1981年に放送された名作ドラマ、
『北の国から』をご存じですか?
たくさんの人を感動させたこのドラマを、
あらためて観てみようという企画です。
あまりテレビドラマを観る習慣のなく、
放送当時もまったく観ていなかった
ほぼ日の永田泰大が、あらためて
最初の24話を観て感想を書いていきます。
イラスト:サユミ
#10
割れるガラス。
『北の国から』第11回のあらすじ
草太は恋人のつららの事など眼中になく、
雪子に首ったけ。
つららは草太の父や友人に泣きついて
なんとか草太の目を醒まそうとするが、
恋の虜になった草太には通じない。
ついに思い詰めたつららは家出してしまう。
一方、純は、友達から父と雪子の関係を
疑われてショックを受け喧嘩を挑む。
螢は餌付けしたキツネが
久しぶりに戻って大喜びするが、
ある夜キツネが罠に掛かって大怪我をする。
前回が、映画的でエンターテインメント性の高い、
どきどきはらはらさせながら、
観るものを引きつける回だったとすると、
この第11回は、たいへんにぐだぐだとした、
湿り気と悲哀と人間くささがたっぷりと味わえる、
ある意味とても『北の国から』らしい回である。
こういうぐだぐだとした回は、
お話の筋を追っていくことがなかなか難しい。
あらすじを書いてもあんまり意味がないというか、
トピックがちっとも際立たない回なのである。
まあ、言ってみれば、
草太と雪子とつららの三角関係。
恋に理由はなく、正論に意味はなく。
劇中に繰り返される草太のことばを借りれば、
「したって、しょうがねぇべさ」という回なのである。
で、こういう回が嫌いかというと
ぜんぜん嫌いじゃないんだけどね。
こういうスパイクしづらい回では、
話の総合的な感想を書くかわりに、
いつも、つい後回しにしてしまう、
細かい話を書いておこうかなと思う。
たとえば、こういう話だ。
このドラマ、みんな、
めっちゃタバコ吸うのよ。
なにしろ40年前のドラマだから
そういう常識は違っていて当たり前だけど、
あ、これ、いまは絶対無理だな、
という場面がところどころにある。
まず、おとなの男性は、ほぼタバコ吸う。
女性も、なんだかんだ、ほぼタバコ吸う。
それも、吹かしてる感じじゃなくて、
すぅぅくぅはぁああ〜、とうまそうに吸う。
たぶん、スマホいじるくらいの感覚でタバコ吸う。
子どもはさすがにタバコ吸わない。
けど、純とショウちゃんはときどき酒飲んでる。
酒飲んでるといえば、
はっきりとは描かれてないけど、
たぶんみんなだいたい飲酒運転だ。
飲んでしゃべったあとで、
ふつうに運転してるシーンになる。
もちろん、役者さんたちが
ほんとに飲んでるわけじゃないけど、
いまのドラマでは無理だなあ、これは。
あと、当然のように、シートベルトはしてない。
それからね、男が女にお茶を注がせる。
なんというか、頑固親父の表現とかじゃなく、
ふつうに常識ある人が当たり前に
女性に「お茶」って言う。
会ったばかりなのに
草太が雪子さんに茶碗差し出して
「おかわり」って言う。
雪子さんはそれを受け取って
「はい」って言う。
あと、子どもの頭をポカリとやるね。
このバカ、とか言ってポカリ。
本気でほっぺたをパチン!
これも、いまはきっとないだろうなあ。
2020年のいまは、
40年前のドラマのそういう場面を
こうして文字にするだけでも、
けっこう気をつかっている。
たぶん、読むほうも、ちょっと、
ひやりとしているんじゃないかな。
雪子さんと草太兄ちゃんが
なんだか半端につき合っていて、
つららさんは家出してしまった。
草太は、自分がつららさんに
ひどいことをしていると自覚している。
でも、どうしても雪子さんが好きなんだから、
「したって、しょうがねぇべさ」である。
述べたように、このドラマは、
コミュニケーションのように
人をポカポカと叩いたりすることもあるけれど、
そういう感じじゃなくて、
人が人を「本気で殴る」こともある。
それはもう、すごみがぜんぜん違う。
つららさんが家出した夜、
五郎さんの家に車を返しに来た
つららさんのお父さんが、
そこに草太がいるのを見つけて、
無言で歩み寄り、本気で殴る。
胸ぐらをつかんで、何度か殴る。
草太は、抵抗しない。
本気で殴っている、ということを、
ドラマはガラスを割ることで表現する。
扉に押し付けられた草太が殴られた瞬間、
そこにはめられていたガラスが割れる。
「ガシャーン!」とヒステリックな音がする。
これを直すのはたいへんだなと思った。
そうか、このドラマでは、
ガラスは一度も割れたことがなかったんだ。
螢がかわいがっていたキツネが罠にかかり、
物語はこれまででもっとも不吉な感じで終わる。
※次回の更新は2月10日(月)と思われ。
(つづくわけで。)
2020-02-07-FRI