糸井重里は数年前から、
ふくしひとみさんの活動に注目していました。
コンサートにも何度か行きました。
ふくしさん本人のほか、人形や動物が登場し、
たくさんの楽器が同時に奏でられる、
ほかにはないショーでした。
いつか渋谷の「ほぼ日曜日」で
ふくしさんの展示や演奏会をやれたらいいね、と
ずっと言っていました。
このたびそれが実現することになりました。
みんな大好きなあのたぬき、もちろんいます。
ふくしさんの世界を覗いたことのないみなさま、
さぁ、集まりましょう。
手はじめに、ふくしさん、夫の戌一さん、
糸井のおしゃべりをどうぞ。
ふくし ひとみ
岩手県生まれ。
ピアニスト、ダンスアーティスト、イラストレーター、
ヨガインストラクター、方言ラッパー。
「ふくしひとみ芸術文化研究所」代表、
日本どうぶつの会CEO。
SNSで活動が注目され、かずかずのライブを開催。
類を見ない発想で独自の世界を表現しています。
2025年３月19日に
『ふくしひとみの不思議愉しいカクテルレシピ』を
KADOKAWAより発行。
夫である戌一（いぬいち）さんは
マネジメントとプロモーションを担当。
→自宅での演奏のようす
→「ぬいぐるみ楽団」との合奏
→ふくしひとみさんについて
→戌一さんのX
- 糸井
- ふくしひとみさん、戌一さん、こんにちは。
以前からふくしさんの活動をSNSで注目してて、
コンサートにも行かせてもらって、
それまで体験したことのなかったような
演奏を拝見しました。
で、すみません、えっと、
戌一さん‥‥の顔の、それは？
- 戌一
- 狐（きつね）のお面です。
自分たちで作ったものなんです。
- ふくし
- 初期のころ、私たちは
狐のお面を作って生計を立てていた
時期がありました。
- 糸井
- ‥‥え？ 音楽ではなく、お面？
- 戌一
- これしか売れなかったので。
- ふくし
- いっとき、世間ではすごく流行ってたんです。
- 糸井
- 狐のお面が、すごく。
- 戌一
- 私たちの生きる狭い世界では、
わりと「すごく」流行っていました。
- 糸井
- そうなんですか。
狐のお面で生計を立てていたとき、
ふくしさんは現在のような音楽活動を
なさっていたのでしょうか。
- ふくし
- いえ、していませんでした。
- 戌一
- いまは、ふくしの音楽活動を
私がマネージャーとして支える体制ですが、
当時は逆でした。
私がお面を、ふくしはその手伝いをして、
毎日喧嘩しながら作っていました。
- ふくし
- お面の耳のあたりに紐を通すハトメがあるんですが、
ハトメを打つ、いわば「打ち子」として、
私は雇われていたのです。
音楽は一切やっていませんでした。
私はとにかく、どうやったらピアノを
弾かない人生になるのだろうか、ということを、
いつも模索していたので。
- 糸井
- ‥‥冒頭からすでに、おもしろいです（笑）。
そうかぁ、どこから訊こうかなぁ、
ええっと、ふくしさんの活動は
SNSで広まったとぼくは思っていますが、
そこに至るまでに長い道のりがありそうですね。
ピアノを弾かずに、
もともとはお面のハトメを打っていた、と。
- ふくし
- どうにかピアノを弾かずに
生活することはできないだろうか、
ということが前提だったので、
私は打ち子としての毎日を送っておりました。
- 糸井
- けっこう長い期間、そうだったんですか。
- ふくし
- 足かけ５年くらいは。
- 糸井
- あ、長いですね。
ピアノを弾かずにハトメ打ちを５年。
お面で食えていたということがまず、
すごい気がしますけれども。
- ふくし
- お面‥‥というよりもまず、私たちのなかで
「流行りに乗せた商品を作ろう」という
ブームがあったんです。
流行りのものを作って、
流行りに乗れる人間になりたい。
そう思っていた時期がありました。
- 戌一
- そして
「狐面がこんなに売れるんだったら、
いろんな狐面を作ったらいいんじゃないか」
ということになり、
いちごを飾ってスイーツデコ狐面、
なんていうこともやりはじめて。
- ふくし
- 当時、スイーツも流行ってたんですよ。
でもそれはスベって売れませんでした。
- 糸井
- でもふくしさんは結局、スイーツデコ狐面を
作れるわけではなかったんですよね？
できることはピアノだったわけで‥‥
- ふくし
- 打ち子の才能は、
なかったかもしれません。
- 戌一
- どちらかというと下手でした。
穴は曲がっているし、何回も失敗するし、
「じゃあ下地を塗っておいて」とお願いしても
ムラだらけで
「これは商品にできない」と、
いつも喧嘩になっていました。
- 糸井
- なかなか音楽の話にならなくてすみませんが、
おふたりはいつ頃からコンビで活動を
なさっているんでしょうか。
- ふくし
- 10年前ぐらいです。
戌一が美術の仕事をしていたので、
私はそこへアシスタントとしてやってきました。
- 糸井
- ふくしさんは応募で採用されたのですか？
- 戌一
- いえ、下北沢でふくしが
初個展をやっていたときに
私が立ち寄って、そこで出会いました。
- 糸井
- ふくしさんの個展でご夫婦の出会いが。
- ふくし
- 私が、とにかくピアノを弾かない人生になりたくて、
絵を描いていた時期がありまして。
下北沢のギャラリーで個展を開いたら、
そこにお客さんとして戌一が来ました。
- 糸井
- そこでアートチームが結成された、と。
ふくしさんは戌一さんに、
「ピアノを弾かない人生を送りたいんです」と
当初から告げていたわけですか。
- ふくし
- あ、戌一は、私がこんなふうに
ピアノを弾くことを知らなかったと思います。
「絵描きです」とずっと言ってましたから。
- 戌一
- 「子どもの頃にピアノを習っていた」
くらいのことはなんとなく聞いていましたが、
まぁ、習ってた子って
世の中にいっぱいいるじゃないですか。
- 糸井
- いる、いる（笑）。
- 戌一
- なので「ああ、そうなんだ」と聞き流してました。
わざわざ「じゃあ、弾いてみて」とはならなくて。
- 糸井
- それがねぇ、こんなふうに
ピアノを弾く人だったなんて。
（明日につづきます）
撮影：池田晶紀、池ノ谷侑花（ゆかい）
ヘアメイク：広瀬 あつこ
2025-03-20-THU
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１ヶ月間だけ渋谷に現れる、
摩訶不思議な「たぬき縁日」です。
「ふくしひとみミニライブ」も
会期中に開催します。