さあいよいよGWは「生活のたのしみ展」。
「ほぼ日」内の飯島奈美さんのウェブショップ
「SUPER LIFE MARKET」では、
いままでに展開してきた食品・グッズ・書籍に加え、
新製品がずらりとならびます。
すでに「生活のたのしみ展」サイトでも
お伝えしておりますが、
新製品のこと、もっと知っていただきたくて、
ここで、さらにくわしい情報をまとめました。
ここで紹介したアイテムの一部は、
後日ウェブショップにもならぶ予定です。
どうぞおたのしみに!

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[対談]沼田行雄(おだし香紡)×飯島奈美おいしいおだしができるまで。
[粉]編

飯島奈美さん監修、
出汁専門店「おだし香紡」の
沼田行雄さん製作による「おだし」。
2022年のゴールデンウィークに開かれた
「生活のたのしみ展」で先行発売をしたのが、
パックになっている2種類の「おだし」でした。
そして、じつは、もうひとつ、つくっていたものが!
それは飯島さん考案の「粉末だし」。
2種類のパックとはまた違う味がたのしめるこのおだし、
どんな製品に仕上がったのかを、
ふたりの対談でおとどけします。

プロフィール

沼田行雄(ぬまた・ゆきお)

1983年、静岡生まれ。
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、
大手外資系IT企業で大企業向けのシステム構築に従事。
29歳で、慶應義塾大学大学院経営管理研究科へ。
ケロッグ経営大学院への留学を経て、MBAを取得、
経営戦略コンサルタントを2年経験したのち、
都内の鰹節専門店で鰹節削りを学ぶ。
2017年「有限会社沼田」(1934年創業)に入社、
三代目となる父親・豊一郎さんのもと、
「日本の食文化を正しい知識とともに拡げること」を
企業理念にしている同社で、
食材の使い方などの正しい知識とともに
最上の製品を届けるべく“おだしコンシェルジュ”として
「だし」の普及につとめている。
幼稚園から英語、小学1年生からプログラミングを勉強、小学校の卒業文集には「将来はコンピューター関係の会社に勤めてから、父の仕事を継ぎたい」と書いた。

沼田
粉末のおだしは、
「おだし香紡」にいらしていただいて、
2種類のだしパックの味を決めたとき、
飯島さんから提案をいただいたんですよね。
飯島
そうなんです。
手軽にパパッと、おいしいおだしを、
使いたい量だけ使えたらいいなと。
もちろんパックも便利ですし、
崩して中を出せば、
同じように使えると思うんですけれども、
それとは別に、大袋にどさっと入った
粉のだしがあったらいいなと思っていました。
わたしはよく、野菜の皮や、
料理には使わない野菜のくずを集めておいて、
魚介のだしを加えて煮出し、一緒に漉すんです。
そういうときに便利じゃないかな、って。
──
美味しそうですね!
飯島
美味しいんですよ。
野菜のそれぞれの旨味が入ることで、
もともとは和風のだしなのに、
洋風だしっぽくも中華だしっぽくも使えます。
──
たしかに、日本の家庭料理って、
和食にかぎらず、洋風、中華風、エスニック、
そのどれでもないようなものと、かなり幅広い。
飯島
だしも、ほんの少し使いたいときもあれば、
たっぷり煮出したいときもある。
そして、これを「食材として」使いたいこともあります。
各地の郷土料理には、
そんなふうに粉末だしを使う料理がありますし、
身近なところでいえば、おでん、やきそば、
チャーハンに入れてもおいしくなる。
出し殻だって、捨てずに活用して、
梅干しを足しておにぎりの具にしたり、
ピーマンのきんぴらなど、
調味料のからみにくい食材の調理に使えば、
うま味だけじゃなく、味が全体に回る手助けにもなります。
そんな使い方もできるんですよ。
そんな、「おいしい粉末だし」があったらいいのにと、
パックをつくる現場で思って。
──
沼田さんも「つくりましょう!」と
すぐに賛成してくださって、
すぐに、パックの2種類とは別に、
粉用のブレンドを考え始めましたね。
そして、結論から言いますと、
5つの素材を入れることになりました。
沼田
はい。カタクチイワシの煮干し、いわし節、
真昆布、かつお節、干ししいたけ、ですね。
パックの2種類には入れなかった
「干ししいたけ」を使っていることと、
逆に、ソウダガツオと利尻昆布は
入れていないのが特徴です。
飯島さんといっしょに、いろいろな組み合わせで
だしを試飲してみて、
これがベストという按配を決めました。
飯島
「勝ち抜き戦」で決めましたね(笑)。
これを足して、これを引いたら? とか、
もうほんとうにたくさんのおだしを味見しました。
おなかがいっぱいになるくらい!
沼田
うちには全国の80種類くらいの
「だし」になる素材があるんですが、
さすがに全部の組み合わせは無理なので、
あるていど僕が絞ったところからのスタートでした。
「だしパック2種類のいいとこどり」をテーマにして、
飯島さんが美味しいと言ってくださったいわしを中心に、
日本人に馴染みのあるカツオの風味を加えたら、
しっかりとしただしの味になったので、
昆布は利尻よりも存在感のある真昆布にして‥‥。
飯島
たいへんだったのは、干ししいたけの分量。
沼田
そうなんですよね。
 
昆布のもつうま味はグルタミン酸、
カツオやイワシはイノシン酸、
そして干ししいたけには、グアニル酸っていう、
また別のうま味があるんです。
3つのうま味が合わさると、
2つだけのときよりもうま味の相乗効果が強くなるんです。
だから個人的には、「粉」には、
イノシン酸、グアニル酸、
グルタミン酸、全部使いたいと考えました。
──
干ししいたけを入れると確実にうま味が増しますね。
けれどもあの個性的な香りも立つ‥‥。
飯島
そうなんです。
干ししいたけの香りが苦手、という方も
いらっしゃるだろうと、
最初の2つのパックには入れなかったんです。
でも、ここなら、目立たず、でもおいしくする
バランスがあるんじゃないかなって。
そこで独特の香りが強くなりすぎないように、
配合する分量を考えました。
──
「万能」という言い方はあまり使いたくありませんが、
かなり、それに近い味のものができたように思います。
これがあると「手抜き」じゃなく、「簡単」に
おいしい家庭料理のベースができますね。
飯島
そうですね、ほんとうに。
──
家庭料理は、ちょっと手をかけると
こんなに美味しくなるんだ、という
ベースになる「おだし」になったと思います。
飯島
そう、おだしが美味しければ、
どんなに短い時間で作った料理でも、
それは「手抜き」じゃありません。
パパッとつくれる料理っていうだけのこと。
「手抜き」という言葉で、
マイナスな印象を出すのはやめたいですよね。
沼田
ほんとにそう思います。
私の父や母が、おだしの仕事を通じて感じている
「日本のこんなにいい文化がどんどん薄れてきた」
ことを寂しいと思う気持ちは、
おそらく飯島さんが日本の家庭料理に思う気持ちと
一緒ですよね。
飯島
はい、一緒です。
消えてほしくありません。
沼田さんのところには、
全国のおだしが集まっているんですよね。
珍しいものもあるんですか。
沼田
どじょう、ですかね。
「どじょうの焼干し」。
飯島
どじょう!!
沼田
うちのは長良川で捕れたものを使っているんですけど、
「柳川鍋」とか「どぜう鍋」とかに使われるんですよ。
飯島
あぁ、たしかに同じほうがいいですよね。
沼田
そうなんですよ。
どじょうでだしをとって、
どじょうを食べる。
出し殻は、そのまま具にして食べればもったいなくない。
飯島
すごく贅沢なことですね。
沼田さんところでおだしを買わせてもらって、
ほんとに種類が多くてびっくりしました。
イワシでも、カタクチイワシからウルメイワシ‥‥。
沼田
ヒラコとか、カエリとか、塩抜きしたものとか、
いろんなイワシがありますよ。
飯島
ほんとに楽しくて、
わたしにとってはディズニーランドでした。
一同
(笑)。

飯島
鯛のだしもありましたね。
「鯛の煮干し」。
あれでつくってみたい料理があるんですよ。
沼田
炊き込みご飯ですか?
飯島
それもやってみたいんですけど。
沼田
じゃ、ラーメン?
飯島
自然薯のすり下ろしです。
『深夜食堂』っていうドラマで
登場する食事を担当しているんですけど、
その作者の方が四国のご出身で、
そこは鯛がいっぱい捕れる地域なんですって。
地元の料理に、自然薯をすって、
そこにぐらぐら煮立った鯛のおつゆを入れて、
伸ばす、というものがあると聞いて。
沼田
わぁ、それは聞いたことがありませんでした。
飯島
私は自然薯を、ぐらぐら煮立てた普通のだしで
伸ばしてみたんですけれど、
とろ~っとした独特の食感になって、
とても美味しかったんです。
だから次は鯛のだしでやってみたいなって。
沼田
なるほど。
実際に生の鯛を煮るよりも、
煮干しのほうが臭みが少ないので、
いいかもしれないですね。
飯島
野菜でもだしがとれるじゃないですか。
そういうものは
ラインナップに加えたりしないんですか?
沼田
魚介以外ですと、干ししいたけだけですね。
一昨年、他のキノコのだしを作ろうとしたのですが、
なかなかうまくいきませんでした。
飯島
むずかしいんですね。野菜だったら、
アスパラの皮とかごぼうとか、レンコンとか、
いいかもしれないですよ。
韓国とかでもごぼう茶とかレンコン茶があるんです。
ジャガイモもだしになると思いますし。
そういうものが、「おだし香紡」の
ラインナップに入ったらいいのになって、
お店を拝見して思いました。
──
‥‥あら? 沼田さん困ってませんか?
一同
(笑)。
沼田
いや、すみません、勉強してきたこととは、
専門外だったもので(笑)。
でもいいヒントをありがとうございます、
いろいろとチャレンジしたいです。
──
そういえば沼田さんが試作のときに
「おだしを水の代わりに使う」
っておっしゃっていて、
面白いなって思いました。
沼田
僕が好きなのが、
目玉焼きを作るときの差し水にかつお出汁を使う方法です。
たまごのうま味は昆布と同じグルタミン酸なので、
かつおのイノシン酸とうま味の相乗効果が働くんですよ。
今回の粉末だしなら必要な量だけだしを取れるので、
差し水でちょっとだけ使いたいときに便利ですよね。
少量を煮出すのは大変なので、
コーヒーと同じように
ペーパーフィルターでだしを取ると、時短できます。
──
以前沼田さんに教えていただいた
二番だしでパスタを茹でるという発想も
「おだしを水の代わりに使う」だったんですね。
沼田
はい。イタリア料理店とのコラボで
だしを使ったカルボナーラを作ったことがあります。
そのときはソウダガツオのだしでパスタを茹でました。
コクがある! と、とっても評判よかったです。
──
そうか、ソウダガツオには、
ベーコン的な脂があるんですね。
沼田
そうそう、そうなんです。
ソウダガツオは脂と血合いが多くてコクがあるので、
ある程度濃く味付けをするイタリアンでも、
ちゃんとだしの存在感を出してくれる。
──
今僕たちが日本で手に入るだしを、
洋風に使うことって、
クリエイティブで面白いかもしれないですね。
飯島
そうですよね。トマトを入れたら、
スープになりそうな気がします。
洋風、中華風では、
鶏皮をだしに使うことがありますが、
ここに混ぜてもよさそう。
──
ところで沼田さん、このおだし、
家庭料理のベースにするという意味では、
「煮出しちゃって大丈夫」と考えていいですか? 
つまり、沸騰させずにじっくり、
というだしのとりかたもあるじゃないですか。
沼田
薄削りの花かつおは沸騰させない方がいい、
とか言いますよね。
ですが、この粉末は、
煮立てちゃって大丈夫です。
だしの取り方は素材によって違って、
昆布だったら半日だったり1日だったり
水に浸してから加熱をするんですが、
その時は60度で1時間っていうのが、
一番美味しいとり方だったりします。
干ししいたけも半日から1日かけて水出しします。
煮干しはまた別で、15分ぐらい水につけておいてから、
しっかり沸騰させる。
 
今回のように「混合」だと煮出し時間がバラバラなので、
じつは素材ごとに粉末の大きさを変えて
バランスをとってるんです。
細かくするほどだしを短時間で抽出できるので、
時間のかかる昆布や干ししいたけは細かくしています。
そして、もともと短時間ですむカツオは少し大きめに粉砕して、
香りを損なわないように工夫しています。
 
飯島さんとした検証では
「弱火で煮立てないように5~7分弱火で加熱」が
ベストでしたよね。
が、ご家庭ではそこまで厳密に守らなくても大丈夫です。
沸騰した鍋にサッと入れたらしばらく放置して、
時間も計らずに10分ぐらいたったかなというところで
火を止めても十分に美味しいだしがとれましたので。
飯島
そうですよね。
水の量も600~800ミリリットルぐらいと、幅がある。
沼田
はい、そうなんです。
好みにもよりますが、
1000ミリリットルくらいがちょうどいいと感じる方も
いらっしゃると思います。
──
ありがとうございます。疑問が解決しました。
沼田
あ、あと1ついいですか? 
干ししいたけについてもうすこし。
これは九州産の原木しいたけを使っています。
九州は、原木だったり湿度だったりが
しいたけの生育に適しているんですよ。
昔は私の住んでいる静岡県がナンバーワンだったんですけど、
段々お株をとられていって、
いまは大分や宮崎がしいたけの産地として有名なんです。
 
それで、先程のお話に戻りますが、
しいたけの香りが苦手な人も
大丈夫なように、全体のバランスだけじゃなく、
もう1つ工夫がしてあるんです。
実は今回、しいたけの香りと色味が強い傘ではなく、
軸の部分だけを使っています。
一同
へぇ~!
沼田
軸は香りが弱くて、うま味が強いんですよ。
飯島
えぇ~! 知りませんでした。
沼田
だから香りを抑えてうま味をとるんだったら、
軸のほうだなと。
──
すごい!
飯島
そういうものがあるんですね‥‥。
じゃあ、なおさら、自信をもって言えますね、
「しいたけが苦手っていう方も、
いちど試してみてください」って。
沼田
はい、うちの、しいたけが苦手なスタッフも
美味しいと言っていたので大丈夫です(笑)。
飯島
沼田さん、ありがとうございました。
私も「おだし」については
まだまだ研究してきたいと思っていますので、
ぜひ定期的にお目にかかって、
いろいろと教えてくださいね。
沼田
こちらこそ、ありがとうございました。
またお会いできるのを楽しみにしています!

おだし 粉末

静岡・三島のだし専門店「おだし香紡」と組んで、
飯島さんの配合でつくった和風だしの粉末です。
カタクチイワシの煮干し、いわし節、
真昆布、かつお節、干ししいたけ
(ここに使っているのは香りがうすくうま味の強い軸の部分)、
この5つの素材を細かくくだいたものが入っています。
それぞれの素材がもつ旨味やコクが
バランス良く感じられる、
シンプルな味わいのだしがとれますよ。
いずれも原材料は国産の良質なもの。
食塩・調味料は無添加です。
煮出して濾せば
「そのままごくごく飲める」おいしさですし、
そのままチャーハンや焼きそば、おでんなどにも使えます。

●おすすめのだしの取り方

沸騰したお湯600~800ミリリットルに
粉末だし10gを入れ、
弱火で煮立てないように5~7分弱火で加熱します。
キッチンペーパーなどでこせば出来上がり。
使い切らなかったぶんは冷蔵庫で3日ほど保存できます。
(この通りでなくとも、煮立てたり、
長い時間煮出したりしても楽しめます。)
出し殻は梅干しと混ぜておにぎりの具などにどうぞ。

飯島さんに教えていただいた
粉末だしをつかった「おだしのレシピ」は別ページで
紹介をしていますので、ぜひごらんくださいね。

原稿協力:中川實穗

2022-07-05-TUE

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