家で過ごすことが増えたいま、
充電のために時間をつかいたいと
思っていらっしゃる方が
増えているのではないかと思います。
そんなときのオススメはもちろん、
ほぼ日の学校 オンライン・クラスですが、
それ以外にも読書や映画鑑賞の
幅を広げてみたいとお考えの方は
少なくないと思います。
本の虫である学校長が読んでいる本は
「ほぼ日の学校長だより」
いつもご覧いただいている通りですが、
学校長の他にも、学校チームには
本好き・映画好きが集まっています。

オンライン・クラスの補助線になるような本、
まだ講座にはなっていないけれど、
一度は読みたい、読み返したい古典名作、
お子様といっしょに楽しみたい映画や絵本、
気分転換に読みたいエンターテインメントなど
さまざまな作品をご紹介していきたいと思っています。
「なんかおもしろいものないかなー」と思ったときの
参考にしていただけたら幸いです。
学校チームのメンバーが
それぞれオススメの作品を
不定期に更新していきます。
どうぞよろしくおつきあいください。

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no.15

『今昔物語集』

原文で読む、
平安のすべらない話など。

  

2回めにして、どの講座に紐づくというリンクが
ちょっと作れなくて、もうお詫びするしかないのですが、
「古典」は原文で読むのもいいぞーという話を。

今は昔。

私が、大学受験の勉強をしているときに
ふと気がついたことがありました。
それは、国語の「古典」といわれる科目の問題で、
「説話集」といわれるジャンルに、
ときおりものすごくおもしろい小話が
出題されているということです。

古典の文章は授業のときみたいに、
一文を文法的に分解しながら
読んでいかないと読めないんだと思いすぎていて
内容なんて全然あたまにはいってこなかったのですが、
ある日、問題を解くのに飽きて、
文章を読んでしまったら、
突然それが「おもしろ小話だ!」とわかったのです。
そりゃ、いくら文語とはいえ、
日本語で書かれているのだから、
読もうとおもえば、
読めてしまうのは当たり前なんですが。

それがすごくうれしくて、小話がもっと読みたくて、
最初は、古典の問題集を
買い漁るというおかしなことをしまして、
後に、原文に脚注がはいっている
岩波文庫の存在を知りました。
そして、はじめて購入したのが『今昔物語集』でした。
私が好きなジャンルは、
国内のおもしろ小話が書いてある、
「本朝部」で、上中下巻があります。


今昔物語集―本朝部〈上〉
岩波書店 1,243円

内容は、山の仙人がイノシシに騙された話とか
怪力のお坊さんの話とか、おもしろいものもあれば
じんわりくるいい話もあれば、
怪談めいたものなどもあります。
当時の人が、わざわざ書いて残そうと思った話なので、
ちょっとは感覚がズレてはいますが、
中身はおもしろいんです。
だって、当時劇的に貴重だった
紙に書いて残されているのですから!
たぶん、当時の「すべらない話」
だったのではないかと思います。

内容はもちろんなんですが、
わたしは文語でかかれた文章が
ことのほか好きなので、
うっとりしながら文字を追っています。
一文が簡潔でビシッとしていて、
リズムがよくて、とてもかっこいいんです。
現代文に訳してしまうと、
どうしても文章が冗長になってしまって、
今昔物語の味わいが減ってしまうように思えます。
できたら、翻訳小説も原文で読みたい願望と
一緒なのかもしれません。

ちょっと、ひとつの小話の冒頭を書き写してみます。

今昔、村上天皇の御代に、玄象と云ふ琵琶俄に失にけり。
此は世の伝はり物にて、極き公財にて有るを、
此失せぬれば、天皇極嘆かせ給て、
「此る事無き伝はり物の、我が代にして失ぬる事」
と思し歎かせ給も理也。

ああ、すばらしく、かっこいい。
いまも、文語があればいいのに。

そして、もしかして気が付かれた方が
いるかもしれませんが、
こちらは、前回私が書いたもので紹介した
『陰陽師』の1巻目にでてくる
ストーリーの元になった小話です。
古くは芥川龍之介が
今昔物語に題材をとるということをしてきましたが
あのくらいの時代をベースにしている作品には
いまでも今昔物語がちらちらと顔をだします。
読んでいて、そういうものにいきあたると、
読書のご褒美をもらったような
うれしい気持ちになります。
このあたりも、『今昔物語』の醍醐味かもしれません。

私は、たまたま古典原文の入り口は
『今昔物語』でしたが、
どれでもお好きなものでいいと思います。
現代語訳じゃなくても読めるんだと気がついたときに、
世界がちょっと広がった感じがしたあれを!
あの感覚を味わっていただけたら!

(つづく)

2020-05-07-THU

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