特別展には、大勢の人が集まりますね。
さまざまな切り口で、
国内外から美術作品を集めてきては、
おもしろく見せてくれるから。
でも、常設展に並んだ所蔵作品にこそ、
その美術館の個性が出るもの。
日本の国宝が迎えてくれるし、
パリへ行かずとも、ピカソに会えるし。
そこで、各館の常設展示をめぐって
所蔵する作品を見せていただく、
何とも贅沢なシリーズを、はじめます。
まずは、日本のミュージアムの起源、
上野の東京国立博物館さん。
記念すべきシリーズ第1弾なので、
和田ラヂヲ先生とうかがってきました。
お話をしてくださったのは、
東博の竹之内勝典さん、
伊藤信二さん、河野正訓さんです。
ラヂヲ先生の手には、
万が一に備えて(?)スケッチブック。
準備は万端。
担当はほぼ日奥野です。お楽しみあれ!
- 竹之内
- あの扉、いまは閉まっているんですが、
以前「モナ・リザ」が来たときに‥‥。
- ──
- えっ!
- ラヂヲ
- 小学校のころだったかな‥‥あれは。
- 竹之内
- 過去に2度「モナ・リザ」は
ルーブルから貸し出されているんですが、
1回はアメリカで、
もう1回が、ここ東博なんです。 - もしかして先生、ごらんになられました?
- ラヂヲ
- いや、ニュースで見ただけです。
- ──
- えっとつまり、あの扉の向こうに、
あの「モナ・リザ」が、展示されていた。
- 竹之内
- そうなんです。たった1枚だけ。
- ラヂヲ
- 大行列でね‥‥。
- ──
- さも見たかのように!
- 竹之内
- はい(笑)、実質2ヶ月ない会期で、
150万人を超えるご来客がありました。 - いまだに東博の最高記録です。
- ──
- ひゃー、ひゃくごじゅうまんにん。
たった1枚の絵を見るためだけに。
- 竹之内
- ツタンカーメンもお迎えしています。
- ──
- ツタンカーメンまで!
東博さん、あらためて、すごい‥‥。
- 竹之内
- ツタンカーメン展は、他館で、
2012年にも開催されているんですが、
1965年にはじめて、
東博に黄金のマスクがやってきたんです。 - そのときは、博物館の外壁を囲むように
行列が伸びたそうですね。
- ──
- ツタンカーメンを見るために。
- ラヂヲ
- 呪いや!
- ──
- 何のですか(笑)。
- ラヂヲ
- 上野のパンダと、どっちが多いですか。
- 竹之内
- それは‥‥パンダです。
- ラヂヲ
- まあ、それは、そうですよね(笑)。
- ──
- パンダ、モナ・リザ、ツタンカーメン。
上野って、やっぱり、すごい。
- 竹之内
- ちなみに、この博物館の所蔵品ですが、
新しいもので、
だいたい大正時代くらいまでなんです。 - 昭和からあとのものは、
竹橋の
東京国立近代美術館で所蔵しています。
- ラヂヲ
- 時代ですみわけてるんですね。
- 竹之内
- ええ、フランスと同じように。
- ──
- なるほど。あちらもルーブル美術館と
オルセー、
ポンピドゥー・センターで、
時代によってわけられていますものね。
- ラヂヲ
- この人たちは‥‥しんどそうだなあ。
誰? 鬼?
- 竹之内
- 鬼ですね。明治の初期に
ウィーン万博が開催されたのですが、
そこに出品された作品です。
- ──
- 頼光大江山入図大花瓶‥‥と。
- ラヂヲ
- 免震の役だったりして。
- ──
- ははは、免震鬼。あるいは鬼免震。
- ラヂヲ
- どっちにしても、免震効果はすごそう。
- 竹之内
- や、でも、ある意味、鋭いご意見です。
- 地震国・日本の博物館というのは、
作品が絶対に倒れないよう、
しっかり固定して、
さらに、
ものによっては免震台を入れています。
- ──
- わあ、そうなんですか。さすが先生!
- ラヂヲ
- ほら。ちなみに、これは何なんですか。
実際のところ、この作品は。
- 竹之内
- 花瓶ですね。戦国時代には、
刀や鎧の製作の巧みな技術者・職人が
たくさん存在したんですが、
江戸時代になり、
世の中が安定して
武具の分野で技術を披露する場面が
なくなってしまうと、
どんどん
工芸品のほうへ移っていったんですね。
- ──
- なるほど‥‥
自分と自分の腕が活きる道を探して。
- 竹之内
- ここからご案内をさせていただくのは、
まさしく、そのような
明治トップレベルの工芸品の数々です。
- ラヂヲ
- フルーツを盛りたくなるよね。
- ──
- 明治トップレベルの工芸品の、
あのてっぺんのお皿のところにですか。 - 怒られるだろうなあ(笑)。
- ラヂヲ
- これまたみごとな‥‥躍動感がすごい。
鷲、かな。
- 竹之内
- 鈴木長吉さんという名人の作品ですね。
- 当時シカゴ・コロンブス世界博覧会に
出品されて、
世界に日本の技術を知らしめた作品。
- ラヂヲ
- こんなにも羽ばたいているもんなあ。
- 竹之内
- そうです、そうです。
- あっちの富士山なんか絵じゃなくて、
七宝焼きなんですよ。
- ──
- えー、まるきり絵に見える。
- 竹之内
- それが、焼き物なんです!
- ラヂヲ
- この富士が。はぁーっ‥‥。
こんな色、出るんかな‥‥すごいね。
- ──
- 七宝富嶽図って書いてありますね。
作者は濤川惣助。有名な人ですね。
- ラヂヲ
- あら、お知り合い?
- ──
- いえ、そこまでの関係では(笑)。
- ラヂヲ
- 俺は、あの背中は知ってるぞ。
- ──
- えと、たしかに‥‥誰でしたっけ。
- ラヂヲ
- 映画の『猿の惑星』で裁判官だった。
- ──
- ちがいますよ(笑)。
- 竹之内
- 高村光雲による大作「老猿」ですね。
- こちらも、
シカゴ万国博覧会に出品された作品。
- ──
- こんなにも大きかったんだ!
- ラヂヲ
- 描いといたほうがいいかな、これは。
描くか。描いとくか。(といって描く)
- ──
- 教科書などで知ってる気がしていても、
実際に見たら、
予想外に大きなものってありますよね。 - ミケランジェロのダビデ像とか。
- 竹之内
- そうですね、実際に見ると。
- ちなみに教科書に掲載されてる作品を
最も多く所蔵しているのが東博。
当館に来ていただけましたら、
教科書で見たことのある作品の実物を、
じっくりとごらんいただけます。
- ラヂヲ
- よく見たら、すごいセクシーなんだね。
- ──
- 老猿がですか。‥‥あ、イラストいい。
- ラヂヲ
- いやあ、簡単にしか描けないけど。
こんな感じでしょうかね。どうですか。
- 竹之内
- ああ~。
- ラヂヲ
- いまの「ああ~」は何だろう(笑)。
- 一同
- (笑)
(つづきます)
2021-01-27-WED