3ヶ月に渡り連載してきた特集『色物さん。』、
最後はナイツのおふたりの登場です!
いま、寄席にはナイツを目当てにやってくる
若い人がたくさんいます。
漫才協会を引っ張る立場でもあるおふたりは
寄席に、新たな風を吹かせています。
色物さんとしての役割や寄席という場について、
日頃から、おふたりが考えていることを
たっぷりうかがいました。
担当は、「ほぼ日」の奥野です。さあ、どうぞ。
ナイツ
2001年ボケの塙と、ツッコミの土屋にて活動開始。
内海桂子の弟子として活動。
漫才協会、落語芸術協会、三遊亭小遊三一門として寄席でも活躍中!
漫才新人大賞受賞(03)
お笑いホープ大賞・NHK新人演芸大賞 演芸部門大賞(08)
「M-1グランプリ」決勝進出(08~10)
「THE MANZAI 2011」準優勝
平成25年度文化庁芸術祭 大衆芸能部門 優秀賞受賞(2013年度)
平成28年度(第67回)芸術選奨 大衆芸能部門 文部科学大臣新人賞受賞(2016年度)
第33回浅草芸能大賞 奨励賞 受賞(2016年度)
- ──
- いかにもヘンな質問なんですけど、
ナイツさんが、
少ないときはお客さん数十人の寄席に、
いまでも出続けてらっしゃるのは、
どうしてなんでしょうか。
- 塙
- ぼくたちは、やれる場所があるのなら、
どこでも漫才をやりたいんです。 - なかでも、寄席が大好きなんですよね。
テレビや地方営業も、
もちろん嫌いじゃないですよ。
でも寄席の200人、
少ない日にはそれこそ50人、
それくらいのお客さんのまえでやって
ウケる快感って、
ちょっと他では味わえないんですよね。
- ──
- そうなんですか。
寄席のサイズ感とか、雰囲気が‥‥。
- 塙
- 大好きなんです。
- 寄席ってセットみたいじゃないですか、
何となく。
- ──
- ああー、たしかに。
舞台とかテレビのセットみたいですね。
- 塙
- 漫才という芸は、
スタンドマイクが1本あれば
どこでもやれるっちゃやれるんですが、
あの「寄席の雰囲気」を
他の場所に即席でつくろうと思ったら、
たぶん難しいと思うんです。
- ──
- はい、独特の雰囲気がありますもんね。
- 名だたる噺家さんが芸を披露してきた、
歴史の厚みや重みも感じますし。
- 塙
- 浅草でも池袋でも新宿でもどこでも、
あんなふうに
「落語家さんのための舞台」
みたいなところで「漫才をやる」のが、
何かね、「いい」んですよ。
- ──
- 漫才のためだけの舞台、ではなくて。
- 土屋
- ぼくたち、寄席に入れてもらってから、
場数がめちゃくちゃ増えたんです。 - 寄席のお客さんに鍛えられたんですよ。
それで、漫才が変わった。
そのことを、すごく実感してるんです。
- ──
- なるほど。寄席で鍛えられた。
なにしろ寄席って「毎日」ですもんね。
- 土屋
- だから、いまでも
寄席に出していただいているほうが、
漫才師としてはトクだな、
みたいな感覚が、どこかにあります。 - 何というか、寄席に出続けていれば、
あんまり
「間違えない」んじゃないかなあと。
- 塙
- うん。
- 土屋
- 独演会には、
ナイツの漫才だけを見に来てくれた
お客さんしかいないから、
そこで「ウケる」のって、
こういったら何ですけど、
ある意味、当たり前じゃないですか。 - もちろん、どこでウケても
「うれしい」のは同じなんですけど。
- ──
- ナイツさんの漫才で笑おうと思って、
チケット予約して、お金を払って、
電車に乗って来てるわけですもんね。 - ある意味、笑う準備はできている。
- 土屋
- その点、寄席では、
芸歴何十年とかの落語家さんの噺を
聞きに来ているお客さんの前で、
ぼくら出てって、
漫才をやらせてもらってるわけです。
- ──
- はい。
- 土屋
- お客さんの目も耳も肥えているし、
求めている笑いも、幅広い。
そういうお客さんの前で
漫才できることは大きいと思います。 - 若い人たちの前だけとか、
ファンのみなさんの前だけ‥‥とは、
やっぱり、ちがいますね。
- ──
- ぼくたちお客の側にしてみると、
寄席って、
とっても居心地のいい空間ですけど、
芸人さんによっては
「最初は、怖かった。緊張した」
って言う人も、
けっこういらっしゃると思うんです。 - おふたりの場合は、どうでしたか?
- 土屋
- もちろん、最初は緊張してましたよ。
「落語家さんの目の前」ですから。 - でもいまは、
寄席だから緊張するっていうことは
あんまりないです。
むしろ、リラックスしてやってます。
- 塙
- 芸人が次から次へと出てきますし。
- そのせいで、
緊張が分散されるみたいなことも、
あるかもしれないですね。
- ──
- ナイツさんのような漫才をはじめ、
漫談、奇術、ものまね、太神楽、
最近は幇間の松迺家八好さんとか、
玉川太福さんなど浪曲師の方も
寄席に出てきてくださいますしね。 - まさしく「色とりどり」って感じ。
- 塙
- 漫才、漫才、漫才‥‥みたいに、
同じジャンルの芸人が続かないので、
それも気が楽です。 - 次々と漫才コンビが出てきて、
ウケた、スベった、ウケた‥‥だと、
プレッシャー感じそうだけど、
落語家さんがウケても、
ぼくらの漫才とは笑いが別物なんで。
- ──
- ああ、そうですか。
- 塙
- おそらくですけど、他の芸人さんも、
ナイツの漫才が
めちゃくちゃウケたところで、
やりづらいとかは、
あんまりないんじゃないかなあ‥‥。 - ぜんぜんちがうスポーツをやってる、
みたいなものだから。寄席って。
- ──
- なるほど。「種目が別」だと。
- 土屋
- トリの落語家さんまでつなげるとか、
お膳立てする‥‥みたいなことは、
だから、
ぼくらあんまり気にしてないんです。
- ──
- あ、そうですか。そのへんの意識は、
他の色物さんたちとは、
ちょっとちがうかもしれないですね。
- 土屋
- 寄席に入ったばっかりのころ、
後ろが(桂)米助師匠だったんですけど、
最初から最後まで
野球の話しかしない‥‥ということを、
ぼくら、まったく知らなかったんです。
- ──
- ふふふ、はい(笑)。
- 土屋
- でも、当時のぼくらには、
イチローさんとか野球ネタしかなくて。 - そのとき、
寄席ではネタがかぶっちゃダメなんだ、
という空気を何となく感じて、
「SMAPを調べてきました」‥‥とか。
- ──
- 「ヤホー」の検索で(笑)。
- 土屋
- それで、
野球以外のネタを増やしたってことは、
ありましたけどね。
- ──
- 落語家さん、色物さん、
寄席に出てらっしゃる芸人さんたちは、
自分たちの「役割」を
それぞれに、
意識されてるなあと感じるんです。 - で、色物さんの場合はみなさん総じて
「トリへ向けてバトンをつなぐ、
空気をつくる役割」だと言うんですね。
- 塙
- そうですよね。
- ──
- でも、そこにあまりとらわれず、
とにかくお客さんを楽しませることが、
ナイツさんの役割、なんですね。
- 塙
- もちろん、
ぼくらも寄席に入ったばかりのときは、
時間の調整とか、
トリの落語家さんにつなげていく、
みたいな意識を持ってやってましたよ。 - でも、いまは、
ぼくら目当てに来てくれるお客さんが、
けっこういらっしゃるので。
- ──
- ええ。そうですよね。
- 塙
- ナイツを見に来てくれたお客さんには、
ナイツの漫才を
おなかいっぱい楽しんでもらいたいな、
という気持ちがいちばんですね。
- ──
- なるほど。
- 塙
- もちろん、前の人がやったネタに
あとの人はかぶらないようにするのは、
暗黙の了解ではありますけど。
- 土屋
- でも、それって同時に、
トリを務める師匠のすごさでもあって。
いくらでもネタがあるから大丈夫だよ、
ってことじゃないですか、つまり。 - 本当にすごいなと思います。
前で何やられても平気ってことなんで。
- ──
- かつて桂米福師匠が、
40日間、
毎日ネタを変えた伝説がありますよね。 - それなんかもう究極なんでしょうけど。
- 土屋
- 他方で米助師匠は、
野球の話しかしないっていうね(笑)。
- ──
- それも同じくらいすごいです(笑)。
- 塙
- ただ、ぼくらは落語会自体が好きだし、
そこへ色物として出るのが、
漫才師の役割だろうなとは思ってます。 - やっぱり「トリ」は
落語家さんに務めていただいたほうが
興行として締まるし、
そっちのほうがいいと思っているので。
- ──
- なるほど。
- 塙
- おぼん・こぼん師匠なんかは、
関西では漫才が上だぞみたいなことを、
よくおっしゃいますけど、
東京の寄席の雰囲気では、
ナイツみたいな漫才で
最後を締めるってちょっと変ですから。
- 土屋
- 色物だからこそやれるおかしなネタも、
ありますからね。
- 塙
- たぶん、寄席の色物という立ち位置が、
ぼくらにはちょうどいいし、
寄席で漫才できることが、
本当にありがたいなあと思っています。
(つづきます)
2023-01-02-MON
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毎年恒例、大人気のナイツさんの独演会ですが、
昨年2022年10月から11月にかけて
全国で開催された
『ナイツ独演会 それだけでもウキウキします』
の横浜公演が映像化されます!おなじみの時事漫才「ヤホー漫才」では
「2022年」を調べてたもよう。なお、特典映像として、
浅草東洋館で起きた事件を描いた、
漫才協会オールキャストの幕間映像ドラマ
「漫才協会 そうさ副会長」を収録しているとか。
み、見たい‥‥!発売は2月22日、Amazonでは
すでに予約がスタートしているのでチェックを。
Amazonのページは、こちら。撮影:中村圭介