ラジオパーソナリティのクリス智子さんが、
ご自宅の近所にひっそり建っていた
ふる〜い一軒家を引き継いで、
おもしろそうなことをはじめるみたいです。
その建物‥‥というか「場」の名前は、
cafune(カフネ)。
愛しい人の髪にそっとやさしく指を通す、
おだやかなしぐさ‥‥という意味を持つ
ポルトガル語なんだそうです。
いったい、何がはじまるんだろう?
わくわくしながら、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>クリス智子さんのプロフィール

クリス智子(くりす・ともこ)

ハワイ生まれ。上智大学卒業後、FMラジオ局・J-WAVEでナビゲーターデビュー。現在も同局で『TALK TO NEIGHBORS』(月曜日〜木曜日、13:00〜13:30)に出演中。そのほかナレーションやイベントMCなど、幅広く活躍中。

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──
今日は、クリスさんご夫妻が
リノベーションした古民家のお話を聞こうと、
やってきたんですけど、
まず「母屋」といいますか、
ふだん、ご家族で生活されているおうちも、
めちゃくちゃ素敵ですね。
モランディの絵がかかっていたりして、
それがまたピッタリで。
クリスさん
この家は、わたしたちで「4代目」なんです。
最初の最初は、
昭和15年にドイツ人の方が建てたそうです。
わたしたちの1代前のオーナーが
パリで活躍されていたデザイナーのご夫婦で、
そのときに、
原型をとどめないレベルで改装されたようで。
──
昭和15年! 歴史ある建物なんですね。
クリスさん
さらに、そこから、
わたしたちが、いろいろと変えているんです。
家のかたちそのものは、
最初からあんまり変わっていないんですけど。

──
以前は「玄関がなかった」んですよね。
クリスさん
そう、前のオーナーは
デザイナーの水野正夫さんと奥さまなんです。
とってもおもしろい方だったようで、
家から「玄関」をなくしちゃってたんですよ。
玄関のない家だったの(笑)。
──
どうやって入るんですか?
クリスさん
勝手口か、リビングの大きな窓から。
お客さんが大勢がいらしたときは
「そこから入れば」という感じだったみたい。
軽井沢なんかだと、
けっこう多いスタイルらしいです。
──
そうなんですね。
でも、クリスさんたちになって玄関ができた。
クリスさん
はい、わたしたちの場合は、
玄関はあったほうがいいかなあって(笑)。
「長く住むんだったら、もう、思い切ろうか」
ということで、
いろいろリフォームすることにしたんです。
──
たとえば、どんなところを変えたんですか。
クリスさん
家の北側が崖になっているんですけど、
雰囲気がよかったので、
家の中から見えるように改装したりとか。
崖に、ほこらのような穴が空いていて。
あの‥‥あそこなんですけど。
戦時中は、防空壕に使っていたのかもね。
──
わあ、おもしろい。
子どもだったら絶対秘密基地にしてた。
ふだんは、何のために使ってたのかな。
クリスさん
(ダンナさまに)何だっけ?
ダンナさん
食料倉庫として使われていたらしいね。
それとやっぱり、
戦時中は防空壕としての役割もあって。
クリスさん
鎌倉にはわりと多いよね。
こういう穴を、あちこちで見かけます。
将来的にはワインセラーにできるかな、
なんて思ってるんです。
──
おー、それはカッコいいなあ。
いろいろやりがいのある家なんですね。
クリスさん
そこがいいところなんです、この家の。
最初に見たときは、
森の中に家が建ってるみたいな感じで、
人が住まなくなって長かったし、
前の方の荷物もいっぱい残されていて。
──
それでも「ここに住みたい」と?
クリスさん
ポテンシャルあるなって思ったんです。
ダンナさん
門に「MIZUNO」と書いてあったんですね。
彼女がちょっと聞いたところ、
デザイナーの水野正夫さんだとわかって。
で、その水野さんの本を見てみたら、
この家が載ってた(笑)。

──
えー、そうなんですか!
クリスさん
本で、この家のかつての時間を見たり
読めたりできたことは、
不思議な体験でうれしかったです。
水野正夫さんって、
パリコレなどでも活躍されていた方で、
山本寛斎さんなんかよりも
世代的に先輩でらっしゃる方なんです。
この家に住もうと決めたときは、
すでに亡くなられていたんですけれど、
奥さまにはお会いできたんです。
──
どのような方だったんですか。
クリスさん
本当に上品ね。
もう7、8年になると思うんですけど、
わたしたちがお会いしたときは
90歳くらいでしたが、とってもお元気でした。
その後、何年も続けて
年賀状でやり取りをさせていただいたりして。  
──
いま住んでいる家が
昔の本に載っているのって、
なんだか不思議でおもしろいですよね。
クリスさん
掲載されている写真は、
水野さんが越してこられたときのものなので、
そこからだいぶ改装されてます。
だから、本に載っているお部屋が
いまの家でいうとどこなのか、
よくわからなかったりね。
──
へええ。
クリスさん
ステンドグラスみたいな窓もあったみたい。
わたしたちが来たときには、
もうなかったんだけど。
いま、ここのリビングは一室ですけど、
もともと複数の部屋だったんです。
壁を抜いて一室にしたらしいんですが、
どうしても柱は必要で‥‥。
ダンナさん
こういう空間を木造建築でつくるのは、
構造的に無理があったようで、
柱を組んで、
何箇所かには、鉄のかすがいを入れて、
強度を補っているんです。
──
たしかに、かなり広い部屋ですもんね。
クリスさん
もともとキッチンだったスペースを
わたしの部屋にリノベーションしたり、
L字型の広い空間だったものを、
自分たちに合うように変えたんですね。
相当な量の蔵書、食器やツボなんかも
残されていました。
それらをわりと引き受けて、
いまも使わせてもらっていますけれど。
──
いいですね、そういうの。
クリスさん
水野さん、お茶をなさっていたんです。
茶釜や茶碗をたくさん持っていらして。
たくさんのお客さんが、
いらっしゃったんだろうと思います。
引き継ぐときに、奥さまが
「好きなものがあったら持っていって」
とおっしゃってくださったので、
30客ほどいただいて、使ってるんです。
ダンナさん
奥さまによると、
ここの家で、ファッションの発表会を
開催する構想もあったそうで。
──
十分にできそうです。
クリスさん
奥さまもデザインをやっていた方で、
東京と軽井沢で
「キャフェ水野」という有名なお店を
なさっていたようです。
本当に、素敵なご夫婦だったみたい。
──
いつくらいの時代に、
主にご活躍してらしたんでしょうか。
クリスさん
50、60年代くらいから、なのかな。
ZUCCaの小野塚(秋良)さんだとか
フォトグラファーの小暮徹さん、
こぐれひでこさんご夫妻は
水野さんのことをご存知でした。
NHKの「婦人百科」だとか
「おしゃれ工房」なんかに
ご出演されていた方なんです。
──
そんな方から、引き継いだおうち。
クリスさん
そうなんです。

木立の中に佇むcafune 撮影:公文健太郎 木立の中に佇むcafune 撮影:公文健太郎

(つづきます)

インタビューカットはじめ、

撮影クレジットの明記されていない写真は、

すべて編集部による撮影です。

2024-08-28-WED

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  • 2024年8月28日の21時、 cafuneのオンラインショップが オープンします。

    撮影:藤原慶

    クリス智子さんご夫妻が
    近隣の古い民家を引き受けて再生した
    cafune(カフネ)という場。
    ここから何がうまれるんだろう‥‥と
    わくわくします。
    まずは「cafune & pieces」という
    オンラインショップが、
    8月28日(水)の21時にオープン。
    第1弾のおたのしみとして、
    3つの「まあるいもの」を販売予定。
    おいしいうめぼし、真っ白いお皿、
    ベーグル型の鍋しきと、
    どれもクリスさん一家が愛用する品
    (写真は、鍋しき)。
    それぞれの作家さんと
    クリスさんの対話も公開予定だそう。
    気になったら、cafuneのサイト
    チェックしてみてください。