日本にある1741の市町村すべてを回り、
それぞれの土地で撮った写真と文章を
ウェブサイトにアップしながら旅をした
かつお(本名・仁科勝介)さん。
その旅の記録が、
『ふるさとの手帖』というタイトルで、
8月に出版されました。
9月中旬には「ほぼ日曜日」で写真展を開催します。
そんなかつおさんに、
オンラインでお話をうかがいました。
ほぼ日にはすでに、
「若い3人、気仙沼へ行く。」でご登場いただいていますが、
「あの旅」のことを
きちんをうかがうのはこれがはじめて。
途中から糸井重里も参加します。
1741もある、ぜんぶの市町村を巡る旅って、
いったいどんな旅だったのでしょう?
仁科勝介(にしな・かつすけ)
かつお
本名、仁科勝介(にしな・かつすけ)。
1996年岡山県生まれ。
広島大学在学中の2018年3月から
2020年1月までの間に、
日本にある1741の市町村すべてを訪れる。
写真館勤務を経て2020年9月から独立。
旅の風景を収めた
『ふるさとの手帖
あなたの「ふるさと」のこと、
少しだけ知ってます。』(KADOKAWA)出版。
過去の自費出版作に
写真集『日本よはじめまして』がある。
- ――
- ヒッチハイクで九州一周をしたときに、
次は日本の市町村を回りたいと
思うようなことがあったのでしょうか。
- かつお
- 知らない方に車に乗せていただいて
知らない場所へ移動したのですが、
そのとき、
車の窓から見える
通過するだけの場所のことを
自分は何も知らないなと‥‥。
- ――
- ああ。
- かつお
- 井底の蛙だなと感じて、
九州一周の旅が終わりました。
- ――
- そうでしたか。
- かつお
- 大学1年生の終わり頃に
「もう一度なにかできないかな」と
考えるようになりました。
世界一周ももちろん考えましたし、
ワーキングホリデーであったりとか、
留学とか、
あれこれ考えてみたんですけれど
やっぱり、
「この日本を自分はまだまだ知らない」
ということがひっかかっていまして。
- ――
- 知りたかったんですね。
- かつお
- ふと思ったのが、
「市町村っていくつあるんだろう?」
ということで。
調べたら、1741もある。
これは、仮に365日で割っても、
一日に5つは回らなきゃいけない。
「あ、ぜったい無理だ」と思ったんです。
- ――
- 学生でいられる
時間も限られていますしね。
- かつお
- はい。
それでも、市町村という単位は、
自分の中で「日本を知る」ということに
しっくりくる答えだったんですね。
だから「無理だ」と思いつつも、
なかなかあきらめずにいまして。
学校を1年間休学して、
やってみようと思いました。
- ――
- 休学を決意してまで。
- かつお
- ひとまず「1000」という数字を
目標にしてはどうだろう、と考えました。
ひとまずは1000。
それでも一日に3つくらい
回らないといけないペースなんですけど。
- ――
- 大学生が長い旅に出る理由として
一般的には「自分探し」というようなことが
あると思うのですが、
かつおさんの場合もそれはありましたか。
- かつお
- まったくゼロというわけではないですが、
優先事項ではなかったです。
もしなにかが見つかるんだったら、
それはそれでよし
というふうには思っていました。
けれどいちばんの動機は、
「ちゃんと日本のことを見てみたい」
ということでした。
- ――
- なるほど、見てみたい。
たしか、かつおさんのサイトの
どこかで読んだのを覚えています。
「市町村を巡るけど、ただ通り過ぎない」
- かつお
- はい。
やっぱり「通過」では、
その土地のことを
少なからず知ることは
できないんじゃないかなと思いまして。
それで、
自分はたまたま
写真を撮ることが好きだったので、
「ちゃんと写真を撮る」
ということをルールにすれば
いいんじゃないかなと考えました。
- ――
- ただの通過としないために、
かつおさんは写真を撮っていったんですね。
- かつお
- はい。
- ――
- かつおさんの旅がすごかったのは、
その写真と出来事を、
ウェブサイトに
まとめていたことだと思うんです。
だってあれ、
旅をしながら更新していたわけですよね?
- かつお
- そうですね。
死にそうな感じで更新していました(笑)。
- ――
- SNSだけなら、ずっとラクですよね。
「何々市に来ました」
ってツイートしながら日本全国‥‥
いや、それだけだってたいへんだ(笑)。
なのに、
写真と文章がていねいにアップされてる。
しかもサイトに訪れた人が
自分のふるさとを探しやすいように
ページが構成されています。
あのフォーマットを事前に用意してから
旅に出たわけですよね?
- かつお
- はい。
ウェブの知識はまったくなかったので、
まずは半年間くらい勉強をしました。
実際に作るのにも半年ぐらい。
- ――
- 出発前にそれだけかかっているんですね。
- かつお
- ぼく自身がやることはふたつあって、
「市町村をぜんぶ回りたい」
「写真も撮って回りたい」
ということです。
すべての市町村を
サイトでまとめることができれば、
「わたしが育ったまちは?」
と、逆引き辞典のように、
いろんな人が見てくれるんじゃないか
と考えましたし、
そこにすごく
ロマンがあるように思ったので。
- ――
- すばらしい仕組みのサイトだと思います。
本にまとめて出版することは
イメージしていましたか?
- かつお
- 最終的な夢として、
ずっと頭の中に描いていました。
一冊の本にぜんぶの市町村が
載っていることを思うと、
ワクワクしました。
けっこう最初の段階から
「それができたらすごいよな」
と思っていたのを覚えています。
- ――
- 叶いましたね。それが。
- かつお
- ありがたいです、ほんとに。
- ――
- 写真のこともうかがいたいのですが、
かつおさんは、写真部だったのですか?
- かつお
- 高校、大学と写真部でした。
- ――
- 今は写真館でお仕事をされていますが、
学生時代には
どうやって技術を学んだのでしょう。
- かつお
- 学生時代は独学です。
ですからこの旅で撮った写真は、
学生ならではの作品ではあるかなと
自分で感じています。
まだまだぼくは、
技術が足りていないなという感覚です。
- ――
- そうですか。
技術のことはわかりませんが、
かつおさんの写真には、
ただの風景じゃないなにか、
なんでしょう‥‥
立ち止まらせるなにかがあると思いました。
旅のあいだは、
どんなふうに撮ろうと思われていましたか?
- かつお
- 土地の雰囲気ができるだけ伝わるように、
という想いはありました。
この旅に関してはやっぱり、
できるだけではありますが、
その土地土地の人々の気持ちのようなものを
自分なりに感じたうえで
撮れたらなと思っていたので。
- ――
- 風景ではなく、
人を撮っている作品もありますよね。
人を撮るって難しくないですか?
距離感とか。
- かつお
- 自分はそれに関しても
成熟してるわけではないんです。
まず、たくさんお話をさせていただいて、
「よかったら、
写真を撮らせていただけないですか?」
という感じでお願いしていました。
- ――
- そこで暮らす人々を感じながら、撮る。
なるほど‥‥
その情報量を感じたからでしょうか、
この本を通して、
なんだか1741冊分の本を読んだような
気持ちになっていたんです。
- かつお
- ありがとうございます。
- ――
- ということは、旅のあいだ
孤独を味わう暇もなかったのでしょうね。
- かつお
- いやそれは、
もうひたすら孤独でした。
- ――
- ‥‥え?
(つづきます)
2020-09-12-SAT