ロゴで大事なコンセプトを伝えたり、
色で心をつかんだり、
字詰めや書体で何かを予感させたり。
デザイナーさんの仕事って、
実に不思議で、すごいと思うんです。
編集者として、
なんど助けられたか、わからないし。
でもみなさん、どんなことを考えて、
デザインしているんだろう‥‥?
そこのところを、
これまで聞いたことなかったんです。
そこでたっぷり、聞いてきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>大島依提亜さんプロフィール

大島依提亜(おおしま・いであ)

栃木県生まれ。
映画のグラフィックを中心に、
展覧会広報物、ブックデザインなどを手がける。
主な仕事に、
映画
『シング・ストリート  未来へのうた』
『パターソン」『万引き家族』『サスペリア』
『アメリカン・アニマルズ』『真実』、
展覧会
「谷川俊太郎展」「ムーミン展」「高畑勲展」、
書籍
「鳥たち/よしもと ばなな」
「うれしいセーター/三國万里子」
「おたからサザエさん」
「へいわとせんそう/谷川俊太郎、Noritake」など。

大島依提亜さんのTwitterアカウント

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第5回 大事なことを伝えるために、神聖な気持ちで紙を選ぶ。

──
最近、大島さんは、
展覧会の空間も、デザインしていますね。
大島
そうですね。今年はムーミン展、
去年はオペラシティで
谷川俊太郎展をやらせていただきました。

──
おお、ムーミン展もでしたか。
谷川さんの展覧会、すごくよかったです。
大島
ありがとうございます。
ポスター等の広報物や図録だけじゃなく、
展示のデザインにも
たずさわらせていただきました。
──
おもしろかったですか。
大島
最初はやはり不安があったんですけど、
やってみたら、すっごく。
──
あー、そうですか。やっぱり。
大島
最初の半年、途方に暮れていたんです。
──
え?
大島
会議で途方に暮れてました、みんなで。
建築家の五十嵐瑠衣さんをはじめ、
谷川さんのブレーン的な
ナナロク社の村井光男さん、川口恵子さん、
東京オペラシティアートギャラリーの
学芸員・佐山由紀さんなど、
エキスパートぞろいのチームでしたが、
なにしろ
「詩人・谷川俊太郎」
という「山」が大きすぎちゃって‥‥。

──
すそ野から見上げてみたら。
大島
あまりに膨大な言葉とキャリアを前に、
何をどうしたらいいのか、
最初、まったくわからなかったんです。
だから、みんなで集まっては、
谷川さんの詩を読んでたりしてました。
──
基本的に、言葉‥‥ですものね。
具体的な展示物というか、
大阪万博の「月の石」みたいなものが、
何かあったんでしょうか。
大島
いや、谷川さんって、
かなり早くワープロに移行してるので、
文学館とかでよく見る、
手書き原稿なんかもありませんでした。
──
じゃ、何が突破口に‥‥。
大島
やはり、谷川さんの詩そのものでした。
具体的には
「自己紹介」という詩なんですけど。

──
あ、あれ、すっごくいいですよね!
大島
あの詩じたいが、これ以上ないほど、
谷川俊太郎さんを説明していた。
そこで、この20行のちいさな詩を
1行ずつ切り分けて、
それぞれを
ひとつのコンテンツとして章立てしたら、
エベレストのような、
宇宙のような「谷川俊太郎」の一端を、
表現することができるんじゃないか。
──
はー、そうなってました、たしかに。
大島
そこから、ウソみたいに動き出して。
たとえば、
「私は背の低い禿頭の老人です」
という冒頭の一行の章テーマは
「ポートレート」だったので、
谷川さんご本人の
原寸大全身写真を組み合わせたり。
──
ええ、ええ。

大島
20行の詩を、20本の柱に分解して、
それぞれに‥‥たとえば
「私は工具類が嫌いではありません」
という柱には、
谷川さんのコレクションされているラジオと、
その工具を持ってきて展示して。
──
あー、あの詩をベースにしているから、
「谷川俊太郎さんの展覧会」
という言葉からは思いつきにくい、
工具好きの側面も表現できたんですね。
大島
なおかつ「ポートレート」だったら、
ポートレートにまつわる詩が、
かならず、見つかったりするんです。
それを、あわせて展示して‥‥。
なにせ、百科事典みたいな膨大さで、
詩を書いてらっしゃる方なので。
──
何かしらあるって‥‥すごいです。
大島
谷川さんの人となり、
それらに関連する詩を展示したことで、
結果的に、
入門編としてもおもしろいし、
谷川さんがどんな詩を書いてきたかを、
学べる展示になったんです。
──
いまから何年も前ですが、ぼくらも
「はたらきたい展」
という展覧会をやったことがあって。
で、そのときも、
基本的にはテキストがベースでした。
大島
ええ、ええ。
──
結局、その時点まで「ほぼ日」を
表現するような展示をつくりました。
はたらく、に関連する言葉や表現を
アーカイブから抽出して、
カードにしたり、巨大年表にしたり、
自分たちなりに工夫はしましたが、
テキストを展示に‥‥って、
当初は、ぜんぜん、わからなくって。
大島
テキスト中心だと、タイポグラフィとか、
グラフィックデザインで見せるという
方向に行きがちですが、
それだと、遠のいちゃう気がしますしね。
──
そうなんですよね。
テキストを飾り立てるだけになっても、
本質が伝わらないような‥‥。
大島
大事なことを、どう伝えるかですね。
変に凝ったものにするよりも、
たとえば‥‥
会場の中の展示物以外のテキストを、
消火器の説明文さえ、
谷川俊太郎さんの言葉に置き換える、
くらいのほうが、
谷川俊太郎展として成立しますよね。

──
おお、すごい。トイレの案内とかも。
大島
実際、目につく言葉のすべてを
谷川さんにリライトしてもらって
差し替えちゃおうかとも
計画していたんですけど、
さすがにそれは非現実的だったので。
──
展覧会は3部構成でしたが、
たった20行の詩をベースにした
自己紹介の部分は、
ワンテーマで突破するような強さと、
気持ちよさを感じました。
大島
いろいろ目移りせずにやったほうが、
本当に伝えたい部分が、
クリアになることってあるんですよ。
──
テーマを絞る。
大島
フォーカスするというか。
──
これは編集する人間の悪い癖なのか、
あれも入れたらこれもって、
網羅したくなっちゃう‥‥んですね。
でも、網羅主義って、
じつは安易な考え方だと思うんです。
大島
そう‥‥やればできるだけのことを、
やってるだけですもんね。
──
そうじゃなく、ここぞという1点を
ズバッと突破したほうが、
案外、抜けた先が広々としていたり。
大島
そう、そうなんですよ。
自己紹介の詩という1点を、
全員の総合力で突破していったのが、
あの展示方法だったんです。
──
うん、うん。
大島
ふだん、デザインをしているときに、
これは伝わったかなと思うことが、
ぼくにも、まあ、あるんですけどね。
──
あるでしょう、それは。たくさん。
大島
おこがましいんですけど、
小山田圭吾さんと中村勇吾さんの
音楽と映像の表現も含めて、
あれだけ、いろいろな人と一緒に
つくりあげた展示なのに‥‥。
──
はい。
大島
自分の伝えたいことだとか思いが、
すごく直接的に、
あの空間に表現できた‥‥という、
強い感覚があったんです。
──
それは、ふだんのデザインよりも?
大島
そう。
──
すごい。
つまり成功したってことでしょうし、
それぞれのみなさんが、
思っていることかもしれないですね。
大島
そうだといいんですけど。

──
大島さんは「伝われ」と思いながら、
デザインをしていますか。
大島
んー‥‥ぼくの場合は、
そういう願いや祈りもあるんですが、
実際のデザイン作業をしてるときに
「伝われ!」って願うのは、
「子どもっぽいなあ」って、
どこかで思っていたりもするんです。
──
そこは、ちょっと醒めてる?
大島
そうなのかもしれないです。
でも、唯一、大人っぽく
「伝われー!」と思うときがあって。
──
それは‥‥。
大島
「紙」を選んでいるとき。
──
へぇー!
大島
これ、自分でも不思議なんですけど、
あるときに気づいたんです。
紙の見本帳と真剣に向き合いながら、
この絵、この写真を、
どういう紙にどうやって印刷したら
「いちばん伝わるだろう」
って今、自分は思ってるな‥‥って。
──
紙そのものが伝えるものが‥‥ある。
大島
それも、かなりナイーブな感覚、
いちばん伝えたいくらいの部分を、
ぼくの場合は、
紙が、伝えてくれる気がするんです。
──
それは、手触りとかを通じて。
大島
これ、友部正人さんの詩集ですけど、
季節をめぐるように、
内容が編纂されているんですね。
──
『バス停に立ち宇宙船を待つ』。
大島
パラパラとめくっていくと‥‥。

──
あ、紙の色が、移り変わってますね。
大島
公園で遊んでいたら、いつのまにか
夕暮れどきになっていたみたいな、
そういうことって、ありましたよね。
あの感覚を、表現できたらと思って。
──
紙で、時間の流れを表現してる。
大島
詩に没入していたら、
ふと、さっきより景色が橙色だな‥‥
ということに気づく。
しかも、表面的な紙の色じゃなくて、
紙自体に定着している特徴、
「色」という意味じゃないカラーで、
微妙に感じ取ってほしくて。
──
なるほど。
大島
だから、神聖な気持ちで選んでます。
紙というものを、ぼくは。

(続きます)

2019-09-21-SAT

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