昨年、開催された「前橋ブックフェス」は、
みんなで本を持ち寄って、集まった本を、
参加した人が自由に持って帰っていいという、
前例のないまったく新しいイベントでした。
ほぼ日乗組員の永田は、
本が大好きだった「順二郎おじさん」が遺した
2000冊の本を会場に並べました。
大いに盛り上がった二日間のイベントと、
残った「順二郎おじさんの本」について、
ちょっと遅くなりましたが報告します。

  • 前橋ブックフェスは、
    こころに残るイベントでした。

    こんにちは、ほぼ日の永田です。

    遅くなってしまいましたが、
    前橋ブックフェスでたくさんの方の手に渡った、
    ぼくの伯父の本について、ご報告いたします。
    年が変わって、もう去年のことなんですね。

    そう、去年の10月、群馬県の前橋市で、
    「前橋ブックフェス」というイベントが開催されました。

    家の本棚に眠っている大切な本を全国から前橋に送り、
    来場した人が自由にそれを持って帰ることができる。

    糸井重里が企画したこの
    「あたらしいかたちの本のイベント」は、
    その前例のなさゆえに、
    説明することも実行することもたいへん難しく、
    はたして本が集まるのか、
    会場に人が来てくれるのか、
    現場でのやり取りが破綻しないか、
    もう、ほんとうに、やってみなければ
    わからないことだらけだったのですが、
    いざオープンしてみると、
    ぼくらの予想をはるかに上回る数の
    お客さんにご来場いただき、
    大盛況のうちに終了することができました。

    しかし、なんというか、
    「たくさんの人が集まった」ということのみをもって、
    前橋ブックフェスをまとめるのは、
    ちょっと違う気もするのです。

    あの不思議なイベントは
    とてもこころに残るイベントでした。
    たしかに大盛況でしたし、大成功でしたし、
    メディアにもたくさん取り上げられましたけれど、
    それだけでなく、本というものを通じて、
    人と人をつないだような気がするのです。

    あんなイベントはなかったなあと、
    いまでもぼくは思っています。
    たぶん、実際に前橋に足を運んでくださった方なら、
    わかってもらえるんじゃないでしょうか。

    さて、その前橋ブックフェスに、
    ぼくは、自分の本好きの伯父が遺した
    たくさんの本を車で持ち込みました。

    おじさんの名前は順二郎といいます。
    ぼくは、子どものころから
    「順二郎おじさん」と呼んでました。
    順二郎おじさんは親戚では有名な「本の人」で、
    若い頃から、亡くなるその日まで、
    たくさんの本に囲まれて過ごしました。

    昨年の夏、彼が91歳で亡くなったとき、
    「あの本をどうしようか?」ということになりました。
    売るのも捨てるのも、なんだかねぇ、と。

    それで、ぼくがおじさんの遺した本を
    前橋ブックフェスに車で運ぶことにしたのです。
    伯父の家は福岡にあったため、
    前橋までの1100キロを二日間かけて運転しました。

    そのときのことは、ちょっと長いですが、
    以下のところにまとめてあります。

    ぼくの伯父、順二郎おじさんの遺した本は、
    ざっくり数えて2000冊以上ありました。
    ダンボールに詰めると43箱になりました。

    本の種類は多種多様で、
    ぼくは順二郎おじさんが住んでいた部屋で
    たくさんの本を箱に詰めながら、
    順二郎おじさんという人を、
    あらためて知ったような気になりました。

    おじさんは高校の物理の先生でしたから、
    物理学や数学の本がもちろん多かったのですが、
    興味の範囲はもう、無尽蔵といってよく、
    たとえば新旧のミステリーもたくさんありましたし、
    古典もありましたし、哲学の本もありました。
    歴史小説も、海外文学も、戯曲も、SFも、
    ハードカバーも、文庫本も、雑誌も、辞書もありました。
    80年くらい前のぼろぼろの本があるかと思えば、
    わりと最近のベストセラーもありました。
    意外なところでは、毒や呪術の本がけっこうあって、
    それはぼくの知ってるおじさんからは
    想像できないジャンルのものだったから、
    ぼくは彼のちいさな秘密を
    見つけたような気持ちになりました。

    本棚にはその人が表れる、といいますが、
    おじさんが遺した2000冊の本には、
    彼の趣味はもちろん、人生とか、理想とか、価値観とか、
    順二郎おじさんという人そのものが
    表現されているように思いました。

    それで、とてもおもしろかったのは、
    前橋の商店街にぼくのおじさんが遺した
    2000冊の本をずらりと並べたとき、
    多くの人とぼくのおじさんが
    「出会った」ことでした。

    並べられたたくさんの本には
    ぼくのおじさんの内面が表れていて、
    その本をたくさんの人がしゃがみこんで読んでいる。
    その日、来場した、知らない人たちが、
    ぼくのおじさんの本を手に取り、
    ぱらぱらと、なんならじっくりと読んでいる。
    それは、ほんとうに不思議な風景でした。

    そして、おじさんの本を読んでいた人が、
    ふと顔を上げて、ボランティアの方に
    「これ、いただいてもいいですか?」と言って、
    了承を得ると、その本を自分の荷物に入れる。

    その瞬間、ぼくのおじさんの本は、その人の本になる。

    こんなイベントがなければ、
    おそらく処分されていたであろう、
    順二郎おじさんの本が、
    1冊ずつ、あたらしい持ち主の手に渡っていく。
    それはなんともいえない出来事でした。

    当日、本を手にとってくださった人たちは、
    たとえばこんなツイートをしてくださいました。
    これらを読むと、ぼくはいまでも
    ふわふわした気持ちになります。

    こうして、残された2000冊の本は、
    どんどん来場者の方に引き取られていき、
    43箱あったダンボールは、
    結果的に8箱になりました。

    すごいことです。
    あの本をどうしようか、と悩んでいたのに。
    処分するしかないのかな、と残念に思っていたのに。

    あらためて、ぼくのおじさんの本を
    自分の本にしてくださったみなさま、
    ほんとうにありがとうございました。

    とはいえ、重く感じないでくださいね。
    もうそれはみなさんのものですし、
    読んでも読まなくても棚にあっても箱にあっても
    もちろん処分してもらっても
    まったくかまいません。

    そこにわずかでも興味を覚えていただき、
    持っていってくださったことで十分です。

    さあ、そして。

    残った8箱の本を、ぼくは気持ちよく、
    今度こそ処分する気でいました。
    だって、43箱のうち35箱がなくなったんですよ?
    ああ、よかった、もう十分、と思っていました。

    でも、東京に送り返したダンボールを、
    ちょっと開けてみたりしていたら、
    いっそこの8箱も、という気持ちになったのです。

    それはもちろん、前橋ブックフェスの当日に、
    「行きたかったけれど行けません」という方が
    たくさんいらっしゃったことも関係しています。

    そんなわけで、順二郎おじさんの、
    最後の8箱分の本を、
    ご希望の方にお送りいたします。
    もちろん、無料です。送料もこちらで負担します。

    送る本の量と種類は、
    こちらで見境なく決めさせていただきます。
    基本的には、手をあげてくださった方の人数で
    残った本を等分するつもりです。

    何度も言いますが古い本も混ざってますし、
    わかりやすくて読みやすそうな本は
    イベントのときにざっともらわれてますので、
    なんというか、変な本が多いかもしれません。

    それでもよければ、
    ちょっとした運試しみたいにして、
    本をもらっていただけませんか?

    下の応募フォームに、
    お名前とご送付先を記入していただけると
    そのうち、ぼくのおじさんの本が届きます。
    締切を3月8日午前11時とさせていただきます。
    なお、恐れ入りますが、
    発送は国内に限らせていただきます。

    ※ 2023年3月8日 受付は終了いたしました。ご応募ありがとうございました。

    いやぁ、しかし、これ、
    最後の最後まで変わった企画だなあ。
    きっと、順二郎おじさんも
    「なにやってんだ」と苦笑してるんじゃないかな。

    おかしなことを提案してしまって恐縮です。
    どうぞ、よろしくお願いします。

    2023-02-28-TUE