現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

https://kenkagamiart.blogspot.com/
instagram: @kenkagami

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買ったもの_その8 

「ヨン様の等身大ポスター」

恵比寿をブラブラしてたら、向こうからヨン様のTシャツを着たおばさまが歩いてきたんです。「ヨン様ね。なつかしいな」なんて思ってたら、すれ違いざまに「えっ?」って。手づくりだったんですよ、そのTシャツ。画像は荒くてガビガビだし、ヨン様の顔色とかも変なんだけど、すごいなと。新大久保で売ってるやつじゃ飽き足らず「わたしの大好きなヨン様」世界で唯一のヨン様Tをつくっちゃった。このおばさまにそこまでさせるヨン様って何なんだと、そのとき思ったんですけどね。それから何年も経ったいま、めちゃくちゃ気になってます。ヨン様のこと。20年遅れてきたんですよ、ヨン様ブームが。まだ「冬ソナ」には手を付けてないんですが、長そうだし、だからまずはいつものメルカリで検索しました。当時のグッズだと思うけど、大量に出品されてました。Tシャツとか、DVDとか、素人の人が勝手に描いた似顔絵とか。その中から選んだのが、この等身大ポスター。じつは恵比寿の一件のさらに前、あるイベントで、これと同じポスターをヨン様型に切り抜いて、天井に吊るしてクルクルまわして評判よかったんですよ。で、「あのときのポスターないかな、ほしいな」と思ったら、運よく出てて。買ってよかったです。よけいな文字が書いてなくてシンプルだし、ちゃんとヨン様ポーズとってるし。額装して飾ってもいいくらい。こんだけ細長いと、額が特注になる気もするけど。でね、等身大のヨン様と向き合ってると、どうしても考えるんですよ。何でこの人、あんなにブームになったんだろうって。しばらく向き合ってたら、わかりました。やっぱり「優しそうだからだな」と。等身大のせいなのか、ポスターから人柄がにじみ出てきたんです。絶対に怒らなそうじゃないですか。それでいてマッチョでしょ。ペラペラのポスターなのに包容力がすごいんです。そりゃ夢中になっちゃうよね、みんな。とにかく、いま自分の中ではヨン様が新鮮なんです。もしセリーヌとかヴィトンのクリエイティブディレクターに就任したら、ショーのモデルとして真っ先に指名すると思う。えっ、「冬ソナ」? もちろん見ますよ、そのうちに。けど、絶対長いから‥‥。ちなみに何してんですかねえ、いま。誰か知ってます? もう60近いのかなあ、悠々自適の隠居生活とかですかね。ちょっと検索してみますか。ええーっと、えー、ペ・ヨンジュ‥‥え、えええっ? ヨン様まだ50歳だって! 俺とそんなに変わんないじゃん! ていうか姉ちゃんと同い年。もうひと花ふた花あるよね、その年齢なら。夏のソナタとか秋のソナタとか、わかんないけど。うわっ、しかも芸能プロをはじめて大成功して大富豪だって! キム・ヒョンジュンはじめ売れっ子40人が所属‥‥なんかすいませんでした! いますぐ「冬ソナ」見ます!

ヨン様が「たったの2コ上」だったと知ったときの加賀美さん、本気でびっくりしてました。有名人って年上に見えますもんね。自分も「シウバ、ノゲイラ、ヒョードル」という、かつてのPRIDE三大チャンピオン全員と同い年だと知ったとき、おどろきましたし。で、年齢が近いってだけでなぜか親近感がわきました。写真のふたりも「ケン」「ヨン兄さん」と呼び合っていてもおかしくない空気感を出しています。

加賀美さんの「カッコいい」

同じ柄で全身コーディネートした
おばあちゃん
bag

すべて同じ生地でできたジャケット、スカート、リュック、ポーチで全身コーディネイトしたおばあちゃん。ぜんぶ自分でつくったんだろうけど、柄もかわいいし、リュックの大きさもいい感じ。これ、帽子も同じ柄のものを被ってたらパーフェクトだったのに‥‥なんて。とにかく、カッコいい。

2022-10-16-SUN

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