零士 |
「自分がどう動いてるのかな?」
っていうのをもうひとりの自分が見てる。
それは、中学の頃からありました。
A君はかっこよくてモテてるし、
スポーツ万能で、頭もいいし……、
でも、きっとアイツ(A君)は仲間を裏切って
村八分にされるだろうな、と。
で、俺はぜったいそうはならない。
いくら好きなお姉ちゃんができても
友達裏切っちゃいけない。
その気持ちがすっごい強かったですよ。
それやったらぜったい淋しくなっちゃう。
ま、今ほど明確には画にしてなかったですけど、
心に感じてたんですよね。
友達裏切るのだけは
やっちゃいけない、それはダメだと。
実際、僕がそういうふうに思ってた人で、
いまだにつきあいのないヤツもいっぱいいます。
田舎に帰って、みんなでワーッと集まって、
「Aのヤツどうしたの?」って訊くと、
「いやさ、Bが婚約してた相手と別れたの
知ってんだろ?」
「ああ、知ってる知ってる」
「なーんかAのヤツがつきあってたんだよ」
って、やっぱ昔と同じことやるわけですよ! |
糸井 |
そういう人は零士さんから見ると、
自分を見る目がないってことですよね。
俯瞰から自分を見る目がないという。 |
零士 |
そりゃそうですね。
「やっぱりそういうヤツだな、Aはよぉ」って。
「昔から……
そういえば中1のときそういうこと
あったじゃんよぉ」って言うと、
「あった、あった、そんなことあったわ」と。 |
糸井 |
じゃ、話をまたもどして、
「愛」に入って、100人のなかで
アイスペール3つかかえて走って、
わざと転んで水こぼして、目立って……。 |
零士 |
そうすると、
お客さんに必ず聞かれるんですよ。
先輩のところについて、水割り作って、
……まあ緊張してますよねぇ。
そうすると向こう(女性)から
話してくるわけですよ。
「そういえばアンタさぁ、
アイスペールひっくり返して
先輩に怒られたでしょう?」って。
「そうなんですよぉ、やっちゃったんですよぉ、
もう忙しくてぇ」なんて。
で、その時もそうやって話題ふってもらったら、
またわざとやるわけですよ。
アイスペールかかえる。
そうするとスーツが汚れるんですよね。
僕のスーツが汚れてるからって、
そのお客さんが、ほれてる先輩に言うわけですよ。
「ちょっと、零ちゃんに
スーツ買ってあげていいかなぁ?」
「おお、いいよいいよ、
零士、買ってもらえよ!」なんて。
「すいません、ごっちになります!」
そういう気持ちなんですよ。
そういうことが見えてくると、たとえば、
そのお姉さんは、ほれてる先輩に、実際に
いいように操縦されちゃってんだろうなぁ、
って思いながら、
先輩がよろこぶいいヘルプができるんですよ。
「ちょっとさ、
アタシさぁ、零ちゃんだから言うけど、
今ちがう店の○○さんのとこ通ってるのよぉ」
「ああ、そうなんですかぁ……。
僕はぜったい余計なこと言いませんけど、
ただ、そうするいじょう、きっと先輩もね、
そういうこと聞いたら傷つきますから、
そこはうまくやってくださいよ。
俺ぜったい言わないですから」って言って、先輩に
「先輩、こうらしいですよ……。ただ俺が言ったって
ぜったい言わないでくださいよ」。
で、そういうふうに、うまくうまく。
昔やってたのと同じです。
話大きくして大騒ぎ(笑)。
「俺が逐一いろいろ聞きますから。
ただ俺が言ったってバラしちゃうと
こうなっちゃうし、
本人もいろいろ立場があるから
それは俺にまかせてください」
って先輩に言っておくんです。
それで一生懸命やるんですよ。
「どうですか、行ってんですか? また」
「最近行ってないの……」
「でしょー。やっぱ先輩を応援してやってくださいよ。
最近ちょっと……こう(斜めに)なってんですよ」
なーんて言いながら、俺がまた先輩に、
「先輩、こうなってるって
言っておきましたから、わざと。
結果がよければそれでいいじゃないですか」って。 |
糸井 |
そういうのって、
嫌われるのと、ギリギリですよね?
下手したら
「オマエががたがた動いたから、
話がややこしくなったんじゃないか!」
って言われる可能性あるじゃないですか? |
零士 |
大丈夫なんです。
やっていることは、先輩に対しては、
「結果をいい方にもっていきましょう!」と、
お姉さんに対しては、
「お願いしますよ。
ちょっとなんか寂しい顔してましたよ」と、
そう言ってるだけなんですよ。
で、いくら裏でいい努力をしていても、
表に出さなきゃ意味がないんで、先輩に言うんです。
「僕、こう言っておきましたから、
いらんこと言わないでください」と。 |
糸井 |
明け透けにしちゃうんですね、
自分がやってることを。 |
零士 |
ええ。
明確にしたいからですね、きっちり。
で、僕はこのお姉さんから、
「零ちゃん、あたし一生懸命あなたのために
がんばってあげるから」って言われても
僕はぜったいにそれを受けなかった。
「いやです」と。 |
糸井 |
守るべき筋みたいなポイントが、
いくつかあるんだ? |
零士 |
ありますねぇ。
ちゃんとした
エリアを分けようと線を引いたら、
そこにはぜったい入らないです、僕は。 |
糸井 |
猿山みたいな構造になってるよね(笑)。 |
零士 |
そうなんですよ。
頭のなかがそうなってるんですよ。
自分の山を築くという。 |
糸井 |
そうだよねぇ。
ボス猿が絶対なんだけど、
自分も時々デモンストレーションをして、
強さを見せていくと。
で、最初は下っ端で、だんだん人気が出てきた、
という感じですよねぇ。 |
零士 |
で、そっからがまた勝負ですよ。
こんどはちがう派閥のボスと
戦わなきゃいけないんです。
ちがう派閥のボスと戦うってことで言うと、
「なんであの人にあのお客さんが行くのかな?」
とかね、
不思議に思ったら、
じーっと見て研究するんですよ。
「きっとあのホストは寝てないんだな。
寝ずに24時間起きて、ちょこちょこいろんな人と
お茶したりして、つないでんだろうなぁ……」と。
それで思ったんですよ。
やっぱりモテるやつは、タフでマメ。
これに尽きる! |
糸井 |
タフでマメ……。
たしかに、モテる以外のことでも同じですよね。 |
零士 |
ええ。
でね、タフでマメってことで言うと、
僕や糸井さんて、
話しだしたら長いんですよ、きっと。
気合い入っちゃったら、
わかるまで畳みかけるわけですよ。
でもね……僕は糸井さんが
すごいのわかりますけど、
なんでその人の言うことが
すごくなっちゃうかと言ったら、
僕が思うには、その長い話が、
相手の苦にならないだけの
内容をつめた会話ができるからなんですよ。
僕らもそうなんですよ。
女を口説くときに、
話を手短にパッパッパッとして、
共鳴させるなんてのは
ぜったい無理なんですよ。
ぜったい無理!
ネタをばらすようですけど、
それはぜったい無理なんですよ。
今回も、ほぼ日の読者さんから
いろいろ質問していただいて……、
えー、ありがとうございます。
で、ぜんぶ読ませてもらいましたけど、
基本的には、こっちの思ってることとか、
研究してリサーチしてたことを
相手に出すも出さないもいいんですけど、
相手を納得させるには、
ぜったい時間はかかるんですよ。
トークの時間は必要なんですよ。
時間があればあるほどいいんですよ。
ただそれが、
話を聞いてて苦になるヤツもいる。
苦にさせない、時間を感じさせないトークが
できるヤツが、やっぱりうまいんですよ。 |
糸井 |
今の話だと、やっぱり武器はトークでしたねぇ。
トークがイケれば、イケる? |
零士 |
(笑)イケますね、はい。
それを客観的に見てる人が、僕のマネをして、
身振り手振りでこんなことやっても、
そんなことはどーでもいいんです。
対ここ(目の前の相手)ですから。
自分の仕草にしても、こうするよりは、
「そうだろ!」って、こうしたほうがいいとか、
いつも考えてますよ。 |
糸井 |
身振り手振りは、やっぱり
練習してないってことなんですかね? |
零士 |
大事なのは、こう……
伝えたい!ってことです。
いつも考えてなきゃダメですね。
だから、「よく寝てますよ」っていう人に、
「何人にもモテろ」っていうのは、ムリですよ。
たとえば女の子に、
「今から寝るから、じゃーね、おやすみ、チュ!」
なんて電話したりして、ピッて電話切って、
普通の人はそれで寝ますよね?
……たとえば、僕は5人分、
5回電話かけるわけですから、
寝る時間が減るんですよ、普通の人よりは(笑)。
で、みんなと同じ時間にパッと起きるんですから。
だーから、「タフでマメじゃなきゃダメだ」と。
もう、これ基本なんですよ。
トークも、ネタがつきるわけですよ。
だったら雑学の帝王になれ、ということですよね。
自分が困らないようにするために、
チャンネルの数を増やすんですよね。 |
糸井 |
雑学は……短い話がいいんですか?
雑学をあんまり追求していって、
「鎌倉時代はねぇ……」
なんて言うと、まずいでしょ?
ほどがあるよね? |
零士 |
まずいです、それは(笑)。
自分が何気なく
「あ、それね! 知ってる知ってる」って言って、
相手にたっぷりしゃべらせて、
「あ、そーなんだぁ」
と相手を立ててあげる方法もあります。
別な方法としては、
「あ、それ、知ってるよ。好きなのよぉ」
って言って、相手には、
「またそんなこと言って、調子いいんだからぁ」
って思わせながら、そのうんちくをパーッとしゃべると、
「あ、ホントに知ってるんだ、この人……」と。
相手の気持ちって必ず目にあらわれるし、
慣れてない人でもなんとなく目でわかりますよ。
自分で「イケる」ってのは、わかると思うし。
だから、いつもいつも、いろんなことを
見てたほうがいいですよね。
僕の部下も今30人くらいいますけど、
「そんなことしなくても僕は大丈夫ですよ」って
言う人もいるんですよ。
「だけど、できないより、
できたほうがいいよ。
基本はそれだよ。
どこまで自分で追求するかだよ」と。
僕はそう考えますね。
読者からたくさんもらった質問のなかに、
58歳の人とか、
62歳の男の人がいましたよねぇ。
この人たちって、すっごい純粋じゃないですか、
思ってることが。
僕にも気持ちが伝わるわけなんですよ。
「この人、マジで質問書いてきてんな」と。
できれば、そういう人たちに
今回の話をわかってもらえれば……。 |
糸井 |
その人たちも「タフでマメ」って
メモ書いたかもしれないよね(笑)。 |
零士 |
はい、書いてほしいですねぇ、これは。
明日の朝から急に身体鍛えちゃったりしてね(笑)。
「丈夫になって長生きしなきゃダメなんだよ」って。
「健康第一だ!」なんて、ハチマキしちゃったりしてね。
朝、起きてきた娘にバカにされちゃったりしてねぇ。
「牛乳だ!」なんて、
昨日までお茶だった人が「健康第一!」なんて、
ウーッ! って牛乳イッキ飲みして(笑)。
ま、このへんから、「モテる」にテーマしぼりますか?
モテるってことには
「モテる」「モテている」「モテたい」
いろいろあると僕は思うんです。
「モテる」というのは、結果論で、
「モテている」というのは形容詞で、
「モテたい」というのは、その人の欲望、願望ですね。
で、「モテている」というのは、たとえば
お金を使ってるからモテているとか、
お金をもっているからモテているとか、
かっこいいからモテているとか、
じゃあ、そうじゃなくなったら……モテなくなるわけです。
「モテる」っつーのは、ずっとモテるんです、結果なんで。
僕はそう考えてるんです。
一時的にってのは「モテている」ですから。 |
糸井 |
若いとき友達とよくしゃべったんだけど、
「みんな人生に一度は華の時期があって、
それが小学校で来ちゃったヤツは後が悲惨だ」
とかね。 |
零士 |
そういう話、ありますよね(笑)。 |
糸井 |
だいたい普通の人は、一生をつうじて、
「あの頃はモテてたっけなぁ……」で終わりますよね。
それがずっとつながっている人が、
世の中にはいるわけですよね? |
零士 |
だから、そういう人たちは、
いっつも女のこと考えてるんですよ。
考えてるんですよ、ぜったい。
考えてなきゃ、そりゃ無理ですよ。
“考えてなきゃ無理”
たとえば、バス釣りのルアーでも、
子どもの頃釣りしてて、
あるときいったん熱が冷めて、
また釣りにカムバックして、釣り道具屋行くと、
もうわかんないルアーだらけでしょ?
自分が昔持ってて、すっげー大事にしてて
「こーれはぜったい釣れるんだ!」というルアーも
なんか今じゃ釣れない気になってくるんですよ。
不安になってくるんですよ。
そうするともう、自分の熱はトーンダウンして、
その時点で半分になっちゃうんですよね。
“継続は力なり”っていいますけど。
ちょっと古風ですけど(笑)。
女にモテるというのも、そーなんですよ。
モテてなくても、モテたいと思ってて、
いつもいつもずーっと
お姉ちゃんの尻を年中追っかけてると、
一応は、その時代の流れには入ってるわけですよ、
気持ちだけも。
結果は別として。
参加することに意義があるんですよ! |
糸井 |
場からおりてるくせに、モテたいってのは、
ずうずうしいんだ? |
零士 |
それは無理ですね!
たとえば、俺は60センチのバスを釣りたいんだ、と。
そりゃ釣りたいと思うのは勝手ですよ。
でも、釣るには、やっぱ上手くならないと。
上手い人が釣るんですよ。
「なんでアイツは釣れるんだろう???」
それはそいつなりに、いっつも考えてるんですよ。
夢のなかでも。
バス釣りで言えば、
「このルアーさえ使えば、釣れる!」っていう
自分の伝家の宝刀みたいなルアーって
あるじゃないですか。
でも、それって意外と使わないで、
ずーっと置いといたりしますよね。
それと同じで、本当にこの言葉とか、
伝家の宝刀みたいな言葉って、
好きな女にできたら言ってやろうと思ってても、
言えないことってあるじゃないですか? |
糸井 |
「思ってても」って……、
普通そんなセリフ考えてないよ(笑)。 |
零士 |
あっ、そうすか?(笑)
俺、しょっちゅう考えてるんですよ。
こう言おうかなー、とか。
だからそれはもう、
僕はずーっと参加したいと思ってるからです。 |
糸井 |
つまり、会社員が見積書かなんか作りながらでも、
女の子のことを考えてなかったら
セリフ云々はできないんですよね? |
零士 |
できないです。
たとえば、会社のなかにマドンナが
いるとするじゃないですか、
仮にだれかとつき合ってる人でもいいですよ。
ふとひと息つくときに、
「は〜、この人はちがう所で俺と知りあって
こう声かけたら、うまくいってるかな……」とか、
そんなくっだらないことですよ、考えるのは。
妄想してるんですよ。
で、銀座とかで、
すっごいお金使って女の子にモテてる人、
つまり“今モテている”という人も、
そんなことばっかり考えてるんですよ、きっと。 |
糸井 |
でも、お金使うこととはちがいますよね、
モテるってのは? |
零士 |
だから、参加しちゃってるんですよ。
お金は参加するための切符なんですよ。
そうなんですよ。
行ったことない人にはチンプンカンプンなんですよ、
「なーにがおもしろいんだろ?」って。
銀座にいる女性をテーマにした
自分のなかの自己満足みたいな、
そういうことの連続でしょうね。
いろーんな分野があるわけですから、世の中に。 |
糸井 |
今の話聞いてるとさ、
「参加する」ってことで言うと
“誰でも同じようにできる”みたいに
聞こえるけどさぁ、
実は“素質”ってあるでしょ? |
零士 |
“素質”は正直ありますよね、多少は。 |
糸井 |
ありますよね。
それと、いま言われた言葉を、
零士さんが言ったとおりに、
全部ちゃんと実行すればいいとしても、
「それは、なんかちがう……」って
考える人もいますよね?
なにが人を分けるんですかねぇ? |
零士 |
まず、自分のオリジナルな形をわかってない人、
自分の土台がわかってない人だと、
そこにいくらいいものを乗っけていっても、
最後は崩れちゃうんですよね。 |
糸井 |
つまり、己を知ることですね。
たとえば、こーんなデカい
頭の人がいたとしますよね、
そしたらまず
「俺は頭がデカいんだ!」と思って……。 |
零士 |
まず思って、
「俺は顔デカいんだから、シャープで、
わりとこうピシッとした服は似合わないから、
自分に合う洋服を“死ぬほど調べる”」とか。
不安材料をつぶしていく、ってことですよね。
まず己を知って。 |
糸井 |
自分の弱点も知り、美点も知ったうえで、
不安な部分をなにかで解消させていくわけだ?
服なら服で、趣味なら趣味で。
で、いいところをのばしていくわけですね? |
零士 |
ええ。
で、そういうことをしていると、
それを見てる女って必ずいるんですよ。
要するに、出会いがあるわけですよ。
それなりに出会いがあるわけですよ、必ず。
なのに、自分がイヤだと思ってる所とか、
自分はイケてない、なんかイマイチだなと思う所には、
いくら人が「行け!」と言っても行かないですよね。
「出会いがあるから行ってみなよ」と言っても、
行ったら空気が「ちがうな」と思うから行かない。
そういう人は敏感ですから。
そういう人ってのは、今までモテなかった人、
モテ方を知らなかった人。
そういう人は、「あ、僕やっぱりいいや」って
スッと家に帰っちゃうんですよね、きっと。
いまの若い子は、こわがりますよー。
もうひとつ違った自分を作ったりするでしょ。
僕らなんかから見ると、
「なんかそれってオマエ、いいわけだろ?」って。
それとか、
「本当はビビってるくせに、
もうひとつの自分を立てて、
それで押してるんだよな」ってのは見えるんですよ。
「大丈夫かなぁ……」なんて本当は思っていながら、
「カンケーねぇよ!」なんて言っちゃって。
まぁ、ビジネスの形としてそれをやるのは
いいと思いますよ。
それはビジネスの“技”ですからね。
本当は自分はこうなのに、
ちがう自分をもうひとつ作っておいて、
街のなかでタッグ組んで、
たとえば渋谷をぐるぐる歩いてるってのは、
あれはあれで参加してるんですよ、アイツらは。
家で寝てたってしょうがない。
とりあえず渋谷に行って、参加してるんですよ。 |
糸井 |
なるほど、それはまだ見込みがあるわけだ? |
零士 |
すごくいいことだと思いますよ。
俺はそう考えるんです。
どこでどう会うかわからないじゃないですか。
会うべき人と会うかもしれないし。
たとえ場所がどこであっても、
会うべき人と会うかもしれないんですよ。
で、たとえば釣り具屋で、
会うべき人とばったり会ったとすると、
その人がルアーをとろうとして、
こう手をかけたところを
「あ、すいません……」って
ちょうど手がこう重なったりして。
「あ、このルアー買うんですか?
僕もこのルアーにはねぇ、思いでがあるんですよー」
なんて。
普通の状況よりは話しかけられますよね、
その女性が釣りが好きだったら。
まあ、釣り具屋はたとえ話なんですけど、
そういうふうに、あらゆる状況を想像してて、
本当にそうなっちゃうことがいっぱいありますから。
俺はそう思ってるんです。
もーちろん、いいんですよ。
ピタッと合わなくてもいいんですよ。
「あ、いらんことやっちゃった」
って、そのときには思うんですよね。
でも、いらんことじゃないですよ。
それをやったことは、いいことですよ。
客観的に見た場合に、
「アイツは何をわけわかんないこと言ってんだ」と、
思われても、そこにいた当の本人と、
言われた相手はマジになっちゃうんですよ。
外側は関係ないんですよ! これだけは。
読者のみなさんからの質問も、ぜんぶそうでしたよ。
質問を読んでいて言えることは、
“第三者は関係ない”ってことなんです。
質問のなかに第三者は
登場人物として出てこないんですよ。
私は、僕は、俺は、って質問に書いてあるんですよ。
人がどうでこうで、
これは私の友だちの話なんですけど、
とか、そういうことは、まずないんですよ。
第三者は関係ない、
その人自身から見た“見方”があって、
それに対して、零士さんはどう思いますか?
という質問が非常に多いんです。
あと、年齢によってちがいますね、やっぱり。
で、40代の女性とかだと、
私はちょっと目を細めながら物事を見られますよ
っていうのを前提にして、質問書いてますよ。
20代だと……24、25の適齢期を越えて、
今26、27で、
なんとなく30歳がくるのがこわい、
びびってんな、
というようなコメントの人もいます。
僕らは自分のなかにモラルがあるんですよ。
基本的には、
男と女は結局は、第三者は関係ない、と。
ただし、「男としてこれは普通じゃないな」って
自分が思うことに手を出すと火傷するんですよ。
ホストでも。
男女の間のことで、
なにかその状況を女の人が何も言わずに
のんでいるような状態でつきあってても、
普通に考えて、
「きっとこれは本当の愛じゃないな」とかね、
「本当は俺は好きじゃないのかな……」と思う場合は、
自分のことがわかんなくなっちゃうんですよ、結局。
自分のなかでちゃんとモラルがあるんですよ。
ホストはですねぇ、
自分を支えてくれる女性に対して、
要するに夢を売るわけですよ。
夢を売って、その女性の
明日の張りになればいいわけですよ。
で、客観的に自分を見たら、なんかすごく
自分が悪いような感覚になる時ってあるんですよ。
「なんか俺って、お金使わせちゃって悪いのかなぁ」とか。
でも実際は、その女性が、
「今日はこうでね、ああでね」って
電話をしてくることが、結局本人がよければ、
俺たちは一生懸命よくしてあげよう
って思うんですよ。 |
糸井 |
坊さんとか、看護婦さんとか、
そういう職業に近いですよね。 |
零士 |
今は、女性がしっかりしてきたというか、
女性が強くなってきたんですね。
男が進化する度合いを、
100メートル10秒で走るとしたら、
今女性は100メートルを5秒のスピードで、
ガンガン追いついてきて、
男が抜かれそうなんですよね。
鼻の下がのびないってことです。
女性はもともと鼻の下がのびないんですよ。
男のほうがのびやすいですよね、デローンと。
さっき「夢を売るのが商売」と言いましたけど、
女性は鼻の下のばしたとしても、
一瞬でも針の先かなんかでちょっと突いたら、
シュッと戻っちゃいますね。
男は多少針でチクチク刺したって、
ナイフでブスブス刺したって、
鼻の下がのびっぱなしの人がいますから(笑)。
でも男はそれでいいんですよ。
角がとれて。
「なんかこの人、恋してるんだなぁ」、
「恋も仕事の張りになればいいんじゃないの」っていう。
「それは男の甲斐性じゃないの」っていうことで
済まされる部分ってありますよね。
それは、今までの歴史をみてもそうですけど、
うまくバランスがとれてますよね。
女性は鼻の下がのびにくい、男はのびやすい。
だから、僕ら銀座のホステスに比べたら、
需要はやっぱ少ないですから。
それをバブルの頃の倍近くの人数に
増やしたことがすごいって
ほめてもらえることが時々ありますね。 |
糸井 |
零士さんがテレビでいっていて
すごく関心したことがあって、
お客さんと仲良くなるときに、
どんな食べ物が好きか聞いて、
「こんど僕がごちそうしたいんです」
って言ったんですよ。
あれはショックだったねぇ……。
「そう言ったときに
電話番号がわかるんだよ」って。 |
零士 |
そうなんですよ。
だから、ああいうことも、いっつも考えてるんですよ。
たとえば、
糸井さんから、うまい飯屋に招待してもらって、
この部屋が、そのうまい飯屋だとすると、
「糸井さん、このクッション、
なにげに女の子喜ぶよね?」
「この椅子って女にウケがいいですよね?」って、
そういう話をしたときに、
「あ、そうだ!」って気づくんですよ。
俺ら今までぜんぜん気にしないで座ってたけど、
そういうことも頭の中にメモっとくんです。
後日フッとこの店に来たときに、
「どう? この椅子」
「かわいいー」
「でしょ?」
そっから始まるんですよね。
そのときにはその店が、うまい店になっちゃうんですよ。
「ちょっとね、椅子のオシャレな店があるんですよって。
そんなこともネタになっちゃうんですよ。
「え、なに? 椅子?」
「そうなんだよ、椅子がなんかねぇ……」って。
「椅子? ホント?」
「ね、行きたいでしょ?」
「いきたーい!」
「ちょっと電話番号教えてよ、電話しなきゃならないから。
ごちそうするから。味もそこそこいいから」
これ、“そこそこ”ってものミソなんですよ。
“絶対うまい”とかって言わないんです。
「味もそこそこイケちゃうのよ、これが」って。
そういう、押して引いてという……。
“椅子”で押して“そこそこ”で引く。
考えてるんですよ、やっぱり。
だから僕は
「タフでマメな雑学の帝王やるとモテますよ」って
言うんですね。
雑学と言ったら大ざっぱな表現ですけど、
本当は、心についての専門学ですよ。 |
糸井 |
零士さんが言う雑学というのは、
つまり、人間学ですよね。
人ってどういう時に、どういう感じ方をするか。
で、それはおそらく自分の感じ方について
さんざん研究しているというのが前提ですよね?
自分というしっかりした定点がないと、
その目って身に付かないですから。 |
零士 |
だから、まず己を知ってくださいと、
僕は言うんですね。
ちょっとまとまりましたか?
僕は悪く言ってるんじゃないですよ。
よく「己を知れ、オマエ!」なんて言われると、
言われた人はシュンとなっちゃいますよね。
俺はそういう意味で
いってるんじゃないんです。
「人にはいろいろあるから、
まず自分をわかっちゃおうよ」
「自分をわかっちゃって、
ちょっと骨ぬいちゃおうよ」と。 |
糸井 |
たとえば、女の人でも、性格があったり、
生活があったり、あるいは過去があったり、
いろいろな要素がありますよね。 |
零士 |
あ、その、“過去”といったらね、
男である以上、
女の人の過去を聞いたりするのって……、
あの……やたら聞いちゃう人いるでしょう。
女性の過去って、たとえ正面に見えていても、
あえて視界のスミに置いておくような
見方がちょうどいいんですよ。
女性の過去を気にしないでばく進するんだ、
そういう姿に、女性って共鳴するというか……。
女性なりの、女性だからこその信頼があるんですよね。
それは暗黙の了解だよ、と。
過去は暗黙知だよ、と。
過去は自然と淘汰されることなんだよ、とかね。
恐竜が絶滅していって、
あれは自然の流れの中で絶滅していって、
最後に猿が残って、
そして今、僕らがいるんだよっていう、
そういう、とんちんかんな表現も必要なんです。
話を、ぶっとばすんですよ!
で、また、さっきの話にもどるんですよ。
女性の過去の話を聞くにもね……って。
ちがう場所から
パンチを一発入れてるんですよ、必ず。
左からのパンチには、フットワークがいいけど、
右からのパンチには、ガード甘くて当ってるとか。
けっこう見えてくるんですよ。
女性の場合は、
非常に攻撃的なタイプと、
普通のタイプと、
そうじゃない、どちらでもないタイプとあって、
攻撃的なタイプに関しては、
ひとつの事を適当に流さないで、
ひとつの事をつかまえたら、
畳みかけるように戦うしかないんですよ。
「そーじゃない! それはおかしい!」と。
そうすると、フッと息をつくときがあるんですよ、
そういう女性って。
僕はデータ主義なんですよ。
その女性が人に対して
どーいうふうに自分を出しているかを見ます。
自分ってぜったい出すんですから。 |
糸井 |
攻撃的なタイプの女性が使う言葉だとか、
服だとか、そういうものってあるんですか? |
零士 |
言葉は……「私はね」です(笑)。
あと、なんでそこまで
自信満々に言うのかな、みたいな。
「私はね、あんたとはちがう、誰々とはちがう」
「私は私だから……」
で、「あんなヤツなんか何よ!」とかね。 |
糸井 |
基本的に攻撃的なタイプの女性は、
ホスト業界全体に対して、
上下関係みたいなことを考えてるんですか?
「あんたたちより私のほうが上だ」みたいな。
……とは限らない? |
零士 |
「なによ、失礼な!」みたいなね。
ちょっと“お蝶夫人”っぽく。
強気に気取った感じで「フッ」なんて……、
そーいうヤツに限って
本当は「フッ」じゃないんですよ!
本当は、自分はそうじゃないと思ってるから、
そういう行動をとるんです。
僕は完全に、そう決めてかかってます。
じゃないと、その人の攻撃的な部分に惑わされちゃって、
その人の本音をつかみきれないんですよ。
本音を言わせるようにするのが
僕らの習性なんですよ。
ただ、いちばんヤバイのが、
攻撃的でもなく、普通でもなく、
「この子はいい子だろうなぁ……」
っていう女性。
このタイプだけはヤバイですよ。
保守的なタイプ。
意外と頑固なんですよ。
だから、その人の価値観をわかったうえで、
その人のちょっとした心の針を揺らすというか……。
そんなようなことを、早い段階に言わないと。
基本的に保守的なんですよ、自分の考えに対して。
本物で、なおかつ
自分が本当に理解しないことに関しては、
ぜったいに受け入れないんですよ。
そういう人って人前ではすごく
「あー、そうなんですか、いいですねぇ」って感じで、
なんでも受け入れてるように見えるんですけど……。
頑固なんですよ。
そういう人いっぱいいますよ、
僕に質問してくれた人のなかに。
「あ、いいですねー」なんて言ってても、
あ、これはぜったいちがうな、とかね。
そういう人には、早い段階で……、
たとえば、そういう人を俺が口説く場合には、
とにかく時間かけちゃダメなんですよ。
インスピレーションなんですよ、本当にもう。
本当に、時間かけちゃダメなんですよ。
でも男ってのは、
「この人は時間かければ、きっと俺のこと
わかってくれるな」
とかって、思っちゃうわけですよ。
でも、本当は違うんですよ。
早い段階で、ドンピシャで、
インスピレーションが
お互いに閃くようなことを……、
“心の針をゆらすようなこと”を
いかに早い段階で
言えるかどうかなんですよね。
その女性といい関係になるには。 |
糸井 |
うわー、それ、いちばん難しそうですね。
さっき話が出た、“攻撃的なタイプの女性”より
難しいですね。 |
零士 |
難しいでしょ?
攻撃的なタイプの女性のほうが簡単なんですよ。
……隠しているものが見えるから。 |
糸井 |
あ……そうか!
攻撃的なタイプの女性が
ある部分で突っ張ってたら、
その内側に弱点があるんだなって
わかりやすいわけだ〜。
その逆で、柳に風で、
逆らわず、おだやかにあしらうという
一見けっこういい人というのは、
何を守って、何が弱点なのかわからないのか……。
だから、インパクトのある表現で
早い段階でつかまえる、と。 |
零士 |
そうです。 |
糸井 |
零士さんがお店の新入りのときに、
アイスペールかかえて、
わざと滑って転んで目立った、
みたいなことですよね? |
零士 |
そうなんです。
そういうのを、何気に見てるんですよ。
でも、それを見せないんですよ、
保守的な人ってのは。 |
糸井 |
いちばん難しいタイプ、
いい人系の女性を口説くときに、
“お笑い”ってのは使えるんですか?
ほぐすというか……。 |
零士 |
いい人系というのは、今言った、
保守的で、ある程度人あたりがよくて、
でも実際は頑固だ、という人ですね? |
糸井 |
そこでの、いちばんインパクトのある表現とか、
より接近するための手法ってのは、
感動ですか? 笑いですか? 涙ですか? |
零士 |
あの……そういう女性をですね、
自分がこう……あれするには……。
そういう女性って、
こっちのことをよく見てないようで
実際は、よーく見てるんですよ。
見てないようで、見てる。
だから僕はガキの頃に、
「俺がこういう行動したら、あの女の子は
どういう顔をしてるか、向こう側から見ててくれ」と
友だちに頼んだんですよ。
つまり、そういうことなんですよ。
難しいんですよ、基本的には。
真正面から行ったら、本音を見せてくれないんですよ。
そういう意味の事を、
僕はさっきしゃべってたと思うんです。
ガキの頃の話では、ただ漠然と、
「僕が後ろから、その女の子のことを見てたら、
その女の子はどういうことを思ってるか、考える」
と言ったんですけど、つまり、そこまでして
考えなきゃならない相手なんですよね。
こっち側が考えさせられるほどの相手なんですよ。
非常に難しい相手なんですよ。
保守的ですから、
なーかなか心の針がゆれないんですよ。
|
糸井 |
いわば、その女性の人生観を変えさせるような
ところってあるわけでしょ? |
零士 |
(小声で)あるんですよ……。
だからもう、ある意味、宗教的な部分というか、
なにかがないと……。
カリスマ性です。
そういう意味でのカリスマという言葉は
いい言葉だと僕は思うんですよ。
本当のカリスマで、
その人の心のなかに入っていって、
実際にその女性のことを
きちんと理解してるわけですよ、こっちは。
会ったしょっぱなに、ポッとつかむ。
会った日のうちにもう「はい、わかってますよ」と。 |
糸井 |
それは、主にやっぱり言葉ですか? |
零士 |
言葉でしょうね。
あと……洞察力。
「俺は洞察力がないんですよ」って人は、
「じゃあ毎日見てろ、考えろ」と。
ぜったい大事なことですよ。
時間かかっちゃダメなんですよ!
時間かけちゃうと、
なにかあと一歩入り込めないんですよ。 |
糸井 |
つまり、兄弟の関係になったら
意味がないってことですよね。
姉妹とかね。 |
零士 |
そうなんです。
で、向こうはそうさせようとするんですよ。
向こうがですよ。
こっちはそういう気はなくても。 |
糸井 |
しますよね。
で、若い男がよく失敗するのは、
女の子の仲間になっちゃって、
女同士のつきあいになっちゃう、というケースですね。
それはモテてるを越えて、
「男としては、なんでもないヤツ」に
なってるケースってありますよねぇ。
あれは、時間かけちゃったという……。 |
零士 |
時間かけちゃったというのと、
やっぱり、その、
どうも歌はうまいんだけど、リズム感がない。
タイミングがわるい、
間のとりかたがわるいんですよ。
でも、タイミングとか、間も、
いっつも考えてやってれば見えてきますよ。
できないってのは、
どっかやっぱりズルしてるというか
怠けてるんですよね。
怠け者……それはいけませんよ〜。
せっかくの才能を無駄にしちゃいますよ。 |