偶然のようにして出逢った5人が
メンバー交代もせず、音楽の海を
先頭切って、泳ぎ続けてきた。
そんなバンドのフロントマンは、
自分たちのことを、
どんなふうに見ているのでしょうか。
サカナクションの山口一郎さんに、
バンドとは何かと聞きました。
詩への傾倒、言葉に掴まれた幼い心、
そこから音楽へと向かう道のり。
サカナクションの生まれる物語です。
そこへいたる短くない旅に、
連れ出してもらったような気分です。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>山口一郎さんのプロフィール

山口一郎(やまぐちいちろう)

「サカナクション」として、2007年にメジャーデビュー。文学的な言語感覚で表現される歌詞と、幅広い楽曲のアプローチは新作をリリースするたびに注目が集まり、第64回NHK紅白歌合戦に出場、第39回日本アカデミー賞にて最優秀音楽賞をロックバンド初受賞するなど、その活動は高く評価されている。2019年6月には6年ぶりのオリジナルアルバム「834.194」をリリース。2020年8月にはバンド初のオンラインライブを実施し、2日間で6万人の視聴者を集め話題となった。2015年から音楽にまつわるカルチャーを巻き込み、クラブイベントやサウンドプロデュースなどを行うプロジェクト、NF(Night Fishing)を発起人としてスタートさせ、各界のクリエイターとコラボレーションを行いながら、多様な活動も行なっている。

サカナクション
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NF
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@ichiroyamaguchi

Twitter
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第6回 同じ土壌に根を張っている。

──: 
客席とひとつになる感覚‥‥って、
よく聞くフレーズで、
実際、ミュージシャンの人たちも
口にすると思うんですが。
山口
ええ。
──: 
それって、どんな感覚なんですか。
ミュージシャンの側からすると。
山口
ああ、ぼくらの側から。
──: 
観客としてなら、
なんとなくは、わかるんですけど。
山口
ぼくらのほうでも、
あ、いまお客さんと繋がってるな、
そういう‥‥
肌身で感じる瞬間があるんですよ。
言葉と音を使ってする
自分たちなりの感情表現に対して、
お客さんが
自然に受け入れてくれたり、
ささいなことにも、
敏感に反応してくれたら、
それは、コミュニケーションが
うまくいってるということだと思う。
──: 
なるほど。
山口
逆に、ライブの出来や演出如何で、
今日のお客さん、
最後まで
緊張したまま終わっちゃったとか、
逆に緊張してほしいところで、
緊張してもらえなかったとか、
そういうときはわかりやすいです。
──
ああ、そうですか。
山口
全体の世界観に関係してるんです。
そのあたりのことって。
演奏中にミスタッチした‥‥とか、
そういうことより、きっと。
──
一体になれるかどうか‥‥は。
山口
そのために、この曲が終わって、
次の曲がはじまるまでのあいだに、
もう1秒開けよう‥‥とか、
いや2秒かな‥‥とか、
けっこう細かくやっていて、
まあ、常に試行錯誤ですね。
──
山口さんのお話を聞いていると、
おっしゃってることが、
どこか絵画的だなあと思うんです。
絵として浮かんでくる、と言うか。
山口
そうですか。絵は好きですけどね。
──
ちなみにですが、どんな画家が?
山口
パウル・クレーとか。
──
おお。
山口
はじめて観たとき感動したんです。
あれ何でだろうって考えていたら、
ふと気づいたんです。
音楽的なんです、絵が。どこか。
──
ああ‥‥なるほど。
たしかに、どこかリズミカルだし、
メロディが聞こえてきそうな感じ。
山口
幾何学的な画面に、
刻々とした変化を感じるんですよ。
魚の絵も描いたりしてるし(笑)、
最初のうちは、
ただ直感的に好きだったんですが。
──
ええ。
山口
これはあとから知ったんですけど、
クレーの両親って音学家、
ミュージシャンだったそうです。
それで、本人も音楽をやったりしてる。
──
そうなんですか。だから惹かれた。
山口
どこかで、音を視覚化していたり
しているんだろうか‥‥とか、
そこに自分は反応したのかなとか。
だから、そういう意味でも、
やっぱりぼくは、
つくりものや見せかけでないもの、
リアルなものに反応するんです。
リアルなものにしか反応できない。
──
うん、うん。なるほど。
現実にしっかり根を張った、
根拠のたしかなもの‥‥というか。
山口
音楽の創作をつうじて、
またバンドというものをつうじて、
つねに、無意識に、
自分にとっての
本当って何だろうと考えていると、
本物かどうかを見極める
リテラシーが、
自分の中で形成されてくるんです。
──
ええ。
山口
ぼくは「リアルなもの」に、
重みを感じてきたんだと思います。
非現実的で重みのないものには、
何であれ、
反応することができないんです。
──
バンドって、リスナーからすると、
何だか、どこか、
不思議な集合体に見えるんです。
ライブで演奏を聴いていると、
まったく強固な、
硬い分子構造の結晶みたいなのに、
ふとしたことで、
バラバラに砕け散っちゃう脆さを
同時に抱えているようで。
山口
なるほど。
──
そのあたり含めて魅力的なんです。
最後ですけど、山口さんにとって、
バンドって何だと思いますか。
山口
植物園じゃないですか、ほんとに。
──
ああ、やっぱり、そこに。
山口
バンドという「植物園」のなかに、
それぞれのメンバーが、
それぞれの花を咲かせている感じ。
──
バンドを‥‥「動物園」じゃなくて、
「水族館」でもなくて(笑)、
「植物園」のイメージで
捉えている理由って、何ですかね。
山口
根本は一緒だからじゃないですか。
──
ああ、なるほど。
根っこを張っているのは同じ土壌。
山口
そうです。
同じ土壌に根を張ってるんだけど、
咲かせる花は、バラバラ。
──
なるほど。
山口
吸い上げる栄養分も、自分の好み。
同じ人でも時期によってちがう。
昨日まではジャズだったけど、
今日からはクラシックです、とか。
──
はい。
山口
完全には混じり合うことがなく、
最後のところで「個」を保ったままで、
ひとつの大きな絵を描いている。
──
高い空から俯瞰で見下ろしたときには、
メンバーの個性を
いい意味での違和感として残したまま、
ひとつの音楽を奏でている。
山口
土が一緒だから、一蓮托生だし。
──
そうか‥‥雨が降らなかったら、
みんな枯れちゃうし、
お天気に恵まれたら、
みんながぱあっと花を咲かせる。
山口
でも、中に入ってみると、
わりとゴチャゴチャしてるんです。
──
熱帯のジャングルみたいに(笑)。
山口
と、思ってます。いまのところ。
──
バンドの数だけ、
植物園があるんですよね、きっと。
山口
そうだと思います。
メンバー全員が同じ植物‥‥
たとえばみんな「イチイ」だったら、
ただの「林」ですよね。
──
そうですね。イチイの林。
山口
でも、ぼくらサカナクションには、
イチイもいれば、スギもいる。
ヒノキもいれば白樺もいるんです。
──
色とりどりの花が、咲いていて。
山口
個性が個性のまま生きる塊だけど、
一歩引いて見たら、
ひとつの世界が広がってる。
日によって、季節によって、
タイミングによって、
その見え方はちがったりするけど。
──
春には緑で、秋には赤で。
山口
元気のいい木がいて、
元気のない木もいて。
バラバラだからこそ、
左右非対称のおもしろさがあって、
反対に、ビシッと
左右対称でそろえてみせたときの
美しさもあって。
──
そういうバンド観。
山口
メンバーの気持ちや趣味や人生の
移り変わりによって、
これまでも、
この先も、
いろいろと形を変えていくものが、
バンドなのかなあと思います。
──
植物園に、
いろんな魚が泳いでるんですかね。
山口
ああ、そうかもしれない(笑)。

(終わります)

2021-01-30-SAT

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    写真:田口純也