いつもお世話になっているPARCOさんから
「JAXAさんと、何かやりません?」
と、うれしいお誘いをいただきました。
そこで、わたしたちの生活に
とーっても重要な役割を果たしているけど、
「地味で、激シブで、どマイナーな」
(JAXAさん曰くです)
「地球観測衛星」について、
特集を組ませていただくことにしました。
これまで、南米・仏領ギアナの
熱帯雨林のど真ん中から、
大型ロケット発射の生中継をしたり、
宇宙飛行士さんの話をうかがったりしてきた
われわれ「ほぼ日」ですが、
「地味・激シブ・どマイナー」と言われる
地球観測衛星の話も、まったく同じく
おもしろく、胸がワクワクするものでした。
全4本のインタビューに、途中、
アニメ「ガンダム」シリーズを手掛ける
サンライズの小形尚弘プロデューサーと
JAXAさんとの特別対談もあります!
まずは「地球観測衛星の開発」篇から。
担当は「ほぼ日」奥野です。さあ、どうぞ。
- ──
- 完全にド素人な質問で申しわけございません、
670キロ上空の宇宙から、
地球上、衛星直下の80センチ四方のものを
見ることができるとか、
そんな遠くのちっちゃいものを見るのに、
光学つまりミラーのちからを使うのかあ、と。
- 安部
- なるほど。
- ──
- なんとなくのイメージで、コンピュータとか、
電磁波をバリバリ出すような、
めっちゃすごいアンテナみたいなハイテクを
使ってるのかなと思ってました。
- 安部
- そのあたりについては、
学生時代に顕微鏡を研究してきた下村くんに。
- ──
- あ、そうなんですね。下村さんは、顕微鏡。
- 下村
- はい、宇宙が大好きだったというわけでなく、
ちいさいものをどう見るか‥‥
という研究を、学生時代はやっていたんです。 - JAXAに入社してからは、
この「だいち3号」のプロジェクトに入って、
ずっといままで、
カメラの開発を担当しています。
自分が入ったときに
すでにカメラ自体はある程度できていたので、
ぼくは、おもに
宇宙に行ってちゃんとほしい性能が出せるか、
そのための試験に携わってきました。
- ──
- おお、地球観測衛星の「観測」を担う部分を。
すごいなあ。で‥‥あらためてなのですが、
以前、星空観測、星を見る会みたいな場所に、
お誘いいただいたことがあったんです。 - そのときに、ドブソニアンって言ってたかな、
大砲みたいな望遠鏡で、
ものすごく遠くの星を見せてもらったんです。
たしか、土星とか。
- 安部
- はい。
- ──
- それがもう、ちっちゃくて、かわいくて‥‥
めちゃくちゃ感動したんですけど、
その望遠鏡も、大きな鏡がついているだけで、
「えっ、いまの土星って鏡で見たんですか?」
という新鮮な驚きがあったんです。 - ようするに、土星みたいな遠くにある天体を、
ただの鏡で見たのか‥‥という、
まあ、素朴すぎるかもしれない驚きがあって。
何だかハイテクみたいな機械を使わずに、
極めて単純な原理で、
そんなにまで遠くのものが見えるんだ‥‥と。
- 下村
- そうなんです。
- たとえば、いわゆる「電子顕微鏡」の場合は、
ちっちゃいものに電子を当てて、
跳ね返ってきた信号を観測しているんですが、
宇宙から地球に向かって電磁波を出して、
それが跳ね返ってくるのをキャッチするのは、
なかなか、難しいんです。
- ──
- なるほど。
- 下村
- そういう観測衛星も、あるんですが。
- ぼくたちの「だいち3号」は、
地表面に当たって跳ね返ってきた太陽の光を、
ミラーで集める仕組みですね。
- ──
- 精巧につくられた鏡って、すごいんだなあ。
同時に、太陽の光のすごさでもありますね。 - このカメラも、これから運用していく過程で、
もっとよくなっていくんでしょうね。
- 安部
- これ、たぶん、打ち上がって1週間もすれば、
まず1発目の画像を撮るわけですが、
ピンボケしてたら、下村くんが怒られるよね。
- 下村
- はい(笑)、めちゃくちゃ緊張します。
でも、調整できるようにはなっているんです。 - 宇宙空間というところは、
真空なので、パイプから水分が抜けたりして、
ピントの距離が縮まっちゃったりする。
それでピンボケしてしまうんですが、
でも、丹羽さんが言ってたように、
構造をミクロンオーダーで整備しているので、
水分が抜けても、
調整できるような機構をつけているんですね。
- ──
- 宇宙の映画とかを見ていても、
あらゆる物事にバックアップがありますよね。
- 安部
- ひとつ壊れても代替できる仕組みを、
ぼくたちは「冗長系」って呼んでます。
- ──
- 冗長系。
- 安部
- はい、バックアップっていう意味で、冗長系。
「主系」と「従系」と呼んだりもします。 - 人工衛星のほとんどの部分で、
いろんな機構が2つずつ搭載されてるんです。
- ──
- 壊れたら切り替えるための「予備」がある。
- 丹羽
- ええ、たとえばこの人工衛星の模型でいうと、
この部分が、
ロケットの入っているときはたたまれてます。
- ──
- はい。人工衛星の羽根みたいな部分。
- 丹羽
- これが、宇宙できれいに開いてくれなければ
困ってしまうんですが、
開くときには、ボルトを火薬で切るんですね。 - 火薬を爆発させた圧力でカッターを出して、
ボルトをパーンと断ち切って、開くんですよ。
- ──
- ひゃあ、豪快。
- 丹羽
- そのカッターにも、主系と従系があるんです。
- 1発目でボルトを断ち切れなかった場合には、
もういちど2発目で試みる。
ぜんぶで6個のボルトを断ち切るために、
12個のカッターが、仕込まれているんです。
- ──
- 人類の宇宙への挑戦の黎明期は、
もっとワイルドな感じで飛んでいったものが、
成功や失敗の経験を繰り返して、
より成功の確率を上げるために、
冗長系にたどりついたんでしょうね、きっと。
- 安部
- われわれは、NASAとも
お互い交流を持って情報交換をしておりますし、
いろいろ勉強しながら、
地道に培っていったという部分だと思いますね。 - 当然、安全性の審査も厳しいです。
安全を評価する部署の審査をクリアしてないと、
打ち上げにたどり着けないんです。
- ──
- 宇宙空間ではたらく人工衛星をつくる‥‥って、
行けども行けども
また新しい課題が生まれてくるような、
果てなき世界なのかなあと想像するんですけど。
- 安部
- たしかに、そうかもしれません。
- 下村くんは、カメラつまりセンサーという
観測衛星におけるど真ん中の部分の担当だけど、
どうだった、この3年間。
大変だったでしょ?
入社していきなりセンサーやって下さいだから。
- 下村
- まず、カメラがこういう構造していること自体、
ぜんぜん知りませんでしたから。 - そういうところから勉強‥‥という感じでした。
- 安部
- 設計が完成して、
下村くんが入社したのが、いまから3~4年前。 - 開発自体にも6年かかっていますが、
その衛星が、まだ打ち上げられてないんです。
つまり、それくらいの時間がかかるものなので、
その間にも
テクノロジーはどんどん進歩してしまうんです。
- ──
- そうなんでしょうね。
- 安部
- ですから、この人工衛星をつくっている間にも、
次号機の構想を、
同時並行で、考えていかないといけないんです。 - そういう意味でも、終わりなき道ですね(笑)。
- ──
- それだけの時間をかけて開発した人工衛星が、
いよいよ打ち上がるってときは、
どんな緊張と感動なのかなあって気がします。
- 安部
- めちゃくちゃ緊張しますよ。
- この「だいち3号」は
丹羽ちゃんが衛星指揮官を務めるんですけど、
偉い人たちが後ろで見守る中、
人工衛星を捕捉できる10分とかの間に、
さまざまな状況に対応して、
万一不具合や異常事態が起こっていたら、
解決していかなければならない。
- ──
- しびれるお仕事‥‥!
- 安部
- 彼はいま、死ぬほど勉強してるはずです。
- 丹羽
- はい(笑)。
- ──
- 安部さんの場合は、
長いこと開発に携わってきた人工衛星が、
いまも宇宙で活躍してるわけですが、
それって‥‥一体どういう気持ちですか。
- 安部
- 宇宙から観測データが下りてきて、
世の中に役に立つのかなあ‥‥と思うと、
やっぱり、うれしいですよね。 - JAXAに入ったときの気持ちは、
世の中を楽しくしたいということでした。
- ──
- おお。
- 安部
- でも、自分が開発している人工衛星って、
かの有名な「はやぶさ」みたいに
華があったり、
みんなを楽しませたりする衛星ではない。 - むしろ、気候変動だとか対策や防災など、
ネガティブな部分と
向き合わなきゃならない衛星なんですね。
- ──
- そうか。
- 安部
- 笑顔を増やしたいと思ってはじめた仕事、
なんですけど、なんでしょうね、
ぼくらの人工衛星によって、
少しでも涙を減らせたらいいなと思って、
いまは、はたらいていますね。 - 丹羽ちゃんは、どんな感じ?
もう遠くない将来、打ち上げがあるけど。
- 丹羽
- もう6年もの間この衛星に携わってきて、
やられることはやった気がしていて、
あとはあんまり好きじゃないんですけど、
神頼みのフェーズに入ってます。
- ──
- 神頼み!
- 安部
- 神棚、買った?
- ──
- 神棚!?
- 安部
- 買うんですよ、神棚。
各衛星のプロジェクトで、みーんな。
それを運用室に飾ってます。
- 丹羽
- 筑波山にも登ります。成功を願う行脚で。
もう、全力で神頼みです。
最後にやれることはそれぐらいですから。
- ──
- そうか。人事は尽くして打ち上げを待つ。
もう「やりきってる」わけですね。
- 安部
- 無事に宇宙に行くことができるのか、
行けたとして、
そこでは、どんな結果が待っているのか。 - 自分のこの6年はどうだったのか、
その最後の答え合わせの場が宇宙なので。
- ──
- それは‥‥神さまにも頼っちゃいますね。
- 安部
- はい(笑)。
2022-09-16-FRI
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シリーズ、ぞくぞく更新予定!
001 地球観測衛星の「開発」 篇
002 地球観測衛星の「運用」 篇
003 JAXA+ガンダム スペシャル座談会
004「パラボラアンテナ」 篇
005「周波数調整」 篇
006「軌道力学」 篇地球観測衛星の情報については
「JAXA サテナビ」でチェックを!