テレビや映画ですてきな芝居をしているあの人。
そうです、そうです、あの人！
じつはあの人、「舞台の人」で、
たくさんのすばらしいお芝居に
出演してらっしゃるんですよ！
‥‥ということを言いたくて言いたくてたまらない。
こんにちは。
演劇のライターをしている中川實穗です。
いま大活躍している役者さんたちの
「舞台の人」の面をお伝えするシリーズを
スタートすることになりました。
第1弾にご登場いただくのは柿澤勇人さんです。
昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では
源実朝役で注目を集めました。
2007年に劇団四季からキャリアをスタートし、
いまでは数多くの作品で活躍する柿澤さんが
舞台で、稽古場で、体験したこと、
考えたことをお話しいただきます。
柿澤さんを皮切りに、
これからどんどん「舞台の人」に
ご登場いただく予定です。
どうぞよろしくお願いします!
柿澤勇人 （かきざわ・はやと）
1987年10月12日生まれ、神奈川県出身。
2007年に劇団四季の研究所に入所。
2009年に退団。
2011年からホリプロに所属し、舞台・映像と活躍の場を拡げる。
2022年放送のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、源実朝役を演じ話題に。
2023年３月、デビュー15周年記念 ミュージカルアルバム「First And Last」を発売。
2023年８～９月にはミュージカル『スクールオブロック』に主人公・デューイ役で出演。
2024年１月には三谷幸喜新作舞台『オデッサ』が控える。
- ──
- 柿澤さんは「飛びこんでいく人」だという
印象が私にはあります。
それは作品の選び方やキャリアの重ね方から
感じることなのですが、
最近でも、ことし３月に出演された
ミュージカル『ジキル＆ハイド』で
３代目ジキル／ハイド役を務められている姿に、
そう思いました。
怖くありませんでしたか？
- 柿澤
- めっちゃ怖かったですよ。
- ──
- 初代は鹿賀丈史さん、２代目に石丸幹二さんと、
ミュージカル界の大御所です。
その３代目に挑んでいく
気持ちの強さがかっこいいなと思っていました。
- 柿澤
- 『ジキル＆ハイド』は、
いろんなやり方があると思ったんです。
役者によってアプローチもぜんぜん違いますからね。
ただ、蜷川さん、
そして三谷（幸喜）さんとの出会いもなく、
ミュージカルオンリーでやってきていたとしたら、
あの『ジキル＆ハイド』は
絶対できなかったと思います。
かっこつけて終わってたんじゃないかな。
そこはすごく感じますね。
- ──
- 三谷幸喜さんとの出会いというのは？
- 柿澤
- きっかけは、僕が出演した
ミュージカル『メリー・ポピンズ』（2018年）を
三谷さんが観てくださったことでした。
そこで声をかけてくださって、
三谷さん作・演出の
『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』（2019年）
という舞台でご一緒させていただいたんです。
- ──
- 柿澤さんがシャーロック・ホームズ、
佐藤二朗さんがワトソンを演じた
ストレートプレイの作品ですね。
書き下ろしですよね。
- 柿澤
- はい、三谷さんがあて書きをしてくださいました。
（あて書き＝誰が演じるかを前提に脚本を書くこと）
『メリー・ポピンズ』って
王道ミュージカル作品なんですけど、
それを観て三谷さんは、
僕の持つ人間的なところなのか、内面なのか、
なにかにインスパイアされて、
シャーロック・ホームズを書いてくださって。
まずあて書きというのが役者人生で初めてでしたし、
すごくうれしかったですね。 - 台本はものすごい分量で、
今までのやってきた作品の中で一番だったと思います。
でも、それが苦にならないというか、
役がほとんど自分のように思えてきちゃって、
覚えるのも早かったです。
- ──
- 楽しそうです。
- 柿澤
- もちろん（主演としての）責任もあるし、
成功させなきゃっていうプレッシャーも
あったんですけど、
すっごい楽しかったです。
- 柿澤
- 僕は劇団四季を退団して、
伸びている鼻を折られてから、
芝居は苦しむものだ、
泥水飲みながらやるものだ、
くそくそと思いながら、
這い上がってやろうと思いながら
やんなきゃ役者はダメだ、
と思ってやってきたんですよ。
それはいまでも思っているんですけど、
三谷さんは芝居を
「楽しんでいいんですよ」っていう感じだったんです。 - 「楽しむ」っていうことを
10年ぐらいやっていなかったから。
三谷さんとの出会いが、
今までとまったく違う景色を
見せてくれたんだなと思います。
- ──
- そのきっかけが『メリー・ポピンズ』っていうのが
ちょっと意外性がありますね。
- 柿澤
- ですよね。青天の霹靂ですよ。
『メリー・ポピンズ』は僕、高所恐怖症で。
- ──
- ええ？（笑）
柿澤さんが演じたバートって
高所恐怖症で務まる役ですか？
空中を歩きますよね？
- 柿澤
- しかも逆さ吊り（笑）。
死ぬかと思いました。
- ──
- （笑）
- 柿澤
- Wキャストとはいえ、
それを毎日のようにやるわけですから、
もうね、こんな大っきなニキビが顔中にできて。
- ──
- 恐怖が身体に出ちゃった。
- 柿澤
- そうです（笑）。
でもそんなミュージカルを三谷さんがたまたま観て、
そこから新しい作品が生まれるっていう。
しかもミュージカルじゃないですからね。
「柿澤さんには絶対歌わせない」って言って。
三谷さんもひねくれものなんですよ（笑）。
- ──
- （笑）
- 柿澤
- 「今までこういう役をやってきたから、
今回もさあどうぞ」
みたいにはいかない。
- ──
- 観る側はそこがおもしろいですけどね。
あて書きということは、
三谷さんに取材されたりするんですか？
- 柿澤
- いえ、リサーチされることはなくて。
でも三谷さんのおうちにはよくお邪魔していました。
お酒をたくさん飲んで、
僕ひとり酔っ払って、泥酔して帰るっていう（笑）。
でもそのときに特になにかを話すわけでもないし、
幼少期はどうだったのとかそういう話もしてなくて。
たぶん、ぜんぶ三谷さんの頭の中で
膨らんでいるんじゃないかな。
- ──
- それで書かれた役が
自分のように思えるっていう。
- 柿澤
- それは大河のときもそう思いました。
- ――
- 昨年放送されたNHK大河ドラマ
『鎌倉殿の13人』ですね。
三谷さんが脚本を書かれて、
柿澤さんは源実朝役で出演されました。
- 柿澤
- シャーロックと実朝は
まったく違うキャラクターですが、
でもなんか、「見透かされてるな」と思うんです。
これはたぶん、三谷作品を演じる役者全員、
そうだと思いますよ。
だからみんな、
いつも以上に自分の役を愛して終わるんですよね。
演じた役をいまでも誇りに思える、という感覚です。
（つづきます）
2023-08-17-THU
-
柿澤さんの出演作品
ミュージカル
『スクールオブロック』
＜東京公演＞
日程：2023年8月17日（木）～9月18日（月祝）
会場：東京建物Brillia HALL（豊島区立芸術文化劇場）＜大阪公演＞
日程：2023年9月23日（土祝）～10月1日（日）
会場：新歌舞伎座＜キャスト＞
デューイ・フィン役：西川貴教／柿澤勇人（Wキャスト）
ロザリー・マリンズ役：濱田めぐみ
ネッド・シュニーブリー役：梶 裕貴／太田基裕（Wキャスト）
パティ・ディ・マルコ役：はいだしょうこ／宮澤佐江（Wキャスト）
ほか＜スタッフ＞
音楽：アンドリュー・ロイド=ウェバー
脚本：ジュリアン・フェロウズ
歌詞：グレン・スレイター
日本版演出・上演台本：鴻上尚史
ほか