元ゲーム雑誌の編集者で、
テレコマンとしても活動している永田ソフトが
ここでは永田泰大さんとして
『MOTHER1+2』をプレイする日常をつづります。
ゲームの攻略にはまるで役に立たないと思うけど
のんびりじっくり書いていくそうなので
なんとなく気にしててください。

7月5日

ふつうの人とゲームの人

いまの職場には、ゲームを熱心にプレイする人が少ない。
それでも一般の会社にくらべたら
関心は高いほうだと思うけれど、
なにしろそれまでが専門的な職場にいたものだから
突然自分が「ゲームの人」になってしまった印象がある。
そうか、自分は非常にゲームに詳しい人なのだな、と
あらためて気づかされるようなことがしばしばある。
ことに、『MOTHER1+2』が発売されてからは
職場に初心者ゲーマーが増えたから
相対的に自分が専門的であることを自覚する。
あ、ふつうはそうじゃないのか、
と思うようなことがしょっちゅうある。

たとえばふつうにゲームのことを語るときの言葉である。

さすがに、
「なんか変な縦シューやってたら
バランスおかしくて2面からザコが超固いの。
そんで弾幕濃いわ、一発死にだわ、アンチないわ、
基本的にレスポンス悪いわで最悪なんだ。
で、投げる寸前だったんだけど、
ゴリ押しで進んでたら4面からすげーヌルくなって
おまけに6面で永パー見つけて
しかもボム取り放題の使い放題で
とりあえずカンストさせっかと思ったら
99999で終わりじゃなくてクルッと増えるのよ。
しかたないからエンディングだけ見るかと思ったら
2周目あって、マジショック」
とか、
「あそこ、一回出て、また戻ると復活するでしょ?
あいつがミスリルのシリーズ全部落とすから
全員それで固めて進めば、楽勝で2枚目まで行くよ。
ドラゴンのとこは主人公ガードさせて、
エミリア踊らせて、火吹いたあとだけ全回復して、
レンジャーが遠隔チクチクやってればいつか死ぬから。
そのあと、分岐でエミリアいなくなるから、
装備全部売っといたほうがいいよ」
とか、
「いや、『バイパーズ2』というより
『モータルコンバット』に近いんだけどさ、
要はゲージ2本溜めて超必出せば勝ちなのよ。
けど、入力が激シビアで1フレか2フレしかないから
ほとんど目押しなんだよ。おまけにヒゲの超必、
前前うしろ前逆ヨガ逆ヨガPだからオレ絶対無理。
そのかわりシャガパンカウンターで入れると
投げ確定だから嫌われていいならそれだけでイケル」
とか、
「32ビット機台頭によりシェア争いは
タイトル数とキラーの存在にかかってきた。
マシンのスペック向上は、ポリゴンによる3D表現や
美麗なムービー、細やかなテクスチャーなど
多くの恩恵をもたらしたが、同時に開発費上昇という
大きな問題も生じさせることとなった」
といった、
あまりにも特殊な言い回しは
専門分野の言葉として理解するけれど、
これが専門用語とは思わなかったなあ、
というものがいくつもあるのである。
長い長いイントロダクションでまことに申しわけがない。

具体的にどうかというと、
『MOTHER1+2』で
久しぶりにゲームを手にした女性のMさんなどは、
保存、保存、と言うのである。
「保存したいが電話がなくて」などと言うのである。
ゲームファンとして言わせてもらうなら、
それは「セーブ」である。
ゲームファンは「ゲームデータを保存」したりしない。
あくまで「冒険の記録をセーブ」するのだということを
ひとつ、肝に銘じてもらいたい。

続いて、やはり女性で、
ほとんど初めてゲームを体験するTさんであるが、
迷路、迷路、と言うのである。
「迷路ですぐ死んじゃう」などと言うのである。
ゲームファンとして言わせてもらうなら、
それは「ダンジョン」である。
ゲームファンは「迷路を出た」りしない。
あくまで「ダンジョンをクリアーする」のだということを
ひとつ、肝に銘じてもらいたい。

続いて、同じく女性で、
ようやくソフトを買ったばかりのOさんであるが、
どうやらゲームファンはカタカナを好むとにらんだためか
ファイト、ファイトと言うのである。
「モンスターとファイトする」とか言うのである。
しかしながらゲームファンとして忠告させてもらうと
そこは「戦闘」でけっこうである。
ゲームファンは「フォレストでファイト」したりしない。
あくまで「森で戦闘」するのだということを
ぜひ、肝に銘じてもらいたい。
ちなみに敵と遭遇することは
「エンカウントする」のだということも
この機会に覚えて帰っていただきたい。

それから、これは専門用語ではなくて、
全体的な姿勢に関しての話だけれど、
なんでもかんでも質問するのをやめていただきたい。
「あそこはどうするのですか」とか
「とにかく出られないんです」とか
「キノコが生えたんです」とか
いちいち訊くのをやめていただきたい。
僕は前情報を仕入れることを極端に嫌うのと同様に、
人に前情報を知らせることひどく嫌うのである。
きみの冒険はきみの足で歩んでこそきみの冒険なのだよ、
というふうに常日頃から思っているのである。
だから、そういうことを訊かれるたびに、
「あなたはそれを訊いてどうするんですか」と
いちいち真顔で諭していたわけであるが、
あまりにもそれが真顔であったらしく
最近ではまったく質問されることがなくなった。

それはそれでちょっと寂しいものである。

しかし、まあ、連中、
自力でがんばっているのだから大いにけっこう、
などと思っていたのだが、
どうやら別の人に相談しているふしがある。
しかも、ある朝出社してふと見ると、
オレサマの机に資料用として保管している
『MOTHER』と『MOTHER2』の攻略本が
誰かに読まれた形跡があるではないか。
微妙に置き場所が変わっているではないか。
幸い、それらの本は、
素人どもがちらちら見ただけでは
答えをすぐに知ることができないつくりになっているから
よかったようなものの、
モノがモノだったらえらいことになっていた。
ホッと胸をなでおろす鬼軍曹である。

最近では僕の鬼軍曹ぶりにも拍車がかかり、
誰かと誰かが楽しげに
『MOTHER』の話をしているだけで
「コラコラ、そこそこ!」と笛を吹きながら
近づいて叱って回っているしだいである。
とくに、すでにクリアーしてしまったTさんは
自分の楽しい経験を他者と共有することが得意だから
僕のなかのブラックリストのいちばん上に載っている。
「ラストのあたりはさあ‥‥」と言うだけで
首根っこをつかんで退場させる。

そういうふうにしていると、
初心者のみなさんは、初心者どうして集まって
こそこそと情報を交換し合うようになる。
これは非常に望ましいことなので大いに奨励したい。
同じソフトをプレイする同じレベルの人どうしが
あれはどうなんだろ、それはそうだったのかと、
こそこそ、わくわく、愉快に、
互いの情報を交換し合うことは
ゲームが持っている大きな楽しさのひとつなのである。

補足だけれど、
以上はもちろん個人的な姿勢であって
正しいものであるわけではない。
僕は僕の知人に「自分でやりたまえ」と言うけれど
知らない人にはそうしないし、
自分のプレイスタイルをきちんと確立している人にも
そんな野暮なことは決して言わない。
あと、行き詰まって好きなゲームを投げ出すくらいなら
攻略本ひとつも読めくらいのことを言うかもしれない。

攻略本を見ながら世界をくまなく見て回る喜びもあり、
一切を遮断して過剰な一喜一憂を味わう喜びもある。

どうやらずいぶん脱線して長くなったようです。
脱線ついでに書くというと失礼にあたりますが、
たくさんのメールをどうもありがとうございます。
ひとつひとつ読んで励みにしています。
あ、「クリアーしました!」というメールは
薄目でぼんやりと読んでいます。
入れ歯の回には数名の方にアドバイスいただきまして、
どうもありがとうございました。
テレパシーを使うことは気づいていたんですが
会っていきなり入れ歯を渡しちゃったんで
どうしようもなかったんです。
ゲームボーイアドバンスとゲームボーイアドバンスSPの
どちらで遊べるんですかとご質問の方、
どちらでも遊べます。個人的にはSPを推します。
ゲームの進行が遅いことで知られる
僕に追い抜かれて愕然としているという方、
そりゃ僕だっていつまでもちんたらしてませんよ。

今後ともひとつよろしくお願いいたします。

2003-07-06-SUN