら、 わからない人を突き放さない。 あれはけっこう、 練り込んでるなぁと思いました。 |
大根 | ありがとうございます。 |
糸井 | たとえばあの、 音楽業界の人たちが集まるシーンとか。 ああいう場面には、 小生意気なサインっぽい言葉を いくらでも入れられるわけです。 業界用語を並べて、わかりにくくできる。 でもそこは、 ギリギリで誰にでも通じるようにしてますよね。 |
大根 | そうですね。 伝わらないことがすごく嫌というのは、 テレビ出身だからかもしれません。 |
糸井 | 伊丹さんもそうでしたよね。 |
大根 | ああ、そうです、伊丹さん。 伊丹さんは、 セリフがすごくうまいですよね。 |
糸井 | うまいです。 伝わらないセリフをつくらない。 あと、 「ここをほめてね」ってセリフもつくらない。 |
大根 | そうですね。 『マルサの女』はとくにそうですけど、 専門用語が出てくるんです。 それを取材した人なんかは、 おぼえた専門用語を ぜんぶいれたくなると思うんですね。 でも伊丹監督はその取捨選択がすごい。 あと、そういうシーンでは最後にかならず 抜いてくるんですよ。 最後ギャグで落として次に渡していくとか。 むずかしい会話が むずかしい会話のまま終わらない。 |
糸井 | やっぱり、客席が見えてますよね。 大根さんの作品もそうだと思うんですけど、 そういうのは、どこで鍛えたんですか。 |
大根 | うーん‥‥。 わりあい天然の部分だとは思うんですけど‥‥。 どこでどうやって鍛えたのか。 うーん‥‥ もうちょっと低いとこにいたいというか、 いやちがうかな、なんて言うんだろうな‥‥ |
糸井 | 今のはちょっとわかる気がする。 もうちょっと低いところにいたい。 |
大根 | はい。 |
糸井 | 批評家にほめられたい人だっているわけだし、 カンヌだ、外国だっていう監督もいるし。 そういう意味では、 ノーターゲットですよね。 |
大根 | そうですね(笑)、 ぼくにはそこ、なにもないですね。 |
糸井 | それがとても気持ちがいいんです。 |
大根 | ぼく、前に、ある取材の仕事で カンヌに行ったことがあるんですよ。 |
糸井 | ほぉ、そうですか。 |
大根 | カンヌの映画祭って どんなところだろうと思って行ったら、 なんか‥‥熱海のお祭りみたいだったんです。 「なんだ、このたいしたことのなさは」 って思っちゃって。 「これが世界最高峰の映画祭なのかー」と。 |
糸井 | 熱海が悪いわけじゃないけれど(笑)。 |
大根 | もちろん熱海は悪くない。 だからほんとに失礼な言い方なんですけど‥‥。 |
糸井 | 平気です、素直にそう思ったんだから。 |
大根 | そこに集まることがステータスっていうのが、 まず気持ち悪かったし。 「あ、たいしたことないんだなあ」と。 |
糸井 | それを早く知ったのは、得でしたね。 |
大根 | そうですね。 映画というものはもちろん すばらしい文化だと思ってますけれど、 ぼくはもっと軽く見たいというか‥‥。 |
糸井 | だから大根さんの映画には、 ほめられどころのウインクがないんですよ。 「ここでほめてね、パチッ」 というウインクを、 才能のある方々はみんなおやりになるんだけど、 大根さんはそれをぜんぜんやらない。 だいたいは、ふざけてますよね(笑)。 |
大根 | ふざけてます(笑)。 |
糸井 | 低いところにいたい。 |
大根 | ぼくにとってはもう、あれです、 きれいなOLにほめられるのが、 最高の栄誉なんです(笑)。 とにかく、きれいなOLにほめられたい! |
糸井 | (笑)なるほどねー。 |
大根 | すみません、こんな話で。 |
糸井 | いやいや、ぼくだって気持ちとしては、 ひとりのOLとしてほめさせてもらってますから。 |
大根 | そうでしたか(笑)、 ありがとうございます。 (つづきます) |