ほぼ日が気仙沼とご縁ができ、
何度も行き来するなかで、菅原市長と
お会いする機会がたびたびありました。
落語会「気仙沼さんま寄席」の
はじまりも、市長と糸井の話がきっかけでした。
市長が現職に就かれたのは震災の前年、
そして震災後11年経った今も、
市長として気仙沼市を導いておられます。
甚大な被害を受けた気仙沼が、
どのようにして現在の姿になったのか、
復興をずっと見続けてこられた市長だからこそ
語れる言葉がありました。
このときの続きのようなインタビュー、
担当はほぼ日の藤田です。

※インタビューは2月末にZOOMで行いました。
写真は、3月に現地で撮影したものです。

前へ目次ページへ次へ

第3回 磯が春めき、ワカメは希望の色に。

――
少し話は脱線するのですが、
以前、市長の応接室の後ろに、
「出来ませんとは言いません」という言葉が
掛っていたのが印象的なんですけども、
あれは座右の銘なのでしょうか。
菅原
ああ、あれは平成24年に
私が仕事始めの式で言った言葉で、
役所の何ヶ所かに貼ったものなんです。
震災後、市民の皆さんが
さまざまな相談に来られるわけですよね。
震災前の何倍も相談数が増えました。
多くはその場で解決できないことだったと思います。
そのときに市民の皆さんがたががっかりして
市役所を後にされることは、私には耐えられない。
とても心配だったんです。
被災した方がいろいろな悩みを抱えて市役所に来たけれど、
肩を落として帰っていくということを
一番避けたかったんです。
我々のすることは、解決をすること、
解決ができなくても糸口を一緒になって探すこと。
少しでもその方の気持ちが軽くなって帰ってもらいたい。
それを表した言葉が、
「出来ませんとは言いません」という言葉なんです。

菅原
もう一つ、私がよく使う言葉に、
「ベンチに座れ」と言うものもあります。
――
ベンチに座れ。
菅原
相手と話をするとき、要は向かい合うのではなくて、
脇に座れ、という意味で、
「ベンチに座れ」なんです。
――
確かに、隣に座ると、より気楽に
話せるような気がします。
菅原
そうそう。ベンチに座るとこちらも楽に話せるし、
市民の皆さんも楽に話せると思うんですね。
そういう気持ちで話すことが大事だということを
合わせて伝えてきたつもりです。
現在「出来ませんとは言いません」は貼っていないんですが、
いま聞かれたので、どうなっているかをお話すると、
中身は非公表なんですが、
市役所で働く人たちの「職員手帳」があって、
その中の大事にすべき項目の一つとして
紹介されているんです。
――
職員手帳に。
菅原
はい、外部には出さないようにしているんですが、
その手帳の中に、10の大事にすべき事が書かれています。
職員手帳ができたいきさつは、
今コロナでちょっと休んでるんですけど、
気仙沼市はホテル研修というものを行っていまして、
東京にある東急ホテルのセルリアンタワーで
職員の研修をさせていただいてるんです。
そこに職員研修で人を連続的に送ったんですよ。
――
ホテルで研修、それは市長のアイディアですか。
菅原
はい。私の思いです。
東急さんとお付き合いがあったので、
こういうことをやりたいんですと言ったら、
いいよと言っていただいて。
で、3ヶ月ずつ人を送って、もう数人が行きました。
彼らが1ヶ月ずつ違う仕事をするんです。
最初の1ヶ月はレストランのホールスタッフ、
お客さんは半分外国人らしいです。
次は1ヶ月間、宴会係として結婚式やパーティーの準備、
3ヶ月目は宴会の営業職に就く。
――
ああ、ではそれまでとは働く環境ががらっと。
菅原
全く違います。1ヶ月ごとにレポートを出してもらうんですが、
これが発見や驚きに満ちた大変いい内容なんですね。
見ると涙が出るような‥‥。
そのために行ってもらったんだよと思います。
でも職員には、君達の成果は、
君達がおもてなしができるとか、
気遣いができるだけということだけで留まるために
研修にやったんじゃないんだ、
それを市役所全体で共有できる何かをして欲しい、
という話をしたときに、
彼らが、職員手帳を作りたいです、と言い出して、
ホテルにある手帳を一部参考にさせていただいて、
その公務員版を作ったんです。
そこに、さきほどの
「出来ませんとは言いません」が書かれています。
――
日々身につけられる手帳というものに、
そういう言葉がいろいろ書いてあると、
職員の方々にとっても拠り所になりますよね。
菅原
そう思います。
我々はその手帳があるということを
声高に市民の前で言ってるわけではないけど、
何より嬉しかったのは、
これは市長が言っていいのかわかりませんが、
その手帳には題名が書いてあるんです。
「市民はみんなお客様」という題なんです。
他の職員や市民からすると、いや、お客様ってどうなの、
市民は市民でしょう、と思うかもしれません。
100点ではない答えなんですが、
私はもうこれでいいと思うんです。
なぜかと言うと、職員が自分達で研修に行った結果で、
市民はみんなお客様っていう言葉を
すごく素直に書けたんです。
研修に行った結果、ストレートに書けた言葉。
それがもう一番、嬉しいんです。
――
心から出てきた言葉ってことですよね。
菅原
そうですね。
しっかりとした対応をすると、
お客様もしっかり対応をしてくれるし、
反応があって成果が見える、
ということを実感したんだと思います。
英語ができる、できないに関わらず研修に送ったので、
ホテルにはものすごく迷惑を
かけちゃったんじゃなかろうかと思うんですけども。
成果はこれからかもしれませんが、一つ拠り所を
作れたのは大事なことだと思っています。
――
最後に、読者のみなさんに向けて、
市長からメッセージをいただけますでしょうか。
菅原
昨年放送された連続テレビ小説
「おかえりモネ」には、
我々にとってもいくつか大事なテーマがありました。
主人公のモネは気象予報士を目指すわけですが、
森、海、空が水を介してつながっているということ、
「水の循環」が大きなテーマだったと思います。
で、気仙沼はまさしくそれを体現している町なんです。
ぜひ気仙沼に来て、
そのことを実感していただければと思っています。
やっぱりね、多くの人に市民は感謝したいんですよ。
――
感謝したい。
菅原
これまで10年以上お世話になってきた
全国の皆さんに、それが初めて会う人であっても
感謝をしたいんですね。
そして何か我々も役に立たせてもらいたいという
気持ちがありますので、
ぜひ気仙沼に来て、人とふれあっていただきたいんです。
あと、食べものの話は、まあ全国どこでも
食べもの自慢があるでしょうけど、
四季を通して地元の食べ方も含めて楽しんでほしいです。
――
わかめのしゃぶしゃぶや牡蠣など、
美味しいものがたくさんありますよね。
菅原
そうですね。今、我々が春を感じるのは、
少しずつ日が長くなってくるとか、
太陽光が強さを増してくるということがありますが、
気仙沼では春を食卓の上で感じることができます。
ふのりとかマツモ、あと新しいわかめができるとかね。
磯が春めいてくるんですよ。
――
「磯が春めいてくる」
ああ、いいですね。わくわくします。
菅原
うん。磯が春めいてきて、
たとえば都会にもめかぶは売っていますけど、
めかぶはお湯をかけた瞬間の香りが
私は一番だと思っているんです。
生めかぶを刻んでお湯をかけたときの、そのときの香りが、
本当のめかぶの香りだと思っています。
そういうことは地元でないとできない。
色もね、わかめやめかぶは茶褐色なんですが、
お湯をかけると、パッと緑があざやかに吹き返すんです。
ちょっとうまく表現できませんけども、
それは、希望の色なんです。
ーー
希望の色。
今すごく食べたくなってきました‥‥。
菅原
あとホヤね。うちの家内も東京の生まれで、
最初はホヤは臭いと思っていたと言ってましたが、
今は夏近くなると、自分でホヤを買って来てさばいてます。
安くて一番簡単な食材なんですよ。
それからカツオね。
マグロは熟成したほうが美味しいものもありますが、
カツオは鮮度のいいものに勝てない。
東京でどんなに格式高いお店に行って、
いくらお金を出しても、
カツオだけは気仙沼で食べるものの次の日なんですよ。
この日付は超えられないです。
――
今、後ろのポスターにも、カツオがありますね。
(※この取材はZOOMで行っています)
菅原
ああ、これね。
このカツオは素晴らしいんですよ。
カツオはどこで鮮度を見分けるんですか、
という質問に対して、
おなかの縞がはっきりしたもの、という答えが
返ってくることがあります。
それはそうなんですけど、これ、
おなかの線がちょっとぼやけてますよね。
なぜかと言うと、このカツオは
皮下脂肪がいっぱいあるから、
お腹が膨れて皮が伸びているので
線がぼやけているんですよ。
でも鮮度はいいんです。
線が際立つものが美味しいということだけではなくて、
ほんとに丸々と太ったカツオはお腹が張ってきちゃう。
だから線もぼやけたように見えるし、
下には脂があるんだろうなと想像できる。
お魚ってそういうところがあるんですね。
なんとなく肌目に出る。
これはそれが撮れている、珍しい、いい写真なんです。

――
ああ、もう今すぐカツオが食べたくなりました(笑)。
菅原
どうぞ気仙沼に来たときに、召し上がってください。
お待ちしています。
――
今日は本当にありがとうございました。

(終わります)

2022-03-13-SUN

前へ目次ページへ次へ