minä perhonenの皆川明さんに
お話をうかがう機会を得ました。
19歳から通っているフィンランドと、
そのデザインについて。
気に入ったものを
長く使うことのよろこびについて。
そして、長く使ったものが、
いつか記憶になっていくことについて。
渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで
いま開催中の
ザ・フィンランドデザイン展の会場で、
ゆっくりと、おうかがいしました。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>皆川明さんのプロフィール

皆川明(みながわあきら)

デザイナー。1995年にブランドminä perhonen(2003年まではminä)設立。手作業で描かれた図案から作るオリジナルファブリックによるファッション、インテリア等で注目を集める。ストーリー性のあるデザインと、産地ごとの作り手の個性を活かした、長く愛用されるものづくりを目指す姿勢はブランド設立時から一貫している。個人の活動として、国内外の様々なブランドとデザインを通じての協業を精力的に続ける他、新聞や書籍への挿画、宿のディレクションなど活動は多岐にわたる。

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第4回 デザインが、 見つめているもの。

──
2019年から2020年にかけて
東京都現代美術館や
兵庫県立美術館で開催された
minä perhonenの「つづく」という
展覧会がありましたけれども。
皆川
はい。
──
来年2022年には
福岡や青森を巡回するそうですけど、
あの展覧会の会場には、
これまでにうかがったようなお話が、
詰まっているように思います。
皆川
そうかもしれません。
──
デザインとは、
単なる「見た目」のことじゃなくて、
もっと長い射程を持っているだとか、
最終的には、
使う人の「記憶」になるものだとか。
皆川
ええ。
──
そういう「デザイン」という概念で、
美術館をいっぱいにしたことも、
何と言えばいいのか、カッコよくて。
よくある質問かもしれないんですが、
皆川さんは、
デザインとアートの違いって、
何か、意識したことはありますか。
皆川
ぼくたちとしては、その間には、
あまり境界線がないと思っています。
強いて言うなら共同作業ということ。
ぼくらは、布1枚にしても、
それをつくってくれる工場が必要。
分業しながら、
ひとつの方向へ向かっていくんです。
──
はい。
皆川
もちろん、そういう種類のアートも
あると思いますが、
さまざまな分野の専門家たちと
力を合わせながら、
さまざまな人へ向けて
ものをつくっていくということが、
デザインの特徴なんじゃないかなと。
つくり方、でき方という意味では。
──
なるほど。
内容的、質的なところでいうと‥‥。
皆川
アートは自分の内面性を表現します。
そこはデザインも同じなんですけど、
その自分の内面性を
「他者の共感」によって成立させる。
そういうところが、
デザインにはあるのかなと思います。
──
受け取ってもらうことが、大事だと。
皆川
ぼくは、デザインって、
そこがおもしろいなと思っています。
その「やりとり」が‥‥、
ようするに「社会とのやりとり」が。
──
なるほど。
皆川
アートの場合、
基本的には、「自分の表現」ですよね。
それが
他者にどう受け取られるかについて、
いったん置いておく‥‥
みたいなところがあると思うんです。
その点、デザインの場合には、
もう少し他者のよろこびに関係してる、
ということかもしれません。
──
いまみたいなことって、
実際にデザインをされているときにも、
考えているんですか。
皆川
もちろん、考えています。
自分自身も、絵を描いているときには、
自分の思う世界を
とにかく突き詰めているわけですけど、
結果、その絵に
共感してもらえるかどうか‥‥には、
つねに想像をめぐらせています。
自分だけが満足できればいいんだとは、
思ってはいません。
──
なるほど。

皆川
minä perhonenというブランドを
はじめたのはぼくですが、
時が経つにつれて、
ぼくの名前は「消えていく」んです。
──
ああ‥‥。
皆川
ただ、そうなったときでも、きっと、
ものづくりの考えは引き継がれるだろうし、
さらに広がっていくと思うんです。
そういうところも、
たぶん「芸術」とはちがうところですよね。
──
個人の作家性よりも、
共有する思考や哲学が「つづいて」いく。
その哲学は、言語化されているんですか。
minä perhonenの中では。
皆川
はい、言語化しています。
とくに、デザインを担当するチーム内では。
──
デザインは「長い射程だ」といったお話を
うかがって、
じつにおもしろいなあと思ったんですが、
そうはいってもやっぱり、
デザインって、
視覚的な要素が大きな割合を占めますよね。
それでも、言葉による理解は重要ですか。
皆川
はい。言葉による理解は、とても重要です。
なぜなら、デザインというのは、
見えているものだけでは、ないからです。
デザインに言葉を添えることで、
「どう見せよう」とか、
「どう解釈してるんだろう」ということを、
メンバーで共有できるんです。
──
なるほど。
皆川
そこができていれば「つづく」‥‥
100年、つづけていけると思っています。
──
minä perhonenは、ぼくらとしても
ずっとつづいてほしいブランドですけれど、
やはり「つづく」は、
いつでも、大事なテーマなんですね。
皆川
そうですね。長くつくりつづけることと、
長く使いつづけられること。
ものや物質そのものというより、
継続していくことのほうが重要なんです。
でも、継続していくためには、
やっぱり、ものがよくなければならない。
──
そうじゃないと、つづかない。
皆川
材料もきちんとしていなければならないし、
工程もしっかりしていなければならないし、
つくる環境も、大切にしなければならない。
自分たちの活動を「つづけよう」と思えば、
どうしても、そこへ立ち戻ります。
──
じゃ、今日ずっとうかがってきた
フィンランドのものづくりの考えや姿勢は、
「つづく」にとっても重要ですね。
皆川
はい。
──
あの、おかしなことを聞くようですが‥‥
何でしょう、皆川さんは
飽きないですか、フィンランドには(笑)。
皆川
ええ(笑)、あの、フィンランドの作家で、
ルート・ブリュックという人がいるんです。
今回の展覧会にも、出ているんですけれど。
──
はい。ルート・ブリュックさん。
皆川
いま、彼女の娘さんのマーリアさんとも、
仲良くさせてもらっているんですね。
もともと、はじめてフィンランドを旅した
19歳のときに、
ラップランドという北のほうの‥‥
冬だったので、
マイナス35度くらいのところの図書館で、
本や雑誌を眺めていたんですが。
──
はい。
皆川
そのとき、そのなかに、
ルート・ブリュックの画集を見つけました。
作家について何の知識もなかったんですが、
素敵だなあと思って、
ノートに絵を描き写したりしていたんです。
──
おお。
皆川
以来、ずっと好きな作家だったんですけど、
それから30年くらいして、
こんどは、その娘さんとお会いできました。
そのマーリアが、うれしいことに‥‥。
──
ええ。
皆川
ぼくたちの洋服を持っていたんです。
──
わあ、幸せなめぐりあわせですね!
皆川
そうなんです。おもしろいなあと思います。
19歳だったぼくは、
将来ファッションデザイナーになるなんて、
思ってもいませんでした。
ファッションの学校には通っていましたが、
自分のブランドをやるなんて、
まったく、考えもしていなかったころです。
──
そんなときに、
ルート・ブリュックさんの作品に惹かれて。
寒い時期の、ラップランドの図書館で。
皆川
そう、あの日から何十年もの時を経たあと、
彼女の娘さんと知り合ったら、
お互いに、お互いの作品をよく知っていた。
そういうことが、起こるので(笑)。
──
つまり「飽きない」ってことですね(笑)。
皆川
ぜんぜん飽きないですね。ぼくは。
──
それは何だか、うれしい答えです(笑)。

(中)ルート・ブリュック 《無題(ヘルシンキ市庁舎陶レリーフ「陽のあたる街」のための習作)》 1975年、ヘルシンキ市立美術館蔵、 ©︎KUVASTO, Helsinki & JASPAR,Tokyo, 2021 G2563 (中)ルート・ブリュック 《無題(ヘルシンキ市庁舎陶レリーフ「陽のあたる街」のための習作)》 1975年、ヘルシンキ市立美術館蔵、 ©︎KUVASTO, Helsinki & JASPAR,Tokyo, 2021 G2563

皆川
60年代の街並みの写真を見ても、
フィンランドって、
21世紀の現代とほぼ変わってないんです。
──
街並みも「つづいてる」んですね。
皆川
そうなんです。
いつでも同じように存在してくれている、
という、大きな安心感があります。
──
そもそも、きっかけは何だったんですか。
19歳のときに、
フィンランドへ行こうって思われたのは。
皆川
漠然と「行ってみたい」という感じでした。
まったく知らない国でしたが、
ただ、祖父母が営んでいた輸入家具の店に、
北欧からのものもあったんです。
そこで、おもしろそうな国だなあ‥‥って、
感じていたとは思います。
──
じゃ、ひとりの若者として、一人旅に出て。
いろいろと見て、感じて、思って、考えて。
皆川
それくらいの年齢って、ただでさえ、
毎日毎日、自問自答してるじゃないですか。
ひとり旅ですから、余計です(笑)。
当時はバックパッカーで、
安いドミトリーみたいなところに泊まって。
ひとつひとつのできごとに、
自分の感覚が、敏感に反応していたんです。
──
おお。
皆川
そのときの印象が、とにかく、つよかった。
それがいまでも、つづいている感じです。
何年か前も、
若いころに泊まっていたユースホステルに、
何日か泊まったりして(笑)。
──
わあ。初心を思い出しちゃったり(笑)。
皆川
そうですね(笑)。
でも、そういうのって大事だと思うんです。
フィンランドのデザインにしても、
過去から現代への流れを理解するというか。
──
ええ、ええ。
皆川
今回の展覧会でも、
フィンランドという国のデザインの変遷が、
1930年代から
70年代までの時系列で展示されています。
そして、その時代その時代に、
どんなデザイナーが
フィンランドのデザインを牽引してきたか、
よくわかる構成になっています。
──
なるほど。
皆川
これまでは、
先ほどのルート・ブリュックの展覧会とか、
アルヴァ・アアルトの展覧会とか、
個々の作家に焦点を当てたものが多かった。
でも、あんなふうにして、時の流れの中で
フィンランドのデザインを知る‥‥
という切り口は、あまり記憶にないんです。
──
時間軸で、デザインを知る。
皆川
おもしろいですし、大事だと思うんです。
過去から受け継いだものが、
未来へと「つづいていく」わけですから。

(おわります)

撮影:石井文仁

2021-12-31-FRI

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  • 皆川明さんがナビゲーターを務めるザ・フィンランド展、開催中!

    皆川明さんがナビゲーターを務めるザ・フィンランド展、開催中!

    いま、渋谷の
    Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の
    「ザ・フィンランドデザイン展」で
    皆川明さんがナビゲーターを務めています。
    インタビュー中でも言及されますが、
    フィンランドのデザインの流れを
    時系列で追いながら、
    フィンランドが
    デザイン大国になっていく背景を
    じっくり理解できる展覧会です。
    見たことのある、
    あるいは愛用しているプロダクトも、
    きっと、たくさん出ています。
    もちろん、ムーミンもいますよ!
    さらに、皆川さんが書き下ろしたエッセイを
    クリス智子さんが朗読する、
    という音声コンテンツもあるそうです。
    会期は、2022年1月30日(日)まで。
    ぜひ、足をお運びください。
    詳しくは公式サイトでチェックを。