前川清さんの新曲「ステキで悲しい」は、
水野良樹さんが作詞作曲しました。
この新鮮な顔合わせの橋渡し役は糸井重里でした。
ＣＤが完成し、水野さんと前川さん、糸井の３人が
「さて」と集まりました。
まずは前川さんの、独白のような
切実な問いかけからはじまります。
「歌っていったいなんなんでしょう？」と。
前川清（まえかわ きよし）
1948年長崎県生まれ。
1969年内山田洋とクール・ファイブとして、
「長崎は今日も雨だった」でデビュー。
同年日本レコード大賞新人賞受賞。
「そして神戸」「東京砂漠」など
多くのすばらしいヒット曲をもつ。
2019年６月の最新発表曲は
「ステキで悲しい」
水野良樹（みずの よしき）
1982年神奈川県生まれ。
1999年に吉岡聖恵、山下穂尊とともに
いきものがかりを結成。
2006年３月「SAKURA」でメジャーデビュー。
「ブルーバード」「YELL」
「じょいふる」「ありがとう」など、
いくつものヒット曲を世に送りつづける。
2019年４月の最新発表曲は
「アイデンティティ」
また、2019年春から
『HIROBA』という新プロジェクトを開始。
小田和正さんと一緒に曲を書いた「YOU」
水野さんが編集長を務めるWEBメディア
『HIROBA』も随時更新中。
- 糸井
- 前川さんは、ぜんぶが揃っているところに
入っていって歌をうたう天才です。
しかし水野さんは、演奏するときにどう見せるかとか、
どういう会場で何をテーマにするかとか、
やっぱり考えるでしょう。
演奏とおなじように、そこのところに
ずいぶんコストをかけてるんじゃないでしょうか。
- 水野
- そうですね、自分なりに不器用に
考えていると思います。
みなさんの目にぼくが
どう映ってるかわからないですけど、
ほんとうのことを言えば、
ぼくは曲だけ作っていたいんです。 - 曲や音を説明したり、
音楽を飾ってよく見せて、
おもしろいものにしようとすることじゃなくて、
とにかく曲を作ることをやりたいんです。
そして、曲それだけが残って、
結果的にみなさんに「いいね」と言ってもらって、
たとえば感動してもらったりする。
それがぼくの頭のなかにあることです。 - けれども、いろんなめぐりあわせで
こんがらがっちゃって、
ぼくがいる場所がたまたまグループだったりして、
歌う人はぼくじゃない人だった、
そんないろんなことで
「考える立場」におかれてしまったという気がします。
「このグループでこの３人だから、
この場合はこうしないと伝わらないね」
なんて、言ってしまう。
- 糸井
- ああ、そうか。
- 水野
- もともとぼくらが世に出て行ったのは、
路上ライブでした。
路上はステージではないので、
眼の前で、用がある人が
用に向かって歩いています。
そこで「ちょっと聴いてください」と
いわなくてはなりません。
雑踏で音がまともに聴こえないから、
どうしたら振り向いていただけるか、
聴いていただけるかということを
考えることがスタートでした。
「だったら学生服でいたほうが、
みんなは安心するんじゃないか」
「雑踏だと、アップテンポの曲より
バラードのほうが声がよく通る」
それを高校生なりに、姑息に（笑）、
工夫してやることばかり考えたから、
いまみたいな感じになってしまった。
こんがらがって、自分でもよくわかんないなかで、
ずっといるんですよ。
- 前川
- 水野さんも、もしかしたら、
「やってきたらこうなっちゃった」
というタイプなんですね。 - ‥‥あのね、わかるってね、
これ、永遠にないんですよ。
- 水野
- はい、はい。
- 前川
- ずっと、永遠にないです。
音楽も人生も、
どこが最後なんだろうなってことも、
わかんないですよねぇ。
ほんとはもう、考えないほうがいいんでしょうね。
- 水野
- ハハハハハ。
- 前川
- 考えないのがいちばんいい。
考えすぎるとだめだ。
だけどまた、考えなさすぎるのもだめです。
考えていないと、自分にもよくない。
刺激がないし、おもしろくない。
- 糸井
- うん、うん、そうですね。
- 前川
- ぼくはいい歌をうたいたいというより、
遊びたいです。
ここらへんで遊びたい。
- 糸井
- 前川さんは、
「やってる最中が楽しいこと」をやりたいんだね。
- 前川
- ええ。それは自分で感じます。
- 水野
- 結果がどうのこうのじゃなくて、
「いまここ」に没頭するんですね。
- 前川
- はい。
- 水野
- ぼくは昨日、たまたま
神田松之丞さんの
講談のＣＤを聴きました。
そのボーナストラックで、高名なお師匠さんが
「一所懸命に芸をやっていて、究極までいくと、
遊んでるようにしか見えない」
とおっしゃっていた、みたいな話が入っていたんです。
- 前川
- ああ、それはよくわかるなぁ。
遊ぶというのは、
つまりは、ゆとりなんですよ。 - 美空ひばりさんは、
簡単そうにうたっていたでしょう。
あれ、ぼくなんかだと、
♪ウゥ、ウ‥‥って、もう大変ですよ。
あの人はそれを平気でうたう。 - 昔、江川（卓）投手っていましたね。
あの人って本気で投げてたのかな？
いや、もちろん本気でしょう、でも、
本気でやってるように見えないんですよ。
なんだか遊びみたいに見えるんです。 - それから、お笑いの、タカアンドトシさん。
娘といっしょに番組に出させていただきましたが、
あの方々の空気感がとてもよかった。
あのお笑いのガツガツした世界にいて、
仕事してるように見えないんです。
そういったところが、
まわりにいい作用をもたらすんですね。 - 遊んでいるみたいに、という状態はたぶん、
いろんなことをやったからこそですよ。
最初から「ゆとり」や「遊び」を見せるというのは、
これ、無理ですもんね。
- 糸井
- そうですね、
そこに行こうと思っても行けないものです。
- 前川
- 行けないですね。
そういった時期に来たときにそうなる。
神田松之丞さんのおっしゃっていること、
ぼくはすごくわかります。
歌い手にもそういう人がいますから。
簡単にうたってるのに、
どう考えても一所懸命うたってる。
でも一所懸命に見えないんです。
「懸命にやってるのが適当に見える」
そういったことが、たぶんできてくるんですよね。
- 糸井
- 素人さんが出ているカラオケコンクール、
テレビの番組でもときどきありますが、
あれを観るとわかります。
- 前川
- そうですね、一所懸命うたっておられる。
- 糸井
- 歌手のプロとの違いが、
ちょっとわかりますね。
- 前川
- あれは「一所懸命さがいいな」という
ことなんでしょう。
ワンコーラスはいいんだけど、
ツーコーラス、スリーコーラス、
だんだんわかりますね。
それは、下手上手じゃないんです。
- 水野
- そうですね。
- 糸井
- きっと勝ち負けがからむから
そうなるんだろうね。
「自分の勝ち負けは、観ている人に関係ない」
という気持ちが、プロにはあると思うんです。
ほんとうに、すべてが
勝ち負けの話であるはずがないんですよね。
- 水野
- なるほどなぁ。
- 前川
- 糸井さんなんか、半分遊んでるように見えますよ。
でも、絶対に遊んではいない。
いろんなことを考えられて。
- 糸井
- 一所懸命やってます（笑）。
- 前川
- ぼくなんかのことも、
なーんにもならないのに、一所懸命やっていただいて。
だけども、はぐれ雲みたいな、
そういうところががある。
それがとてもいいですよね。
- 糸井
- 一所懸命さを出すということは、つまり、
「俺を認めろ」ということなんです。
認めようが認めるまいが、
アートの総量が、あるときはある。
「あいつは全然よくないんだけど、あれはよかったね」
なんていうこともよく起こるし。
- 水野
- 勝負に勝って人気を獲得する人もいるだろうけど、
そうじゃなくその役割を負っていく人もいます。
いろんな人が前川さんにボールを投げて、
前川さんが意志に関係なくうたって、
誰かを感動させるみたいなことって、
両方に魅力がありますね。
- 糸井
- 自分の得意な部分に寄りかかりすぎると、
そこでつまんなくなることもあるだろうね。
きっとその域に達するためには、
運の要素もあるよね。
- 前川
- 運もあります。
- 糸井
- 同じ努力しても、コストかけても、
運がなければそのままだよね。
- 前川
- うん。
- 水野
- 最終的に‥‥（笑）。
- 糸井
- 運だ（笑）。
- 水野
- 運の話に（笑）。
- 糸井
- でも運のことは一度、
心から思っておいたほうがいいと思う。
- 水野
- そうですね。
- 糸井
- でも前川さんって、
こんなこと言ってるけど、
意外とスタッフっぽいところがあるんだよ。
- 前川
- そうそう。俺、意外とそうですよ。
制作側のほうが向いてます。
「この歌い手はこうじゃないんだよな、
こういう歌い方じゃなくて、こう」
なんていうことは、わかりますよ。
スタッフにいいですよ。
だから、ほぼ日に入っても、
いい仕事すると思うんです。
- 水野
- 新入社員が入りました。前川清さんです（笑）。
- 糸井
- ちょっと、定年の‥‥。
- 前川
- 定年、すでに70で‥‥。
- 一同
- （笑）
（おわります）
2019-07-01-MON
-
ステキで悲しい
C/W修羅シュシュシュ！
前川 清
2019年６月５日に発売された
前川清さんの新曲。
「ステキで悲しい」は
水野良樹さんの作詞作曲、
カップリング曲の「修羅シュシュシュ！」は
高橋久美子さんが作詞、
水野良樹さんの作曲です。
対照的なふたつの歌は、
いずれも新鮮な衝撃があります。
この水野さん作曲の２曲を
前川清さんがどんなふうにうたったのか、
どうぞ聴いてみてください。
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