アーティストの荒神明香さん、
ディレクターの南川憲二さん、
インストーラーの増井宏文さん、
3人を中心とした
現代アートチーム目[mé]。
2020年夏、彼らは
《まさゆめ》というプロジェクトを
実施する予定でした。
東京の空に、
実在の「誰か」の顔を浮かべるというもの。
そのプロジェクトを前に、
「ほぼ日曜日」では、
街と人のつながりについて、
「見る」ことについて、
東京の風景について、
目[mé]のみなさんと、
3人のゲストを迎えたトークセッションを予定していました。
しかし、4月にはほぼ日曜日はお休みとなり、
このトークセッションは
それぞれの登壇者がオンライン上で顔を合わせ、
配信で行うことになりました。
直接会えない状況のなかで交わされた言葉たちを
ここに採録します。
- 荒神
- 紫牟田さんがおっしゃったように、
都市って、人のありようだと思います。
どれだけすぐれた街でも、
すべての人の心を満たすことは不可能じゃないですか。
自分は、
ものすごくディレクションされた美しい町並みに住むのが
昔は憧れだったけど
いまは意外と息苦しいんじゃないかと思っています。
こう見ろ、こう感じろと受け身で暮らすことに
窮屈さを感じてしまいそう。
- 南川
- パリのおしゃれなカフェで
コーヒーの飲み方さえ
街にデザインされている気がする?
- 荒神
- そう。
その意味で、今住んでいる埼玉は
最高なんじゃないかって。
自分のアパートが、
ある日突然何の脈絡もなく、
上がオレンジで下が白に塗り替えられたんですよ。
- 南川
- 外壁が?
- 荒神
- そう。
おそらく全くディレクションされてないんですよ。
田んぼの横にレンタル倉庫がぼんと立って、
アパートがあって、その横に平屋。
何の脈絡もない街。
それが意外と住みやすい。
なぜかというと、
「こう住みたい」という主体性をキープできるから。
受け身で暮らしていては、何も出てこない。
自分から探して、主体的に暮らさなきゃいけない。
そのほうがもしかしたら豊かなのかも、って。
- 南川
- 主体的な自分のとらえ方の集積が好きな街になる、
ってことか。
でも荒神はそう思っていても、
やっぱりきれいな景色がいいって人のほうが
多いと思うけど?
- 荒神
- うーん、いわゆるきれいな景観になるには、
時間がかかるなと思って。
いま、感じたいんですよ。
- 南川
- 待てないだけであって、
やっぱり京都や鎌倉のように
時間をかけて景観ができている街のほうがいい?
- 荒神
- 基本的に人々は、
きれいな景観に向かっていっているとは思う。
でも自分はいまの一瞬を感じたい。
ディレクションされていないということでいえば、
東京自体、海外から見たらそうじゃないですか。
- 南川
- そのほうがいい?
- 荒神
- そのほうが面白い。
とんでもないものに化けるんじゃないかという
可能性すら感じる。
- 紫牟田
- まだこんなに都市に深入りしてなかった頃に、
フランスのある町の市長さんの視察団が
東京に来て、まちづくりについてミーティングをしたんです。
そこでわかったことは、
東京は都市計画があるようで、
一人ひとり、ひとつの会社や個人が
好きにつくっているものが寄り集まってできている。
ヨーロッパと日本の街の作られ方は
ぜんぜん違うんですよね。
- 南川
- なるほど。
長い時間をかけたほうがいい景観になる、
というのは当然あるとして、
どこか自分のいる場所への期待‥‥、
ある日突然その考え方が変わるかもというのも
あるのかなって。 - 《まさゆめ》が
一瞬都市全体がカフェのようになるというか、
お月見に近いようなものになればいいな、
という期待もあります。
ふつうなら長年かけて変化しなきゃいけない都市を
《まさゆめ》が変える可能性もあるんじゃないかと。
- 紫牟田
- シビックプライドを感じさせてくれる活動の中には、
アートを街に投入するという事例があるんです。
こちらの動画は、リヨンを拠点とする
ロワイヤル・ド・リュクスが数週間にわたって
ある物語をイギリスの街中に投入したものです。
Sultan’s Elephant, Royal de Luxe
- 街に新しい物語が重ねられる。そして、その物語を人々が共有する。
その物語と別れがたくて泣いてしまうこどもまでいて、
とても印象的なんですね。
目[mé]がやろうとしているのは
街に新しい物語を重ねていくってことじゃないかな。 - 《まさゆめ》のはじまりは
荒神さん一人の夢かもしれないけど、
それが街に重ねられたときに
私たち自身が私たち個人の思いと重ねていく。
重ねていったときに、わかちがたくなる。
だからアートの活動は大事なんですよね。
なんでもない景色が変容していくという
可能性をはらんでいる。
私たちと都市の関係が変わっていく。
だから《まさゆめ》、早く観たいね。
- 荒神
- ふふふ。
- 南川
- 都市がいくら美しくても、
美しいと感じる人がいなければ美しくない。
- 紫牟田
- そうですね。
- 南川
- もし都市が見る人に委ねられてるとすれば、
一瞬で大好きになる可能性があるってことですね。
(つづきます)
2020-06-17-WED
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目 [mé]
アーティスト 荒神明香、ディレクター 南川憲二、インストーラー 増井宏文を中心とする現代アートチーム。
個々の技術や適性を活かすチーム・クリエイションのもと、特定の手法やジャンルにこだわらず展示空間や観客を含めた状況/ 導線を重視し、 果てしなく不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする 作品を展開している。
主な作品・展覧会に「たよりない現実、この世界の在りか」(資生堂ギャラリー 2014 年)、《Elemental Detection》(さいたまトリエンナーレ 2016)、《repetitive objects》(大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018)などがある。第 28 回(2017 年度)タカシマヤ文化基金受賞。2019 年は、美術館では初の大規模個展「非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館)が話題を呼んだ。 《まさゆめ》とは
年齢や性別、国籍を問わず世界中からひろく顔を募集し、選ばれた「実在する一人の顔」を東京の空に浮かべるプロジェクト。現代アートチーム目 [mé]のアーティストである荒神明香が中学生のときに見た夢に着想を得ている。
東京都、 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京が主催するTokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13の一事業。
公式サイト