2019年の夏の終わり、
ニットデザイナーの三國万里子さんは、旅に出ました。
行き先はロンドン、パリ、
そしてスウェーデンのヨーテボリです。

三國さんは、旅先で美しいものを探し、出合いました。
たとえばそれは、
代々だいじに受け継がれた繊細なショール。
今でも変わらないかたちで作り続けられている
カラフルなスクールマフラー。
その時代を表すようなハンドメイドのドレスなど‥‥。
いつ、どんな人に作られて、
どうやってここへ巡ってきたのだろう?
あれこれと、想像がふくらむものたちばかり。

編みぐるみの「ハリネズミ夫人」と「まりこ」、
そして今回新たにロンドンで出会った
ぬいぐるみの「ねこさん」たちが、
旅で出合ったものたちをご紹介していきます。
ぺちゃくちゃ、わいわい、お伝えします。
さあ、
買いもの仲間の終わらないおしゃべり、
はじまりはじまり~!

>三國万里子さんのプロフィール

三國万里子(みくにまりこ)

ニットデザイナー。
1971年、新潟生まれ。
3歳の時、祖母から教わったのが編みものとの出会い。
早稲田大学第一文学部仏文専修に通う頃には、
洋書を紐解き、ニットに関する技術と
デザインの研究を深め、創作に没頭。
大学卒業後、いくつかの職業を経た後に、
ニットデザイナーを本職とする。
2009年、『編みものこもの』(文化出版局)を出版。
以降、書籍や雑誌等で作品発表を続ける。
2011年のコンテンツ
「三國万里子の編みものの世界」でほぼ日に初登場。
以来、編みものキットやプロダクトのデザインを手がけ、
活動の幅をさらに広げる。

2012年より「気仙沼ニッティング」のデザイナーを務める。

〈著作物〉

『編みものこもの』(2009年)
『編みものワードローブ』(2010年)
『きょうの編みもの』(2011年)
『冬の日の編みもの』(2012年)
『編みものともだち』(2013年)
『アラン、ロンドン、フェアアイル 編みもの修学旅行』(2014年)
(以上すべて文化出版局)
『うれしいセーター』(2016年)
『スール』(2017年)
(以上すべてほぼ日)

〈関連コンテンツ&ウェブサイト〉

『三國万里子の編みものの世界。』(2011年)
『三國さんがミトンを編む一日。』(2011年)
『目薬ポーチで編みもの入門。』(2012年)
『いいものを編む会社 ─気仙沼ニッティング物語』(2012年)
『三國万里子さんのお店「Miknits」』(2013年~)
『気仙沼ニッティング』(2012年~)
『うれしいセーター』(2016年)
『三國万里子さんがロンドンとエジンバラでみつけたもの。』(2017年)
『編んで、着て、ときどきうろちょろするわたし。』 (2018年)

前へ目次ページへ次へ

第8回 自分のために買ったもの

ハリネズミ夫人
(こぽこぽこぽ……)
二人とも、お茶が入ったわよ~!
ねこさん、まりこ
は~~い!
ハリネズミ夫人
いっとき倉庫がすっきりしたと思ったら、
あなたたちまたぎゅうぎゅうに詰め直したでしょう、
あれはどういうこと?
ねこさん
整理し終えたお品物を
倉庫に保管しておくんです、
展示の時まで。
まりこ
買い付け品たちは近日中に
ほぼ日のページ上でも
見ていただけるようになるんですよ。
ハリネズミ夫人
あらまあ、ハイテクねえ。
まりこ
そういえば展示では一点だけ非売品があります。
わたしが自分のものとして買ったドレスなんですけど、
ええと……
これです、この裾の刺繍を見てください。

ハリネズミ夫人
あら、あら、あら。
これは大変なものね。
まりこ
19世紀後期のイギリスで
「アーツ・アンド・クラフツ運動」という
アートの潮流があったんです。
簡単にいうと、
「機械化が進む時代の中で
手仕事がもたらす喜びを復活させよう」、
という考え方のもとでのものづくり。
ハリネズミ夫人
ふんふん。
まりこ
このドレスはその
「アーツ・アンド・クラフツ運動」のものよ、と、
ディーラーの方がおっしゃっていました。
ねこさん
運動の創始者であるウィリアム・モリスは
本の装丁やテキスタイルを多く手がけていますよね、
たしかこんな植物模様をたくさん考案して…。
まりこ
そうですね。
このドレスの刺繍はおそらく、ウィリアム・モリスの描く
優美でロマンティックな植物柄から
濃く影響を受けているんだろうと思います。
ハリネズミ夫人
こんなすばらしいもの、
一人占めしていいのかしら?
まりこ
う~ん、そこなんです。
わたしはニットのデザインが仕事でしょう。
美しいものを近くに置いて、
着たり眺めたりすることで
力がもらえるような気がする。
それでこのドレスを買いました。
でもね、こんな美しいものを
わたしが独占していいんだろうか、とも思う。
ねこさん
それで、展示で皆さんに
見ていただくことにしたんですね。
まりこ
そういうことです。
時代を反映したドレスの形も、刺繍も、
オリジナルで隅々まで美しいので、
ぜひ会場で皆さんにご覧いただけたらと思います。
ハリネズミ夫人
まりこは他にも色々と
自分のものを買ってきてたわよね?
まりこ
はい。
今回の買い付けに行く前に、
チームのみんなに提案したんです。
「これはどうしても自分のために買いたい、
と思うものは、そうしていいことにしよう」って。
すてきなものを毎日朝から晩まで見続けて、
自分は買えないというのは、なかなか辛いことなので。
ねこさん
まりこが自分のために選ぶ基準、というのは
あったんですか?
まりこ
う~ん……。
そうですね、
「誰よりもわたしが一番、この良さをわかるだろうな」と
いうこと、でしょうか。
買い付けた品物は全て妥協なく、
いいな、好きだな、と思ったものなんですよ。
ただ、その中でも
「わたしとパーソナルな関係を持てそうなもの」
ということが大事で。
それは見れば自ずとわかるというか、
前もって決まってる感じすらするんです。
ハリネズミ夫人
因縁めいたことを言うわね。
ねこさん
Love at first sight(一目惚れ)ですね。
まりこ
そう…。
じゃあ、お見せしちゃいますね、
わたしが一目惚れして
自分用に持ち帰ったものたちを。
previous arrow
IMG_5109
IMG_5121
next arrow
まりこ
まず小さなものたちから。
これはフランスで1920年頃に
作られた陶器のお人形たち。
サーカス団なんですよ。
なんといえばいいでしょう、形と色と表情、
全てが醸し出す「明るさ」のようなものに、
すごく惹かれました。
ねこさん
このみなさん、
今はまりこの本棚の住人ですね。
previous arrow
IMG_5123
IMG_5129
next arrow
まりこ
次はイギリスのフェアで買ったキラキラを二つ。
コアラのブローチと、大きな星のオーナメント。
ハリネズミ夫人
まりこはコアラが好きね。
まりこ
ええ。
コアラはなんというか、
生き物として親近感を感じるんです。
この子はグリーンの目がきれいなことと、
「コアラなのに光りすぎでしょう」、
というアンバランスさが決め手です。
星のオーナメントは
ラインストーンを爪留めしたフレームが
光を通して透けるのが、すごくきれい。
もともとシンプルに飾りとして
作られたものですが、買った後で
手持ちの安全ピンを組み込んで、
ブローチとして使っています。
直径8センチもあるんですよ。
ハリネズミ夫人
まりこは何かと大きいものを選びがちよね?
たしか好みの男性のルックスは…。
まりこ
はい、わたしは顔の大きな男性に惹かれます。
だって立派でしょう?
ねこさん
立派……。
ハリネズミ夫人
わからないこともないわ、
大きいっていいことよ。
で、あとは何を買ったの?
まりこ
ええと、パリでスウェードのコートを買いました。
色と形がとてもきれいで、すごく着心地がいいんです。

ねこさん
あれ、襟のタグがないけど、
取っちゃったんですか。
まりこがスカーフを毎年買ってる、
あの大好きなH社のなんでしょう?
まりこ
はい。
これは新品だったらとてもじゃないけれど、
わたしが買えるようなものではないんです。
この気持ちをなんと説明したらいいのか…。
タグを取ってもわたしはこれが好きかなあ、
って考えたんです。
それで、自分の本当の気持ちを知るために、
取っちゃいました。
ハリネズミ夫人
それで?
まりこ
変わらずに、とても好きです。
仕立てが良いおかげで、
着ているとすごく守られている感じがします。
ねこさん
良かったですね。
まりこ
おかげさまで。
あとはポツポツとお洋服を買いました。
長くなるので説明はしません。
previous arrow
IMG_5133
IMG_5137
IMG_5142
IMG_5144
IMG_5056
IMG_5053
next arrow
ハリネズミ夫人
ずいぶん買ったわねえ。
まりこ
はい。
この秋はこれらの服をよく着ました、
旅のことを思い出しながら。
年明けの展示が済んだらようやく
わたしの旅も終わる、という気持ちです。
ねこさん
お客さんたちにもぜひ、
ものとの特別な出会いを
していただきたいですね。
ハリネズミ夫人
ほんとね。
わたしたちみんな揃って、会場でお客様たちを
お迎えしましょうね。
まりこ
はい。
入場無料、お茶もフリーでお出ししますし、
おしゃべりしに来ていただくだけでも
もちろん大歓迎です。
ハリネズミ夫人、ねこさん、まりこ
それでは……。
みなさん、良いお年を!

1月4日土曜日から渋谷PARCOで始まる
「MY FAVORITE (OLD) THINGS」への
皆さまのご来場を
心から楽しみにお待ちしています!

(三國)

(おわります)

2019-12-24-TUE

前へ目次ページへ次へ
  • 『I PLAY KNIT.』
    著:三國万里子

    12月6日(金)ほぼ日ストアや全国書店にて発売

    「MY FAVORITE (OLD) THINGS」

    2020年1月4日(土)~19日(日)
    渋谷パルコ8F「ほぼ日曜日」にて
    ※「ほぼ日曜日」についてはこちらをどうぞ。