家で過ごすことが増えたいま、
充電のために時間をつかいたいと
思っていらっしゃる方が
増えているのではないかと思います。
そんなときのオススメはもちろん、
ほぼ日の学校 オンライン・クラスですが、
それ以外にも読書や映画鑑賞の
幅を広げてみたいとお考えの方は
少なくないと思います。
本の虫である学校長が読んでいる本は
「ほぼ日の学校長だより」で
いつもご覧いただいている通りですが、
学校長の他にも、学校チームには
本好き・映画好きが集まっています。
オンライン・クラスの補助線になるような本、
まだ講座にはなっていないけれど、
一度は読みたい、読み返したい古典名作、
お子様といっしょに楽しみたい映画や絵本、
気分転換に読みたいエンターテインメントなど
さまざまな作品をご紹介していきたいと思っています。
「なんかおもしろいものないかなー」と思ったときの
参考にしていただけたら幸いです。
学校チームのメンバーが
それぞれオススメの作品を
不定期に更新していきます。
どうぞよろしくおつきあいください。
no.2
『会計の世界史』田中靖浩
簿記と銀行のルーツはイタリア。
「ヴェニスの商人」の舞台が
ヴェニスだったことには、
やっぱり意味があったのです
『会計の世界史
イタリア、イギリス、アメリカ——500年の物語』
田中靖浩(日本経済新聞社 2420円)
シェイクスピア講座2018 第12回を担当してくれたのが、
ベンチャーキャピタリストの村口和孝さん。
題して、「ベンチャービジネスと『ヴェニスの商人』」。
異色の講座でした。でも聞いてみれば、なるほど!
目からウロコが落ちました。
「ヴェニスの商人はベンチャービジネスとしか
読みようがない」と村口さん。
人と人が、つながりを背負い込み合いながら
不確実な未来に挑戦し、成功と失敗を繰り返すドラマは、
投資家の人生そのものだと。
そんなテーマに興味をお持ちの方におすすめの本です。
中世から現代まで、500年の歴史物語を味わいながら、
多くの人が苦手な「会計」を学べる本です。
イタリアからオランダ、イギリスからアメリカへと、
名画、名器、偉人、名曲の数々と出会う
タイムトラベルですが、
その中からイタリア編をご紹介。
中世のイタリア半島、なかでもヴェニスの造船技術、
航海技術は卓越していたそうです。イタリア商人たちは
いち早く地中海とヨーロッパを結ぶ航路を拓き、
東方貿易で巨大なビジネス的成功を収めていたわけです。
「14世紀の初頭、ヨーロッパでは10万人都市は
パリを除いてすべてイタリアにありました。
ヴェネツィア、フィレンツェ、ミラノ、ジェノヴァ、
ナポリ……」というから驚きです。
ボロ儲けしたお金を盗賊にとられてしまっては
元も子もないということで「バンコ」、
つまり銀行が生まれます。そして、
貸したり借りたりの実務を記録するために
発達したのが簿記。
バンコはヴェニスの机ひとつから
始まったとされていますが、
ダイナミックな大航海が、机の上の帳簿に
記録されていくというのはなんだか面白いですね。
「ベニスの商人」の主人公アントーニオは、
世界の最先端ビジネスの街にふさわしい
ベンチャー経営者なんですね。
友との信頼と義理を大切にする、
今で言えばベンチャー投資家です。
しかもこの物語の最後に沈んだはずの船も
「ひょっこり港に帰ってくる」わけですが、
著者の田中さんは「ヴェネツィア船乗りたちの
航海術が高いレベルにあることを
シェイクスピアも理解していたのでしょう」
と書いています。
もうひとりの登場人物も忘れてはなりません。
アントーニオの敵役、シャイロックです。
世界の金融を語るうえで無視できない存在、ユダヤ人。
実は、中世のキリスト教は「利息」を否定していました。
時間は神のもの、なにもしないで生まれる利息を
人間が受け取ってはいけない、
それはみんな神のものという考え方です。
これ、イスラム金融でもある話で、
やはりキリスト教とイスラム教は似ているんですね。
とにかく、商人はお金を借りたい、バンコは貸したい……
その矛盾を解決したのが異教徒ユダヤ人です。
つまり金を貸すという「卑しい仕事」を担ったのが
ユダヤ人だった。当時ユダヤ人は
交易も職人になることも許されず、蔑まれながらも、
金融で生きていくしかなかったのです。
そう考えると「ヴェニスの商人」の結末、
シャイロックのまさに踏んだり蹴ったりの状態は、
気の毒です。
さて、この本はイタリアから、
オランダ・東インド会社(VOC)、
イギリス産業革命を経て、アメリカ大陸へと、
今日までの会計の歴史をひもといていきます。
アントーニオもシャイロックも、
ビジネスの源流をカタチづくった人かもしれない——
そう思いながら、ほぼ日の学校の村口さんの講義と
『ヴェニスの商人』をあわせて
お楽しみいただくというのはいかがですか。
(つづく)
2020-04-20-MON