アーティストの荒神明香さん、
ディレクターの南川憲二さん、
インストーラーの増井宏文さん、
3人を中心とした
現代アートチーム目[mé]。
2020年夏、彼らは
《まさゆめ》というプロジェクトを
実施する予定でした。
東京の空に、
実在の「誰か」の顔を浮かべるというもの。
そのプロジェクトを前に、
「ほぼ日曜日」では、
街と人のつながりについて、
「見る」ことについて、
東京の風景について、
目[mé]のみなさんと、
3人のゲストを迎えたトークセッションを予定していました。
しかし、4月にはほぼ日曜日はお休みとなり、
このトークセッションは
それぞれの登壇者がオンライン上で顔を合わせ、
配信で行うことになりました。
直接会えない状況のなかで交わされた言葉たちを
ここに採録します。
- 石川
- 僕は初台で生まれて、
ずっといろんなところを転々としながら
東京で暮らしていたので、
ぽつぽつ撮っていた写真がたまっています。
板橋に引っ越して、明大前に引っ越して、
目黒のほうに住んでいる。
高校まで九段下と飯田橋の間の学校に通って、
放課後は神保町の古本屋で時間をつぶしたりして。
大学や大学院のときは渋谷や新宿で遊んだり、
上野に行ったり。
そんな感じで東京とつきあってきました。
いつもは旅の話をすることが多いから、
生まれ育った東京について話すことはあまりないんです。
- 石川
- 東京って無色透明なイメージがあって、
匿名性が高いというか、人ごみにまぎれて、
突出した個性も人ごみに溶け込んじゃって、
僕としてはそれが居心地がいい。
小さな村に行くと、それぞれの人が
お互いの動きをわかっていて窮屈かなと思うこともある。
東京では空気みたいな存在になれるな、と思います。
- 南川
- 東京駅って近年区画としてきれいになっているけど、
どう思いますか?
- 石川
- 僕はそんなに思い入れがないから、
変わっちゃったら変わったね、って感じ。
昔のほうがよかったなというのはあまりないですね。
気に入っている街角とかはもちろんあって、
それがなくなったらさみしいなと思うことは
もちろんあるけど。
移り変わりが激しい街だから、
それはそれとして受け流すというか。
写真家は見て見て見続ける仕事だから、
ノスタルジアではなくて、いま現在の変化を見つめる、
その場その場で出会ったものを見て、
向き合って写真に撮るっていうだけだから、
あまり変わっていくからさみしいとかはないんですよ。
- 南川
- 世界を旅して、街の居心地って感じたことありますか?
- 石川
- 僕は枕が変わったら眠れなくなるっていう
タイプの人とは真逆で、
どこにいても居心地がいいから、あんまりないんだよね。
雨風がしのげてあたたかい寝袋とかベッドがあればそこがホーム。
- 荒神
- さすが!
- 石川
- 好きな場所はたくさんありますよ。
カトマンズのいつも行ってる安宿も好きだし、
アラスカの山中でのテント泊も好きだし、
バリ島にも心地よい場所はたくさんあるし。
北海道や沖縄にも好きな場所はある。
- 荒神
- 日本の変化を全然恐れない、
背負うものがすごく少なくて、
気楽というか住みやすいという感覚は共感します。
- 石川
- 東京は、変わっていくことに対して
力が抜けてる感じはありますね。
難しいよね、東京のこと話すのって。
- 南川
- 危険な場所に行くとき、
他者の視点を意識することはありますか?
- 石川
- そこまで危険じゃないんですよ。
もちろんちょっと危ないところはあるけど、
そこでは見るというか五感を研ぎ澄ませて、
音にも変化にも敏感になる。
見るというより全身で知覚するほうが強いですよね。
でもあんまり変わんないですよ。
東京にいるのと、険しい山の上と。
人間って標高5000mちょっとまでは
生活が営まれているから。
- 南川
- とはいえ、
ある程度の覚悟がないと行けないと思いますが、
リスクがあっても行きたいと思った最初は?
- 石川
- 荒神さんが《まさゆめ》のもととなる夢を見ていた頃、
中学2年のときには青春18きっぷで四国に一人旅をして、
高校2年でインドとネパールに行って、
20歳くらいにアラスカのデナリに登って。
そのへんからリスクも大きくなってきたけど、
前人未到の誰も行ってないところに行くわけじゃないから。
たいがいのことは本気で突き詰めてやろうとすれば
できる気がしているんですよ。
中学のときに授業中、ノートの隅っこに
「エベレストに登りたい」「こんなところに行きたい」
とか書いていたことは、たいがい実現してますね。
- 南川
- リスクの大きさによってモチベーションは変わりますか?
- 石川
- リスクの大きいところは行きにくくて、
情報も少ないから自分の目で見てみたい、
感じてみたいというのはあります。
- 南川
- リスクの大きさって、要は死の度合いだと思うんですけど、
それでも行くというのは‥‥。
- 石川
- 行ったら6、7割危ないなら行かないですね。
7割大丈夫で3割危ないよっていうなら行こうかなって。
思ってるほど大げさなことじゃないよ。
- 南川
- 同じところに2回行くのが僕にとっては謎なんですよ。
- 石川
- 心境や体力、季節とか、いろんな要素によって
ぜんぜん違うものが見えるんですよ。
デナリもエベレストも2回登頂したけど
ぜんぜん違ったし、
富士山は30回登っても全然違う発見がある。
それは東京の街なかも同じで、
だからシャッターを切れるんですよね。
(つづきます)
2020-06-23-TUE
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目 [mé]
アーティスト 荒神明香、ディレクター 南川憲二、インストーラー 増井宏文を中心とする現代アートチーム。
個々の技術や適性を活かすチーム・クリエイションのもと、特定の手法やジャンルにこだわらず展示空間や観客を含めた状況/ 導線を重視し、 果てしなく不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする 作品を展開している。
主な作品・展覧会に「たよりない現実、この世界の在りか」(資生堂ギャラリー 2014 年)、《Elemental Detection》(さいたまトリエンナーレ 2016)、《repetitive objects》(大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018)などがある。第 28 回(2017 年度)タカシマヤ文化基金受賞。2019 年は、美術館では初の大規模個展「非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館)が話題を呼んだ。 《まさゆめ》とは
年齢や性別、国籍を問わず世界中からひろく顔を募集し、選ばれた「実在する一人の顔」を東京の空に浮かべるプロジェクト。現代アートチーム目 [mé]のアーティストである荒神明香が中学生のときに見た夢に着想を得ている。
東京都、 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京が主催するTokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13の一事業。
公式サイト