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東京都の多摩地域南部に位置する八王子市。
昔から養蚕や織物が盛んな土地で、
いまでも「桑都(そうと)」と呼ばれる織物の街です。
西行法師(1118~1190年)が旅で訪れたときに、
和歌のなかで「桑の都」と呼んだことが
桑都と呼ばれるきっかけだったとか。
江戸時代には、大きな発展をとげ、
交易の要として各地から繭や生糸、
上質な絹織物が集まりました。
さまざまな材料が手に入ったことで、
着物の反物から洋服生地、ネクタイなどの小物まで、
幅広い織物業が盛んでした。
残念ながらいまは、
織物の産地としては鳴りを潜め、
「八王子=織物の街」というイメージは、
あまりないですが、
いまでも探究心が強く、好奇心旺盛で、
なんでもやってみる、職人の力と思いが残っています。
そんな八王子産地を、「ほぼ日」の“布好き”な
「/縫う/織る/編む/」プロジェクトチームがめぐって、
澤井織物さんのシルクのストールに出会いました。
表と裏がまったく別の柄の二重織りのストールで、
そこから生まれる表情の豊かさ、そして、
内側から淡く光るような
独特の透明感に惚れ込んだのです。
このシルクのストールは、
二重織りの重なった布のすきまが
風が通るほど大きいことから、
「風通織(ふうつうおり)」呼ばれています。
八王子のこと、澤井織物さんのこと、
そして、ストールの風通織やデザインのことを
たっぷり語り合いました。
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金子 縫
金子 縫
2021年から「ほぼ日」の商品事業部で
「〈O2〉」「つきのみせ」
「marikomikuni」など
アパレルの企画・生産管理を担当。
初就職からずっとアパレル一筋20年、
「ほぼ日」に来る前はセレクトショップの会社で
下着やルームウェアの
商品計画などを担当していたこともあり、
このプロジェクトの中心人物ながら、
「コンテンツをつくる仕事」は、ほぼ、はじめて。
名前の「縫」(ぬい)は本名、
好きなものは裁縫、布、服地と断言。
スターウォーズも好き。
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渡辺 やえ
渡辺 やえ
「ほぼ日」古株乗組員。2005年入社。
商品事業部に籍を置き、
「ほぼ日手帳」や「やさしいタオル」
「BIWACOTTON」などの工業製品系から、
「アトリエシムラ」「うちの土鍋の宇宙。」
「MITTAN」「tretre」
「そろそろ、いいもの。」などの手仕事系まで
さまざまなコンテンツに携わる。
最近力を注いでいるのは、
そういうこととはまた別の「MOTHERプロジェクト」。
自他ともに認める猪突猛進型のOTAKU気質で、
ゲーム、マンガ、歌舞伎など、多方面に詳しく、
どせいさんとピカチュウが大好き。
オーディオも家具も陶磁器も、
好きになったものや、好きな人が好きなものには、
専門書まで読んで勉強し専門家なみの知識をもつが、
「カメラとクルマだけは、モノにならなかった」。
モノを集めすぎて、女性誌で受けた自宅取材で
「汚部屋度満点」という名誉を授かったが、
あくまでもモノが多すぎるだけで、
じぶんなりの整理整頓はできているという。
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山川 路子
山川路子
「ほぼ日」デザイナー。2007年入社。
編み物が好きで、自分が着る冬のニットの多くはお手製。
三國万理子さんを師と仰ぎ、「Miknits」を立ち上げ、
プロジェクトリーダーを10年以上にわたりつとめている。
デザイナーながら、情熱的で冷静な編集者的視点をもち、
伊藤まさこさんの「weeksdays」や
なかしましほさんの「OYATSU」プロジェクトなどにも
企画立案から参加している。
私生活では双子(プリンセスブーム中の女児)の母。
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酒井 菜生
酒井菜生
「ほぼ日」商品事業部所属。2019年入社。
中・高はフランスで教育を受けたという帰国子女。
渡辺やえと組み生産管理を担当することが多く、
やえの商品愛ゆえの
暴走に近い仕事ぶりをコントロールできる
唯一の存在とも言われ、なにかと頼られている。
その表情はつねにクールかつ
アルカイックスマイル。
お寺(名刹らしい)の娘という出自ゆえか。
- 今回ご紹介する産地は、八王子です。
このプロジェクトのきっかけでもある
糸編の宮浦さんから、産地や産地ブランドの
おすすめをいくつかご紹介いただいたんですけど、
その候補の中に、八王子があったんですね。 - 八王子といえば、宮浦さんがロンドンから帰国して
産地めぐりをした最初の産地なんです。
当時はまだ、「みやしん」という伝説の
機屋(はたや)さん(※)がありまして。
宮本英治さんという、
繊維業界ではレジェンド的存在の方に出会って、
それが「糸編」が始まるきっかけになったんですって。
そのお話をうかがって、八王子という産地が、
どんなところなのか知りたくなって、決めました。
※機屋=テキスタイルメーカー
- みやしんさんっていうのはどういう会社なんですか。
- みやしんさんは、2012年まであった
機屋さんなんですけれども、
難しい織り柄とか、いろいろオリジナルなものづくりができる、
力のある機屋さんでした。
1970年頃、三宅一生さんとか、山本寛斎さんとか、
パリコレに日本人デザイナーが
どんどん進出していったんですが、
そのデザイナーたちを支えていた、
と言っても過言ではない伝説の機屋さんなんです。
- そんな機屋さんがあったんですねえ。
- 10年ぐらい前に機屋さんは辞められて、
宮本さんご自身は、今は八王子にある
文化・ファッションテキスタイル研究所というところの
所長さんを務めていらっしゃいます。
- その方との対談も、今回コンテンツであるんですよね。
- はい、あります!
宮浦さんと宮本さんの対談。
いやぁ、おもしろかった。(10月7日から連載)
- すごくたのしみです。
八王子が織物の産地だって、
私は大学が八王子にあったので知っていましたが、
みなさん、八王子と織物ってピンとこないと思うんですよ。
「紬」や「ちぢみ」は、産地の名前が
そのままブランドなってるものが多いじゃないですか。
「◯◯織」みたいに。
でも「八王子織」っていわないですよね。
- でもじつは、歴史的にも昔から、
養蚕も盛んな産地だったんですね。
- 鎌倉時代から織物の産地だったそうで、江戸時代には市が栄えて、
明治になると、北関東や信州の生糸が
八王子に集まって、横浜の港に運ばれて、
海外に輸出されるようになりまして。
それで八王子から横浜へ至る道は
「絹の道」と呼ばれるようになったほどなんです。
- 私、行ってみて、
街全体が織物に親しんでる感じがしたんですよ。
駅の前にもモニュメントがあって。
大事にされてるんだなって思いました。
- 桑の都、桑都(そうと)と呼ばれてますよね。
- 駅の前にも看板がありました、桑都って。
初めて聞いたと思って。
- ちゃんと「桑都」を残そうとしている感じはありましたね。
- 細かいところでいうと、
フリンジも全部手で巻いてるんですよね。
- そうなんですよ。
昔、「ほぼ日のくびまき」を担当していた当時、
この手巻きのフリンジを
日本国内で請けてくれるところがなかなかなくて
結局、手巻きをあきらめたことがありました。
- やえさんと私は「くびまき」をね、やってて。
こんなきれいなねじねじはそうそうない。
すごい。すごいです。
- ていねいですもんね、ねじねじ。
- 澤井織物さんがまさしく
「ほぼ日のくびまき」もつくってくださっていたんですよね、実は。
私もビックリしました。
取材に行って、偶然判明したんです。
当時、くびまきの制作を担当してくださった外部の方が、
とことん「いい工場でつくりたい」とおっしゃっていた方だったんです。
今になって「ああ、あのとき、澤井さんを選ばれていたのは、
あのかたの慧眼だったんだな」とわかり、
だからいいものができたんだなって、実感しました。
- 今回、澤井織物さん以外にも、
八王子の繊維関連の工場さんに取材に行きましたね。
八王子の職人さんたち、みんな、
それぞれに個性が強かったなぁ。
たとえば、
ミナペルホネンの皆川明さんが、
一番最初に生地作りをお願いをしたという大原織物さんは、
G-SHOCKのベルトもつくったり、
ほんとになんでもやっちゃう、っていう。
- 伝統工芸の多摩織だけじゃないんですね 。
- 探求心がおありになる。
面白いことが好きっていう。
この人なら、皆川さんもお願いしたくなる、って感じの、
- アパレルの方が相談しやすい距離だから、
機屋のみなさんもフットワークが軽いというか。
そういう、なんて言ったらいいのか、
変に固まってない感じがあるのが
八王子のよさなのかなって、感じました。
- 澤井織物さんが作っているものも、
ハイファッションのブランドものが多いですし、
どうやってつくるか想像できないような
手の込んだものに挑戦したり、
積極的に海外で発表されたりとか、すごいんですよね。
- 澤井織物の澤井伸さんは、
「多摩織」の伝統工芸士で、
「現代の名工」と称される方なんですけど、
「多摩織」をつくることができるのは、
もうここだけなんですよね。
でも、伝統工芸だけじゃなくて、
さまざまな技法を駆使して、
ハイブランドのものもつくるし、
アパレル以外のお仕事なんかもされていて。
Googleのウェアラブルデバイスに技術提供、とか。
- 澤井さん、すごい!
- 今回お話を聞いた方たち、織物が好きで好きでたまらなくて
やってらっしゃるんでしょうね。
- すごく好き、という感じがありましたね。
- だから際立ったものがずっとできてるっていうか、
名だたるところが点々とあるっていう感じなんですね。
- さきほどから聞き流してしまっていたんですが、
「多摩織」っていうのはどんな特徴があるんですか?
- 多摩織は、八王子とその周辺で織られる絹織物で、
地域の伝統工芸のひとつです。
定義では、御召(おめし)、風通(ふうつう)、
紬(つむぎ)、綟り(もじり)、変り綴(かわりつづれ)という
5つの織り方があるんです。
そのうちのひとつの「風通織」というのが、
今回のシルクストールの織り方です。
二重織りの一種です。
- シルク100パーセントなんですよね。
- シルク100パーセントです!
- 二重織りで、表と裏で柄が全然違う。
- しかもそれが入れ替わったりするんですよ、
ブロックによって。
なんとも不思議なつくりなんですけど、
それができちゃってるんですよね。
- 巻き方で全然印象が変わってくるのと、
試作を見てアッと思ったのが、この透け感。
極細の絹の糸で織ってあるから、ですね。
反対側の柄が少し透けるんですよね。
その立体感がね、すごいと思った。
- こんな生地は見たことがありませんでした。
私もそれなりに長く布や生地のデザインを
やってきたつもりではいたんですけど、
こんなのは初めて。
これが風通織なんですね。
- いやあ、私もこれは初めて。びっくり。
凝ってますよねー。
- ぬいさんは、今までのキャリアで
八王子産地のものを扱ったことはなかったんですか?
- ないと思います。たぶん初ですね。
シルク100%って、私、
カットソーとかインナー系では経験あるんですけど、
ストールを扱うのも初めてなんです。
シルクのストールっていうと、高級品で、
ふだんづかいしていいんだろうか、みたいな、
ちょっと手を出しづらい印象がありました。
- ちょっとハードルが‥‥。
- 高いなっていうのは感じてましたね。
シルクは大事に扱わなくちゃいけない、
着るときもそれなりの気持ちで、
コットンのふだん着みたいには扱っちゃいけないって、
いつのまにか刷り込まれてたのかも。
- そうですね、「ちゃんとしなくちゃ」っていう感じ。
- 最初に宮浦さんから澤井織物さんをご紹介されて、
ちょっと面白そうだねっていう時点では、
若干、そういう不安もあったんですよ。
- うんうん。
- だけど、それをいっぺんに解消してくれたのが、
なおちゃんだったんですよ。ね。
ほんとにいつものカジュアルなスタイルで、
ひらっと一枚、無造作に巻いてみてくれて。
- そうそう、もうほんとにカジュアルな、
白のロンTに普通のパンツみたいなときに。
- そしたら、ふだん着が格上げ。ドーンと。
- あら、まあ! っていう感じだったんですよね。
あのとき、ちょっとした感激があって。
たった1枚のストールで、
こんなに印象が変わるなんて!
- 巻いてみるとやっぱり全然違う、って。
- やっぱり上質なものっていうのは、見てわかります。
シルクの光沢が、顔の近くにくるのも効果的で。
- 上品に見えるっていうのもあるし、
薄手だから秋口から使えて、
冬はかさばらず、おしゃれにカッコよく。
寒暖に対応できるのはシルクのよさですよね。
夏は冷房避けになりますし。
たためば小っちゃくなるから、旅行のときとか、
乗り物や劇場なんかの冷房対策に、とか。
- 糸の細さと織り方かもしれないんだけど、
これ、シワになりにくいよね。
- そうですね、なりにくい。
- 洗えるんでしたっけ?
- 手洗いができます。
- 自宅で洗濯できるのはいいですね!
- ぬいさんのイチ押しポイントはどこですか。
- この、風通織の技術です。
- 二重の平織を同時に織っていて、
しかも途中で逆転するやり方。
- そうそう、私も数々の平織りを経験してきたけど、
ここまでのアクロバティックな平織りはなかなかね。
- これは謎ですよね。
- 今回のデザインは、澤井織物さんのもの1点と、
ぬいさんとみちこさんがそれぞれ担当した
「ほぼ日」オリジナルの2点ですね。
おふたり、デザインはどんなふうに?
- 私が担当したのは緑のワントーンで、
さりげないグラデーションのような
チェックです。
- さわやかですし、
ちょっと日差しみたいなあったかみもあって、
気持ちいいですよね。
冬は差し色になるし、
春夏でも暑苦しく見えないから、
それこそ冷房対策にもぴったりです。
- 二重になってるから、陰影があって深みがあるんです。
- よく見たらチェックだったりボーダーだったり
いろいろな柄があって、凝ってる! って思えるような。
- きれいですよね。ツヤがね、もうね、プルルンと。
- 近しい色で組み合わせてるから、
より緑の美しさが際立つ感じですね。
みちこさんのデザインは。
- これ、いいですねえ、この色。
- ありがとうございます。
秋冬の発売はもうわかっていたので、秋冬らしく。
風通織って、柄がミックスできるから、
タータンとブロックチェックの掛け合わせがいいかな、
と思って作りました。
- これも、裏の色と表の色が透けて混じり合うようで、
カーキに見えるところもあれば、
金っぽく見えたり。面白いですよね、表情が変わって。
- 明るい色が引き立つんですよ。
デザイン画ではもうちょっと
ネイビー、ブラウン寄りのイメージだったんですが、
こんなに黄色が引き立った仕上がりになるとは思わず、
すごく意外でした。
でも、かわいいんですよ、それが。
- 男性にも女性にも似合いそうなですね。
- 澤井織物さんのオリジナルデザインは、
モノトーンの黒白グレーですね。
- モノトーンですけど、地味じゃないですね。
光の加減と、たぶん織りで糸の色の密度っていうか、
それで一見、紺色に見えたりもして。
- かっこいい、マニッシュな感じに仕上がりましたね。
- どのデザインも、巻き方で、表情が変わり、
要素はシンプルなのにすごくオシャレ。
不思議な感じで調和してて、
しかも、「和」っぽくないんですよ。
- ね、みんなに巻いてほしい。
パートナーや家族と
共有でも使えるかもしれないですね。
- みなさんがどんなふうに使ってオシャレするのか、
可能性は無限大な感じですね。
- ほんと、気取らずにつけられると思うので。
普段着をワンランクアップしてくれる
シルクのすごさを体感していただきたいです。
(チーム座談会・八王子 おわりです)
2024-10-04-FRI
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販売日|2024年10月17日(木)午前11時より
販売方法|通常販売
出荷時期|1~3営業日以内