ニットデザイナー三國万里子さんの個展
「編みものけものみち 三國万里子展」
福岡県の三菱地所アルティアムにて開催されます。
この展示の題字や展覧会に飾られる絵など、
すばらしい作品を画家のミロコマチコさんが描かれました。
ふたりの出会いは『うれしいセーター』から。
会う頻度は高くないものの、
ことなるけものみちを歩んできたふたりは
お互いの作品を通じて心を通わせてきたのだと思います。
植物の色、鳥のはばたき、空のひかり‥‥
自然から教わったことで作品が生まれる。
奄美大島でのくらし、作品づくりの変化、
ミロコさんからみた三國さんのお話などうかがいました。
展示によせた絵の、定点観測も特別にお届けしますよ。

>ミロコマチコさんプロフィール

ミロコマチコ

1981年大阪府生まれ。画家、絵本作家。
独自のタッチで描かれた生きものたちからは、
強いエネルギーを感じます。
絵本『オオカミがとぶひ』(2012年、イースト・プレス)で
第18回日本絵本賞大賞を受賞。そのほかの代表作に、
『てつぞうはね』(ブロンズ新社)、『ぼくのふとんは うみでできている』(あかね書房)
『オレときいろ』(WAVE出版)、『けもののにおいがしてきたぞ』(岩崎書店)など。
最新作は『ドクルジン』(亜紀書房)。
ほかにも本やCDジャケット、ポスターなどの装画も手がける。
2016年春より『コレナンデ商会』(NHK Eテレ)のアートワークを手がけています。

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後編 いつだって世界に感動している。

──
今回、三國さんの個展「編みものけものみち 三國万里子展」
ミロコさんが絵を描かれています。
展示の題字と、絵をひとつ描かれたんですよね。

題字:ミロコマチコ 題字:ミロコマチコ

ミロコ
「三國さんの原風景を描いてほしい」という依頼で、
三國さんの幼少期のお写真を参考にしながら、
私が好きなように解釈をして
「三國さんの心に残っているであろう風景」を描きました。
──
これまで、お題のある絵を描かれたことが
あまりなかったと伺ったのですが。
ミロコ
そうなんです。
自由に描きたいものを描くことが多かったので、
依頼をもらった時は難しいかもなあと思ったんですけど、
三國さんがたくさん送ってくださった
幼少期の写真を見ながら考えていたら、
一気に描けました。
──
迷いなくですか。
ミロコ
ほとんど。
こうしたいな、ああしたいな、と次々に浮かんできました。
──
今回特別に、描かれていく過程を
定点観測的にミロコさんに撮っていただきました。
はじめは何もないところから、
どんな風にイメージを膨らませていったんですか?

ミロコ
いただいた写真の中に、
新潟の風景を撮ったものがたくさんあったんです。
山々が田園風景の背後にそびえ立っていて、
河川が流れている自然がめいっぱいの場所で。
あとは、三國さんと妹さん(なかしましほさん)が
ふたりでお揃いの服を着て、乗り物に乗っている写真も。
その二枚をみたときに、小さな姉妹が、
河川敷にたたずんでこちらを見ているような情景が
パーっと思い浮かんだんです。
──
新潟の広い自然風景の中に小さな姉妹がポツンと。
ミロコ
そう。
おにぎりとみかんとか、海に浮かぶお月様とか、
いろんな写真を見せていただいたんですけど、
それらもいいヒントになりました。
直接絵の中には描かれていないけれど、
姉妹の体の中にはそれらが染み込んでいるんだってことを
思い浮かべながら制作しました。

──
とても、素敵な絵だと思います。
光に照らされた稲穂が広がる田園風景ですとか、
草木が生い茂っている様子ですとか、
三國さんが幼少期に過ごした新潟は
こんな景色なんだろうなって思いました。
ミロコ
好きなように組み合わせて描いているので
植物の季節はきっとバラバラなんだろうけど、
三國さんはきっと、
左上のアケビや右上のヨウシュヤマゴボウが
好きだろうなと思って。
──
一昨年「niigata」という
まさに新潟の原風景をイメージして
作られたマフラーがあるんです。
マフラーをみると新潟の風景を思い浮かべるのですが、
この絵をみたときにも、
三國さんの編みもの作品を思い出しました。
ミロコ
ああ、わかります。
私も新潟の自然がいっぱい写った写真をみて、
編みもの作品とのつながりを感じました。
三國さんの原点は、ここにあったんだなって。
アルティアムの方が、
展示されるフェアアイルベストの説明に
三國さんの幼少期のことが書かれているので、
読んでみてくださいって送ってくださったんですね。
ベストは三國さんがキノコ狩りに行った松林での
情景を思い出してつくられたそうですが、
私には写真にあった新潟の山々、林、里山、
河川敷、生い茂る背の高い草が、
濃い藍色から白へのグラデーションの中に、
黄色や赤が光のように差し込まれているという
様子と重なりました。
それで、フェアアイルベストの
色の重なりやグラデーションを、
絵の中で表現しました。
──
編みもののインスピレーションが
ミロコさんの作品にも活かされているんですね。
あと、ふたりの表情や着ているものも
とってもかわいいです。
ミロコ
実は、フェアアイルベストを着ているんですよ。

──
あはは、ほんとですね!
ミロコ
冬に向かっていく秋の途中、
ちょっと寒いねっていうくらいの秋ですかね。
奥の山は雪がすこしだけかぶっていて。
川沿いで遊ぶには、フェアアイルベストくらいが
ちょうどいいんじゃないかなって思ってそうしました。
三國さんは一人遊びに没頭する子どもで、
妹さんはすごい活発だったんですって。
その雰囲気も出したくて、
ちょっと内気そうな表情で座っている子が三國さん、
勝気そうな元気な子が妹さんというイメージ。
──
幼少期の頃のふたりですけど、
その表情はこれまで歩んできた道を連想するような
大人っぽさも感じます。
そのアンバランスさがいいなと思っていました。
ミロコ
それはあるかもしれない。
今のふたりの姿を知っているから、
自然と絵に滲み出たかもしれないですね。
──
題字も、ひとつひとつにけものたちが生きていて
とってもすてきです。

題字:ミロコマチコ 写真:長野陽一 デザイン:DICTOM DESIGN 題字:ミロコマチコ 写真:長野陽一 デザイン:DICTOM DESIGN

ミロコ
ふだんの依頼はシンプルな描き文字が多いんです。
だから、こんなに装飾したのもはじめてで、
私にとっても新しい挑戦でした。
──
シンプルにしなかったのは、
なにか理由があったんですか?
ミロコ
三國さんといえば、いろんなところに
楽しみが潜んでいる作品が多いですよね。
だから、そういう絵にしたくて。
「けものみち」という題名からヒントをもらって、
毛糸のようにつながった道の上に、
生きものや植物を描きました。
──
三國さんとミロコさんは、
何回もお会いされているわけではないんですよね。
でも、作品を通じてお互いのことを
理解しあっているなと感じます。
ミロコさんからみた、三國さんの作品の魅力を伺えますか?
ミロコ
そうだなあ。いろいろありますけど、
三國さんは、世界を愛しているなっていうのが
編みものからすごく伝わってきますよね。
──
世界を愛している、ですか。
ミロコ
いろんな感動を心の中にストックして、
編みものの柄や形、配色にその感動を表している。
記憶は度々消えていってしまうし、
きれいなものを「きれいだ」と感じることって
意外と難しいことだと思うんですよ。
──
当たり前にあると、
目にも止めないことがあるかもしれません。
ミロコ
そうそう。でも、三國さんは
魚がきれいとか、みかんが美味しいとか、
妹がこんなことをしてびっくりしたとか、
そういう感情の機微をつぶさに観察して、
大事に心の中にしまっている感じがします。
それが、編みものに落とし込まれている気がします。
──
わーー、なるほど。
ミロコ
だから、その編みもの作品を見たときに人は、
自分の記憶を思い出すんじゃないかと思います。
山ってカッコいいとか、この光が美しいとか。
編みものを通して、
世界はきれいだったんだっていうことを
思い出させてくれているんじゃないかな。
──
なんてすてきな表現でしょう。
その通りだと思います。
ミロコ
ね、そう思いますよね。
──
同じようにミロコさんの作品にも、
世界を愛して表現されている感じを受け取ります。
今回の絵も、新潟で育まれた豊かな自然や光を
とても丁寧に描かれていて。
世界はきれいだったんだって、思い出す感覚はあります。
ミロコ
私自身も、奄美に来て
よく思うようになったんです。
植物の形、虫の色、鳥の羽ばたき、波の音。
地球のすべてに感動して、
世界はきれいだなあって思うことが増えましたね。
その気持ちが表れているのかもしれないです。
──
もっと世界を愛せるように、
日常をつぶさに観察して感動し続けたいです。
ミロコ
自然のものじゃなくても、
感動することっていっぱいあるじゃないですか。
見逃したらもったいないなって思います。
──
見逃さないように、
ミロコさんが心がけていることってありますか?
ミロコ
こもって作品を作ろうと思ったら
いくらでも自分だけの世界に閉じこもってしまえるので、
なるべく外に足を向けようと思っています。
──
自分の世界に浸り過ぎないように。
ミロコ
そうですね。
一つのことに集中し過ぎて、
ものすごく世界が狭くなってしまうことがある。
外に出れば、うつくしいものはたくさんあるし、
うつくしさは刻々と変わって行くんです。
「見逃した!もったいない!」って思わないように、
最近は意識的に周りをみるようにしています。
奄美の人たちは自然からいろんなものを得て
生活をしているので、
外に目を向けないと生きていけなかったと思うんですよ。
だから、彼らの生き方に感化された部分もあって。
天気予報よりも海が鳴っているから台風がくるとか、
アカショウビンという鳥が飛んだら梅雨が始まるとか。
──
自然と生活が密接な関係なんですね。
ミロコ
そう、
自然と対話して暮らしている姿をみると、
私もそうありたいなと思います。
──
すてきなお話をありがとうございました。
また福岡でミロコさんの作品をみれること、
楽しみにしております!
ミロコ
私も展示が楽しみです。
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ミロコさんが描かれた三國さんの原風景が描かれていく様子を、
定点観測できるスライドショーです。
写真の右側にある矢印を押すと、絵が完成していきます。
なんどもめくって、じっくりとおたのしみください。

(終わります。)

2020-12-17-THU

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  • 「編みものけものみち 三國万里子展」が、
    2020年12月19日(土)から2021年1月31日(日)まで
    福岡県の三菱地所アルティアムにて開催されます。
    代表的なニット作品を中心に、
    三國さんのアクセサリーコレクションや蔵書も展示されます。
    もちろん、この連載で紹介した
    ミロコマチコさんの絵もみられますよ。
    三國さんが生み出した物語と作品、
    その道のりを楽しめる展示です。

    *三菱地所アルティアムでは、感染予防・感染症拡大防止のため、
    対策をおこなっています。こちらを確認のうえご来場ください。
    みなさまのご協力、よろしくお願いいたします。

    *この展覧会は2021年2月、東京にも巡回します。
    「編みものけものみち 三國万里子展」
    会場 ほぼ日曜日(渋谷PARCO8階)
    会期 2021年2月7日(日)~2月28日(日)
    ※詳細は決定次第おしらせいたします。

    福岡・三菱地所アルティアムで開催された
    ニットデザイナー・三國万里子さんの
    20年間の作家生活をたどる展覧会、
    『編みものけものみち 三國万里子展』を
    2021年2月7日(日)からほぼ日曜日で巡回開催します。

    ここ10年の三國さんの代表的なニット作品をはじめ、
    影響をうけた書籍、ヴィンテージアイテム、
    「巣穴(仕事場)」をイメージしたスペースなどたっぷりと展示。
    まるで物語の中に迷い込んでいくように、
    三國さんが生み出した作品を楽しんでいただけます。

    チケットには「ミニけもの」編み図と毛糸が付いてくる他、
    なかしましほさん監修の「けものクッキー」や
    イギリスで買い付けたヴィンテージアイテムを販売。
    くわしくはこちらを確認ください。

     

    「編みものけものみち 三國万里子展」
    会場 ほぼ日曜日(渋谷PARCO8階)
    会期 2021年2月7日(日)~2月28日(日)