外出自粛暮らしが2ヵ月を過ぎ、
非日常と日常の境目が
あいまいになりつつあるようにも思える毎日。
でも、そんなときだからこそ、
あの人ならきっと「新しい思考・生活様式」を
身につけているにちがいない。そう思える方々がいます。
こんなときだからこそ、
さまざまな方法で知力体力を養っているであろう
ほぼ日の学校の講師の方々に聞いてみました。
新たに手にいれた生活様式は何ですか、と。
もちろん、何があろうと「変わらない」と
おっしゃる方もいるでしょう。
その場合は、状況がどうあれ揺るがないことに
深い意味があると思うのです。
いくつかの質問の中から、お好きなものを
選んで回答いただきました。
映画やテレビで広く知られる名優・寺田 農 さんは
芸能界屈指の読書家で、
文豪たちの名作が聴けるCDブックなどでも
数多くの作品を朗読なさっています。
近年は、歌人・永田和宏さん、作家・辻原登さん、
俳人・長谷川櫂さんが開く連句の会にも参加。
ほぼ日の学校「万葉集講座」第4回、
永田和宏さんの授業の際に
歌を朗読してくださったのみならず、
みんなで歌仙を巻いた第8回授業では
重要な詠み手の一人として
歌の流れを作ってくださいました。
そんな寺田さんが、緊急事態宣言のなか、
何をなさって、何を考えていらしたのか、
お聞きしました。
●役者なる職業は……
- ——
- 外出自粛の期間をどう過ごされましたか?
- 寺田
- 18歳で役者という仕事についてから
はじめての3ヵ月にわたる休眠状態、
開店休業状態ですが、
私個人としてはとても喜んで楽しんでおります。 - このような未曾有の社会危機では、
個人の生活環境、職種の違いなど、
それにもまして、その人の現在の年齢などで
受ける被害が大きく変わるのではないかと思われます。
そこで私なりに考えてみますと、
そもそも役者なる職業は、基本的に
お客様のご要望があってはじめて成り立つという、
はなはだ心許ないものです。 - 映画、テレビ、舞台など
すべてがそのご要望があればこそのものです。
そのお客様が自粛ともなれば、
私たち役者にお呼びがかからないことは自明の理です。 - 現在バリバリの働き盛りの方は大変でしょう。
子供がまだ小さく、子育て真っ最中の
役者たちのご苦労は考えるだけで心が痛みます。 - 私が、「この環境を楽しんで過ごしていられる」と
言えるのも、
77歳という年齢が幸いしているのでしょう。
幸い妻と二人とも、
何の患いもなく元気に暮らしているからこそ
こんな呑気なことも言っていられるのですが……。 - さて、私がどんな日常を過ごしているのかと申せば、
ひたすら興味のある本を読み、映画のDVDを観て、
これまた好きな音楽を聴きまくっています。
私の場合は、クラシックとカントリーミュージックです。
夜明けとともにベッドに入り、
午後の遅くに目覚めるといった生活です。
●ベトナム戦争を考える
- ——
- どんな作品を読んだり、
観たりなさっていますか?
- 寺田
- 今回は、本としては特に、
アメリカに関する書物が多いです。
『アメリカは歌う—歌に秘められた、アメリカの謎』
(東理夫、現行版は『コンプリート版
アメリカは歌う。』)、
『語られなかったアメリカ史』シリーズ全3巻
(オリバー・ストーン&ピーター・カズニック)は、
何度読み返しても面白い。
『永田和宏作品集』、『山家集』(西行)、
『金槐和歌集』(源実朝)など、
時間をゆっくりとかけて読みます。
- 寺田
- DVDとしては、やはりアメリカがベトナムに
どのように関わっていったのかを
知りたいという意味で、
『ディア・ハンター』『地獄の黙示録』
『プラトーン』『7月4日に生まれて』
『グッドモーニング、ベトナム』などを
改めて観ています。 - 音楽としては、
私の一番のお気に入りブラームス全集、
ショスタコーヴィチ全集などなどです。
- ——
- この間、どんなことを思われましたか?
- 寺田
- 今回のコロナ危機で感じたことは、
日常の生活をいかに健康に過ごせていられるか。
そしてもうひとつは、
日頃から自分の個の時間を大切に持っていること。
それが大事だと改めて思います。
プロフィール
文学座附属演劇研究所第一期生。1968年に岡本喜八監督の『肉弾』に主演(毎日映画コンクール男優主演賞受賞)。以来、映画やテレビドラマで活躍。1985年、相米慎二監督の『ラブホテル』で横浜映画祭主演男優賞を受賞。2008年から2012年まで東海大学文学部特任教授として、「現代映画論」「演劇入門」などの科目を担当した。
(つづく)
2020-06-03-WED