日本全国に散らばるミュージアムを訪ねて、
学芸員さんたちに
所蔵コレクションをご紹介いただく連載、
第16弾は、満を持して!
原美術館ARCへおじゃましてきました。
はやくから、日本に
世界の現代アートを紹介してきた美術館。
コレクションにまつわるエピソードにも、
その作品収蔵の経緯にも、
この美術館ならではの物語がありました。
全12回の連載、お話くださったのは
青野和子館長と学芸員の山川恵里菜さん。
この年末、ゆっくりとおたのしみください。
そしてぜひ、
原美術館ARCへ遊びに行ってみてください。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- 山川
- こちらの古郷秀一さんの作品も、
先ほどのコールテン鋼でできています。
- ──
- ここにこの作品がある、ということは
知っていましたが、
近くに寄ってみたのは、はじめてです。 - で、近くに寄って見ると、
印象がぜんぜんちがう‥‥カッコいい。
- 青野
- 12センチの金属の棒を
ひたすら溶接してつくった作品ですね。
それらが極めて「密」な状態から、
どんどん「疎」、まばらになっていく。 - 向こう側の景色が素通しで見えますが、
磯崎さんが「日本的だね」って。
障子などで
外側と内側をやわらかくつなぐ文化が、
日本にはありますから。
- ──
- 作品の縁(へり)の部分が、
ピシーッと一直線にそろっていますね。 - カッコいいなあ。
- 青野
- 原美術館の開館の当初から10年間、
計10回にわたって開催した
「ハラアニュアル」5回目の出品作です。 - 毎春、10名前後の若手アーティストに
新作を発表していただいた、
「若手作家の登竜門」と呼ばれていた
企画展なんですけど。
- ──
- なるほど。
- 青野
- 品川からこちらへやってきてから、
3回くらい、設置場所を変えています。 - おとなりの伊香保グリーン牧場の敷地の中に
置かれていたこともあるんですよ。
- ──
- へえ、そうなんですか!
- おいしいソフトクリームがめっちゃおいしい、
群馬の小学生の遠足といえば‥‥の。
- 山川
- ここから少し、下っていきましょうか。
オトニエルの作品《Kokoro》のほうへ向かって。
- ──
- はい、オトニエルさんのハートの作品。
- みんな、そこで写真を撮ってますよね。
原美術館ARCといえば‥‥
みたいなイメージの作品のひとつです。
- 青野
- この作品は品川からの移設ではなくて、
2009年に、
この場所に合わせてつくられたものです。 - お客さまが来館されたとき必ずくぐられるゲートで、
正面から見るとハートの形、
横から見ると
ハートが歩き出しているように見えますね。
当館の増築時、新たなファサードのために、
フランス人アーティストの
ジャン=ミシェル・オトニエルが
つくってくれたんです。
彼は、30年前にも当館のグループ展に参加してるんです。
ここでの滞在制作も経験していたり。
- ──
- ああ、親しくされていた方なんですね。
- 青野
- 彼は、その後、ガラスを素材とした作品を
発表するようになりました。
パリのルーヴル美術館の
最寄りの地下鉄の入口も手掛けていますよ。
ご存じの方も多いかもしれません。
2012年には
品川の原美術館で個展も開催しています。 - 当館のこのゲートは、
大きな「手吹き」の深紅のガラス玉を、
ネックレスのようにひとつずつ躯体に通し、
ハートのかたちに仕上げた作品。
「ようこそ、非日常のアート体験へ。
ドキドキしてください!」
な~んて言っているようじゃありませんか。
- ──
- ガラスをつなげただけなのに、
こういうかたちをキープできるんですね。 - 強い風で、倒れたりとかしないんですか。
- 青野
- 中心にステンレスの芯が入っていますが、
おっしゃるように、風で揺れます。 - 台風のときなどは、ワイヤーで固定して
倒れないようにしているんです。
- ──
- オトニエルさんって、
ガラス作品を主につくっているんですか。
- 青野
- ええ。ヴェネチアングラス、
ムラーノガラスと呼ばれるものが主です。
- ──
- で、ここの小径をずんずん進んでいくと、
赤城山を見はるかす広場の中、
いい感じにぽつんと、
「銀色の違和感」が見えてくるんですよね。
- 山川
- はい。オラファー・エリアソンの
《Sunspace for Shibukawa》ですね。
- 青野
- ドーム内部へ差し込む太陽光が、
天井に配されたプリズムレンズを通って
目の前に虹を出現させる、
なんともスケールの大きな作品なんです。 - 出現する虹は、時刻や季節によって
移り変わるのですが、
2週間ごとに「完全な円形」が現れます。
- ──
- えっ、そうなんですか。
すごい。そんなのぜんぜん知らなかった。
- 青野
- 緯度経度を完璧に計算して設計していて、
二十四節気の日に真円が出現します。 - それも、たった「5分間」だけなんです。
- ──
- 見てみたい!
- 青野
- ただし、その虹のアートも、
ほんの一瞬でも雲が太陽をさえぎったら、
さっと消えてしまう。 - くもりの日や雨の日には何も見えません。
着想から4年の歳月を費やして、
綿密に計算し尽してつくられた空間です。
特別な光の体験を味わってください。
- ──
- エリアソンさんって、少し前には
麻布台ヒルズで個展をやってましたよね。
- 青野
- はい。
- ──
- 東京都現代美術館でも作品を拝見し、
環境問題に関心を持っていると聞きました。
- 青野
- そうですね。ですから、この作品にしても
動力源、エネルギーとしては
環境に負荷を与えるものを何も使ってない。
- ──
- 太陽の光のみ。
- 青野
- 晴れた日に、しばらく佇んでいただくと、
目の前の光や虹が、
刻々と変化していくようすがわかります。
- ──
- ほんの些細な光の変化もつかまえる空間。
静寂ともあいまって、超ドキドキします。
- 青野
- この目の前の光のアートは、
「いま、ここ」でしか味わえないんです。
そのことの尊さ、ありがたさを
しみじみと感じさせてくれる作品ですね。 - ただ、お披露目会の日が、
残念ながら「雨」だったんですよ(笑)。
- ──
- えっ、エリアソンさんも来てたんですか。
- 青野
- もちろん。当館を設計された
磯崎新さんもいらしていて。 - 理事長の原俊夫と
シャンパンで乾杯しようとしていたとき、
雨が降ってきてしまって‥‥。
でも、そのあと、急にパァーッと晴れて、
本物の虹が、
あちらの赤城山いっぱいにかかりました。
- ──
- そんなミラクルが。
- 青野
- 本当に。オラファーも、
「晴れた日にしか見れないような作品を
常設展示してくれて、本当にありがとう」
と繰り返しおっしゃっていました。
(つづきます)
2024-12-22-SUN
-
この連載でもたっぷり紹介していますが、
ウォーホル、オトニエル、三島喜美代、エリアソンなど
お庭に展示している作品から、
草間彌生、奈良美智、宮島達男など日本の現代美術家、
さらには狩野探幽や円山応挙など古い時代の美術まで、
原美術館さんがひとつひとつ収集してきた
素晴らしいコレクションを味わうことができる展覧会。
年末年始も2025年1月1日以外は
12月31日も1月2日も開館しているそうです!
年末独特の内省的な雰囲気、
お正月の晴れやかな雰囲気のなかで作品に触れたら
またちがった感覚を覚えそうな気がします。
今期展示は1月13日まで、ぜひ訪れてみてください。
さらに!
2025年1月9日から新宿住友ビル三角広場で開催される
「生活のたのしみ展2025」には、
この「常設展へ行こう!」に出てくる美術館の
ミュージアムショップが大集合するお店ができます。
原美術館ARCの素敵なグッズも、たくさん並びます。
ぜひぜひ、遊びに来てくださいね!
生活のたのしみ展2025について、詳しくはこちら。本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
第12回「国立西洋美術館篇」までの
12館ぶんの内容を一冊にまとめた
書籍版『常設展へ行こう!』が、
左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
紹介されているのは、
東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
横浜美術館、アーティゾン美術館、
東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
大原美術館、DIC川村記念美術館、
青森県立美術館、富山県美術館、
ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
本という形になったとき読みやすいよう、
大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
常設展が、ますます楽しくなると思います!
Amazonでのおもとめは、こちらです。