この漫画のもとになった投稿
養女になることは承知していたが、
出発がそんなに急だとは知らなかった。
学校へ行き、
明日朝出発するので今日でお別れです、
と言った。中学3年の1学期のこと。
その日の放課後、教室で、
「マイオールドケンタッキーホーム」
のレコードを
くり返しくり返し掛けて呉れた男子がいて、
ただ黙ってそれを聞いた。
彼はピッチャーで、強かった。
隣町の中学で試合があった時など、
砂利道を歩いて応援に行き、
声をからして応援したものだ。
時々ハガキを貰ったが、
きみがいなくなって寂しいとあったときは、
養母がハガキのラブレターとは珍しい、
と笑った。
いつの間にか便りは遠のいたが、
養母が隠していたとは後まで知らなかった。
「失ひて久しき人は世にありや
風の便りと言ふも絶えたり」
というのは、
ずいぶん後になってからの私の歌。
夢では、思いもかけず再会していた。
長い時間、ゆっくり話し続け、
心が満たされて、
温かいものに包まれたような幸福感。
花の香りまで流れていた。
話の内容は少しも記憶にない。
眼が覚めて。
亡くなったんだな。
もう遠い所へ行ったという
メッセージだったんだろう、と思う。
白いチューリップを
ありったけ買ってきて壺に差した。
この世で出会ってくれてありがとう。
あのときわたしたちは14歳。
もう、67年経った。
(すばる 81歳/いつかの「今日の夢」より)
2022-02-04-FRI
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エピソード、募集中です。
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「今日の小ネタ劇場」とは
2005年から連載を開始した読者投稿コンテンツです。2022年時点ですでに17年以上、「今日のコドモ」「今日のダンナ」「今日のじーばー」「今日の気になるあいつ」….などの20以上のカテゴリから、日替わりで毎日欠かさず3ネタを更新してきました。アーカイブを残していないため、その日のネタは、その日にしか読めません。2016年には、過去の傑作から選りすぐって書籍化もされました。ほぼ日に来たら、まずはここからという読者も多い、大人気のコーナーです。今日の「今日のコドモ」は、こちらからどうぞ。
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今日マチ子
漫画家。1P漫画ブログ「今日マチ子のセンネン画報」の書籍化が話題となる。文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に4度選出。戦争を描いた『cocoon』は「マームとジプシー」によって舞台化。2014年に手塚治虫文化賞新生賞、2015年に日本漫画家協会賞大賞カーツーン部門を受賞。『みつあみの神様』は短編アニメ化され海外で23部門賞受賞。コロナ禍の日常を絵日記のように描いた近著『Distance わたしの#stayhome日記』が、2022年1月『報道ステーション』にて特集された。
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漫画:今日マチ子
編集:奥野武範(ほぼ日)
デザイン:杉本奈穂(ほぼ日)
感謝:「今日の小ネタ劇場」を愛する
すべてのみなさま