JAXAの「地球観測衛星」について聞く
不定期シリーズ第4弾は、
「パラボラアンテナ篇」をお届けします。
地球観測衛星はもちろん、
宇宙の彼方の惑星探査機などと交信する
巨大パラボラアンテナについて、
その魅力や役割を、たっぷり聞きました。
直径64メートルもの巨大な「お椀」を、
「1000分の1度」の精度で動かすって、
ちょっと、信じがたいんですけど‥‥!
びっくりするようなお話ばっかりでした。
担当は「ほぼ日」奥野です。
正直アンテナにさほど興味なかったけど、
いまめちゃくちゃ気になってます。
- ──
- 安部さんに「水先案内人」をお願いして、
これまで、
JAXAさんの地球観測衛星について、
さまざま、おうかがいしてきたのですが。 - 地球観測衛星の「開発」、
地球観測衛星の「運用」、
地球という同じ星を見つめつづけてきた
『機動戦士ガンダム』シリーズの
小形尚弘プロデューサーとの対談‥‥と。
- 安部
- はい。
- ──
- ここから、
「アンテナ篇」「周波数調整篇」‥‥と、
さらに深い宇宙、
未知のワールドへいざなわれていきます。 - 今日はまず「アンテナ篇」ということで、
深田さん、領木さん、
どうぞよろしくお願いいたします。
- 深田
- はい、よろしくお願いいたします。
- アンテナの話をさせていただく機会って、
そもそも皆無なので緊張しています。
- ──
- あ、本当ですか、それは楽しみです。
- 領木
- はい、アンテナだけの話を
聞いていただくことは、まずありません。
- ──
- なんと、そんな貴重な機会でしたか。
よくわかってなくてすみません!
- 安部
- いえいえ、こちらこそ、
アンテナや周波数調整についての話って、
なかなかマニアックで、
取材していただく機会もないんです。 - だから聞いていただけるだけでもう、ね。
- 深田
- はい。
- ただ、周波数調整には負けたくないです。
だってアンテナは「目に見える」から。
- ──
- ははは、なるほど!
目に見えないものには負けられない、と。 - そうこうするうちに「見えて」きました。
あちらにそびえたっている物体が、
みなさんの大好きな「アンテナ」ですね。
- 深田
- はい。アンテナです。
- ──
- はああ〜‥‥でっかい!
- アンテナって日本各地にありますけれど、
ここ筑波宇宙センターには?
- 深田
- 3基あります。
- ──
- それぞれに役割がちがうってことですか。
- 深田
- どういうデータをやりとりするか‥‥で、
細かい部分が変わってくるんです。 - さきほど、ここへの道すがらに見たのは、
GCOMの受信アンテナですし。
- ──
- GCOM。
- 安部
- 地球環境変動観測ミッション、
人工衛星を利用して
地球環境の変動を長期的に観測する計画で、
現在、衛星としては、
水循環変動観測衛星「しずく」と
気候変動観測衛星「しきさい」があります。
- ──
- なるほど。
- 安部
- 「しずく」は、海面や大気中の水蒸気など
地球の「水」を観測している衛星で、
気象予報や漁業、
北極などでの船舶航行などのために、
観測データを活用しています。 - 「しきさい」は、
大気中のチリやほこり(エアロゾル)や
植生を観測し、
気候変動メカニズムを解明することで、
将来の気候変動予測の精度向上を
目指しています。
- 領木
- これから見ていただくのは
「データ中継衛星」とやりとりしている
アンテナなんですが、
通信相手の衛星によって、
アンテナの構造もちょっと違うんです。
- ──
- ザックリした形状は、
だいたい「お椀型」なわけじゃないですか。
- 領木
- そうですね。
- ──
- では、何が違うんですか。
- 領木
- たとえば、
地球の自転と同期させた静止軌道の衛星って、
微妙に動いてはいるんですが、
アンテナを
ダイナミックに動かす必要はありませんから、
駆動機構が簡略化されていたりとか。
- 安部
- 電波の種類にもよりますし、
どれくらいの感度を持たせるかにもよって、
中のエレキの部分が変わってきます。
- ──
- エレキ‥‥つまり電気機器的な部分が、
同じように見えても違う‥‥ってことですね。 - ああ、アンテナのふもとにたどり着きました。
いやあ、じつに大きいです。
お椀の直径は何メートルくらいあるんですか。
- 深田
- これで、13メートルです。
- ただ、長野県の美笹深宇宙探査用地上局には
直径54メートルのアンテナがありますし、
同じ長野県の臼田宇宙空間観測所には、
1984年から
64メートルもの大きさのアンテナが、
ずっと、地球を遠く離れた探査機との通信を
担ってくれているんですよ。
- ──
- ひゃあ、これで「13メートル」ってことは、
「54」とか「64」って‥‥!
- 深田
- あっちに見えるJAXAのビルの高さより、
お椀の直径のほうが大きいくらい。
- ──
- ははは、そりゃでかい。
でっかすぎて、笑っちゃう(笑)。 - しかも、そんな大きな建造物を、
みなさん「動かして」いるわけですよね。
- 深田
- ええ、その長野の巨大アンテナは、
「1000分の1度」の精度で動かせます。 - つまり、分度器の「1度」を
「1000」にわけたうちのひとつという
わずかな精度で、
動かすことができるんです。
- ──
- どういうことですか(笑)。
- 深田
- というか、その精度で動かせなかったら、
「はやぶさ2」は追えないんです。
- ──
- 地球から遠く離れた深宇宙へ飛んでいく
小惑星探査機‥‥それが「はやぶさ2」。 - 直径64メートルものアンテナのお椀を
1000分の1度の精度で動かすとか、
みなさん、そんな、途方もないことを。
- 領木
- おそらく、このアンテナでも、
100分の1度くらいの精度は出ますね。
- 深田
- いま止まっているように見えてますが、
実際には、微妙に動いてるんですよ。
- 領木
- このアンテナから、
まっすぐ3万何千キロ行ったところに、
静止衛星がいるので‥‥。
- ──
- 動かさないとズレちゃうってことですか?
- 深田
- はい、「静止衛星」と言っても、
地球の自転と同期させて
止まったように見えているだけなので、
厳密は動いているんです。
- ──
- そこにピッタリ照準を合わせていると。
ズレをキャッチしつつ。はあ‥‥。
- 深田
- ズレをキャッチすることもできますし、
何時何分何秒に
「衛星がどこにいるか」を予想する
「軌道力学」のプロのはじき出した
計算結果に合わせて動かしたりだとか。
- 安部
- ちなみに言いますと、
軌道力学・軌道計算も異様な世界です。
- 深田
- 計算の誤差が「1秒」も出ないんです。
- 地球観測衛星というのは、
秒速7キロくらいで飛んでいますから、
「1秒」ずれたら、
「7キロ先」に行っちゃうんです。
- ──
- 想像を絶する話ばっかりだなあ(笑)。
- 安部
- 衛星の運用のときにお話しましたけど、
デブリを避(よ)けるために
人工衛星を上げ下げするときなんかも、
軌道力学の人たちと相談しながら。
- ──
- この「お椀」の表面も、
めちゃくちゃなめらかなんでしょうね。
- 深田
- たしか、直径54メートルのアンテナで、
表面の凸凹が
230マイクロメートル、
つまり0.23ミリ以内に収まってるはず。
- ──
- ひゃあ‥‥超巨大かつ、超精密。
- そこまで巨大かつ構造体をつくれるメーカーって、
きっといくつもないんでしょうね。
- 領木
- 大型アンテナをつくれる技術を持ったメーカーは、
ほんの数社ですね。 - ちなみにですが、
長野には64メートル、54メートルの次に大きい
国立天文台野辺山の
45メートルのアンテナもあるんですが、
それらぜんぶ、三菱電機さんがつくっていますね。
- 深田
- アンテナの精度については飛び抜けてます。
三菱電機さんが、やっぱり。
- ──
- さすがは‥‥三菱電機さん‥‥。
- 安部
- アタカマ砂漠のアルマ天文群にも入ってますよね、
三菱電機さん。
- ──
- でも、こんな巨大なアンテナって
そこまでボンボン建ってるわけじゃないですよね。 - いわば限られた経験値の中で、
そこまで完成度を上げてくるってすごいことです。
- 深田
- 日本の宇宙開発の最初期から関わってきてるので。
三菱電機さんは。
- ──
- ちなみに、長野県に大きなアンテナが多いのって、
何か理由があったりするんですか。
- 領木
- 大型アンテナって、遠い宇宙と通信しているので、
地球に届くころには、
探査機からの電波が微弱になってしまうんです。 - なので、その微弱な電波をキャッチできるように、
携帯電話はじめ他の電波のノイズのない、
人里離れた山の奥に設置していることが多いです。
- ──
- お椀の部分って、どうやってつくってるんですか。
- 深田
- ピザみたいな三角形のパーツを、
たくさん組み合わせて作っている感じですね。
- ──
- なるほど。
- 以前、アタカマのアルマ計画について、
当時国立天文台にご所属だった
阪本成一先生に取材させていただいたんですが、
ヨーロッパのカーボン製のアンテナって、
ネジ止めが効かないから、
直径12メートルのアンテナを
半分づつ、半円形につくってからチリに運んで、
接着剤でくっつけてるって聞きました。
- 領木
- はははっ、マジっすか!(笑)
- 深田
- たしかに、各国で構造は違いますから、
つくりかたも違ってくるんでしょうね。 - 日本の場合は地震や台風があるので、
海外より頑丈につくってやる必要があります。
- 領木
- 秒速80mの風に耐えられる仕様になってます。
- ──
- 宇宙からの微弱電波を受け止めたり、
めちゃくちゃ遠くの衛星に照準を合わせたり、
緻密な仕事をする巨大構造物が、
いわば「のざらし」状態なわけですが‥‥。
- 領木
- 海のそばに建っているアンテナの場合は、
時間が経つと、
パネルを留める金具が
潮風でだんだん錆びてボロボロになります。
- 深田
- そうなると、表面精度にも悪影響が出て、
受信性能が少しずつ落ちてきてしまうんです。 - アンテナのお椀の表面をきれいに保つことは、
わたしたちの仕事の中でも、
たいへん重要な任務のひとつなんです。
(つづきます)
2023-02-07-TUE
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シリーズ、ぞくぞく更新予定!
地球観測衛星の情報については
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