
本屋さんで偶然出会った
『たまごのはなし』という絵童話。
ある日とつぜん目をさました
「たまご」が主人公なのですが、
これがほんとうにおもしろかった!
かわいいだけじゃなくて、
奇妙で、笑えて、けっこう哲学的。
こんな魅力ある物語をつくるなんて、
作者はいったいどんな方なのでしょうか?
さっそくご本人にお会いしてきました。
担当は「ほぼ日」の稲崎です。
しおたにまみこ
絵本作家。
1987年、千葉県生まれ。
女子美術大学工芸学科卒業。
背景美術制作会社勤務を経て、絵本作家となる。
はじめて制作した絵本『やねうらおばけ』は、
2014年第15回ピンポイント絵本コンペ優秀賞を受賞。
作品に『そらからきたこいし』(偕成社)、
『やねうらべやのおばけ』(偕成社)など。
絵童話『たまごのはなし』(ブロンズ新社)は、
「MOE絵本屋さん大賞2021」2位、
「ブラチスラバ世界絵本原画展」金牌受賞。
Amazonでのご購入はコチラからどうぞ。
『たまごのはなし』
ある日とつぜん目をさました、たまご。
はじめて歩き、はじめて話し、
相棒のマシュマロと探検に出かけるも‥‥。
シュールで、ユーモアがあって、
クスッとしたり、ドキッとさせられたり。
読めば読むほどに引きこまれる
不思議なエピソードを3話収録した絵童話です。
大きな事件はなにも起きないけれど、
何度も読み返したくなる魅力があります。
ミニシアター系の映画を見ているような、
ちょっとアンニュイな世界観がたのしめます。
作者しおたにまみこさんの描く
繊細な鉛筆画は海外からの評価も高く、
世界最大規模の絵本原画コンクール
「第28回ブラチスラバ世界絵本原画展」では、
『たまごのはなし』が「金牌」に選ばれました。
さらに、本の中のイラストを使った
『たまごのはなし』のLINEスタンプも配信中!
使いやすくてかわいいと評判だそうですよ。
- ──
- たまごが手作りの帽子をかぶって
散歩に出かけるシーンがありますよね。
せっかくおしゃれしてるのに、
誰も帽子のことに気づいてくれないっていう。
- しおたに
- ええ。
- ──
- あのシーンを読んだとき、
最初はおしゃれに気づかないまわりに、
ちょっと否定的な気持ちがあったんです。
- しおたに
- たまごたちも文句いってますよね。
- ──
- ところが、何度か読んでるうちに、
だんだんと逆のことを思いはじめたんです。
- しおたに
- 逆?
- ──
- 手作りの帽子が「おしゃれ」というのは、
たまごの主観なわけですから、
ちょっと厳しい見方をすれば、
まわりには「ふつうの帽子」にしか見えなかった
可能性もあるんじゃないかなって。
- しおたに
- あぁ、なるほど。
みんなはスルーしちゃったわけだから。
- ──
- それこそ若いときって、
そんなことの連続だったなって思ったんです。
じぶんがつくったものは
世界一かっこいいと思っちゃう。
- しおたに
- とくに子どもってそうですよね。
わたしの姪っ子がまだ小さいとき、
1分くらいで描いた絵を
「名作だ!」みたいな顔でもってくるんです。
- ──
- はい、はい(笑)。
- しおたに
- それでわたしが気をつかって、
「お、いいじゃん」なんていったら、
今度は部屋に飾ることを要求してくる。
それでしばらく壁に貼ってあげて、
もういいかなと思ってはがしたりすると、
「なんではずしたの!」って文句をいわれる。
- ──
- よくわかります。
- しおたに
- そこまで詰め寄られると、
わたしもつい姪っ子に聞いちゃうんです。
「だったら聞くけど、
そこまで執着してつくったか?」と。
- ──
- 急にアーティスト目線(笑)。
- しおたに
- 「わたし、絵1枚に1週間以上はかけるよ」
- ──
- はははは。
- しおたに
- そこまでいってようやく
姪っ子も引き下がってくれるんです。
つまり、子どもってそうで、
じぶんを褒めてほしいきもちが先行しちゃう。
モノじゃなくて。
- ──
- あー、そうですよね。
- しおたに
- ちょっと大人げないですけど(笑)。
- ──
- ちょうど絵の話が出ましたけど、
ピーナッツにはちみつをかけるシーン。
あの絵、すごく好きです。
- しおたに
- あそこはたまご、
悪意ゼロじゃないですよね。
- ──
- でも、本人はそこまで
ひどいことしてるとは思ってない。
- しおたに
- ちょっとムカついたからやったんでしょうね。
- ──
- なにかするとは思っていましたけど、
読んでいて「そうきたか!」って思いました。
ナッツたちには悪いですけど、
これはこれで憎めないやり方ですよね。
- しおたに
- そこはバランスなんでしょうね。
このナッツのシーン、
最初のたまごの提案はやりすぎですよね。
あれだとエグいだけになっちゃう。
だからマシュマロも
そこはちゃんとたしなめてます。
- ──
- マシュマロ、いいやつだなぁ。
- しおたに
- ですね(笑)。
- ──
- マシュマロはたまごのことを
「へんなたまご」とはいうけど、
「わるいたまご」とは絶対にいわない。
このちがいもすごく大事ですよね。
- しおたに
- たまごのことをわかってますよね。
そういう言葉のチョイスが
マシュマロはうまいなって思います。
- ──
- 最後に答えられたらでいいのですが‥‥。
- しおたに
- はい。
- ──
- この本の続編ってあるんですか?
- しおたに
- ええと、はい、あります。
いま続編をつくっているところです。
- ──
- あっ、もうつくってるんですね。
次はどんなおはなしなんでしょうか。
- しおたに
- 次は「いちじく」が主人公です。
- ──
- いちじく?
- しおたに
- 果物のいちじくです。
いつも話を盛りがちないちじくがいて、
それをたまごやマシュマロが
「なんかその話、ヘンじゃない?」って
徐々に気づいていくというおはなしです。
- ──
- 発売はいつ頃なんですか?
- しおたに
- 来年のはじめくらいだと思います。
ラフが終わって、
いま原画を描いているところで、
まだぜんぜん進んでいません(笑)。
▲次回作『いちじくのはなし』のラフスケッチ
- ──
- きょうはありがとうございました。
次回作もすごくたのしみです。
『たまごのはなし』のおかげで、
もっといろんな絵童話を読んでみたくなりました。
- しおたに
- ちょっと前にSNSだったかメールだったか、
高校生の方からこの本の感想を
いただいたことがあったんです。
それがすごくうれしかったんですよね。
わたしも高校生だったとき、
ふつうにローベルが好きだったので。
- ──
- いま読んでもおもしろいですよね。
- しおたに
- 本が読めるようになるのって、
けっこう個人差があるじゃないですか。
読める子は子どもの頃から、
文字ばかりの本を読むと思うんですけど、
そういう子は逆に絵童話は選ばずに、
もっと大人に近いものを読むんですよね。
- ──
- ああ、そっか。
とばしちゃうんですね。
- しおたに
- それに本を読まない子っていうのは、
ほんとうに読まないまま大人になっちゃう。
その高校生のことはわかりませんけど、
わたしはそんな感じだったので。
- ──
- こういう小さな本、
大人が読んでもおもしろいですよね。
ぼくも本屋で見かけて、
そのままじぶん用に買いましたから。
- しおたに
- 絵童話って子どもでも大人でも
それぞれにたのしめるものだと思うんです。
こういう小さい本をきっかけにして、
もっと他の本も読みたいと思ってもらえたら、
それはすごくうれしいことだなって思います。