アリのおしゃべりを解明する研究や
日本におけるヒアリの水際対策の第一人者、
九州大学の村上貴弘さんが、
なんといま、宇宙飛行士に挑戦しています。
なぜアリの先生が? なぜ50歳を超えて?
そんな疑問はぜんぶ、
「夢」ということばが吹き飛ばしてくれます。
JAXAが実施する宇宙飛行士候補者の
選抜試験に挑戦中の村上貴弘さんから
原稿が届く、毎週木曜日の連載です。
地球の裏側までアリを研究しに行く先生が、
地球から離れる日がやってくるかも?
どうか、宇宙へ飛び立つその日まで‥‥!

>村上貴弘さんのプロフィール

村上貴弘 プロフィール画像

村上貴弘(むらかみ たかひろ)

九州大学
「持続可能な社会のための決断科学センター」准教授。
1971年、神奈川県生まれ。
茨城大学理学部卒、
北海道大学地球環境科学研究科博士課程修了。
博士(地球環境科学)。
研究テーマは菌食アリの行動生態、
社会性生物の社会進化など。
NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」ほか
ヒアリの生態についてなどメディア出演も多い。
近著に『アリ語で寝言を言いました』(扶桑社新書)、
共著に『アリの社会 小さな虫の大きな知恵』(東海大学出版部)など。
ほぼ日ではこれまでのコンテンツで、
特定外来生物のヒアリについての知識や
ハキリアリのおしゃべりについて解説いただきました。

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第6回 家族はどう思っているのか?

突然に家族の一員が
「宇宙飛行士の試験に応募する!」と言い出したら、
どのような反応を示すものなのでしょうか。
もちろん人それぞれだとは思いますが、
うちの場合は、いたって冷静です。
まったく現実的なレベルのお話とは
受け止めておりません。

(妻)

うん。頑張ったら良いんじゃない。
せめて0次選抜、通ると良いね。

(上の娘・大学4年生)

おお!父、頑張れ!
宇宙飛行士になってアリとともに月に行っておくれ。

(下の娘・大学1年生)

‥‥(興味なし)。

という部分までを担当の平野さんに送ったところ
「ずいぶんあっさりとしていますねぇ」
と言われてしまいました。

そう言われれば、そうだな。
と思い、もう少し掘り下げて聞いてみました。
すると、アリ研究者を家族にもつことの
妙味がそこにはありました。

まず、妻ですが、もうこれは
今までの積み重ねとしか言いようがありません。
聞いてみると、「全然意外じゃないし!」との返事。
彼女は僕と一緒にパナマでダニにまみれて
アリを探すのを手伝ってくれたり、
一人でパナマから日本に帰国してもらったり、
オーストラリアのプーチェラという場所で
夜通し希少なアリを探し回ったり、
アメリカでU-Haulのトラックに
家財道具一式詰め込んでテキサス州から
カンザス州まで自力で引っ越ししたり、
北海道でヒグマに怯えながらアリを探したり、
安定した北海道教育大の准教授の職を捨てて
いきなり不安定な九州大学の准教授の道を
選んだりするのを経験しているので、
僕が宇宙飛行士選抜試験を受けることは、
想定の範囲内のようでしたし、
応援しているとのこと。
いやぁ、タフだなぁ!

娘たちも父親がパナマでアギトアリに刺されて
指が腫れて結婚指輪を切らざるを得なかったり、
台湾でヒアリに刺されて
軽いアレルギー症状が出て寝込んだり、
アリ語で寝言を言っているシーンに
出くわしたりするうちに、
ずいぶんと耐性がついてしまったようです。
二人とも父親の宇宙飛行士挑戦には
そこまで驚かなかったと言っています。

担当の平野さんからは
「もうちょっと掘り下げて聞いてみたら
いい話になるかもしれませんね」
と励まして頂きましたが、
どちらかというと
タフな家族の姿を浮き彫りにしたのかな、と思います。

(村上先生の宇宙飛行士選抜試験は
すでに断念という結果になりましたが、
この連載はストックがあったのでまだつづきます。
次回は7月14日に更新予定です)

2022-07-07-THU

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  • 村上貴弘さんの過去のコンテンツ

    正しく恐れるためのヒアリ講座

    アリがしゃべった!