”丈夫でありながら本質的に美しく、
長い時間を一緒に過ごせるニット”をめざして。
ニットデザイナーの三國万里子さんが手がける
ブランド「marikomikuni」のセカンドモデルは、
スコットランド・シェットランド諸島にある
世界的なニットウェアファクトリー
「Jamieson’s」とのコラボレーションです。
英国の伝統的なフェアアイルニットや毛糸を作り続け、
世界中の有名ブランドとコラボレーションしているJamieson’s。
代表のPeter Jamiesonsは、今回のセーターを
「シェットランドの景色を彷彿とさせるようだ」と
評価してくれました。
Jamieson’sの魅力やものづくりのお話は、
三國さんとJamiesonsに。
また3名の方に着こなしのヒントを伺いました。
三國万里子(みくに まりこ)
1971年、新潟生まれ。
3歳の時、祖母から教わったのが編みものとの出会い。
早稲田大学第一文学部仏文専修に通う頃には、
洋書を紐解き、ニットに関する技術と
デザインの研究を深め、創作に没頭。
大学卒業後、古着屋につとめヴィンテージアイテムにも魅了される。
いくつかの職業を経た後に、ニットデザイナーを本職とし、
2009年、『編みものこもの』(文化出版局)を出版。
以降、書籍や雑誌等で作品発表を続ける。
2011年のコンテンツ「三國万里子の編みものの世界」でほぼ日に初登場。
以来、編みものキットやプロダクトのデザインを手がけ活動の幅をさらに広げる。
2012年より「気仙沼ニッティング」のデザイナーを務める。
ニットを軸に活躍されていますが、かねてより心を寄せていた
ヴィンテージアイテムへの見識を活かして、2017年以降は
ヨーロッパでの買い付けや、展示販売もおこなう。
今冬には福岡の美術館「三菱地所アルティアム」にて大規模個展を開催。
〈著作物〉
『編みものこもの』(2009年)
『編みものワードローブ』(2010年)
『きょうの編みもの』(2011年)
『冬の日の編みもの』(2012年)
『編みものともだち』(2013年)
『アラン、ロンドン、フェアアイル 編みもの修学旅行』(2014年)
『ミクニッツ 大物編 ザ・ベスト・オブ Miknits 2012-2018』
『ミクニッツ 小物編 ザ・ベスト・オブ Miknits 2012-2018』(2020年)
(以上すべて文化出版局)
『うれしいセーター』(2016年)
『スール』(2017年)
『I PLAY KNIT』
(以上すべてほぼ日)
〈関連コンテンツ&ウェブサイト〉
『三國万里子の編みものの世界。』(2011年)
『三國さんがミトンを編む一日。』(2011年)
『目薬ポーチで編みもの入門。』(2012年)
『いいものを編む会社 ─気仙沼ニッティング物語』(2012年)
『三國万里子さんのお店「Miknits」』(2013年~)
『気仙沼ニッティング』(2012年~)
『うれしいセーター』(2016年)
『三國万里子さんがロンドンとエジンバラでみつけたもの。』(2017年)
『MY FAVORITE OLD THINGS』
『編んで、着て、ときどきうろちょろするわたし』
『アッコちゃんとイトイ』
〈これまでの三國万里子さんのお店「Miknits」〉
Miknits2013
Miknits2014
Miknits2015
Miknits2016
Miknits2017
Miknits2018
Miknits2019
Miknits2020
Jamieson’sの代表Peter Jamiesonに、
三國万里子さんとテレビ電話越しにお話を伺いました。
今回のセーターを、
「シェットランドの景色が見えてくるようなセーターだ」と
高く評価してくれたPeterさん。
クリスマス前の忙しいシーズンに時間をとって、
Jamieson’sの工場やセーターの製作工程など、
シェットランドへ旅した気持ちになるようなエピソードを
たっぷり話してくれました。
通訳:安田和代さん(Kress Europe)
- ─
- Peterさん、おはようございます!
本日はよろしくお願いします。
- Peter
- おはようございます。
こちらこそよろしくお願いします。
- ─
- すばらしいセーターになり、
チームでもうれしく思っています。
まず、今回の三國さんのデザインについて
Peterさんの率直な感想を伺えますか?
- Peter
- ものすごくすばらしいと思いました。
まず、万里子さんから送られてきた
手製の見本の編み地「スウォッチ」が、
とても綺麗なことに感動しました。
そして、見たことのないユニークな配色が素敵。
私たちでは選ばない色の組み合わせだと思います。
とくに、Stoveが印象に残りました。
- Peter
- 伝統的なフェアアイルニットというのは、
たくさんの色を入れることが大事。
配色がすべてと言っても過言ではありません。
コントラストの強いHeathもいい配色ですが、
Stoveでは色の違う2本の糸を撚った毛糸を活かして、
絶妙なグラデーションを作っている。
そこがとくにユニークだと思いました。
- 三國
- Peterさん、ありがとうございます。
Jamieson'sのセーターは日本でも人気が高く、
Peterさんもよく日本にお越しになっていますが、
今回の配色は日本的だと思われますか?
- Peter
- 日本では、Heathのような
はっきりとした色の組み合わせが人気ですね。 - でも今日、窓の外を眺めたら、
Stoveの配色のような景色が広がっていました。
まさに、シェットランドの色だと思います。
- 三國
- そうですか。
今回、StoveにはPeat(泥炭)の色の糸を
取り入れたんです。
まさにシェットランドの土地の色だと思って。
だからあの……それは、とてもうれしいです。
- Peter
- グレイトでしたよ。
- ─
- セーターに組み合わせた4種類の模様は、
フェアアイルで昔から用いられている伝統的なデザインです。
モチーフの意味などはあるのでしょうか?
- Peter
- 正直に話すと、詳しいことはわかっていません。
フェアアイルニットはお手本がなく、
編む人のインスピレーションによって
作られてきたセーターです。
そのため、はじめに作った方がみた本、映画、
壁紙やそれこそ外の景色、いろんなものが組み合わさって、
ひとつのモチーフができあがったんだと思います。
- 三國
- 日本の人間国宝である
染色家の志村ふくみさんにお会いした際も、
「台所のタイルをみてモチーフが思いつくこともある」
とおっしゃっていました。
人の手を動かすものは、実は日常的なものなんでしょうね。
- ─
- Jamieson'sは、機械で編むフェアアイルニットを
世界で初めて作った会社なんですよね。
- Peter
- そうですね、最新の機械を用いて
多色使いのニットをつくったのは、
ジェイミソンズが最初だと思います。
1893年に創業し、
古くから機械編みのニットを作っていました。
他にはない特徴として、
もともと手で編まれていたものを、
機械によってカラフルなニットを作れるようになりました。 - かつてフェアアイルニットを量産している工場は、
Jamieson's以外にもスイスとドイツの2箇所にありました。
でも、彼らは6色くらいのカラーバリエーションしかない。
私たちだけが、はじめから14色ほど使っていたんです。
でも、機械のスピードは遅いし、
クオリティに限界を感じていた。
さらにシェットランドに油田がみつかって、
そちらに従事する人が多くなってしまい、
人材の確保も難しくなっていきました。
でも1980年代後半に転機が訪れました。
日本のメーカーから当時では画期的な機械が開発され、
それを取り入れたことで、
より高品質のフェアアイルニットを
作ることができるようになったんです。
- 三國
- そんなことがあったんですね。
- Peter
- おじいさんから引き継いだ会社なので、
潰してしまいたくなかった。
ならば、と新しい方法を取り入れて、
続けていく方向に舵を切ったことで、
今のようなユニークなセーターが
作れるようになったと思っています。
- 三國
- 世界中の人が求めている毛糸であり、セーターであるので、
なくなってしまったらみんなが困っていたと思います。
- Peter
- ありがとうございます。
シェットランドの羊の糸というのは、
着心地がよくて、あったかくて、通気性もある。
何百年も愛されてくるには理由がある
貴重な糸だと私たちも自負しています。
この土地で、この仕事をはじめた責任もあるので、
これからも発展させていきたいですね。
- ─
- 工場はどんなところなんでしょうか?
- Peter
- 働いている人々に「どんなところ?」と聞いたら、
「ひどいところだよ!」というかもしれないけれど(笑)、
とてもハッピーな場所だと思います。
みんな近所に住んでいるので、
パーソナルな部分もよく知っている。
よくコミュニケーションを取りますし、
みんな友だちのようですね。
- ─
- そんなアットホームな場所なんですね!
- Peter
- 約40人ほど働いていて、
今年のクリスマスに退職する人は
35年も働いてくれました。
- ─
- 毛糸からニットの製作まで、
すべて自社で行われていますが、
毛糸はどのように染めていらっしゃるんですか?
- Peter
- 色ごとにレシピを決めてあります。
100度ではなく、やや低い温度のお湯で染めることで
毛糸の痛みが極端に少なくなり、
染める時間も短くなります。
- 三國
- Jamieson'sの毛糸は色名も素敵ですよね。
- Peter
- 名前はみんなでつけているんですよ。
新しい色を作ったら、工場のテーブルに置いておくと、
それぞれが意見を聞かせてくれる。
一週間以上置くといろんなアイディアが出てくるので、
その中から名前を決定します。
わたしの奥さんは、花の名前をたくさん知っているから
よく採用されていますね。
僕は数字で覚えてしまうタイプであまり思いつかない(笑)。
- ─
- Jamieson'sのセーターの
製作工程についてもお伺いできますか。
- Peter
- 最初に、柄を編むためのプログラムを製作します。
マシンのどこに、どの色の糸を入れるか
プログラマーが手作業で決めて、柄を作る。
機械は日本の島精機のものです。
依頼されたサイズ表をもとに
パーツごとにパターンを作って、
機械で一気に編んだあと、
リンキング(縫い付ける)して形になります。
糸の後始末はすべて人の手です。 - ここからがとても大切なプロセスなんですが、
形になったセーターを一度洗います。
- 三國
- へえー、洗うんですね。
リンキングしたら完成なのかと思っていました。
- Peter
- 必ずすべてのセーターを洗います。
そして、下からスチームを当てていく。
24時間放置すると素材が柔らかくなって、
網目がすこしゆるむんです。 - 目の詰まった糸と糸が絡んで、
滲んだような色が出るというところも
私たちが目指していることの一つです。
- 全員
- へえー!
- Peter
- そして、タンブル乾燥をして水分を飛ばします。
なので、パーツを編むときは、
縮むことを想定して2-3サイズ大きめに編んでいます。
お客さんが洗ったときに、
縮んでしまうことを最小限に抑えるためですね。
- ─
- 洗ったときのことまで考えて工夫されているんですね……!
長持ちして着るための、
おすすめのお手入れ方法も教えてください。
- Peter
- Jamieson'sの毛糸は化学物質の少ない
伝統的な方法で染めているので、
手洗いをお願いしています。
天然素材系の洗濯洗剤でやさしく押し洗いをして、
脱水をした後に、平干しをしてください。
洗って、乾かして、という循環は
ウール素材にとっていいことです。
- ─
- なるほど、勉強になります。
お忙しい中Jamieson'sの話をたくさん聞かせていただき、
ありがとうございました。
シェットランドへ旅した気持ちになりました!
- Peter
- Jamieson'sのセーターを好んで着てくれている人は
多くが伝統や私たちの歴史、
シェットランドの景色や文化など、
セーターの向こう側にあるものに
興味を持ってくれている人だと思います。
今回のセーターは、
シェットランドの物語がみえてくるようで
すばらしいものだと思いました。
- 三國
- 一緒にセーターが作れてとても光栄でした!
今回はありがとうございました。
(つづきます。)
2020-12-20-SUN