糸井 | いろいろなところで取材を受けられて さんざんお話し済みのことかもしれませんが、 撮影で難儀したシーンとか、 そういうのはありましたか? |
大根 | いや、現場で難儀したことは、 なにもなかったんです。 ドラマのスタッフと ほぼ同じだったこともありますし、 新しく入った美術とか照明部がまあ、 『モテキ』のことが大好きな人たちで。 |
糸井 | ああ、それは強いですね。 |
大根 | 強いです。 |
糸井 | なんですか、『モテキ』の撮影では 画期的なカメラが使われていたと、 そんなうわさを聞いたんですが。 |
大根 | あ、ドラマのときですよね。 デジイチで撮りました。 |
糸井 | デジイチ。 |
大根 | 市販されている8万円くらいの ちいさなデジタル一眼レフカメラの、 ムービー機能で撮ったんです。 待ち合わせのシーンを街中で撮ったりするのに すごくいいんですよ。 気づかれない。 だからべつに、 新しいことをやろうっていうんじゃなくて、 単に「気づかれない」というきっかけで デジイチで撮ることになったんです。 まあ、予算の都合もありましたけど。 |
糸井 | なるほど。 この映画も? デジカメの動画機能で‥‥。 |
大根 | 最初はそのつもりだったんです。 もうちょっといいデジイチで、 テストまでしてるんですよ。 震災前はオーケーでした。 「次の映画もデジイチでいける」と。 ところが震災後、 下北沢でテストをしたら、街が暗いんです。 |
糸井 | そうか‥‥節電が。 |
大根 | なので、暗いところでも明るく撮れる 大きなムービーカメラにかえました。 |
糸井 | でも機動性は失われてなかったですよね、 できあがりを観るかぎり。 |
大根 | それはやっぱり、 このスタッフだったからだと思います。 |
糸井 | なるほど、すばらしい。 それにしても、 デジカメであそこまで撮れるとなると、 この先、大根さんのような撮り方をする人が どんどん出てきそうですよね。 |
大根 | うん。 まあ、とはいえ、 あれを真似しようと思うと、 なかなかむずかしいことではあります。 |
糸井 | やっぱり練習が要りますか。 |
大根 | そうですね。 |
糸井 | よその人はそれをやらない気がしますか? |
大根 | やってもいいけど、 無理だよっていう気はします。 |
糸井 | ‥‥おもしろい。 ここは大根監督、急に厳しくなった(笑)。 |
大根 | そうですね(笑)、 なにも考えずにやってるほうではあるんですけど、 そういったテクニカルな部分とか 撮り方の話になると‥‥ |
糸井 | なめるなよ、と。 |
大根 | 「簡単そうに見えても真似できない技術」 っていうのがぼく、好きなんですよ。 なにしろ性格が悪いもので。 |
糸井 | ‥‥やっぱり技術の話は、 あきらかに頑固になりますね。 |
大根 | すみません、そこはつい(笑)。 |
糸井 | いや、技術のところは譲らないというあたりは、 ぼくらはわからなかったので、 今回うかがえてよかったです。 |
大根 | でもほんとうは、 気づかれなくていい部分でもあるんですよね。 |
糸井 | そうですね。 スタッフさえわかっていれば。 |
大根 | はい。 |
糸井 | 大根さん、次の映画の予定は? |
大根 | 今はまったく考えてないですね。 オファーもないし。 |
糸井 | あ、そうですか。 |
大根 | この映画がどうなっていくのか、 それをちゃんと見届けたい気持ちがあるので、 なかなか次のことは。 |
糸井 | うん。 見届けたくなる作品だと思います。 |
大根 | それと、まだDVDがあるので。 ぼく、作品のいちばんいいお客さんは DVDを買ってくれる人だと思うんですよ。 だって支払うお金は、いちばん多いでしょう。 だからDVDの特典映像までつくり上げて、 そのDVDが発売になるまでは 仕事が終わったと思ってないんです。 できるだけの力をDVDにも注ぎたい。 「監督業はどこでフィニッシュなんだろう?」 ということはよく考えるんですが、 ぼくの場合はDVDまでが監督業なんでしょうね。 |
糸井 | そういう考え方も伊丹さんだなぁ。 |
大根 | そうですね。 きょうぼくは、 糸井さんに伊丹さんの話ができたことが いちばんうれしかったです。 |
糸井 | ぼくもそれを聞けてうれしかったですよ。 いやぁ、おもしろかった。 きょうのお話がこんなにおもしろかったのは、 やっぱり映画がすごかったからで。 |
大根 | ありがとうございます。 |
糸井 | この‥‥なんて言うんでしょう‥‥ この、風船。 デタラメなセット(笑)。 |
大根 | いやいや(笑)。 |
糸井 | 「映画、おもしろかったです!」 といううちの社員の気持ちが 思わずあふれ出た不器用な表現なわけで‥‥。 この風船を買ってこさせる力というのは、 やっぱり、すごい映画ですよ。 |
大根 | 見たことないセットです(笑)。 |
糸井 | ほんとにすみません、初対面なのに(笑)。 ありがとうございます。 そしてすばらしい映画、おめでとうございます。 |
大根 | ありがとうございます。 |
糸井 | ‥‥風船ひとつ、持ってきますか? |
大根 | いやいや、大丈夫、大丈夫です(笑)。 この後まだ人と会うので。 そこにぼくがこの風船持って現れたら 「どんだけ浮かれてるんだ?」って(笑)。 |
糸井 | 久保ミツロウ先生にも、 お会いになったらよろしくお伝えください。 |
大根 | はい。 |
糸井 | ぼく、もう怖がっていませんから(笑)。 (対談はこれで終了です。 最後までのご愛読、ありがとうございました!) |