家で過ごすことが増えたいま、
充電のために時間をつかいたいと
思っていらっしゃる方が
増えているのではないかと思います。
そんなときのオススメはもちろん、
ほぼ日の学校 オンライン・クラスですが、
それ以外にも読書や映画鑑賞の
幅を広げてみたいとお考えの方は
少なくないと思います。
本の虫である学校長が読んでいる本は
「ほぼ日の学校長だより」
いつもご覧いただいている通りですが、
学校長の他にも、学校チームには
本好き・映画好きが集まっています。

オンライン・クラスの補助線になるような本、
まだ講座にはなっていないけれど、
一度は読みたい、読み返したい古典名作、
お子様といっしょに楽しみたい映画や絵本、
気分転換に読みたいエンターテインメントなど
さまざまな作品をご紹介していきたいと思っています。
「なんかおもしろいものないかなー」と思ったときの
参考にしていただけたら幸いです。
学校チームのメンバーが
それぞれオススメの作品を
不定期に更新していきます。
どうぞよろしくおつきあいください。

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no.32

映画『こどもしょくどう』

食べることは命、
食べることはつながり。


(c)2018 「こどもしょくどう」製作委員会

「こども食堂」のはじまりは2012年、
わずか8年前のことです。
それまでもご近所の助け合いはあったでしょうが、
あえて「こども食堂」と名乗ってはじめたのが、
東京都大田区の青果店
「気まぐれ八百屋だんだん」の近藤博子さんでした。
学校給食以外、ろくに食事をしていない子がいるのを
知ったことがきっかけでした。
「それなら、うちの店で
食べられるようにすればいい」
近藤さんはごく自然に、
柔らかな笑顔で子供たちを受け入れ、
ごはんを食べさせることをはじめました。

気まぐれ八百屋だんだん こども食堂 気まぐれ八百屋だんだん こども食堂

ちょうどその頃、日本の子供の相対的貧困率が
16%(およそ6人に1人)という推計が発表され、
貧困を原因とする子供の悲しい事件の報道も
目立つようになってきました。
(相対的貧困率とは、餓死の危険がある
絶対的貧困率とはちがって、その国の文化水準、
生活水準と比較して困窮した状態を意味します)

そして近藤さんの活動は「貧困対策の取り組み」として
新聞やテレビで紹介され(近藤さんには
“対策”という意識はありませんでしたが)、
「こども食堂」はじわじわと増えてゆきました。

でも、こんなに豊かで平和な時代に、
そんな境遇の子が本当にたくさんいるの?
「こども食堂」は貧乏な家の子が
利用するところでしょ? と、
誤解や偏見の目でみられることも
少なくありませんでした。

「こども食堂」に集まったのは特別な人ではなく、
どこにでもいる普通の人々でした。
核家族が普通で、共働きや
シングルマザーの家庭も増え、
近所付き合いも希薄な中で、取り残される子供たち。
学校から戻ってカップ麺やコンビニおにぎりで
食事を済ませ、家で親の帰りを待つか、
塾や習い事に行って親の迎えを待つ子供。
あるいは、“孤育て”に悩む若いお母さん、
独居老人、故郷を離れた学生……
世間の視野に入りにくい“孤独”な人たちも
「こども食堂」には集いました。

映画『こどもしょくどう』の製作が決まり、
ドキュメンタリーではなく劇映画としてどう作るか、
日向寺太郎監督が考えたとき、
「こども食堂」の実情を取材し、協力をお願いしたのが
「気まぐれ八百屋だんだん」の近藤さんでした。
この映画を企画した意図を監督はこう語っています。
「子供たちは本来、私たちが生きている社会の
未来であり希望である」

(c)2018「こどもしょくどう」制作委員会 (c)2018「こどもしょくどう」制作委員会

日向寺監督は、黒木和雄、松川八洲雄、
羽仁進監督に師事し、
デビュー作『誰がために』では
少年犯罪と遺族を真正面から描き、その後も
『火垂るの墓』実写版、『爆心 長崎の空』など、
人は受難にどう向き合うのかという社会派の題材を、
鋭いながらも慈愛に満ちた目線で描き続けている人です。
脚本は、『百円の恋』の足立紳、山口智之。
足立紳は人間の弱さやダメな部分をもすくい取り、
何が人をそうさせるのか、その背景を想像させ、
愛すべき人物像を生み出すことに長けた作家です。

近藤さんたち関係者を取材した上で、
本作は「こども食堂」を舞台にせず、
「こども食堂」が“はじまる”までを描くことになりました。
それを、監督と脚本家は
徹底して子供目線から描いていきます。
演じる子供たちの台詞は少なく、
表情や微妙な間合いや距離感で演じます。
自分の役をよく理解している証拠です。
子役の感性の素晴らしさに驚かされます。

ある日突然、
両親がいなくなった姉妹(鈴木梨央、古川凛)を
自宅に連れ帰り、「何か食べさせて」という
小学5年生のユウト(藤本哉汰)。
戸惑いながらも、小さな食堂を営む両親(吉岡秀隆、
常盤貴子)は、目玉焼きとハンバーグの
美味しいごはんを作って食べさせます。笑顔を添えて。

(c)2018「こどもしょくどう」制作委員会 (c)2018「こどもしょくどう」制作委員会

子供たちは知識や経験がないので、
強い思いがあってもうまく言葉で表現できません。
わかって欲しいことが親に伝わりづらいもどかしさ。
そこから、子供たちは思い切った行動を起こします。
幼いと思っていた我が子が、
いつの間にか広げていた世界。
思いがけない大胆な言動に大人として、親として、
どう対応すればいいのか。見守るだけでいいのか……
子どもたちの行動をきっかけに
両親やまわりの大人たちは突き動かされていきます。

(c)2018「こどもしょくどう」制作委員会 (c)2018「こどもしょくどう」制作委員会

新型コロナウイルス感染拡大防止のために
学校が休校になった時、心配されたのが、
給食を食べられなくなった子供たちのことでした。
“三密”のために「こども食堂」も開催できず、
お腹をすかせている子はいないか、
全国の主催者たちはもどかしい思いを抱えながら、
食品を配るなど、できる限りのことをして
子供たちを応援しています。
「気まぐれ八百屋だんだん」もGW明けから昼間、
予約制のお弁当を再開したようです。
「出来ることをやるしかありません。
少しでもお役に立てれば幸いです」と。

本作の主題歌「こどもしょくどう」は、
「万葉集講座」第6回の講師を務めてくださった
俵万智さんが作詞をしています。
「私自身は作詞のプロではありませんので、
率直にこの映画から受けた感情を
大事にしたいなと思いました。
食べるという命に直結する行為で、
大人から子ども、社会が繋がって行く姿が
素晴らしいと感じました。なので
そこに焦点を絞りつつ、自分自身の感想・感動、
この映画からもらったものを
自分なりに言葉でお返しする、そんな気持ちで
歌詞を書きました。(談)」
(映画パンフレットより)

♪あなたと私はおんなじじゃない。
でも似ているところもあるんだね。
一緒にいるうちに気がついた。
走るの得意。算数苦手。好きな食べ物
ハンバーグ、いちご、おにぎり、エビフライ
あなたにも私にも、たったひとつの名前がある。
食べることは命。食べることはつながり。
一緒だったらもっとおいしい。

一日も早く、またみんなで一緒に
美味しくごはんを食べられる日がきますように!

こちらでご覧いただけます。

DVD
(C)2018 「こどもしょくどう」製作委員会
監督:日向寺太郎/原作:足立紳/脚本:足立紳、山口智之
発売元:株式会社バップ
価格:3,800円+税

AmazonPrimeVideo配信

児童向けのノベライズ書籍
『こどもしょくどう』
もあります。

(つづく)

2020-06-01-MON

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