1981年に放送された名作ドラマ、
『北の国から』をご存じですか?
たくさんの人を感動させたこのドラマを、
あらためて観てみようという企画です。
あまりテレビドラマを観る習慣のなく、
放送当時もまったく観ていなかった
ほぼ日の永田泰大が、あらためて
最初の24話を観て感想を書いていきます。
イラスト:サユミ
#17
螢とスパゲティー。
『北の国から』第19回のあらすじ
UFOを見に行ったまま迷子になった螢と涼子。
警察まで出動する遭難騒ぎを巻き起こしたが、
幸い真夜中過ぎに二人は無事発見された。
五郎は涼子の立場を考えて純に口止めをする。
「だけど恵子ちゃん。
僕は‥‥男には珍しいおしゃべりであり」
へそ祭りの夜、ボクサーとしてデビュー間近い
草太を取材しに来た新聞記者に、
純はつい口をすべらせてしまう…。
『北の国から』第20回のあらすじ
五郎がこごみ(児島美ゆき)に惚れてしまった。
螢はそんな父の気持ちを素早く察知し、
本当は雪子が父と結婚してくれたらと思うのだった。
ある日、UFO騒ぎの取材で螢はテレビに出演する。
だがすべて作り話と片付けられてひどく傷つく。
「見たもん螢。ウソじゃないもん」
螢が可哀想で怒りを覚える純。そして七夕の日、
涼子先生が左遷されたと知って純は愕然とする。
ああ、ややこしいことになってきた。
イカダ下りのときの、メロンのお姉さん
(児島美ゆきさん演じるこごみさん)と
五郎さんがつき合いはじめてしまった。
なんというか、互いに惹かれ合うというよりは、
補い合っているような感じだ。
まあ、離婚は成立しているのだから、
そりゃ自由ではある。でもなぁ。
そのあたりのぐだぐだした感じが気になって、
第19回と20回を続けて観てしまった。
結果、ずっと、螢がかわいそうだ。
螢は、お母さんの不倫現場を目撃している。
それで、富良野にお母さんが来たときも、
甘えたくても甘えられなかったのだ。
だから螢はかたくなにお父さんの側にいた。
そのお父さんに、あっさり恋人ができた。
しかも、かけがえのない人に出会ったというより、
相性とタイミングでぱっと火がついた感じである。
新しい関係に浮かれる五郎さんの軽薄さを、
ドラマはたっぷりと演出する。
対称的に、螢はどんどん暗くなっていく。
螢は、五郎さんに新しい恋人ができたことに
誰よりも早く気づく。
朝帰りの五郎さんから
ラベンダーの石鹸の匂いがしたのだ。
お母さんが富良野の家にこっそり来たときも、
螢は匂いで気づいた。
上手で、意地悪な演出だなあと思う。
一方、純は野暮でちっとも気づかない。
五郎さんと並んで、
いよいよ男子はバカだなあと感じられる。
そして、女性は賢く、したたかで、強い。
新しい恋人、こごみさんと、
家族でピクニックに行ったときの螢の反応にしびれた。
恋の象徴のひとつとして描かれるスパゲティーを
こごみさんはピクニックのお弁当につくってくる。
(お弁当にスパゲティーは相当不自然だ)
五郎さんはうまいうまいと言って食べ、
純はもごもごと食べる。
螢は無言で食べているが
やがて麺を一本一本つまんで川に捨てはじめる。
やめなさいとたしなめられると、
「お魚にあげてるの」と無表情のまま言う。
そして、すっと立ち上がり、
「ザリガニ探してくる」と言って立ち去ってしまう。
この「ザリガニ探してくる」の響きの冷ややかさ。
思わず何度か聞き返したくらい、
強くて冷たい、子役ではなく女優の声だった。
その中嶋朋子さんとしての仕事は、
変な言い方だけど、とてもかっこよかった。
そして、話を変えて、
やっぱり触れておかなくてはならない。
またUFOである。
ぼくはほんとうに驚いた。
『北の国から』というドラマに、
こんなにしっかりUFOが出てくるとは
思いもしなかった。
ほんと、思いもしなかったよ、蛍原さん。
もっと、ちらっと、ぱっと出てきて、
不思議だね、ということで終わると思ってたよ。
こんなにしっかりUFOが出てくるなんて!
『北の国から』は家族と自然の物語だが
裏に流れているテーマは恋愛である‥‥。
というような解釈をしばしば耳にするけれど、
ぼくに言わせりゃこのドラマの裏テーマは
完全にUFOである。
ていうか、涼子先生、どこ行ったの?
まさか葉巻型のUFOの中に?
あと、スチャダラパーの『南極物語』の歌詞の
「山程知ってるよ この子のいいとこ
作ってくれたよ スパゲティーバジリコ」の
元ネタが『北の国から』だったのもはじめて知った。
奇妙なんだよなぁ、
五郎さんの「スパゲティーバジリコ」の言い方。
(つづくと思われ。)
2020-02-19-WED