
テレビや映画ですてきな芝居をしてるあの人の、
舞台での姿はご存知ですか!?
‥‥と言いたくて言いたくてたまらない
演劇ライター、中川實穗です。こんにちは。
今回ご登場いただくのは、
2024年の大河ドラマ『光る君へ』の
藤原道兼役でも注目を集めた
玉置玲央さんです。
劇団「柿喰う客」の看板俳優でありながら、
外部公演にもたくさん出演されていて、
さまざまなサイズの劇場、
そしてさまざまな役柄を、
ジャンルを超えて演じる俳優さんです。
そんな玉置さんの
演劇のお話、劇団のお話を
うかがいました。
ほぼ日社屋におこしいただいたからこそ?
な、おもわぬ場所に帰着する
熱いお話をお楽しみください!
玉置玲央(たまおき・れお)
3月22日生まれ。東京都出身。
劇団「柿喰う客」所属。劇団以外でも、『朝日のような夕日をつれて2024』『リア王』『ジョン王』『パンドラの鐘』『Birdland』など数多くの舞台作品に出演。映像では、初出演映画『教誨師』で第73回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞。2024年大河ドラマ『光る君へ』では藤原道兼役で話題を集めた。
題字 ほぼ日
- ──
- 玉置さんが、大先輩にあたる鴻上尚史さんに
「そうは思いません」と言えたのは、
「劇団」のムードだったりするのでしょうか?
- 玉置
- そう、そうなんです!
これまさに劇団公演とプロデュース公演の
違いの話なんですけど、
『朝日のような夕日をつれて』という作品は、
もともとは「第三舞台」の劇団公演として
上演されたものですが、今回はそうじゃない。
だからさっき話したような、
さばさばとした「プロが集まって、解散して」
でもよかったんです。
だけどなんか、
劇団(としてのクリエーション)が
できる現場だったんですよ。
僕みたいな若造が鴻上さんに、
「そうは思いません!」と言える空気感があったし、
そういうコミュニケーションの取り方ができた。
そういう「劇団感」がすごくある座組でした。
それはもちろん鴻上さんの空気のおかげでもあり、
集まったメンバーの空気のおかげでも
あったと思うんですが、
そこがすごく新鮮でした。
- ──
- 『朝日のような夕日をつれて』は
鴻上さんの演出で何度も上演されてきた
五人芝居ですが、上演の際には、
1981年の初演から大高洋夫さんが、
2回目の公演からは小須田康人さんも、
必ず出演者に名を連ねました。
でも今回の2024年の公演で初めて、
上演キャストを一新したんですよね。
玉置さんは実は2度目の出演で、
2014年の公演では
大高さんと小須田さんと共演されました。
前回と違いはありましたか?
- 玉置
- はい、前回も前回で素晴らしかったのですが、
レジェンドのおふたりがいらっしゃるからこその
作法があったように思います。
鴻上さんと大高さんと小須田さんの中で
なにか決まりのようなものがあった。
- ──
- ああ、歴史がある作品だからこその。
- 玉置
- そうなんです。
今回は、その公演から10年経って、鴻上さんが
「まったく新しい
『朝日のような夕日をつれて』をつくる」
というコンセプトでやられました。
だから、意見を言える空気、ともまた別の、
「全然違う方法論が入る」みたいなことを
狙ってやりたかったんだと思います。
そのうえであの座組にしてくれたので、
万々歳だなという場でした。
劇団っぽかったです、すごく。
- ──
- 玉置さんご自身としてはどうでしたか?
10年経って同じ作品に違う役で出演されて。
- 玉置
- おもしろかったですし、不思議でした。
再演で同じ役をやる、
とかはまだあることなんですけど、
同じ作品に、10年ぶりに、別の役で出たっていうのが、
なんか不思議でおもしろかったんですよね。
これも劇団感につながる話なんですけど、
前回はたぶん、鴻上さんの意図とか、
なにをしたいかを汲む能力も技術も知識も、
僕にはなかったんだと思うんです。
そこから10年経って、
今回は鴻上さんが企画段階からいろいろ話してくれた
っていうのもあるんですけど、
僕もそこにある意図を汲めるようになったんだと思う。
そういう段階を踏んでいくと、
自分がこの座組に10年ぶりにいて、
「少年」って役から「部長」って役になって、
自分の中で、いい意味で、
「それはそうだよな」って思えたし、
同時に、
じゃあこの座組でやれる自分の仕事はこれだな、
それをやろうって思えた。
スムーズにそういう10年が経ったというのは、
振り返ってみるとすごい不思議だなっていう。
- ──
- そこで振り返る10年の間に
なにがあったと思われますか?
- 玉置
- なにがあったんだろう。
今日のお話の根幹である、
俳優とかお芝居とか、
お客さまに劇場に足を運んでもらうという話とは
ちょっと離れるかもしれないですけど、
なんて言ったらいいだろうな....
お芝居に期待しなくなったというか、
自分に期待しなくなったというか。 - これネガティブに聞こえかねないんですけど、
なんて言うんだろう、
諦めがついたとか....
熱量がちょうど良くなったというか。
ネガティブじゃないんですよ、本当に。
ネガティブに聞こえるかもですけど。
- ──
- 若い時はお芝居が好きなぶんだけ
エンジンをふかしまくってたけど、
みたいな感じですかね?
- 玉置
- うんうん、そう。
そうだったのが、たぶん適切な速度ないしは回転数、
ないしは熱量に収まったんだと思います、この10年で。
その要因としては、それこそなんだろうな、
イチ側面としては、この10年の間に自分の中で
お芝居がきちんと仕事になったってことだったり、
家庭を持ったってことだったり、
あとこれは絶対切っても切れないんですけど、
コロナ禍があったこともあります。
あとはなんかいろんな人との出会いもあって、
その中で変わった価値観、変わらなかった価値観、
増長した価値観、減衰した価値観とかいろいろあって、
そのぜんぶが、
演劇も、舞台も、映像もふくめた
「お芝居」というものに対しての適切な距離感、
熱量になったんだなって感じです、この10年。
- ──
- そうなんですね。
- 玉置
- ずっとがむしゃらでしたし、盲目的でしたし、
自分が演劇を愛していれば
演劇の神様が愛してくれると思ってたし。
もちろんそれは今も変わんないですけど、
でもなんか当たり前ですけど、
そんなに単純なものじゃないってことも
この10年でわかったなと思います。
- ──
- コロナ禍が切っても切れないというところを
聞いてもいいですか。
- 玉置
- コロナ禍の話で言うと、
いろいろ絶望したこともあります。
演劇がこんなに社会的に優先順位が低いものなんだなと
目の当たりにしたりとか。
でもしょうがなかったじゃないですか、あの時って。
当たり前だけど、それぞれに正義があって、
それぞれに価値観の落としどころがあって、
全員が一応正解な時代で、
同時に全員が間違いの時代でもあったから。
- ──
- 自分にとっての大事なものが
世の中的にはそうじゃないと突き付けられるのは
大きなことですよね。
- 玉置
- 逆にそれで、自分の中で
もういっこ燃えた部分もありましたけどね。
もう一回取り戻さなきゃいけないなにかがあるなとか、
もうちょっと尊重してもらえる振る舞いをしようとか、
っていうのはやっぱ思いましたから。
だからこの10年、紆余曲折って感じでしたね。
(つづきます)
2025-03-22-SAT