映画『モテキ』を、 ほめさせてください。(c)2011映画『モテキ』製作委員会
大根仁さんプロフィール 大根仁監督 × 糸井重里

最終回 監督業はどこでフィニッシュなんだろう?
糸井 いろいろなところで取材を受けられて
さんざんお話し済みのことかもしれませんが、
撮影で難儀したシーンとか、
そういうのはありましたか?
大根 いや、現場で難儀したことは、
なにもなかったんです。
ドラマのスタッフと
ほぼ同じだったこともありますし、
新しく入った美術とか照明部がまあ、
『モテキ』のことが大好きな人たちで。
糸井 ああ、それは強いですね。
大根 強いです。
糸井 なんですか、『モテキ』の撮影では
画期的なカメラが使われていたと、
そんなうわさを聞いたんですが。
大根 あ、ドラマのときですよね。
デジイチで撮りました。
糸井 デジイチ。
大根 市販されている8万円くらいの
ちいさなデジタル一眼レフカメラの、
ムービー機能で撮ったんです。
待ち合わせのシーンを街中で撮ったりするのに
すごくいいんですよ。
気づかれない。
だからべつに、
新しいことをやろうっていうんじゃなくて、
単に「気づかれない」というきっかけで
デジイチで撮ることになったんです。
まあ、予算の都合もありましたけど。
糸井 なるほど。
この映画も? デジカメの動画機能で‥‥。
大根 最初はそのつもりだったんです。
もうちょっといいデジイチで、
テストまでしてるんですよ。
震災前はオーケーでした。
「次の映画もデジイチでいける」と。
ところが震災後、
下北沢でテストをしたら、街が暗いんです。
糸井 そうか‥‥節電が。
大根 なので、暗いところでも明るく撮れる
大きなムービーカメラにかえました。
糸井 でも機動性は失われてなかったですよね、
できあがりを観るかぎり。
大根 それはやっぱり、
このスタッフだったからだと思います。
糸井 なるほど、すばらしい。

それにしても、
デジカメであそこまで撮れるとなると、
この先、大根さんのような撮り方をする人が
どんどん出てきそうですよね。
大根 うん。
まあ、とはいえ、
あれを真似しようと思うと、
なかなかむずかしいことではあります。
糸井 やっぱり練習が要りますか。
大根 そうですね。
糸井 よその人はそれをやらない気がしますか?
大根 やってもいいけど、
無理だよっていう気はします。
糸井 ‥‥おもしろい。
ここは大根監督、急に厳しくなった(笑)。
大根 そうですね(笑)、
なにも考えずにやってるほうではあるんですけど、
そういったテクニカルな部分とか
撮り方の話になると‥‥
糸井 なめるなよ、と。
大根 「簡単そうに見えても真似できない技術」
っていうのがぼく、好きなんですよ。
なにしろ性格が悪いもので。
糸井 ‥‥やっぱり技術の話は、
あきらかに頑固になりますね。
大根 すみません、そこはつい(笑)。
糸井 いや、技術のところは譲らないというあたりは、
ぼくらはわからなかったので、
今回うかがえてよかったです。
大根 でもほんとうは、
気づかれなくていい部分でもあるんですよね。
糸井 そうですね。
スタッフさえわかっていれば。
大根 はい。
糸井 大根さん、次の映画の予定は?
大根 今はまったく考えてないですね。
オファーもないし。
糸井 あ、そうですか。
大根 この映画がどうなっていくのか、
それをちゃんと見届けたい気持ちがあるので、
なかなか次のことは。
糸井 うん。
見届けたくなる作品だと思います。
大根 それと、まだDVDがあるので。

ぼく、作品のいちばんいいお客さんは
DVDを買ってくれる人だと思うんですよ。
だって支払うお金は、いちばん多いでしょう。
だからDVDの特典映像までつくり上げて、
そのDVDが発売になるまでは
仕事が終わったと思ってないんです。
できるだけの力をDVDにも注ぎたい。
「監督業はどこでフィニッシュなんだろう?」
ということはよく考えるんですが、
ぼくの場合はDVDまでが監督業なんでしょうね。
糸井 そういう考え方も伊丹さんだなぁ。
大根 そうですね。
きょうぼくは、
糸井さんに伊丹さんの話ができたことが
いちばんうれしかったです。
糸井 ぼくもそれを聞けてうれしかったですよ。

いやぁ、おもしろかった。
きょうのお話がこんなにおもしろかったのは、
やっぱり映画がすごかったからで。
大根 ありがとうございます。
糸井 この‥‥なんて言うんでしょう‥‥
この、風船。
デタラメなセット(笑)。
大根 いやいや(笑)。
糸井 「映画、おもしろかったです!」
といううちの社員の気持ちが
思わずあふれ出た不器用な表現なわけで‥‥。
この風船を買ってこさせる力というのは、
やっぱり、すごい映画ですよ。
大根 見たことないセットです(笑)。
糸井 ほんとにすみません、初対面なのに(笑)。
ありがとうございます。
そしてすばらしい映画、おめでとうございます。
大根 ありがとうございます。
糸井 ‥‥風船ひとつ、持ってきますか?
大根 いやいや、大丈夫、大丈夫です(笑)。
この後まだ人と会うので。
そこにぼくがこの風船持って現れたら
「どんだけ浮かれてるんだ?」って(笑)。
糸井 久保ミツロウ先生にも、
お会いになったらよろしくお伝えください。
大根 はい。
糸井 ぼく、もう怖がっていませんから(笑)。

(対談はこれで終了です。
 最後までのご愛読、ありがとうございました!)


2011-10-14-FRI


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