現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

https://kenkagamiart.blogspot.com/
instagram: @kenkagami

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買ったもの_その29

「一輪のバラ」


最終回ってことで、一輪のバラを捧げたいと思います。ガラにもないけど、読者のみなさんへ、心からの感謝を込めて。だって、こんなヘンテコな連載に「29回」もつきあってくださるなんて。みなさん‥‥大丈夫ですか?(笑) ははは、冗談です。自分の買い物を楽しみにしてくれる人がいるなんて、思いもよらない2年半でした。この真っ赤なバラはね、先日、京都へ行ったときに買ったものです。本物のバラより大きいんでわかると思いますが、いわゆる造花です。京都へはイベントで行ったんだけど、はじまるまで少し間があったので、友だちの焼き菓子屋さんに寄ろうとタクシーに乗ったんです。で、15分くらいかなあ、市内を走ってたら、突然「フッ」妙に雰囲気のあるお店が視界の隅をかすめたんです。瞬間的に「ヤバい店だ」とわかりました。ドラマみたいに「運転手さん、止めてください!」って言おうと思ったんだけど、約束の時間もあったので、ひとまず場所を記憶したんです。で、目的の焼き菓子屋で店主の友だちに「来るとき、一瞬ヤバそうな店が見えたような気がしたんだけど」って聞いたら「ああ、あの店。ヤバいッスよ」って。「加賀美さん、好きかもしれない」って。「せっかくだし行っといたほうがいいんじゃないですか」って。で、戻ったんです。そしたらそこは、古いリサイクルショップでした。ご夫婦で経営している、こじんまりしたお店。昭和の時代からやってる雰囲気で、扉をギイーっと開けた瞬間「来た」と思った。この連載の読者なら何となくわかるかもしれないけど、ぼくの好きそうなものでいっぱいでした。自分の部屋かなと思ったくらい。「どうだ!」って感じじゃなく、あくまで自然に並んでいるのも好みでね。最後まで迷ったのが、木彫りの二宮金次郎像。むちゃくちゃデカいんですよ。デカいもの好きとしては猛烈に心惹かれたんだけど、何しろ重かった。たきぎを背負った二宮金次郎を背負って帰るのもいいかなとも思ったけど、さすがに京都なんで。新幹線に乗んなきゃなんないし、泣く泣く諦めました。代わりにバラを一輪、買ったんです。二宮金次郎の傍らに咲いていた、この真っ赤なバラをね。もうすぐ最終回だってことを思い出して、読者のみなさんに捧げようかなって。駅へ向かう道すがら、このバラを手にタクシーに乗ったら、運転手さんが「これからパーティですか?」だって(笑)。みなさん、長らくのご愛読、ありがとうございました。

旅の冒頭に、この買い物。最後まで「らしい」です。でも「買い物って一期一会だから」と加賀美さんは言う。かの荒俣宏さんもある魚類図鑑がほしくて売れてないか確かめるためだけに15年も古本屋に通い、やがて『帝都物語』でお金が入って「買える!」と思ったらタッチの差で売れてしまったとか。買い物って、一期一会。

加賀美さんの「カッコいい」

釘王将osho

この王将、いい雰囲気なんだけど少しジジ臭いかなあ? ‥‥と感じたときには、無数の釘を打ち込んでみてください。パンキッシュでスタイリッシュな王将に一変。激怒の王さまにも見えます。玄関に飾っておけば、泥棒よけにも。「あ、王さま怒ってる! ゴメンナサイ」って。

2024-07-16-TUE

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